SIMフリースマホで海外SIMを使おう!

発売されたばかりの9.7インチiPad Proの内蔵Apple SIMをアメリカで使ってみた

ロサンゼルスのデルタ航空のラウンジで内蔵Apple SIMを利用した9.7インチiPad Proで通信しているところ

 Appleは、3月末に新製品となるスマートフォンのiPhone SEと、タブレットの9.7インチiPad Proを日本でも販売開始した。詳細は、僚誌PC WatchケータイWatchをご覧いただくとして、ここでは、9.7インチiPad Proのセルラー版(セルラー版とは携帯電話用の電波を利用して通信できる機能を持つモデル)に標準で組み込まれている内蔵Apple SIMを利用して、海外でデータ通信するまでを紹介したい。

 これまでの「Apple SIM」はAppleが販売しているSIMカードで、特定のiPadなどに入れて利用することができる。その最大のメリットは海外旅行に行ったときなどに、現地の通信キャリアのプリペイドSIMを買わなくても、プリペイドSIMと同じようなプランの契約をクレジットカードなどを使って契約して、即利用できる点にある。今回、日本で購入した9.7インチiPad Proはその「Apple SIM」の機能を内蔵しており、別途購入する必要がなくなった。それを携えて米国に行く機会があったので、現地で内蔵Apple SIMを利用してデータ通信をしてみた。

現地プリペイドSIMと海外ローミングのよいところを組み合わせたApple SIM

 Apple SIMというのは、デバイスメーカーであるAppleが発行しているSIMカードで、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、オランダ、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国にあるApple Storeで購入できる。Apple StoreとはiPhoneの新発売のたびに販売開始の様子が報じられるあのお店のことだ。Apple製品であればすべてで利用できるのかといえばそうではなくて、iPad Pro、iPad Air 2、iPad mini 4、iPad mini 3というiPadの最新製品でのみ利用することができる。

 Apple SIMの最大の特徴は、世界各地で契約から利用開始まで、すべてこのSIMカードとクレジットカードがあればデータ通信が可能になる点にある。例えば、日本人が米国に旅行する場合、普通であれば日本で契約している通信キャリア(例えばNTTドコモやau、ソフトバンクなど)の海外ローミング機能を利用するか、米国の通信キャリアが販売しているプリペイドSIMカードを購入する必要がある。

 海外ローミングの弱点はコストで、ソフトバンクがiPhoneユーザー限定で提供している“アメリカ放題”というプランを別にすれば、日額(日本の0時から23時59分まで)で1000~3000円前後となっている。1週間使えば2万円を超えてしまうこともあるのだ。

 現地のプリペイドSIMカードの弱点は、何らかの形でSIMカードを物理的に入手する必要があること。例えば現地到着後に通信キャリアのショップへ行くなどしてSIMカードを入手し、プリペイド契約をしないといけない。空港に着陸してSIMカードを入手するまで、道順をGoogle マップで調べようと思っていてもできないことになってしまう。

 Apple SIMはそうした海外ローミングと現地でプリペイドSIMを購入するやり方のよいところを合わせたような仕組みになっている。ユーザーがApple SIMを入れたiPadないしは9.7インチiPad Proのセルラー通信をオンにすると、Appleが提供している契約線用の回線に自動で接続される。ユーザーはそこに表示された選択肢(多くの国で複数の通信キャリアが選択肢として用意されている)から、望みの通信キャリアを選び、クレジットカード情報などを入れると、契約が完了しデータ通信が可能になる。料金は国や通信キャリアによって異なるが、多くの国で日本の通信キャリアのままで何日も海外ローミングする場合に比べれば安いことが多く、すでに述べたとおり別途プリペイドSIMカードを入手する必要がないので、現地に到着してすぐオンラインで契約すれば利用できるのは便利だ。

内蔵Apple SIMが便利なのはSIMカードを入れ替える必要が無いこと

 Apple SIMは、iPad Pro、iPad Air 2、iPad mini 4、iPad mini 3向けにApple Storeで販売され、国内でも入手可能だが、2016年3月31日から販売が開始されたiPad Proの新モデルとなる9.7インチiPad Proには、Apple SIMが標準で内蔵されており、別途入手したりSIMカードを挿入したりしなくてもApple SIMの機能を利用できる。今回は、米国への出張に合わせてこの9.7インチiPad Pro(モデル名:A1674)の32GB/セルラー内蔵版を購入して持参し、実際に内蔵Apple SIMを利用してみた。

 ちなみに、今回はApple Storeで購入したSIMフリー版を利用したが、国内キャリア版(NTTドコモ、au、ソフトバンク)でも同様に内蔵Apple SIMは使用可能だ。

iPad Pro、iPad Air 2、iPad mini 4、iPad mini 3はピンを使ってSIMを交換する作業が必要でかなり面倒。9.7インチiPad Proはこの作業が不要だ

 実際に利用してみて便利だと感じたのは、物理的にSIMを入れ替えないでよいという点だ。これまでであれば、現地に着いたら現地のプリペイドSIMカードに入れ替えるという面倒な作業が必要だった。iPadの場合、SIMカードを入れ替えるにはピンが必要な構造になっており、カバーをがばっと外してSIMカードを入れ替えることができるAndroidスマートフォンなどに比べてやや面倒なのだ。しかし、内蔵Apple SIMの場合には、ふだん、日本で使っているSIMカードは入れたままで、現地の通信キャリアと契約できるので圧倒的に楽だ。

 ただ、筆者の9.7インチiPad Pro場合、若干の設定の変更が必要だった。NTTドコモの回線を利用して通信サービスを提供しているMVNO(モバイル仮想通信事業者)の1つ、IIJmioのSIMカードを利用しているのだが、iPadにはそのIIJmioを利用するための「構成プロファイル」をインストールして使っている。この構成プロファイルにより、APNと呼ばれる通信事業者の設定をiPadに行なってくれる便利な機能なのだが、これがインストールされたままだと、iPad Proが内蔵Apple SIMを利用して契約の画面を出すための通信を邪魔してしまうようで、セルラー回線を経由した契約画面が表示されなかった。

日本国内では、IIJmioの回線を利用するための構成プロファイルを使っているが、これが入っているとセルラー回線を利用した契約画面が表示されなかった

 IIJmioの構成プロファイルを削除してiPadを再起動したところ、セルラー回線を経由して契約画面が表示されたので、同じようにMVNOの構成プロファイルをインストールしている場合は要注意だ。なお、削除した場合には日本に帰ったらもう一度構成プロファイルをインストールする必要があることと、別途Wi-Fiが使える環境であれば、構成プロファイルを削除しなくても契約画面が表示されたことは付け加えておく。

日本のクレジットカードで契約できたGigSky、表示も日本語で簡単に契約できる

 モデルA1674の9.7インチiPad Proを米国で利用する場合には、以下の4つの通信キャリアの中から選択することが可能になっていた。

米国で選択可能な通信キャリア(2016年4月現在)

 AT&T
 Sprint
 T-Mobile
 GigSky

内蔵Apple SIMを利用して米国で回線契約をしようとしているところ。通信キャリアの表示がiPadとなっており、特にWi-Fiなどに接続しなくてもこの画面が表示されている

 AT&T、Sprint、T-Mobileの3つの通信キャリアは米国の通信キャリア(日本で言えばNTTドコモなどのこと)で、GigSkyはMVNOとして国際的にプリペイドの通信サービスを提供する事業者となる。

 AT&Tなどの米国の事業者を利用する場合には、クレジットカードで契約するのだが、住所のフォーマットが米国の住所にしか対応していないなど、契約するには米国のクレジットカードが必要になる。また、米国のSSN(ソーシャルセキュリティナンバー、日本のマイナンバーのようなもの)を入れないと契約できない仕組みになっているキャリアもあり、基本的には米国のユーザー向けのサービスになってしまっている。

米国の通信キャリアAT&Tのプリペイドプラン
米国の通信キャリアT-Mobile USのプリペイドプラン、いずれも契約するには米国住所で発行されているクレジットカードが必要になる

 それに対して、GigSkyの場合には、グローバルにサービスを提供している事業者になるので、日本のクレジットカードによる決済にも対応している。また、居住地域に日本を選ぶと決済などが日本語で行なえるのも日本人としてはうれしいところだ(AT&T、Sprint、T-Mobileはすべて英語のみの表示)。

GigSkyの場合、居住地域として日本を指定すると日本語で設定でき、日本円で支払うことができる

 利用手順としては表示されるキャリアのリストからGigSkyを選び、居住国で日本を選択し、プランを選択する。筆者が米国に行った4月上旬の時点では以下の4つのプランから選ぶことができた。

GigSkyで選択可能な価格、容量、有効期限(2016年4月現在)

1800円: 100MB/3日間
3000円: 250MB/7日間
4200円: 500MB/14日間
6000円: 1GB/30日間

 今回は3000円/250MB/7日間のプランを選んでみた。GigSkyのアカウントを持っている場合はアカウントとパスワードを入れてログインするか、アカウントを持っていない場合にはアカウントを作成する必要がある。アカウントを作成後、クレジットカード番号、有効期限、セキュリティコード、住所などを入れると、決済することができる。クレジットカードは、アメリカン・エクスプレス、VISA、Masterのいずれかが利用できる。しばらく待っていると、“モバイルデータ通信プランが更新されました”というメッセージが表示され、利用できるようになる。決済が完了すると、領収書は電子メールで送られてくるので、会社の出張時に経費にしたいというユーザーはそれを元に経費申請できる。

 ちなみに、現地のプリペイドSIMカードと同じような価格で提供されているAT&Tなどの場合は、1GBで25ドル(日本円で約2700円)などを選ぶことができる。それに比べるとGigSkyはやや高めだが、通信キャリアのローミングよりは安い、それがGigSkyのローミングの価格だということができるだろう。

アメリカン・エクスプレス、VISA、Masterの3ブランドのカードで支払いができる
GigSkyから送られてきた電子メールの領収書

 なお、GigSkyはグローバルにApple SIM向けに通信サービスを展開しており、今回の例のような米国以外でも利用できることがある。ほかの国や地域でも同じように利用できるので、アカウントを作成しておいて損はないだろう。

 現在のところ、米国でのGigSkyのサービスは3Gのみであるようで、LTEで接続することはできなかった。しかし、ブロードバンドの速度計測を行なうSpeedtest.netで確認してみたところ、下り6.69Mbps、上り1.14Mbpsと通常の用途には十分な速度がでていることが分かった。海外旅行先で大容量のファイルを何度もダウンロードするわけでもないと考えられるので、これで十分だろう。なお、iPadをWi-Fiルーターの代わりとする“テザリング”の機能も利用することができた。

ロサンゼルス空港にてSpeedtest.netで計測したところ、下り6.69Mbps、上り1.14Mbpsで通信することができていた
帰りのフライトがアラスカのアンカレッジにダイバードして機内待機だった時も、GigSkyでデータ通信が可能だったため、各所に連絡が取れて助かった

 9.7インチiPad Proの内蔵Apple SIMを米国で使ってみて分かったことは、サービスの利便性に関してはわざわざ現地でSIMカードを入手したり、SIMカードを入れ替える必要がないという意味で利便性に関しては優れており、コストパフォーマンスに関しては現地でプリペイドSIMを買うのと日本の通信キャリアのローミングサービスを使うのとの中間ぐらいということができるだろう。

 その意味では、そこそこのコストパフォーマンスと、SIMを変えなくてよいという利便性を重視したいのであれば、対応iPadを持っているならApple SIMを検討してみる価値があるのではないだろうか。

(笠原一輝)