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【パリ航空ショー2017】MRJの開発は2020年半ばの引き渡しに向けて順調

新スケジュールでデザインプロセスや試験飛行は順調に進行

2017年6月19日~25日(現地時間) 開催

パリ航空ショー2017で行なわれたMRJのプレゼンテーション

 三菱重工業株式会社の子会社でMRJ(Mitsubishi Regional Jet)の開発、製造、販売を行なう三菱航空機は6月19日(現地時間)、フランス・パリ郊外のル・ブルジェ空港で開かれている航空産業の商談/展示会「パリ航空ショー2017」において記者会見を開催し、グローバルの報道関係者に向けてMRJの開発進展状況などに関して説明した。

 このなかで三菱航空機は、1月に発表した量産初号機引き渡しを2018年半ばから2020年半ばに延期したことに伴うスケジュール変更、さらには飛行試験の予定などに関して説明し、延期に伴って実施される装備品の配置変更に関してはすでにデザインが完了、電気配線の変更は予定どおりデザインプロセスが行なわれており、現在行なわれている試験飛行と合わせて、新しいターゲットとなる2020年半ばの量産初号機引き渡しに向けて、順調に進んでいるとアピールした。

ローンチパートナーとなるANA塗装のMRJをもって、パリ航空ショーでの売り込みを目指す

三菱航空機株式会社 取締役社長 水谷久和氏

 冒頭で挨拶に立った三菱航空機 取締役社長の水谷久和氏は「MRJのプログラムは徐々に進展しており、今回は我々のローンチパートナーとなるANA(全日本空輸)のカラーを塗装した試作機を持ち込んで、どの程度進展しているのかをお客さまにお見せしたいと考えた。今回は2人のチームリーダーから開発状況について説明していきたい」と述べ、今回三菱航空機がMRJをパリ航空ショーに持ち込んだことの目的を説明した。

ANA塗装のMRJ

 なお、質疑応答では、海外の報道関係者から同社が1月23日に量産初号機の引き渡しを2018年半ばから2020年半ばに延期したことを受けて、このショーで何をアピールしたいのかという質問もでたが、水谷氏は「今回来ているのは我々が開発がきちんと進んでいるということを理解をいただくことが大事だと考えている。すでにご注文をいただいているお客さまからは理解をいただいている。これから将来注文していただくお客さまに理解していただければいいと思っている」と答え、今回のパリ航空ショーに参加したのは、MRJの進展について説明し、潜在的な顧客にアピールする目的があると説明した。

MRJはゼロから開発した飛行機となるため、過去のしがらみなく新しい世代の技術を採用できている

三菱航空機株式会社 営業本部 営業部長 福原裕悟氏

 引き続き、三菱航空機 営業本部 営業部長の福原裕悟氏が、MRJのリージョナルジェット(座席数が100席以下でハブ空港とローカル空港を結ぶような路線に投入されるジェット機)市場での位置付けや、そのセールスポイントなどについて説明した。福原氏は「今回初めてMRJを欧州に持ってくることができた。販売・マーケティングの観点からこのショーは重要であり、欧州の顧客に対してその高品質や高性能をアピールすることができると考えている」と述べ、MRJをパリ航空ショーに参加させた意義について説明した。

スライドの表紙
MRJがパリ航空ショーにデビュー

 続けて福原氏は、「リージョナルジェットは今後も年々成長していくと予想されており、2036年には1.6倍になると予想している。だからこそ我々はこの市場にコミットしていく。向こう約20年間に5000機の需要があると考えており、多くは北米、次いで欧州やアジアに需要がある」と述べ、MRJ開発の背景としてのリージョナルジェット市場の大きな可能性を語った。

リージョナルジェット市場は今後も成長する有望な市場
市場の地域内訳
MRJはクリーンシートから開発されている
MRJの強み
競合との燃費の比較
騒音の比較
モダンなキャビンデザイン
先進的なコックピット

 そのうえで、MRJの強みとして「MRJはクリーンシート(製品をゼロから開発すること)として設計されている。クリーンシートで設計できることがニューカマーの強みで、顧客のニーズに合わせた飛行機を提供することができる」と述べ、通常であれば従来製品の延長線上として設計されるのが飛行機開発の常道だが、新規参入した三菱航空機はゼロから設計することで、従来製品のしがらみがなく開発できることが強みだとした。それにより具体的なメリットとして、競合と比較して最大20%の低燃費のアドバンテージ、ノイズの低さなど環境への配慮、乗客への快適さの提供、最先端の15インチディスプレイを利用したコックピットデザインなどを挙げた。

米国でのスコープ・クローズに対応するため、MRJ70からMRJ90へのコンバートも計画

 また、リージョナルジェットを米国で販売するうえでハードルの1つとなるスコープ・クローズ(Scope Clause)問題への対応についても触れた。スコープ・クローズとは、米国における航空会社とパイロットの労使協定の1つで、リージョナルジェットの座席数と重量に制限を設けるもの。米国では大手航空会社がリージョナルジェットをほかの航空会社に委託する場合があり、リージョナルジェットが大きな輸送力を持つと大手航空会社のパイロットの職域を侵すため、それを防ぐために設けられた規定。航空会社により規定は異なるが、最大76席、重量が8万6000ポンドということは共通している。

米国のスコープ・クローズ
MRJ70が現行のスコープ・クローズに対応
米国では現行のスコープ・クローズが続く間はMRJ70で対応

 MRJの場合、最初にリリースされるMRJ90は座席も重量も規定を超えてしまうため、それ以下のMRJ70というモデルを用意して対応する計画だ。福原氏によれば「現行のスコープ・クローズは2019年の末に改訂される予定で、そこで撤廃される可能性もある。このため、MRJ70をMRJ90にコンバートすることも可能にしている」と述べ、米国特有のニーズにもSKU構成を柔軟にすることで対応できるとアピールした。

受注状況
ANAの声明

 その後、福原氏はMRJの受注状況について説明し、ANAやJAL(日本航空)などの顧客を紹介した。また、スウェーデンのROCKTONとはまだ契約は結ばれていないが、交渉中であるとした。

MRJはリージョナルジェットで26%のマーケットシェアを獲れる見通し
まとめ

 福原氏は「現在のリージョナルジェット市場はエンブラエルとボンバルディアの市場だが、現在のオーダーベースで考えれば、三菱は26%のマーケットシェアを獲れている」と説明し、三菱航空機が近い将来にシェアでエンブラエルについで第2位になれる可能性があると指摘した。

スケジュール変更の原因となった装備品の配置はデザイン完了、電気配線のデザインは進行中

三菱航空機株式会社 プログラム・マネジメント・オフィス プログラム・ディレクター アレクサンダー・ベラミー氏

 引き続き、MRJの技術チームを率いている三菱航空機 プログラム・マネジメント・オフィス プログラム・ディレクターのアレクサンダー・ベラミー氏が登壇し、MRJの開発状況の進展に関する説明を行なった。

 ベラミー氏は「量産初号機の引き渡しのスケジュールを、装備品の配置変更と配線関連の設計変更のため、2018年半ばから2020年の半ばに変更したことを発表した。現在は飛行テストを行なっており、変更されたスケジュールでの引き渡しを実現するため全力で取り組んでいる」と述べ、1月23日に発表した設計変更によるスケジュールの変更について説明した。ベラミー氏は着任後にエンジニアリングチームを再編したことを明らかにし、各プロジェクトごとに責任者を配置して組織を整理したとした。

表紙
1月に行なわれたスケジュール変更の発表内容
現在はテストや設計変更などを実行している段階
新開発体制
設計変更の現状
電気関連の配線変更に関してはパートナーと協力して行なっている

 MRJの開発状況については、認証要件を満たすように装備品の配置を変更することはすでにデザインが完了しており、電気関連の配線変更は、新たに開発チームを雇い、パートナーの協力を得ながら現在デザインが行なわれていると説明した。ベラミー氏によれば、パートナーはそうした飛行機の電気配線を専門に行なっているチームで、専用のツールと技術を利用して現在名古屋で開発を進めているということだった。

開発スケジュール
現在の状況
5機の現行テスト機
今後のテスト機の計画
テストチーム

 今後のスケジュールについては、現在第1段階目の試験飛行を米国のモーゼスレイクで行なっており、そこに4機のテスト機を投入していくという。さらに第2段階目の試験飛行は最終的な型式証明の認証テストとなり、それは日本とモーゼスレイクで行なうことになるという。現在MRJ90の5機(10001、10002、10003、10004、10005)がテスト機として用意されており、10001~10004までがモーゼスレイクでの試験飛行に、10005が名古屋で地上テストに使われているとベラミー氏は説明した。また、最終的な型式証明の認証テストにはMRJ90が1機ないしは2機用意され、その後MRJ70のそれが用意されると説明した。

型式証明への取り組み
テストが行なわれているモーゼスレイク
飛行試験
P&W社のPurePower Geared Turbofan PW1200GエンジンがFAAの型式証明を取得

 認証機関による認証は、JCAB(国土交通省航空局)/FAA(米国連邦航空局)などの認証機関との協力のもとに行なわれており、JCABの最初のフライトは今夏に、FAAの最初のフライトは今年の終わりまでに、EASA(欧州航空安全機関)は現在検討中だとした。すでにエンジンとなるプラット・アンド・ホイットニー社の「PurePower Geared Turbofan PW1200Gエンジン」はFAAの型式証明を取得しており、それもMRJにとって大きな進展だとベラミー氏は指摘した。

まとめ

 ベラミー氏は「再デザインや飛行テストは順調に進んでおり、予定どおり2020年の半ばに量産初号機を納入できるように進めたい」と述べ、再デザインによる延期はあったものの、その後は順調に進んでおり、2020年の半ばという新しい公約を守るべく開発を進めて行きたいとした。