井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

万博の夢洲駅は改札機の展覧会? 自分のきっぷはどの改札なら通れるか

新幹線の大宮駅で。「紙のきっぷ」「ICカード」の単独使用だけでなく、組み合わせもあり、さらにICカードは2種類の商品がある。かように複雑化したため、こんな案内が必要になった

 2025年3月に鳥取駅でICOCA対応のために自動改札機が導入された結果、都道府県庁所在地の代表駅で自動改札機がない駅は徳島駅だけになった(山口県は判断が難しい。山口駅に自動改札機はないが、同じ山口市内の新山口駅には自動改札機がある)。

 しかし、有人通路しかない駅は分かりやすい。どこの通路を通っても同じだからだ。ところが自動改札機は事情が異なる。

きっかけはIC専用通路

 そもそも、昔は「紙のきっぷ」と「有人通路」の組み合わせしかなかった。自動改札機が登場したため、「紙のきっぷ」は自動改札機に対応する「磁気券」と「磁気券以外」に分かれた。とはいえ、これも「裏が白い紙のきっぷは有人通路」で済むから、まだ分かりやすい。

 そして交通系ICカードが登場する。当初はすべての自動改札機が、紙のきっぷ(磁気券)とICカードの両方に対応する形が一般的だった。ところが、交通系ICカードの利用率が上がったのを受けて、「IC専用通路」が出現した。

つくばエクスプレスの流山おおたかの森駅で。IC専用通路は改札機に「IC」、磁気券にも対応する通路の標示は「↑」
山陽本線・加古川駅の乗り換え改札で。こちらは磁気券対応通路の標示が「←」になっている

 これは自動改札機を維持管理する立場からすると、ムリからぬ話。自動改札機は、きっぷの向きや裏表に関係なく投入できて、しかも取出口から出てきたときには必ず表が上を向いている。それに加えて、複数枚の同時投入もできる。

 これを実現するために、「裏返しのきっぷを反転させる」「複数枚を投入したときには厚さ検知センサーで判別して、1枚ずつ順番に送り出す」「それを放出口の手前で再び重ねる」といったメカが組み込まれている。しかも、その複雑なメカは迅速な動作と高い信頼性が求められる。

 たまに「券詰まり」が生じて、駅係員が自動改札機のカバーを開けて内部にアクセスしている場面に遭遇した方なら、自動改札機のなかに複雑なメカがギッシリ詰まっている様子はお分かりいただけるだろう。それは自動改札機の製造コストを押し上げるし、点検や維持管理の負担にもつながる。

 その点、ICカード専用なら話は簡単。読み取り装置に可動部分はない。簡易型でなければゲートは必要だが、可動部分といえばそれぐらいだ。製造コストも維持管理の負担も激減する。よって、IC専用通路が増えることになった。

伯備線・豪渓駅の自動改札機。ゲートは省略して、入出場の記録を付ける機能に特化している簡易型。磁気券にも対応する
ICカード対応路線の無人駅でよく見かける簡易改札機。こちらは磁気券には対応していない。東武日光線 北鹿沼駅で

券種の多様化

 それで話が済めばよかったのだが、近年になって「きっぷ」の物理的な媒体が増えているので、話はさらにややこしくなった。

 まず、いわゆるクレジットカードのタッチ決済。次に、QR乗車券。タッチ決済は交通系ICカードと同様に無線による読み取りだが、QR乗車券は光学的な読み取りだから、専用の読み取り装置を必要とする。

 そして最新の手段として「顔認証改札」が登場した。これは顔認証のために専用のメカニズムを必要とするから、改札機の構造がガラッと変わっている。

 これだけ券種が多様化すると、1つの自動改札機ですべての手段に対応するのは現実的ではなくなる。

Osaka Metro 千日前線の桜川駅で。ラチ外から見た様子で、右から順に「磁気券・IC・QR対応」「磁気券・IC対応」「出場専用なので×」「顔認証」と並んでいる
Osaka Metroが導入した顔認証改札。どこの駅でも1通路だけあり、入場と出場のいずれも可能

「磁気券」「ICカード」「タッチ決済」「QR」の4種類に対応した結果、機器をいろいろ増設してキメラ化した自動改札機が出現してしまった。しかし、これが限度と思われる。

「IC・磁気券・QR・タッチ決済の全部盛り」がこれ。その下の「○」は「こちら側から入場可能」を意味する昔ながらの表示。近鉄名古屋線 富吉駅で
近鉄大阪線 八尾駅で。これは「IC・QR・タッチ決済」に対応する。投入口がふさがれていることから、磁気券対応機を改造したのだと分かる
南海本線 難波駅で。これも「IC・QR・タッチ決済」に対応するが、IC専用通路に独立した読み取り装置を外付けする形
IC専用通路に「スマえき」用のQR読み取り装置を外付けで追加したのは、高松駅
予讃本線 松山駅で。ここはICカードのエリア外なので、磁気券と「スマえき」の2本立て。最初から「スマえき」対応の改札機を導入したので、機器は一体化している。なお、逆方向の出場側では「スマえき」専用通路が1通路ある
東北新幹線 那須塩原駅で。磁気券・IC対応の自動改札機だが、「えきねっとQチケ」導入に備えてQR読み取り装置を手前に増設する用意がなされている。この駅では1通路だけ「ウシウシ模様のラッピング改札機」になっている
すでに「えきねっとQチケ」が稼働している、東北本線 花巻駅で。先に出した那須塩原駅も、いずれはこうなるわけだ
東海道・山陽新幹線では自動改札機の更新に際してQR対応を追加したため、ICカードの読み取り部とQR読み取り部が一体化したスマートな構成

 すべての駅の、すべての改札機でこうした機器増設をやろうとすれば、費用面の負担が大きい。そのため、やむなく「特定の券種にだけ対応する自動改札機」ができることとなった。

 すると、複数の通路がある駅では、自分が使用するきっぷの種類に合わせて、通過する通路を選ばなければならない。間違えると「あっ、ここではダメか」といってUターンすることになり、後ろに続く人からの視線が刺さる。

頭上または足元の標示、自動改札機での標示

 そこでどこの駅でも、頭上や足元に標示を出して「○○に対応する通路はこちらです」と案内しているが、混雑していれば足元の標示は見づらい。また、自動改札機それ自体が、「何に対応しているか」を表示する機能を備えているのが一般的だ。こうした標示を見て適切な通路に向かいましょう、という以上の対応策を提案できないのは辛いところではある。

 もともと、自動改札機では通路ごとに通過の可否を示す標示がある。昔はそれが頭上にあって「○」「×」を通路ごとに出していた。双方向に行き来ができる通路なら、どちらからでも「○」になるが、入場専用・出場専用の通路だと、逆方向に対しては「×」が出る。

 今はこの標示が、頭上ではなく自動改札機の本体・手前に設けられている。そこに、対応するきっぷの種類も表示していることが多い。紙のきっぷと交通系ICの両方に対応していれば、通過の可否を示す矢印だけ。交通系IC専用なら「IC」と表示するのが一般的なようだ。

在来線から東海道新幹線に乗り換える改札で、頭上に対応券種の掲示を追加した例。東京駅で
足元に標示を足した例(1)。写っている3通路とも3種類の券種に対応するが、それぞれ組み合わせが異なる。鹿児島本線 博多駅で
足元に標示を足した例(2)。どこの駅でも通路ごとの対応券種の組み合わせが同じ、ではないようで、ここではIC専用通路がある。鹿児島本線 小倉駅で
基本は「磁気券とIC」だが、一部通路がタッチ決済「にも」対応する福岡市営地下鉄では、タッチ決済対応通路の標示だけを足している

自動改札機の展覧会と化した夢洲駅

 そこで、大阪万博の会場最寄りとなる、Osaka Metro中央線の夢洲駅である。15通路の自動改札機がずらりと並んだ様子は壮観だが、実は通路によって対応が異なる。まず、顔認証改札は1通路のみで、ラチ内から見て右端から2番目。また、QRとタッチ決済も一部の通路のみで対応している。

 最新型だけあって、「磁気券」「ICカード」「QR」は1つの筐体にきれいに収まっているが、QR非対応通路ではQR用の読み取り装置が省略されている。また、タッチ決済対応通路では専用の読み取り装置が上に突き出ている。

 だから、「顔認証」「タッチ決済」「QR」の場合には、対応している通路を選んで通らなければならない。床の標示、あるいは自動改札機の手前にある標示に注意しないと、使えない通路に迷い込んでしまう。

夢洲駅の改札口をラチ外から。改札機を見ると、通路によって「QR」「きっぷ」「IC」と標示が異なるのが分かる。なお、筆者が訪問したあとで、足元にも対応券種に関する標示が追加されたようだ
これは「磁気券・IC・QR・タッチ決済の全部盛り」自動改札機。タッチ決済の読み取り装置だけ外出しになっている
ところ変われば品変わる。ロンドンの地下鉄では、オイスターカードとタッチ決済は同じ読み取り装置を共用している