ニュース
整備士の基礎技術を競う「JALエンジニアリング 技能五輪」開催
予選を勝ち抜いたJALスタッフ約130名が羽田に集結
2016年6月22日 15:43
- 2016年6月20日 開催
JAL(日本航空)は6月20日、羽田空港にあるJAL第2格納庫(M2ハンガー)にて、「JALエンジニアリング 技能五輪」決勝を開催した。このイベントは、JALグループの航空機整備を担当しているJALエンジニアリングの整備士たちが、航空機整備に関わる基本作業を中心とした独自の種目で競技するもの。開催は3回目となり、前回までは非公開だったが、今回初めて報道陣に公開されることになった。
JALエンジニアリングの整備士約3000名のうち、羽田で300名、成田で200名が予選に参加。決勝に進出したのは約130名。競技内容は、電線修理、リベット修理、ボルトの締め付けなど、航空機整備で日常的に行なわれている基本作業をベースとし、いまではあまり使われなくなった基本技術や課題などを加えることで競技性を出した7種目で競う。各競技ごとに、それぞれ2名~4名のチームで参加する団体戦となっている。
羽田4日、成田3日の計7日に渡って予選が行なわれ、7種目の競技で各日1チームずつ、それぞれ7チームが最終選考に残った。さらに、予選を突破できなかったものの優秀な成績を収めた2チームが決勝にワイルドカード参戦している。また、航空整備士を養成する中日本航空専門学校より3名の学生も招待され、競技に参加した。
開会式では、羽田航空機整備センター機体点検整備部部長の斎藤繁男氏が登壇し、「2年ぶりの開催となったが、毎年開催してほしいという声も聞いている。各センターの期待を背負って参加していると思うが、チームワークを発揮し、日ごろの力を存分に発揮してほしい」と参加者を激励した。
続いて、今大会実行委員長の羽田航空機整備センター機体点検整備部の後藤孝臣氏が登壇。「本日は厳しい予選を勝ち抜いたチームが集まっている。技能五輪の名のとおり、高いスキルで挑んでほしい」と語った。後藤氏は前大会での優勝者で、それをきっかけに実行委員長を務めているという。
会場は7種目の競技が行なえるよう区画を分け、すべての競技が同時に進行できるように準備されている。各競技の参加チームは、それぞれ自分たちの競技種目の区画に集まり、最終的なブリーフィングが行なわれたあと、競技が開始された。
各競技の簡単なルールを説明すると、「ジェネラル部門」は、タイヤを転がし、その途中で作業を行なう競技。3名のリレー形式でタイヤを転がし、道中でセーフティーワイヤー(パーツを留めているボルトなどが動かないように施す処置)、シックネスケージ(すき間の寸法を測定する金属板)の厚さの判定をして、最終的に時間の短いチームが優勝となる。予選の平均は7分ほどだという。
「シート部門」は、客室座席の持ち運びをする競技で、2席用のシートを2人1組で2脚運び、2脚の間を定められたシートピッチに近いように目測で配列する。そのあと、シートに装着されたヘッドレストとシートベルトの交換をし、かかったタイムの合計が少ないチームが優勝となる。
「電装部門」は、電線修理と故障探究をする競技で、回路に仕組まれた不具合を解決してLEDを点灯させるまでを行なう。予選では競技時間が40分間だったが、決勝では30分間と短縮された。競技時間を競うが、正確さや美観などもポイントとなる。
「板金部門」はリベット(鋲)修理の競技で、穴を開けた2枚のアルミ母材にリベットの取り付けと取り外しをし、品質と作業スピードを競う。リベットの取り付け後にいったん審査を行ない、取り外し後にも審査を行なう。取り付け、取り外しの作業はそれぞれ10分間程度。
「締結部門」はボルトの締め付けをする競技。2人1組で、準備されたパネルに取り付けられたボルト・ナットを外し、その後取り付ける。適切なツールを使用できるか、指定されたトルクで締められるかなどが審査の対象となる。日ごろはトルクレンチを使って作業するが競技では自分の感覚で締め、トルク値の誤差やタイムの合計で競う。予選とは違うパネルが用意される。
「リーク(漏れ)チェック部門」は、ホースの取り付け、漏れチェックの競技で、ホースをテストスタンドに設置し、N2(窒素)の圧力をかけて漏れをチェックする。2人1チームで、約15分間でリークチェックの正確さと時間を競う。
「シーラント部門」は、シーラント(密封剤)を塗布する競技で、塗る精度と速度を競う。主材と硬化剤を混合して固まる2液性シーラントを使用するため、正しい混合比で混ぜないと正しく固まらず、正確な分量配分が必要となる。また、きれいなシーリングには正確なマスキングも必要で、素早く正確にシーラントを混ぜるだけでなく、正確なマスキングを行なえるかも審査の対象となる。
団体戦ということもあり、参加者たちはチームで相談しながら競技に臨んでいた。また、普段の作業にはない要素も競技に盛り込まれているため、なかなか課題をクリアできずに苦戦しているチームもいくつかうかがえた。
閉会式では、各競技の上位入賞チームが発表され、優秀チームの代表者にはJALエンジニアリング常務取締役の北田裕一氏から表彰状が手渡された。
ジェネラル部門の優勝は、エンジン整備センターエンジン整備部試運転課の名樂知彦さん、菊地兼一さん、根本雄太さんチーム。菊地さんは、「優勝したが満足できる結果ではない」という。「競技のなかに通常行なっている作業と行なっていない作業があり、行なっていない作業でどうやってタイムを縮めるかが課題だった。普段も限られた時間のなかで作業しているが、今回の競技はまた違った緊張があった。どのような時間のプレッシャーのなかでも作業できるのがプロだと思うので、次回リベンジしたい」と語った。
シート部門は、成田航空機整備センター運航点検整備部第2運航点検整備室第1課第2係の今上毅彦さん、藤波祥成さん、細川淳さん、第1運航点検整備室第1課第2係の新海武志さんチームが優勝した。藤波さんは、「この競技は4人チームで、ほかの競技よりも、よりチームワークが試されるものだった。日ごろから先輩とのコミュニケーションを取りながら作業していることで、今日の競技も息を合わせることができ優勝できた。日ごろのチームワークの重要さを改めて感じた」と感想を述べた。
電装部門の優勝は、羽田航空機整備センター機体点検整備部第2機体点検整備室第4課第4係の宮井亨さん、第3機体点検整備室第4課第4係の加川恭平さん、荒川光太郎さんチーム。宮井さんは、「競技は迅速に不具合箇所を発見しなければならなかったが、日ごろの作業でも役に立つもの。また、競技のなかで今後役立ちそうなテクニックを見つけることもできた」と、競技を通じてスキルアップしたことを語った。
板金部門は羽田航空機整備センター機体点検整備部構造・塗装技術室構造技術課第2係の佐々木幹さん、米須秀彦さんチームが優勝。佐々木さんは「だらだらした作業はスキルも向上しない。クオリティを求めるなかでもスピードが重要と感じた」とした上で、「優勝したが減点もあったので、その部分は日々努力して、さらに精度を高めていきたい」と今後の意気込みを語った。
締結部門の優勝は、羽田航空機整備センター運航整備部国内運航整備室第5課第3係の宮﨑裕太さん、第2係の山田篤史さんチーム。宮﨑さんは、「ボルトを締め付ける作業は、整備において最後の作業。そこで気を抜くとそれまでの工程がすべて無駄になってしまうので、いつも気をつけている。日ごろの整備のなかで自信はあったが、緊張して間違うこともあった。この結果に恥じないように精一杯、整備に従事していきたい」と語った。
リークチェック部門は、羽田航空機整備センター機体点検整備部第3機体点検整備室第2課第1係の今村考宏さん、第5係の關根均さんチームが優勝。今村さんは「日ごろの作業で培ったスキルを発揮できた。しかし、正解(漏れている箇所所)は10カ所だったが、それをすべて見つけることができなかったので、日々の整備作業のなかでスキルを磨いていきたい」と語った。
シーラント部門で優勝したのは、ワイルドカード参戦の羽田航空機整備センター機体点検整備部第3機体点検整備室第2課第1係の佐々木亜希仁さん、第1機体点検整備室第1課第1係の河野剛志さんチーム。佐々木さんは、「日々の作業が時間に追われているので、競技で時間を計られていてもプレッシャーではなかった。いつもどおりの作業をし、役割分担をしっかりした」と勝因を語った。
優勝チームの代表者と、それぞれ固い握手をして健闘をたたえた北田裕一氏は、「日ごろから鍛えた力を思う存分発揮できたと思う。これからもその力を整備の現場で活かして、ますます自己研鑽に努めてほしい」と語った。
ベテラン整備士に混じって競技に参加した中日本航空専門学校の学生は、「事前に学校で練習したが、皆さんの技術力の高さにまったく歯が立たなかった。自分たちも、それくらいすごい技術を身に付けられるようにがんばりたい」と、プロの実力を目の当たりにした感想を述べた。また、「就職して皆さんにリベンジしたい」と、意気込みを語った。
最後に、部品サービスセンター センター長の志水嘉氏が登壇し、「通常の作業と違って時間に追われての作業だったが、そのなかでの結果や仕上がり状態はさすがで、日ごろの技術が間違いがないことを改めて感じた」と講評した。
この大会を取り仕切った実行委員長の後藤孝臣氏は、「前大会のデータがなかったので、自分たちで、盛り上がるように、スキルを高められるようにと、いろいろ考えた。今回の競技は基本作業だからこそ、意外とやり方を知らないことも多く、どの参加者がどの競技を見ても新たな発見ができるような形を目指した」と開催に向けての取り組みを説明。
大会を終えて「参加者も実行委員も得られるものが多く、成功したと思う」とした上で、「準備に時間がかかり、やりたかったことすべてが実現できたわけではない。次回も実行委員としてがんばりたい」と、次回開催に向けての意気込みを語った。