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JAL、紛失防止IoTタグ「MAMORIO」を使った整備器材の位置管理を羽田空港で開始
「なくすを、なくす。みんなで、さがす。」
2016年11月22日 13:25
- 実証実験期間:2016年11月~2017年3月
JAL(日本航空)とMAMORIOは、羽田空港のJAL整備場ならびに駐機場で使用する整備器材の位置管理に関する実証実験を2016年11月~2017年3月の期間で実施している。「なくすを、なくす。みんなで、さがす。」をキャッチコピーとする“世界最小”をうたう紛失防止タグ「MAMORIO」を用いたもので、このタグをJALの整備士が使用する整備作業台の140台に取り付け、IoTによる位置管理を行なう。
JALが進めているスタートアップ企業の新しい発想を事業に活かす取り組みの一環として実施されるもの。JALは2016年、KDDIを中心とするスタートアップ企業支援プログラム「KDDI∞LABO」の第10期にパートナー企業として参加しており、このプログラムのなかで両社による実証実験が実現した。
今回、この取り組みについて、JAL側のプロジェクトの担当者である事業創造戦略部の清水厳喜氏、整備部門で設備管理を行なっているJALエンジニアリング 羽田航空機整備センターの柳原祐大氏、IoTタグとシステムを提供しているMAMORIO COO(最高執行責任者)の泉水亮介氏に話を聞いた。なお、文中のMAMORIOの表記について、カッコがない場合は社名としてのMAMORIO、カッコ付きの場合は製品としてのMAMORIOを表わす。
JALが羽田空港で使用する整備作業台はおよそ250台で種類もさまざまなものがある。作業台は整備場のほか、ターミナル前の駐機場、夜間に駐めておくいわゆるオープンスポットなどに配置されているが、用途に応じて高さや幅の異なる作業台を用いることから、頻繁に場所を変えて用いられる。各器材に定位置が決められているものの、時間に追われて作業している整備士だけに、とりあえず近くの器材置き場に置いて次の作業へ……ということを繰り返すうちに、定位置から離れた場所に行ってしまうことが珍しくないという。
今回の実証実験が行なわれるまで、この位置管理はほぼ人力で行なわれていた状態だという。例えば、必要な高さの作業台が近くにない場合は、心当たりに連絡をし、見つかったら取りにいったり、必要に応じてクルマで運んだりしている。また、定期的な“棚卸し”の際も、歩き回ってすべての器材をチェックしている状態という、説明を聞いているだけでも分かる非効率な状態とのこと。作業の非効率さは、それが重なれば利用者にも影響を及ぼしかねないだけに、こうした非効率な状況を変えるために、各器材の位置を一元的に把握できるようにするのが今回の取り組みだ。
今回の実証実験は、MAMORIOの社名にもなっている紛失防止タグ「MAMORIO」を用いたものとなる。MAMORIOでは「MAMORIO」をBtoCからBtoBへ展開すべく、用途開発を行なっている。そのなかで企業における物品管理に大きなニーズがあり、それに「MAMORIO」を活かせる可能性を見出し、JALの整備器材の管理を通じて今後の製品、サービスの開発につなげる方針だ。
JALでは、羽田空港で使われている整備作業台の140台に搭載。大型の作業台などは定位置から大きく動かすことが少ないことから、高さ90cm~2.75mのサイズで、前述のような移動が頻繁に行なわれる場所で使われている作業台を取り付けの対象とした。
装着される「MAMORIO」は、本体からBluetooth 4.0(Bluetooth LE)によって発せられるビーコンを、AndroidスマートフォンやiPhone、iPadなどのiOSデバイスが受信。その情報をMAMORIOが管理するクラウドサーバーに送ってあり、サーバーへアクセスすることでタグの位置を確認できる。個人向けにはクラウド利用料込みで1端末3500円で販売しており、大切なものに取り付けておくことで、紛失した場合でもどこにあるかを知ることができる。
電池はCR1616タイプのリチウム電池をベースにしたもので、「MAMORIO」の内部にはこの電池とBluetoothコントローラを内蔵したマイコンチップなどを搭載。位置情報を取得するGPSやサーバーへの通信機能はビーコンを受け取った側のスマートフォンなどに委ね、「MAMORIO」自体はビーコンを発するだけのシンプルな機能とすることで省電力化しており、電池は約1年間持続する。ただしユーザー自身の手で電池交換はできず、電池が切れたら同社へ相談する必要がある。
しかし、電池交換が不可能な仕様は今回の実証実験では重要なポイントになっている。電池交換をできない設計とすることで本体の外装を完全に固着して防水性を高めているからだ。作業台は屋外で使用することから、雨にさらされても動作することに意味がある。もちろん、雨のなかで動作し続けることや、ビーコンを正しく受信できるかも実証実験のなかでチェックされる。
また、「MAMORIO」がこの用途に適合する理由として、小型軽量であることが挙げられた。サイズはこの用途では、雨だけでなく、移動時に振動が発生したり、風に揺られたりもする。本体サイズは35.5×19×3.4mm(縦×横×厚さ)と小さく、重量も数gと極めて軽い。特に自重が軽いことから、振動や風による影響を抑えることができる。
作業台には、管理番号や定位置などが記載されたプレートが取り付けられており、それに穴を空けて「MAMORIO」を取り付けている。11月1日にJALが発表したプレスリリースでは、作業台の手すりに「MAMORIO」を取り付けている写真が掲載されていたが、作業台それぞれで形状が異なることと、プレートに取り付けることで雨風を少しでもしのげることから、最終的にこの取り付け方法を選択したそうだ。
本検証用でビーコンを受信するデバイスは4台のスマートフォン。管理者や安全パトロールを担当するスタッフがこれらを持って、定期的に巡回することで位置情報を取得。MAMORIO運営のサーバーへ情報を上げていく。オープンスポットや駐機場などでは“クルマを流すだけ”でも正しく取得できるかなどもチェックしている。
「MAMORIO」の仕様でビーコン受信の有効距離は30mとされているが、JALによる実証実験では、条件問わず安定して受信できる範囲として10mぐらいが目安になってきているという。もっとも、今回の実証実験で用いている「MAMORIO」はビーコンの方角や距離などは取得できないため、受信できる範囲が広いほど誤差も大きくなる。安定受信できる目安が10mという数字は、よい意味で精度の確保にもつながっているようだ。
その位置情報を確認する管理画面は、MAMORIOとして初めて導入企業専用の管理画面を作成したことも今回の取り組みの大きな特徴になっている。この画面では作業台がある場所を地図上にマッピングするほか、作業台の高さや(本来の)定位置で表示する作業台を絞り込む機能も持たせている。特に作業台の高さは、必要な高さの作業台がどこにあるかを知ることが実作業で重要になる。この機能では、特定の高さの作業台の位置を絞り込めるだけでなく、「何m以下」「何m以上」といった指定もできる。
MAMORIOとして、こうした導入企業独自の管理画面を作成するのは初めてのことだが、ベータ版ではあるもののSDKやAPIを提供。例えば、企業の資産管理ツールにアドオンして位置情報を取得する機能だけにMAMORIOのシステムを組み込むことなども可能にしている。
今回の実証実験は2017年3月までと期間が区切られており、現在の検証結果を見極めたうえで、その後の展開については現時点で未定となっている。
MAMORIOでは、適用面積や台数など、JALの実証実験における規模感での検証結果をもとに、新たなタグの開発などの参考にしたい考え。また、管理画面についても、他社でも利用できるような汎用的な機能を提供していく意向だ。
JALでは、今後検証内容の拡大も検討しているという。例えば、上述のように現在は4台のスマートフォンで受信を行なっていることから、位置情報取得のために動きまわる時間が必要となる。JALでは、将来的に整備士へのスマートフォンなどの貸与を検討しており、その際に「MAMORIO」用のアプリをインストールすることで、通常作業のなかで位置情報が自動的に集まるようにすることも見込んでいる。さらに、これまで心当たりに連絡して探していた必要な作業台の位置を、整備士自らがスマートフォンなどでチェックして、ピンポイントで連絡ができるような仕組みも構築したいとしている。
また、ほかの整備器材への適用についても検討している。ただし、工具類などは一つの部屋に集約して持ち出しと返却をバーコード管理しているため、この工具室に収めることがない(入れない)もので、かつ移動が行なわれるものを対象として考えているという。
例えば、今回の実証実験の対象として、空港内を動きまわる車両や、さまざまな位置に置かれている消火器、カート類も検討に挙がったという。このほかには、飛行機内での検証は慎重に取り組む必要があるとしたうえで、エンジンの整備場がある成田空港との間を行き来することが多いエンジンドーリー(エンジン用の運搬車両)も候補に挙げられており、この場合は成田にあるのか、羽田にあるのかといった、より広範囲な位置情報の管理を行なうことになる。