井上孝司の「鉄道旅行のヒント」
“看板列車に乗れば最速”は本当? 「のぞみ」ではなくあえて「ひかり」に乗ってみる
2025年2月26日 06:00
新幹線や主要幹線には「看板列車」とでもいうべき存在の列車がある。東海道・山陽新幹線なら「のぞみ」であるし、東北新幹線なら「はやぶさ」となる。普通、鉄道は移動の手段であるから、速く移動したいというニーズが多くなり、これらの列車に人気が集中することになる。
看板列車だけが図抜けて速いのか?
だがちょっと待ってほしい。
もちろん、看板列車が最速であるのは確かだが、そのほかの列車になるとズドンと所要時間が伸びるものであろうか。あえて疑問として提起してみたい。
もちろん、各駅に停車する列車なら所要時間は大幅に伸びる。東海道新幹線を例にとると、「のぞみ」は東京~新大阪間を2時間30分前後で走るが、日中の「こだま」は4時間近くかかる。「ひかり」は列車によるが、3時間をいくらか切るぐらいが目安であろうか。
ところが、区間利用だと差が縮む場面がある。例えば名古屋~新大阪間。「のぞみ」はこの間、京都にしか停車しない。「こだま」はもちろん全駅に停車する。では「ひかり」は?
「ひかり」の停車駅は何パターンかあるが、東京~岡山間の「ひかり」は「のぞみ」停車駅に加えて、静岡県内の停車が加わり、新大阪以西は各駅停車となるのが一般的。こうすることで、新大阪~岡山間に「こだま」を重複して走らせなくても済むようにしている。
もう1つ、東京~新大阪間の「ひかり」もある。こちらは新大阪から名古屋までの各駅に停車して、名古屋~新大阪間に「こだま」を重複して走らせなくても済むようにしている。もちろん、米原と岐阜羽島の停車が加わる分だけ、名古屋~新大阪間の所要時間は延びる。
「ひかり」は新横浜~名古屋間にも停車駅があるが、これは列車によってそれぞれ異なる駅に停車させている。需要を見ながら停車駅を分散化することで、所要時間のばらつきを抑えているわけだ。
こうした状況から考えると、「岡山ひかり」を利用しても、名古屋~新大阪間の所要時間は「のぞみ」と比べて大差はつかないはずであるし、実際、そうなっている。一方、名古屋~東京間の利用では、途中の停車駅が「のぞみ」よりも多く、しかもその際に待避することもあるため、「ひかり」と「のぞみ」の所要時間差が広がる。
つまり、「のぞみ」にばかり目を向けるのではなく、利用する区間やタイミングによっては「ひかり」にも目を向けてみたら、という話になる。それに、指定席をとるなら「ひかり」の方が少し安い。といって実際に筆者は、「のぞみ」ではなく「ひかり」で新大阪から東京まで戻ってきたことがある。
ただ、これは沿線に大きな都市がいくつも並んでいる東海道・山陽新幹線ならではの話。「東京対各地」の色が濃くなる東北・上越・北陸新幹線になると、「遠くまで行く列車ほど停車駅が少なくて速い」という傾向が強くなる。よって、看板列車の「はやぶさ」あるいは「かがやき」とそのほかの列車の間で、所要時間の差が開く傾向は強まるようだ。
ただ、東北新幹線の「やまびこ」は列車によって停車駅パターンが違うので、利用しようとする区間と時間帯によっては、「はやぶさ」と比較してから判断してもよいと思う。「この程度の所要時間差だったら、『はやぶさ』ではなく『やまびこ』でもいいか」となる場面が出ないとも限らない。
具体的にいうと、「つばさ」と併結する東京~仙台間の「やまびこ」は、比較的、停車駅が少ない。同じ「仙台やまびこ」でも、列車によっては東京~仙台間で通過するのは1駅だけ、ということもある。
東京~盛岡間の「やまびこ」は、東京と仙台以北を速く結ぶ狙いがあるので、仙台以南では停車駅を絞り、仙台以北では各駅に停車する。同じ「やまびこ」でもこんな違いが出るのだ。
在来線はどうか
在来線の場合、線区ごとに特急列車が1系統だけ設定されていることが多い。それでは選択の余地はないのだが、たまに例外がある。
例えば函館本線~千歳線~室蘭本線(札幌~東室蘭)がそれ。この区間を走る特急列車は、札幌~函館間を行き来する「北斗」と、札幌~室蘭間を行き来する「すずらん」の2本立てになっている。「すずらん」の方が停車駅が多いが、「北斗」と比べてべらぼうに遅いかというと、そういうわけでもない。
札幌~東室蘭間で比較してみると、「北斗」と「すずらん」の所要時間差は十数分というところ。これは、「北斗」の停車駅が全般的に以前よりも増加したことで、「すずらん」との差が縮まっている事情がある。
そして「すずらん」の方が、「北斗」と比べると空いている可能性は高いのではないか。すると、札幌~東室蘭間のいずれかの駅を行き来するのであれば、時間帯によっては「すずらん」を候補に入れる意味が出てくる。
なお、同じ北海道で「おおぞら」(札幌~釧路間)と「とかち」(札幌~帯広間)は、札幌~帯広間で重複している。しかし「おおぞら」の運転本数は「北斗」と比べると少なく、「とかち」とは相互補完の関係にある。「どちらでも選択できる」というよりは「時間帯によって、どちらかになる」という形であり、事情が異なる。
ここまではJRグループの新幹線や特急列車の話だった。しかし、在来線の普通列車(快速を含む)、あるいは民鉄各社でも、同じように「最速列車・看板列車にだけこだわらず、ほかの列車にも目を向けてみたら、意外と少ない所要時間差で済む穴場が見つかった」となる場面はあり得る。
列車ごとの所要時間の比較をしやすい方法・しにくい方法
ただ、インターネット上で提供されている「乗り換え案内サービス」の類を利用すると、基本的には「最速列車優先」で結果を出してくることになる。そのため、「所要時間の増分はそれほど多くないのに、目を向けられにくい列車」を見落とす可能性が高くなる。
以前に別の記事で書いた話とも重複するが、全列車・全駅を一望できる紙の時刻表、あるいは紙の時刻表と同じ体裁で提供されるデジタル版の時刻表を利用することで、「穴場列車」の発見につながるかもしれない。