井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

トレインビューな宿のメリットとデメリット

函館駅のホームで。右手の背後に見える建物は「JRイン函館」。駅からホテルの建物が見えるということは、ホテルから駅を見下ろせるということでもある

 鉄道に乗ったり撮ったりすることを主目的とする旅行の場合、利便性を考慮すると、宿泊場所は駅に近い方がありがたい。駅から遠いと、駅までの行き来に時間がかかり、それがスケジュールを圧迫することがある。

「駅の近くの宿泊施設」というと、駅前広場、あるいはその近隣の道路に面しているロケーションが一般的。ところが場合によっては、建物が線路に面していたり、線路の近くに立地していたりする。すると、線路側に面した客室が「トレインビュー」になる。

トレインビューをウリにするホテルは案外とある

 そうした宿泊施設のなかには、「トレインビュー」をウリにするところが出てきている。また、「トレインビューなホテルを紹介するWebサイト」も、いくつもある。

 特に、鉄道事業者のグループ、あるいは駅ビル運営会社が関わっているようなホテルは、必然的に立地が駅と一体化したり、あるいは駅の近隣になったりするものである。鉄道事業者が、鉄道用地の一部を活用してホテルを開業する事例は少なくないからだ。

 実際、これまでに筆者が宿泊した場所でも、客室がトレインビューになっているところはいくつもあった。客室がダメでも、廊下の突き当たりやエレベーターホールに設けられた窓から駅や線路が見える、なんていうこともある。

 ただし、大抵の場合は建物の中央に廊下があり、その両側に客室を配するレイアウトだから、そのどちら側の部屋をアサインされるかで、トレインビューになるかどうかが決まってしまう。だからこそ「トレインビュー確約の宿泊プラン」なんていうものも出現する。

JRイン旭川で。西側に面した客室だと、一応は函館本線の線路が見える
実はJRイン旭川の場合、ロビーから駐車場に向かう通路の窓が、もっとも駅に近い
ホテル・ラ・ジェント・プラザ函館北斗で、東京に向かう上り始発列車「はやぶさ10号」のH5系を見送る図
JRイン札幌は函館本線の高架橋の南側に隣接する。この高架橋の手前に新幹線の高架橋ができる

トレインビューな客室のメリットとデメリット

 好き者の立場からすれば、客室の窓から外を見ると、ライブで鉄道模型が動いているようなもので、これはなかなか楽しい。「トレインビューな客室のメリット」といえば、これに尽きるのではないか。

 そして前述したように、トレインビューになるような宿泊施設は大抵、駅に近い。駅までバスやタクシーで移動する必要があると、その分だけ時間をよぶんに必要とするが、駅から徒歩圏内にあれば機動力がアップする。筆者が基本的に「駅前または駅の近くのビジネスホテル」を多用する理由も、この辺にある。

 ただ、列車が走っているところが見えて楽しい……だけですまないこともある。列車が走っているということは、当然ながらその際に音を発するということ。夜間に、寝ていたら通過列車の音で叩き起こされてしまった、なんていう経験が実際にある。もっとも、この種の話は窓まわりの防音がどれぐらい行き届いているか、にも依存する。防音がしっかりしていればいいのだが。

 ことにJRの主要幹線では、夜の主役は貨物列車だ。貨物列車は編成長が長い上に、走っているときに意外とガチャガチャと音を立てる。それが、自分が寝ている客室の近くを何本も通過すれば、人によっては目が覚めてしまうかもしれない。

 一方、民鉄各社は大抵、夜は列車の運転はない。JRでもローカル線はそうだ。新幹線も夜間には営業列車の運転はない。

 ただし新幹線は在来線と異なり、線路や各種設備・機器の検査点検・保守作業、さらにはさまざまな工事が、夜間に集中して行なわれている。ことに軌道まわりの保守に使用する機械は、必ずしも静かとはいえない。

 たまたま筆者は、新幹線の夜間保守が行なわれる現場を取材した経験が何回かあるが、「こんな音を立ててたら、近くに住んでる人は気になるかもなあ」と思ったものである。

 もっとも、保守用車が好きな人にとっては、保守用車が仕事をしている現場を見たくて寝る間も惜しい、ということになるかもしれない。それはそれで、トレインビューのメリットといえるだろう。

博多駅で。「貨物時刻表」を見ると分かるが、主要幹線では夜間に貨物列車が走る場面が多い
JRホテルクレメント徳島で。窓の直下が徳島駅だが、ここは車両基地が隣接している。すると、車両の入換や運行準備などでエンジンの音が響く場面も出てくる
新幹線では夜間の主役は保守用車、これはロングレール輸送車LRA9200といい、新しいレールの搬入や、外した古いレールの搬出に使う

鉄道をフィーチャーした客室が設けられていることも

 トレインビューからはいささか外れた話になるが、客室やパブリック・スペースで、鉄道をフィーチャーした宿泊施設もある。この手の話は、JR北海道グループのJRインが熱心だ。

 例えばJRイン千歳では、引退した281系気動車から外して持ってきた運転台を設置した「キハ281トレインルーム」がある。また、宿泊者専用ラウンジには、281系気動車から持ってきたグリーン車の腰掛が置かれている。

 JRイン函館では、ハンガーを掛ける部分の意匠が蒸気機関車の動輪を模した形になっているほか、エレベーターホールの壁にはDE10型ディーゼル機関車の画、床にはレールを模した2本のライン、と徹底している。しかも、北側に面した客室からは函館駅を一望できる。そして「キハ40トレインルーム」まである。

JRイン千歳の宿泊者専用ラウンジには、281系気動車で使われていたグリーン車の腰掛が置かれている
JRイン函館の客室で。ハンガー掛けが蒸気機関車の動輪をモチーフにしている
JRイン函館のロビーで。床に、明らかに「分岐するレール」だと分かる線が描かれている。こんな遊びが楽しい