井上孝司の「鉄道旅行のヒント」
万博の夢洲駅は改札機の展覧会? 自分のきっぷはどの改札なら通れるか
2025年3月26日 06:00
2025年3月に鳥取駅でICOCA対応のために自動改札機が導入された結果、都道府県庁所在地の代表駅で自動改札機がない駅は徳島駅だけになった(山口県は判断が難しい。山口駅に自動改札機はないが、同じ山口市内の新山口駅には自動改札機がある)。
しかし、有人通路しかない駅は分かりやすい。どこの通路を通っても同じだからだ。ところが自動改札機は事情が異なる。
きっかけはIC専用通路
そもそも、昔は「紙のきっぷ」と「有人通路」の組み合わせしかなかった。自動改札機が登場したため、「紙のきっぷ」は自動改札機に対応する「磁気券」と「磁気券以外」に分かれた。とはいえ、これも「裏が白い紙のきっぷは有人通路」で済むから、まだ分かりやすい。
そして交通系ICカードが登場する。当初はすべての自動改札機が、紙のきっぷ(磁気券)とICカードの両方に対応する形が一般的だった。ところが、交通系ICカードの利用率が上がったのを受けて、「IC専用通路」が出現した。
これは自動改札機を維持管理する立場からすると、ムリからぬ話。自動改札機は、きっぷの向きや裏表に関係なく投入できて、しかも取出口から出てきたときには必ず表が上を向いている。それに加えて、複数枚の同時投入もできる。
これを実現するために、「裏返しのきっぷを反転させる」「複数枚を投入したときには厚さ検知センサーで判別して、1枚ずつ順番に送り出す」「それを放出口の手前で再び重ねる」といったメカが組み込まれている。しかも、その複雑なメカは迅速な動作と高い信頼性が求められる。
たまに「券詰まり」が生じて、駅係員が自動改札機のカバーを開けて内部にアクセスしている場面に遭遇した方なら、自動改札機のなかに複雑なメカがギッシリ詰まっている様子はお分かりいただけるだろう。それは自動改札機の製造コストを押し上げるし、点検や維持管理の負担にもつながる。
その点、ICカード専用なら話は簡単。読み取り装置に可動部分はない。簡易型でなければゲートは必要だが、可動部分といえばそれぐらいだ。製造コストも維持管理の負担も激減する。よって、IC専用通路が増えることになった。
券種の多様化
それで話が済めばよかったのだが、近年になって「きっぷ」の物理的な媒体が増えているので、話はさらにややこしくなった。
まず、いわゆるクレジットカードのタッチ決済。次に、QR乗車券。タッチ決済は交通系ICカードと同様に無線による読み取りだが、QR乗車券は光学的な読み取りだから、専用の読み取り装置を必要とする。
そして最新の手段として「顔認証改札」が登場した。これは顔認証のために専用のメカニズムを必要とするから、改札機の構造がガラッと変わっている。
これだけ券種が多様化すると、1つの自動改札機ですべての手段に対応するのは現実的ではなくなる。
「磁気券」「ICカード」「タッチ決済」「QR」の4種類に対応した結果、機器をいろいろ増設してキメラ化した自動改札機が出現してしまった。しかし、これが限度と思われる。
すべての駅の、すべての改札機でこうした機器増設をやろうとすれば、費用面の負担が大きい。そのため、やむなく「特定の券種にだけ対応する自動改札機」ができることとなった。
すると、複数の通路がある駅では、自分が使用するきっぷの種類に合わせて、通過する通路を選ばなければならない。間違えると「あっ、ここではダメか」といってUターンすることになり、後ろに続く人からの視線が刺さる。
頭上または足元の標示、自動改札機での標示
そこでどこの駅でも、頭上や足元に標示を出して「○○に対応する通路はこちらです」と案内しているが、混雑していれば足元の標示は見づらい。また、自動改札機それ自体が、「何に対応しているか」を表示する機能を備えているのが一般的だ。こうした標示を見て適切な通路に向かいましょう、という以上の対応策を提案できないのは辛いところではある。
もともと、自動改札機では通路ごとに通過の可否を示す標示がある。昔はそれが頭上にあって「○」「×」を通路ごとに出していた。双方向に行き来ができる通路なら、どちらからでも「○」になるが、入場専用・出場専用の通路だと、逆方向に対しては「×」が出る。
今はこの標示が、頭上ではなく自動改札機の本体・手前に設けられている。そこに、対応するきっぷの種類も表示していることが多い。紙のきっぷと交通系ICの両方に対応していれば、通過の可否を示す矢印だけ。交通系IC専用なら「IC」と表示するのが一般的なようだ。
自動改札機の展覧会と化した夢洲駅
そこで、大阪万博の会場最寄りとなる、Osaka Metro中央線の夢洲駅である。15通路の自動改札機がずらりと並んだ様子は壮観だが、実は通路によって対応が異なる。まず、顔認証改札は1通路のみで、ラチ内から見て右端から2番目。また、QRとタッチ決済も一部の通路のみで対応している。
最新型だけあって、「磁気券」「ICカード」「QR」は1つの筐体にきれいに収まっているが、QR非対応通路ではQR用の読み取り装置が省略されている。また、タッチ決済対応通路では専用の読み取り装置が上に突き出ている。
だから、「顔認証」「タッチ決済」「QR」の場合には、対応している通路を選んで通らなければならない。床の標示、あるいは自動改札機の手前にある標示に注意しないと、使えない通路に迷い込んでしまう。