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君は全力疾走する牛の美しさを知っているか。「ゲンティン ドリーム」で未知なるスラバヤとバリ島北部を探索する(その2)

日本では知る人がまだまだ少ないスラバヤとバリ島北部の魅力に迫る

 1月下旬の日曜日。私は、マリナーベイ・クルーズセンター・シンガポールに係留しているドリームクルーズの大型客船「ゲンティン ドリーム」の船上にいた。ゲンティン ドリームはこれから18時に出港して針路を南東に取り、ジャワ海を渡って、ジャワ島東部にあるインドネシア第2の都市ながら、ジャカルタと比べて日本ではあまり聞く機会が少ない「スラバヤ」と、バリ島北部にある小さな港「チェルカンバワン」に寄港する5泊6日の航海に向かう。

 ドリームクルーズを運航するゲンティンクルーズラインの日本オフィススタッフのARFKさんから聞いた、「インド人も絶賛の船カレー」(実際はもっと興味深い南インド家庭料理)とともに「日本では知る人がまだまだ少ないスラバヤに寄港」という言葉は、シンガポール発着クルーズに私を強烈に引き付けた。インド人が絶賛の船カレー、いや、南インド家庭料理をはじめとする、ゲンティン ドリームの多種多彩なレストランとバー、ラウンジについては、すでに紹介したが、ここでは、この航海でもう1つの重要なテーマとなる、陸路ではアクセスが難しいスラバヤとバリ島北部で見聞きした「なにこれすごい」な体験を紹介しよう。

インドネシア海軍の超レア艦に遭遇する

 そういうわけで、ゲンティン ドリームは18時にマリーナベイクルーズセンターを出港する。利用者の多い週末2泊3日の航海は21時出港なので、夜景を楽しみながらの船出になるが、今回は夕闇が迫るなかを徐々に遠ざかっていくシンガポールの近代的なビル群という光景を楽しめる。

マリーナベイ・サンズなどシンガポールのベイサイドとマリーナベイクルーズセンターを背景に、タグボートの支援を受けてゲンティン ドリームは18時に出港した。今まさに、水先案内人を移乗させたパイロットポートが離れていく
週末巡航のように夜景のなかを静かに出港するのもよいが、日が暮れ行くなかをシンガポールの街が徐々に遠ざかっていくのを眺めながらの船出もよい

 インドネシア諸島をめぐる6日間の航海で、出港翌日の2日目は終日航海となる。ゲンティン ドリームはシンガポールの船舶ふくそう海域を抜けたあとはは、約20ノットの巡航速度で針路を南東に向けて走り続けている。2日目未明には赤道を超え、目を覚ましたときはすでに南半球の海に入っていた。世界地図で見るとジャワ海は右舷側のスマトラ島、左舷側のボルネオ島に挟まれた細長い海域だが、2日目朝には、スマトラ島、ボルネオ島はおろか、ボルネオの離島カリマタ島もジャワ海の真ん中にあるブリトゥン島も見えない、見渡す限りの水平線の海を穏やかに航行する。

 そういう日は、別記事で紹介した船内の多彩なレストランでの食事やバー、ラウンジでの一杯、そして、これも別記事で紹介する船内施設を利用したアクティビティで終日充実した時間を過ごすことができる。今回、航海2日目は赤道直下の好天に恵まれて、屋外のアクティビティはどれも気持ちよく楽しめる陽気だった。

 そして航海3日目、この日は最初の寄港地となるスラバヤの「タンジュンペラック港」にある客船ターミナルに入港する。雨季のスラバヤ沖は航海2日目の好天から一転して、強いスコールが甲板を叩き付ける暗い空で夜が明けた。船内時間の6時には、ジャワ島とその東側に隣接するマドゥラ島に挟まれたマドゥラ海峡の入り口(Port Interest Sounding Area)に達し、船速を3ノットまで落としてタンジュンペラック港へ向けて船を進めていた。

スラバヤ近くの海域はいたるところでスコールが降っていた

 スラバヤ港湾地区への入り口となるPort Interest Sounding Areaは、まだ広い水域のように見える。しかし、海図を見ると、すでに水深は浅く、航路はごく限られた幅しかない。ゲンティン ドリームが広い湾内を静かに進んでいくと……。

「!!!」

右舷ギリギリに座礁擱座して傾いている貨物船が。そこはもう浅瀬であることをいやでも知らしめてくれる

 ゲンティン ドリームの右舷側に座礁擱座(かくざ)して船体を大きく傾けて沈みかけている貨物船を発見した。タンジュンペラック港までの海域は、航路幅が約100mと狭く、航路からそれると浅瀬に乗り上げてしまう。そのため、タンジュンペラック港は入港と出港が最も難しい港の1つとして船乗りからは認識されている。これまで大型客船の利用があまりなかったのも、そのためと思われるが、ゲンティン ドリームは、船首と船尾の左右舷側に備えたスラスターのおかげで、デリケートな操船が可能であるので、航海の寄港先として選ぶことができたといえるだろう。

今度はKarang Jamuang島を左舷ギリギリにやりすごす。広い海にぽつんとある島のように見えるが、この辺りは広大な洲が広がっている
世界で有数の「入港が難しい港」ゆえに、水先案内人に依存するところは大きい。ゲンティン ドリームも船内時間の5時前にはパイロットボートが接舷して水先案内人を迎え入れている

 沈みかけた貨物船を過ぎ、ぽつんと見えたKarang Jamuang島(しかし海面下では広大な洲のほんの一部が突出した部分)と灯台を左舷にやり過ごすと、前方から1隻の軍艦がやってきた。インドネシア海軍の巡視艇でFPB-57級4番艇「KRI Layang」(艦番号635)だ。2003年就役で最大船速30ノットの沿岸警備を担当する巡視艇だが、中国製対艦ミサイルの「C-802」を2基搭載するなど、軍艦並みの重武装だ。

インドネシア海軍の巡視艇でFPB-57級4番艇「KRI Layang」はデータシートによると対艦ミサイル「C-802」を搭載するが、この写真では架台はあるもののミサイルは載せていないようだ

 軍艦が出港してきたことからも分かるように、スラバヤにはインドネシア海軍の東部艦隊司令部とその拠点、そして海軍工廠がある。インドネシアの有力な軍港の1つだ。日本でいうところの「呉か横須賀」に相当する。

スラバヤはインドネシア第2位の規模を持つ大都市だ
コンテナ港の向こうには高層ビルが立ち並ぶ

 このようにスラバヤは有力な軍港としてインドネシアでは重要な都市でもあったりするが、さすがに軍事基地だけあって客船が接岸する岸壁からは見えないところにあるだろう、と思っていたら……。

「???」

 マドゥラ海峡で最も狭い海域に入り、コンテナ港があるグレシック港を南下し、ほぼ直角の屈曲部を東に転針したゲンティン ドリームの右舷前方に異様な形をした塔状の建造物が見えてきた。その「塔のようなもの」はゲンティン ドリームが近付くにつれて、だんだんとその姿を明確になってたが……。

スラバヤ軍港全景。はるか遠くに見えるのはジャワ島とマドゥラ島をつなぐ全長5.6kmのスラマドゥ大橋

「人? そしてでかい!」

 それは、海軍士官をかたどった「Jalesveva Jayamahe記念碑」だった。その高さ、30.6m。台座の建物を合わせると60.6mにも達する。記念像を囲むようにインドネシア海軍の艦艇が集結していた。その数、質、ともに同国海軍の主力艦艇だ。軍港は、ゲンティン ドリームが接岸しようとしている客船ターミナルと小さな川を挟んだすぐ隣にあった。そのおかげで、ゲンティン ドリームが接岸作業のためにゆっくりと移動する間、インドネシア海軍の最新鋭艦艇をじっくりと観察できる幸運に恵まれた。

 ゲンティン ドリームが接岸する客船ふ頭には、古風なハーバーマスターハウス(正式名称はKantor Syahbandar Utama Tanjung Perak、タンジュンペラックハーバーマスターオフィス)と、スラバヤでは新しい観光ポイントとしても整備している客船ターミナルのSAPURA SURYA MUSANTARAが並んでいる。岸壁や客船ターミナルでは、ゲンティン ドリームの接岸直前から船客が上陸してそれぞれのツアーに出発するバスに乗り込むまで、インドネシアの伝統舞踊集団「Singo Mangku Joyo」のパフォーマンスなどを鑑賞できる。

手前の古風な建物がKantor Syahbandar Utama Tanjung Perakで奥の近代的な建物が客船ターミナルのSAPURA SURYA MUSANTARA
インドネシアの伝統舞踊集団「Singo Mangku Joyo」は実に男らしい。そしてワイルドな美形がいっぱい
客船ターミナルのなかでは、「CAK SURABAYA」と「NING SURABAYA」のカップルが笑顔で迎えてくれた
さらに、鮮やかな色彩の民族衣装を身にまとったインドネシア舞踊も
ツアーコースごとにバスに分乗して出発する

牛のレース? そんなの退屈でしょ

 ゲンティン ドリームではスラバヤ寄港で、寺院巡りや遺跡、名跡探訪など8種類のオプションツアー(ショアエクスカーション)を用意している。なかには、“ご来光”で有名なプロモ山登山ツアー1泊2日(下山後はフェリーで次の寄港地にいるゲンティン ドリームに追い付く)というハードなプランもあるが、今回選んだのは、スラバヤの対岸にあるマドゥラ島に渡って「競牛」を観戦するツアーだ。

 競牛、と聞くと日本人としては「闘牛! おお、勇ましい」となりがちだが、マドゥラ島では、「カラパン・サピ」という島に古来から伝わる牛のレースを指すという。これを知ったとき、「牛のレース? 牛って走るの? だって、牛車を引く牛でしょ。迫力ないでしょう。うーん、まだ闘牛だったらよかったのに」と正直全然期待しないままツアーバスの乗り込んだ、のだが……。

スラバヤの街はバイクがひしめき合い、
線路ギリギリまで民家が押し寄せ、
水牛が田を耕していた

 バスに揺られてジャワ島とマドゥラ島を結ぶ全長5.6kmもあるスラマドゥ大橋を渡り、多毛作の田植えが始まった、なんか一度見たようなマドゥラの田園風景を眺めながら、カラパン・サピ専用の競馬場ならぬ競牛場に到着する。バスが到着すると広場ではきらびやかな伝統衣装に身を包んだ“楽隊”が演奏していた。ああ、これも歓迎の人たちか、と思いきや、レースが始まる前に出走する牛を披露するパレードのために奏でる由緒ある演奏だったりする。楽隊を構成するのはサロネンという管楽器やクンダンと呼ぶ太鼓など、こちらもマドゥラ島に古来より伝わる楽器だ。

 競牛場は、競馬場のような周回のトラックではなく、ただ一面の長方形をした芝生の広場だった。その広場の両端は土がむき出しになった「道」になっている。その道に沿って用意した板1枚で作った柵の外側がもう観覧エリアだ。その両端の道をレースに出走するきらびやかに着飾った牛が楽隊を引き連れて練り歩いていく。

マドゥラに古来から伝わる管楽器のサロネン
同じく伝統的なクンダンとともに楽隊を編成し
隊列を組んで出走する牛を披露するパレードを行なう
競牛場は一面の芝生で、両端に土がむき出した細い道が付いていた
楽隊を引き連れて着飾った牛が競牛場の両脇にある細い道を練り歩いていく

「なるほど、両端の道をパレードしてスタート地点に向かい、中央の広いスペースを使ってこちらのゴールに向かって300mほどの距離をのんびりとレースをするのか」と思っていたら……。

ぶわっ、という音と風とともにでっかい牛が目の前を駆け抜けていった

「!?!?!?!?」

“細い道”を子供(資料によると6~7歳の男の子が多いという)を乗せた(というか載せたというか)鍬(すき)のような竹製の「カレレス」をひいた2頭立ての牛が全速力で目の前を走っていった。そのスピードは速く、図体がでかい牛が目の前を疾走していくだけに迫力はすさまじい。

疾走する牛の姿は美しく、操る少年たちの顔は怖いぐらいに真剣だ

「うわあああああああああ!!」

 闘牛ならよかったのに、なんてちらっとでも考えてすみません、と心のなかで土下座してしまうほどにカラパン・サピは大迫力で大興奮の“レース”だった。

 マドゥラ島では、9月からカラパン・サピの「本レース」が始まり、島内4つの行政区にある競牛場を転戦しながらレースを繰り返し、10月にパムカサンの競牛場で開催する決勝戦でその年の優勝牛(の組)を決定する(なお、年によって開催期間が1カ月ほど前後する)。今回観戦したのは正式なレースではないが、それでも、走る牛たちは全力疾走で、観戦する側もゲンティン ドリームの船客(それだけで100人ぐらいいるが)のほかに地元の人たちも多く集まって大いに盛り上がっていた。

 レースに登場していた牛は、「マドゥラ牛」という島独自の純血種だ。マドゥラ族の人たちは、この牛を「競う」ためだけに育てているという。1つはレースであるカラパン・サピのため、そして、マドゥラ島には牛を競わせるもう1つの競技として「サピ・ソノ」という牛の美しさを競うコンテストがある。ツアーバスは、レース観戦に先立ってその専用飼育施設にも立ち寄ってくれる。そこでは、優勝した牛にも対面できる。その牛の価値は、日本円にして1000万円にもなるという。

こちらも間近まで牛に接近できる
これが優勝牛。その価値1000万円
意外と内気で人見知り

ワレ、未知なる港にテンダーで上陸す

 オプションツアーに出かけた船客が帰ってきた船内時間16時(現地の時間では17時)、ゲンティン ドリームは出港して次の寄港地になるバリ島北部にある小さな港「チェルカンバワン」を目指す。ジャワ島北岸を東に進み、日付が変わった直後にマドゥラ島東端で針路を南東に変え、未明の1時にはPULAU-PULAU SAPUDIとPULAU RASSの間にある狭い海峡を突破、船内時間6時(現地時間は8時)に、寄港先のチェルカンバワン港の北1海里に達していた。このとき、バリ島北部海域の天候は曇天。夜が明けているはずなのにあたりはまだ暗い。船首方向には左舷に火力発電所による灯りの塊があるものの、ほかはまばらに灯りがあるだけだ。

 そんな静かな風景をゲンティン ドリームの甲板に立って眺めていると、不意に島の方向からそよぐ風とともにかすかな香りが漂ってきた。それは、波打ち際の海藻などが発する「磯の香り」とは異なる。もちろん、火力発電所の発する「機械とオイルと排気」のにおいとは確実に違う。深い森のなかで発する落葉の香りを深くして“お香”と混ぜたような、そういう香りに感じた。大航海時代に南太平洋の島々を探検した航海記では時折「島に近付くと独特の香りがした」という記述があるが、もしかすると、それと同じ香りを体験したのかもしれない。機械的なにおいに満ちた商業港への寄港ではたぶんできない、貴重な体験をバリ島北部の小さな港で得ることができた、と思いたい。

バリ島北部にある小さな港チェルカンバワンに入港しつつあるゲンティン ドリーム
ちょうどこの辺りからお香のような香りが漂ってきた
この辺りで唯一明るい火力発電所
チェルカンバワン港にも内航船クラスの貨物船が接岸できる岸壁はあるものの、ゲンティン ドリームが入っていけるだけの水深もなければ接岸できる岸壁もない。そのため、右舷側に見える港湾施設の奥に設けた浮き桟橋に「テンダー」で渡ることになる

 このように小規模なチェルカンバワン港ゆえ、全長335mと戦艦大和を超える大きさのゲンティン ドリームは接舷できない。そのため、上陸するためには、ゲンティン ドリームが搭載する「テンダー」を使うことになる。客船には、火災や沈没などの緊急時に船から船客船員が脱出するのに使う救命ボートを搭載している。客船が接岸できない小規模な港に寄港するときには、この救命ボートを客船と港の船着き場までの交通船として利用する(“足”代わりに使うというところから、足船、テンダーと呼ぶ)。ゲンティン ドリームにはテンダーとしても使える救命ボートとして独HATECKEが製造した18艇搭載している(そのほかにも、HATECKE製のインフレータブル高速艇を3隻搭載)。1艇の乗員数はテンダーとして使うときは220人、救命ボートとして使うときは258人まで載せることができる。

 テンダーには、船客が普段立ち入ることができない第4デッキまで下りて、ゲンティン ドリームの船体に内蔵している専用の“桟橋”から乗り込むことになる。揺れ方が異なるゲンティン ドリームからテンダーへの移乗は、見た目ちょっと難しそうだが、船員がサポートしてくれるので心配はない。テンダー内部はベンチを備えた内部席とラッタルを上った先にあるオープンデッキに分かれている。ここは景色のよいオープンデッキに陣取って、港の浮き桟橋までのショートクルーズを楽しみたい。

 ゲンティン ドリームに舫っているテンダーはちょっと揺れるかもしれないが、船客を乗せてスローで進み始めると揺れはぴたりと収まるから船酔いの心配はいらない。あとは、すぐ目の前に見えるゲンティン ドリームの船体を海面近くから仰ぎ見てその大きさを体感したり(ゲンティン ドリームの巨大さを最も実感できる数少ない機会だろう)、静かなバリ島北部海岸の風景を眺めたりしながら、約10分間のショートクルーズを楽しもう。

テンダーは海上に降ろして船体に内蔵した専用桟橋から上陸する船客を乗せる
テンダーの上船は普段は入ることがない第4デッキに設けた専用のゲートから
ゲンティン ドリームの船体からせり出した専用桟橋におりて移乗する
テンダーの内部。中央でこちらの顔を向けている男性がいる場所が操船席だ
ラダーを上がると
屋上部分のオープンデッキ席が利用できる
専用桟橋には2隻が同時に接舷できる
おっと、あちらの艇長はお食事中。これからしばらくはピストン輸送で忙しくなるから今のうちに食べておかないと
これほど低い位置からゲンティン ドリームを仰ぎ見る機会はめったにない
離れつつあるゲンティン ドリームに向けて一斉にシャッターを切る
わずか10分間でチェルカンバワン港の浮き桟橋に到着する
降りる船客たちと
降りた船客たちをチェックする地元のおまわりさん
ガムランと民族舞踊と
美女2人と
横断幕が上陸した船客を出迎えてくれた

 浮き桟橋に上陸すると、ガムランの演奏とバリの民族舞踊の歓迎を受けたのち、バスに分乗してそれぞれのオプショナルツアーに出発する。オプショナルツアーには、バリ島北部地域を中心にして、シガラジャ市内観光から名所名跡巡り、ウブド散策、インドネシア産コーヒーの試飲、ログナビーチやムンジャンガン島でのマリンスポーツ、ダイビング体験など8コースを用意している。どれも、バリ島観光の中心となる南部から陸路で行くには時間がかかり、訪れる人は少ない「レア」スポットという。

 そのなかの1つ、「バリ北部ハイライトツアー」は、ULUN DANU BRATAN寺院とCANDIKUNING市場、そして、BUYAN湖とTAMBLINGAN湖を一望できるビュースポットを巡る全行程約7.5時間の旅だ。ULUN DANU BRATAN寺院はBRATAN湖のほとりにたたずむ寺院で、後ろに控える霧がかかったチャトゥル火山と組み合わせた景色は、5万ルピア札の絵柄にもなっている。また、BUYAN湖とTAMBLINGAN湖を一望できるビュースポットは、最近になって「セルフィー」ポイントとして人気が高まりつつあるという。

 バスは1車線の、それほど広くない街道を東に進んでいく。辻々にバリ島独自のバリ・ヒンズー教寺院によくある厄除けの「Candi Bentar」(割れ門)や象の顔を持つヒンズー教神「ガネーシャ」の像、そして、4つの顔を持つ守護神「チャトル・ムカ」(Catur Muka)の像などが車窓を流れていくなか、バリ島北部の中核都市「シンガラジャ」(SINGGARAJA)から南に伸びる山道に入っていった。ここからさらに進むこと1時間ほどで、最初の目的地「ULUN DANU BRATAN」寺院に到着する。

交差点にはバリ・ヒンズー教特有の割れ門と
ガネーシャの像と
チャトル・ムカの像がいたるところにある

 ULUN DANU BRATAN寺院は、バリ島にあるバリ・ヒンズー教の寺院のなかで「サド・カヤンガン」(Sad Kahyangan:聖なる寺院の意)に挙げられる六大寺院の1つだ。バリ島中央部をまかなう水源のブラタン湖のほとりに1634年に建立し、湖の女神でバリ島土着の「デウィ・ダヌ」をはじめとする10神をまつっている。ULUN DANU BRATAN寺院は「1つの寺院」ではなく、領域に集まっている5つのバリ・ヒンズー教寺院と1つの仏教寺院の総称だ。

 ただ、建物の配置はバリ・ヒンズー教寺院の様式にのっとり、手前から6寺院共通の「Jaba」(外庭)があり、そこから、それぞれの寺院(仏教寺院を除く)の「Candi Benter」(割れ門)、「Jaba tengah」(中庭)、「Kori Agung」(中門)を経て「Jeroan」(内庭または奥の院)にいたる。神々をまつる祭殿や神事に用いる建物はJeroanに建つが、ここは神々の領域で参拝者といえど入ることはできない。観光客はKori AgungやJeroanを囲む塀の外からなかの建物を鑑賞するが、それでも、ULUN DANU BRATAN寺院は湖と山の姿を背景にした美しい風景で訪れる人を和ませてくれる。

ULUN DANU BRATAN寺院といえば、霧がかかるチャトゥル火山と湖に浮かぶ2つのメルを重ねたこの風景だろう。同じアングルが5万インドネシアルピー札の絵柄になっている
ULUN DANU BRATAN寺院で最も有名な11層のメルはTengahing Segara寺院と称しCandi BenterとJaba tengahを備える。その左にある3層のメルがLingga Petak寺院で、Kori Agungの奥にあるJeroanに相当する
Tengahing Segara寺院の陸側にある2体の女性像は左が水の女神「デウィ・サチ」で右が湖の女神「デウィ・ダヌ」だ。四方を守るカエルは再生と豊穣のシンボルとされている
創造神が最初に作り出した祖先霊たちを祭るDALEM PRAJAPATI。DALEMは死者をまつる場所の意
DALEM PRAJAPATIの脇には市松模様の布を巻いた神木があった。信仰の対象となっていて、祭壇が設けられている。バリ・ヒンズー教の寺院にはこのような、神木がいくつもある
Candi Benter(割れ門)を通るときに邪気が取り除かれるという。この先の領域がJaba tengah(中庭)で、そこまでは観光客も入ることができる
DALEM PURWA TEMPLE。死者の寺として破壊神「シワ」をまつる
Shiva、Sadha Shiva、Parama ShivaをまつるPENATARAN AGUNG。右に見えるのがKori Agung(中門)で、その先にある左側にかけて観光客は入れないJeroan(奥の院)が広がる
PENATARAN AGUNGに建つ7層のメルとシワ神のPadmasana(祭壇)
Padmasanaはシワ神の玉座で、一番上は椅子の形を模している
ULUN DANU BRATAN寺院にはStupa(仏塔)もある
Stupaには2体の仏像を安置している

 ULUN DANU BRATAN寺院を出ると、バスは、バリ島北部では有名なCANDIKUNING市場を訪れる。竹細工や木製の工芸品や鮮やかな布地で作った伝統的なデザインの衣服とともに、野菜や果物を山積みにした店も数多い。聞けば、CANDIKUNING市場はこの海抜1200mという高地で生産した農作物が有名という。しかし、ここで注意しなければならない。ドリアンやランプータン、マンゴスチンなど特定の果物や飲み物は防疫的見地から船への持ち込みが禁止されている。食べ物を購入するときはスナック菓子を購入するか、船に着くまでにバスのなかで食べてしまうようにしたい(移動時間は結構あるので)。

活気あるCANDIKUNING市場
竹細工の工芸品に
猿の面と木工細工に
色鮮やかな生地
CANDIKUNING市場は果物と高原野菜でも有名らしいが、果物は船に持って帰れないので買わないのが無難

 続いてバスが向かうのは、BUYAN湖とTAMBLINGAN湖を一望できるビュースポット「Bali Twin Lake Trekking Point」だ。トレッキングポイントとあるが、撮影ポイントとして訪れる人が最近増えているという。このビュースポットがある街道「Jl.Raya Wanagiri」はBUYAN湖とTAMBLINGAN湖の北側にある高地を東西に走っているが、その街道沿いには、セルフィー用のスポットが急増しているそうだ。バスでJl.Raya Wanagiriを走っていると、湖側の崖ギリギリに展望台を作り、その上にはハート形に竹を編んだベンチや木の枝からつるしたブランコなど、写真映えするスポットを現地の人がそこここに用意している。

 バスが訪れたBali Twin Lake Trekking Pointは、そういう過度な装飾がない、シンプルな展望台にテーブルと椅子を用意しているだけだが、かえってそれがありがたい。そして、場所がBUYAN湖とTAMBLINGAN湖のちょうど中間にあるので、どちらの湖をバックにしても、ちょうどよいサイズでアングルに収まってくれるのもありがたかった。

湖に向かって左側がBUYAN湖
そして右側がTAMBLINGAN湖

 バリ島北部のフォトジェニックなポイントを巡ったバスツアーは、船内時間の15時半にチェルカンバワン港に戻ってきた。折しも豪雨。そのなかを、テンダーは静々と浮き桟橋からゲンティン ドリームに戻る。わずか8時間、船を離れていただけなのに、豪雨で薄暗い海の上から見るからだろうか、ゲンティン ドリームの姿をとても頼もしく見ていたのは私だけではないはずだ。

 ゲンティン ドリームは、ツアーから戻ってきたすべての船客と、船客をサポートした船員たちと拠点資材を回収し、雷雨のなかでテンダーを揚収しながら、チェルカンバワン港を出港した。明日1日は洋上での生活となる。

豪雨に見舞われたが支給されたポンチョのおかげで難を逃れた
視界が利かない状況で慎重に操船する艇長
おお、ゲンティン ドリームが見えてきた。これでひと安心
「なーに、こんなもんよ」と余裕の艇長
テンダーの操船コンソールはこんな感じ。右のスティックは左右舷側につけたスラスターを操作する。左のレバーは左右機関のスロットル
操舵席からの視界はこんな感じ
ゲンティンクルーズライン

TEL:03-6403-5188
Webサイト:http://info.dreamcruiseline.com/jp/