旅レポ
「ユーレイルパス」で欧州を鉄道で巡る旅(その2)
イタリアのオルビエト~スロヴェニアの港町ピラン。古来の塩田や大鍾乳洞を見学
2016年5月28日 00:10
欧州28カ国の鉄道などを自由に乗り降りできるユーレイルパスを利用して、JATA(日本旅行業協会)が選定した「ヨーロッパの美しい村30選」のうち6カ所を巡る旅の第2回。イタリア中部にあるチヴィタ・ディ・バーニョレージョをあとにし、今回は最寄りのオルビエト駅からいよいよ列車に乗って、次の目的地であるスロヴェニアはピランへ向かう。
イタリアとスロヴェニアは隣り合っているとはいえ、1本の列車でたどり着くことはできず、1回か2回の乗り換えが必要となる。また、ピランには鉄道が通っていないため、例えば国境近くの駅まで行ってからバスで移動するといったことになる。そのため、今回選んだルートはオルビエトを出たあと、フィレンツェとヴェネツィアで乗り換え、アドリア海沿いのトリエステを目指すというもの。所要時間はおよそ7時間。
ただし、欧州の鉄道は定刻から遅れることはざらで、予定どおりの時刻に目的地にたどり着けるとは限らない。乗り継ぎの間隔は、少なくとも30分から1時間は余裕を見て設定するのがお勧め。長距離の夜行列車はさらに遅れる可能性があり、タイトに予定を詰め込むと完全に消化できない場合もあるだろう。
ユーレイルパスを使った旅行でルートを決める際には、スマートフォンアプリの「Rail Planner」が便利だ。乗換案内の機能を備えており、出発駅と到着駅、出発時間などを指定するだけで最適な乗り換えルートが表示される。しかしながら、乗り継ぎ時間の余裕を考慮せずに候補を表示することもあるので、乗る列車は慎重に検討したい。
ヴェネツィアを感じさせる街並み。郊外の塩田と鍾乳洞に心を奪われる
スロヴェニアのピランは人口4000人ほどの港町で、穏やかなアドリア海に面したイストラ半島の根元に位置している。成り立ちは7世紀頃とされ、当時のヴェネツィア共和国の影響が色濃く残る、ヨーロッパらしいオレンジ色の瓦屋根の家々と石畳の街並みが特徴だ。
街は数時間で十分に見て回れるほどコンパクト。ピラン出身の作曲家・バイオリニストであるジュゼッペ・タルティーニの銅像がある中心部の広場、街を見下ろす時計塔がある聖ユーリ教会、外敵からの攻撃を防ぐために10世紀頃に建立されたタウンウォール、住宅地の隙間を縫うように敷設された狭隘な道路など、歴史と情緒ある建物や風景が見どころ。
郊外のセチョヴリエ塩田では、804年から始まったとされる天然塩の生産が現在も続けられている。いまや欧州で唯一、機械に頼らず人の手によって野外の塩田を耕す伝統技法を用いており、生産のピークとなる6月から8月にかけては、750ヘクタールの広大な敷地で、ピランからやってきた多くの作業者の姿を目にすることができる。
スロヴェニア南西部には、1986年に世界遺産に登録されたシュコツィアン鍾乳洞があり、地表から最大223mの深さにまで達する大規模な洞窟の一部を歩くことが可能だ。一帯はカルスト地方と呼ばれ、石灰石を多く含み、雨などによって浸食されることで形作られる「カルスト地形」の語源ともなっている。
洞窟内の見学コースは距離やルートの違いで2つ用意されており、今回のツアーでは片道1時間半~2時間かかる3kmのコース(入場料16ユーロ=約1968円、1ユーロ=123円換算)を体験した。内部の気温は12℃ほどと肌寒く、夏場でも1枚羽織る物を持っていきたいところ。徐々に洞窟の最深部へと向かっていくため、前半は下り、後半はきつい上りとなることから歩きやすい装備が必須だが、歩行路はコンクリートできれいに整備されていて、危険に感じる箇所はない。
垂れ下がった、あるいは堆積した鍾乳石の巨大さに目を奪われるが、後半にたどり着く高さ100メートル以上もある地下大渓谷は、外部から流れ込む水流の轟音もあって、そのスケールには圧倒されっぱなし。あまりの壮大さに寒さを忘れてしまうほどだが、地表へ戻る際の急な上り坂では、終始歩き続けで溜まった足の疲労を再確認することになる。最後の数十メートルほどの高さを運んでくれるケーブルカーがありがたい。
次回はトリエステから夜行列車を乗り継ぎ、ウディネ、オーストリアのウィーンなどを経て、ハンガリーの美しい村「ショプロン」へと向かう。