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JALと東大、中高生向けに飛行機の飛ぶしくみを学ぶワークショップ(その2)

東大教授から講義を受け、風洞実験で競う翼の制作コンテスト

2016年9月24日~25日 開催

 日本航空(JAL)と東京大学生産技術研究所(東大生研)は9月24日~25日に中学生を対象としたワークショップ「飛行機ワークショップ2016~飛行機の飛ぶしくみを学ぼう~」を開催した。2日目は、ONG(東京大学生産技術研究所 次世代育成オフィス)が、駒場リサーチキャンパスで中学生クラス向けに行なった講義と実験についてリポートする。

スパコンの「京」にも関わる東大 加藤教授から直接「飛ぶしくみ」について講義

2日目の会場となった東京大学 駒場リサーチキャンパス
1日目と同じグループでこの日もグループワークを実施
この日メインスピーカーを務めた東京大学 生産技術研究所 革新的シミュレーション研究センター センター長・教授 加藤千幸氏
東京大学 生産技術研究所 所長 藤井輝夫氏が中学生たちに「記憶に残るものを持って帰ってほしい」と語りかけた

 前日から場所を変え、駒場リサーチキャンパスに集合した中学生たち。引き続き同じメンバーで4つのグループに分かれてテーブルを囲む。開始にあたり東京大学 生産技術研究所 所長 藤井輝夫氏が挨拶し、ONGの役割について解説。参加者に「今日の実験で皆さんの中の疑問や謎が解き明かし、記憶に残るものを持って帰ってほしい」と語りかけた。

 続いてこの日のメインスピーカーである生産技術研究所 革新的シミュレーション研究センター センター長・教授 加藤千幸氏が今日の概要について説明。加藤教授は、空力騒音の予測やエネルギー変換を専門としており、スーパーコンピューター「京」のプロジェクトにも関わる人物。今回は加藤教授の「加藤千幸研究室」に所属する学生が2日間のサポートに入っていた。

 まずは配布されたテキストに沿って加藤教授による講義がスタート「飛行機はどうやって飛ぶのか?」という疑問を探るため、「なぜ上向きの力が発生するのか」について、各人が「自分の考え」「グループの考え」について考察。グループごとに話し合って、各グループが予測した回答を発表していった。

 その発表内容を受けて、加藤教授から「揚力」「重力」「推力」「抗力」などについて解説。その後、翼の制作コンテストが開始された。

実験で揚力を計測するために使われた風洞
翼に取り付けたスケールで揚力を計測した
翼は大学生がスタイロフォームをスチロールカッターでカットして制作
コンテストで優勝グループに送られたメダル
この日は配られたテキストを元に講義を受講
グループごとに「なぜ上向きの力が発生するのか」の予想を発表

実際に翼を造り、風洞実験から得た数値で揚力を競う翼の制作コンテスト

風洞実験の流れや計測方法など、コンテストのルールを解説

 翼の制作コンテストは80分間。長さと幅が100mmの翼で、最大の揚力を得られるような形をグループで探るコンテストだ。実際に風洞で揚力を計測し、最も数値のよかったグループに優勝メダルが与えられる。

グループでどんな形がよいか検証、PCの操作を中学生が行なうグループも
加藤教授から直々にアドバイスを受けながら翼を作成していった

 翼の制作では、まずPCで専用アプリを使って翼の形を決定。アプリでは翼のまわりの流れもシミュレーションで確認できる。翼の形を決定したらプリントアウトして、大学生の担当者がスチロールカッターでその形どおりの翼を制作。できあがった翼を風洞に取り付け、毎秒8mの風を送る。翼の角度は5度、10度、15度に設定して、それぞれ1分間計測。揚力の最大値で合計を競う。翼は2回作成でき、結果のよい翼の合計で競うことができる。

どのグループも非常に真剣に検証を行なっていた
設計図を受け取った大学生が翼をスタイロフォームで制作
シミュレーション結果を念入りに検証するグループ

 前日にグループワークや見学を一緒に行なってきたこともあり、各グループとも一気に団結力を出し、積極的にディスカッションしながら翼の形を決定していく。念入りにシミュレーションを行なうグループ、昨日見学したときに撮った実際の翼の写真をデジタルカメラで確認しながら検討するグループ、イルカの形など動物の形を参考にするグループ、1回目と2回目で大胆に形を変えるグループなど、グループごとに非常に個性が出ていた。どのグループも、風洞実験では食い入るように結果を確認。2回目の制作では1回目の翼の形を確認しながら改良点を探るなど、短い時間で中身の濃い学習が行なわれていた。2度目の風洞テストでは、風洞に煙を流して空気の流れも確認できた。

制作された翼を、風洞にセットして揚力を計測。5度、10度、15度の角度は厳密に計られていた
2回目の計測では風洞に煙を流して確認
風の流れが目に見える
風洞に煙を流して確認
1回目の結果を受けて2回目で大きく翼の形を変えたグループもあった。前日が初対面だったとは思えないチームワークで進められた
制作した翼や風洞実験で風の流れを確認、どのグループも真剣だ
各グループの計測結果。角度によって大きく差がある形、ほとんど差がない形などさまざまなのがおもしろい

 1回目の計測では、Bチームがトップ。2回目の計測でAチームが大幅に記録を塗り替え会場からは歓声が。しかしBチームが2回目の計測でAチームをさらに上回り、そのまま優勝した。結果を受けて加藤教授からは、どんな流線が出ると揚力が高くなるのかを解説。ただし揚力だけがよくてもそのまま飛行機の翼に使えるわけではないことなどが解説された。実験前、やや難しそうに下を向いて講義を聞いていた中学生たちが、実験後の教授の解説を非常に熱心に、楽しそうに聞いていたのが印象的だ。

風洞に優勝したBグループの翼を取り付けて、最後に加藤教授から解説翼の形や揚力について解説

Bグループに優勝メダル授与、交流会も実施

 コンテストの終了後、休憩をはさんで場所を移動し、今度は加藤千幸研究室が実際に研究で使う巨大な風洞装置を見学。スーパーコンピューター「京」でのシミュレーション結果などを交え、研究室の取り組む研究課題などについて解説を受けた。さらに、グループごとに風洞の奥で実際にどのように計測されているのかを見学。中学生たちは最先端の研究を間近で見学する機会を得ていた。

場所を移して実際に研究で使われる巨大な風洞施設へ
加藤千幸研究室が使用する、地下に設置された風洞施設
スーパーコンピューター「京」でのシミュレーションを使った解説
風洞の奥に入り、実際にどのように実験を行なっているか見学できた
加藤教授から数値の見方などについて聞きながら実験を見学

 見学を終え、教室に戻ったあとは優勝チームのBグループへ、メダルの授与と修了証の授与が行なわれた。また、実験前にグループごとに予想した「なぜ上向きの力が発生するのか」の予想結果が1番正解に近かったCグループへJALから特別賞として機内食がプレゼントされた。参加した全員にも修了証を授与。ONG室長の大島まり教授から2日間のまとめを話し、外で全員で記念写真を撮影して会は終了した。

優勝したBグループに優勝メダルと修了証を贈呈
CグループにJALから特別賞として機内食が贈られた
ONG室長の大島まり教授が2日間をふりかえった
優勝したBグループのメンバーたち

 その後、希望者による交流会が行なわれ、中学生たちと、JALの整備士さんやCAさん、教授らと直接話す場が設けられた。学生たちに話を聞いてみたところ、この2日間のワークショップはもともと飛行機に興味があって詳しく知りたくて参加した学生から、家族や学校の勧めで参加した学生までさまざまだったが、参加者それぞれの飛行機やそのしくみに対する印象を大きく変えたようだ。

参加者に生産技術研究所の案内や東大の学校案内、解説冊子が配られた
最後の交流会では中学生同士や、大学生、教授、JALの整備士やスタッフ方々で自由に交流

 参加者は口々に「楽しかった」と語り、参加者の表情が一様に明るかったのが印象的。来年以降も同様の取り組みが予定されているとのことだ。

Aグループだった中1の眞柄さん(左)と中2の岩井さん(右)。それぞれ違う学校から1人で参加し初対面だったそうだが、非常に打ち解けていた。「普段できない体験ができて楽しかった」「整備士のみなさんの安全に取り組みを知って、飛行機に対する不安が減った。飛行機のことをもっと知りたいし、もっと乗りたくなった」と語ってくれた
芝浦工業大学中学高等学校の電子技術研究部から参加していた3名。中3の湯浅さん(左)、中1の服部さん(中央)、中1の坂倉さん(右)。それぞれ違うグループに振り分けられていた。「飛ぶ原理に興味が出た」「飛行機を飛ばすまでにさまざまなことが検証されていると知った」と語ってくれた