【イベントレポート】

【ツーリズムEXPO 2017】文化庁・日本遺産に認定された4地域が文化財にまつわる物語を披露

和歌山と熊本の観光資源をアピール

2017年9月21日~9月24日 開催

日本の有形無形の文化財をストーリーとともに発信していく「日本遺産」のセミナーが開催

 文化庁が認定している「日本遺産(Japan Heritage)」は、地域の歴史的魅力や特色を通じて日本の文化・伝統を語るストーリーを国内や海外へ発信するものだ。そのストーリーを語るうえで欠かせない魅力的な有形無形のさまざまな文化財群を活用することで、地域の活性化を図ることを目的としている。

 日本遺産は2015年4月から認定作業が行なわれており、これまでに54件が登録されている。文化遺産群を点ではなく、面として活用するコンセプトから、どれもがストーリーにタイトル付けされているのが特徴だ。今回のセミナーでは、「絶景の宝庫 和歌の浦」(和歌山県)、「『最初の一滴』醤油醸造の発祥の地 紀州湯浅」(和歌山県)、「鯨とともに生きる」(和歌山県)、「米作り、二千年にわたる大地の記憶 ~菊池川流域『今昔【水稲】物語』~」(熊本県)の4件が紹介され、担当者が熱心に旅行業者や報道陣に向けてPRした。

絶景の宝庫 和歌の浦

万葉の時代から風光明媚な場所として愛されてきた和歌の浦

 最初に紹介されたのは「絶景の宝庫 和歌の浦」。場所は和歌山県の北部、和歌山市と海南市にまたがるエリアであり、和歌川の河口に広がる干潟を中心とした景勝地。和歌山市内からはバスで30分ほど移動した場所にある。和歌山県には世界文化遺産に登録されている高野山や熊野三山をはじめ、ジャイアントパンダが5頭暮らすアドベンチャーワールドがある白浜など多くの有名観光地があるが、そのなかでも和歌の浦はアクセスがよい点が特徴であるとしている。

 1300年前の奈良時代、 聖武天皇が治めていた時代の歌人である山辺赤人が「若の浦に潮満ちくれば潟を無み 葦辺を指して鶴鳴き渡る」(若の浦に潮が満ちて干潟が見えなくなり、干潟にいた鶴が一斉に飛び立ち、葦のはえる岸辺へ鳴きながら飛んでいく)という、躍動感あふれる情景を見事に描いた歌を詠んだ。その後、平安時代の紀貫之により古今和歌集に改めて取り上げられたことからこの地が知れ渡ったそうだ。

 その後は豊臣秀吉が弟の秀長に築城させた城を和歌山城と名付け、その城下町が和歌山と呼ばれるようになるなど、和歌の名は現在の県名にも引き継がれている。また、徳川家康の十男である頼宣が家康を祀る東照宮を和歌の浦の北西にそびえる権現山に建てるなど、天下人や藩主もほれ込んだ絶景の地であったことが語り継がれている。

 そういったストーリーが評価され、日本遺産に認定された旨が紹介された。付近には玉津島神社や紀三井寺、和歌浦天満宮に長保寺など観光名所が多数あることも付け加えられていた。

 その和歌の浦を取り入れたツアーのモデルコースも2例ほど説明があった。1つ目は和歌の浦と高野山を組み合わせた一泊二日の旅程で、海の絶景と山の絶景を取り入れたものだ。2つ目は和歌の浦と同じく日本遺産である湯浅の町を楽しむものだ。こちらも一泊二日のツアーとなっている。

和歌の浦は和歌山市と海南市に位置し、大阪からもアクセスしやすい場所
高台から眺めた和歌の浦
近くには観光名所が多数ある。写真は和歌の神様を祀る玉津島神社
西国三十三所の第2番札所である紀三井寺
菅原道真を祀った和歌浦天満宮
和歌山市内のランドマークである和歌山城
関西の日光とも呼ばれる紀州東照宮
紀州徳川家の菩提寺で国宝である長保寺

「最初の一滴」醤油醸造の発祥の地 紀州湯浅

醤油発祥の地である湯浅町

 醤油発祥の地といわれている湯浅町は和歌山市の南方に位置し、和歌山市内からは普通電車で約50分、大阪からも高速道路を使って1時間30分の場所にある。みかんで有名な有田郡に属することから、ここ湯浅町もみかんの産地となっている。

 醤油の原型が生まれたのは鎌倉時代に遡る。禅僧の覚心(法燈国師)が修行のために宋の径山寺に渡り、そこで「径山寺味噌」と呼ばれる夏野菜を漬け込んで作る、なめ味噌の製法を日本に持ち帰った。この味噌は今日ある金山寺味噌の祖であるとのことだ。覚心はそれを湯浅の人々に教え、この地で盛んに作られるようになった。あるとき、製造過程で桶の底にたまった汁を捨てずに口にしたところ、調味料として使えるのではないかとされたのが醤油の生まれたきっかけだと伝えられているそうだ。

 はじめは自家用程度で作られていた醤油だが、1500年に入ると商用で出荷するほどになり、江戸時代に入ると製造技術も進化し、江戸時代後期には醤油醸造蔵が92軒もあった記録が残されている。明治時代に入っても隆盛は続き、現在の湯浅町の町並みが作られたそうだ。その後は時代の流れとともに廃業する蔵も多くなっていったが、醤油醸造蔵が多くあった北町通り周辺は現在では構成文化財として味のある家屋が多数残されている。数は少なくなったが現在も営業している蔵はあるそうだ。歴史的家屋や醤油醸造で使われた伝統的な道具なども見れるので、日本遺産に認定されたことを機会に足を運んでもらいたいと語っていた。

みかんで有名な有田郡に属する湯浅町
金山寺味噌の製法を伝えたとされる覚心(法燈国師)
醤油とともに金山寺味噌も作られている。醤油よりも製造が簡単なので鞍替えした業者も多いそうだ
古くから北町通りを中心に醤油醸造蔵が多く建てられた。保存地区として残されているので、現在でもその当時の趣を感じ取ることができる
現在も伝統的な製法で醤油作りを続けている角長。1841年(天保12年)創業の老舗

鯨とともに生きる

舞台となるのは和歌山県南東部にある新宮市、那智勝浦町、太地町、串本町の1市3町

「鯨の海」がテーマとなっているこちらの日本遺産は、和歌山県の南東部にある新宮市、那智勝浦町、太地町、串本町が舞台。熊野灘に面しており、古くから捕鯨の町として発展してきた場所だ。博物館に展示されているような古式捕鯨は現在は行なわれていないが、雄大な自然のなかで暮らす郷土文化に触れてもらいたいとのことだ。

 東京からは新幹線や特急を乗り継いで5時間、飛行機でも3時間30分~4時間はかかるので、立地的な強みはない。それでも、世界文化遺産に認定されたのもあり「紀伊山地の霊場と参詣道」に含まれる熊野三山エリアの熊野那智大社や那智大滝、熊野速玉大社には多くの人が訪れているとのこと。課題はその観光客が熊野三山のあとは三重県や奈良県に流れて行ってしまうことであり、今回日本遺産に認定されたことからも世界遺産とセットで長期滞在をアピールしていきたいと語った。

 そこで具体的に半日あれば回れるスポットを7つほど紹介。そのなかの1つが、太地町立くじらの博物館だ。こちらの博物館は世界でもめずらしいクジラ専門の博物館で、古式捕鯨に関する各種資料の展示やクジラショーやイルカショーを楽しむことができる。イルカほどスピーディに動き回れるわけではないが、一生懸命頑張るクジラの姿はとても愛敬があってかわいらしいとのことだ。ほか、絶景の熊野灘を眺望できる遊歩道の散策や多様な生物を観察できる高野坂など見どころは数多くあるとアピールした。

太地町立くじらの博物館ではクジラを思う存分堪能できる。ほか、白いバンドウイルカやハナゴンドウクジラといっためずらしい個体も見ることができる
熊野灘の絶景を楽しめる燈明崎や梶取崎
日本遺産ガイドと周遊する街歩き
世界遺産の一部「高野坂」は生物観察にも最適
孔島ではチゴガニの求愛ダンス、鈴島ではインスタ映えする景色が見どころ
迫力満点な熊野灘のホエールウォッチング。GWには85%の確率で遭遇できるとのこと
くじら浜海水浴場ではシーズン中、海辺を利用した生簀にハナゴンドウクジラを放流する

米作り、二千年にわたる大地の記憶 ~菊池川流域「今昔『水稲』物語」~

今年の4月28日に日本遺産に認定されたばかりの菊池川流域

 こちらの日本遺産は熊本県を流れる菊池川流域が舞台となっているもので、菊池市、山鹿市、玉名市、和水町の3市1町で構成されている。菊池川は阿蘇の外輪山を源とし、有明海に注ぐ全長71kmの1級河川。上流部を除くと比較的平坦であり、古くから水運業も盛んであったことから、栽培された米が船によって運ばれ、天下の台所とされていた大坂では菊池川の米が相場を左右していたという話もあるそうだ。その古くからの稲作文化の足跡が数多く残っていることが日本遺産に認定された決め手となった。さらに土地活用の変遷など、日本の稲作文化の縮図がコンパクトにまとめられているのも特徴であると語っていた。

 代表的な史跡としては、弥生時代の大集落跡である「方保田東原遺跡」であり、このほかにも多くの集落跡が発見されているそうだ。また、全国では約660の装飾古墳が発見されているが、そのうちの1/6がここ菊池川流域のものであり、出土品が国宝に指定された「江田船山古墳」など歴史的な発見物も数多いといった点も挙げていた。

 土地の活用方法については、条里跡と呼ばれる1200年前に造成された田んぼの区画整備や中世に行なわれた棚田や井出(水路)の構築、江戸時代から明治時代にかけては干拓事業が行なわれたことが説明された。

 観光事業については、今年の4月28日に日本遺産に認定されたばかりということでツアールートなどはまだできていないとのことだ。しかしながら、10年前に立ち上げられた熊本県北観光協議会が日本遺産の団体と同じ構成自治体であることから、観光についての話し合いはすぐに行なえる状況であると説明。すでに多言語化した広域パンフレットが作成され、案内表示などの外国語対応状況の調査が開始されるなど、民間と行政が連携して取り組める体制であることが伝えられた。民間ではすでに人気のあるアクティビティもあり、水路(井出)を11kmカヌーで下る「イデベンチャー」や、集積所や酒蔵、麹屋など、お米にまつわる施設を回る「米米惣門ツアー」が紹介された。

菊池川流域では数多くの史跡や出土品が発見されており、歴史的価値が高いエリアとなっている
農地整備は古代から始まっており、その後も棚田や干拓施設の構築による開拓など時代とともに発展してきた
熊本県北観光協議会によって多言語化されたパンフレットが作成されるなど、日本遺産に認定された後も観光客獲得に向けてスムーズに話が進んでいることを解説
水路をカヌーで下る「イデベンチャー」や、米どころを回る「米米惣門ツアー」はすでに人気のあるアクティビティであり、日本遺産との組み合わせが期待されている