井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

「新幹線で隣の駅」が高コスパなのはどの区間? 特定特急料金をうまく使う

新幹線は、遠距離移動にだけ使うものとは限らない。隣駅までの短距離利用でも、新幹線の速さは効いてくることがある

 在来線で特急列車を利用するときには、乗車券と特急券が必要になる。新幹線も同様で、乗車券と特急料金が必要になる。基本的には距離に合わせて金額が上がっていくが、ちょっとした例外がある。というのが今回のお題。

早見表で調べるのが早道

 在来線の特急列車はさまざまな区間で運転されているので、時刻表に載っている特急料金は「距離別」が基本。だから、利用する区間の営業キロ程を調べて、「この営業キロ程なら○○km~△△kmの範囲なので、特急料金はいくら」といった手順で計算する。

 ただし、利用が多い区間については早見表が別に用意されているので、そちらを見る方が手っ取り早い。いわゆる三角表になっていて、乗車駅と降車駅が交差するところのマスに書かれている数字を見れば金額が分かる。ワンマン列車の運賃表でよく見るものだ。

三角表では、発駅と着駅が交差するマスを探す。そこに書かれている運賃が必要になるわけだ。新幹線は運賃(乗車券)に加えて特急料金が必要になるので、それぞれのマスに複数の金額が書かれている

 新幹線については路線と駅の数が限られているので、紙の時刻表では全駅をカバーする三角表が用意されている。前述のように乗車券と特急料金が必要になるので、マスはそれぞれ2段になっていて、上段が運賃(乗車券)、下段が通常期の特急料金(指定席)だ。

 ところが、このうち特急料金の数字を見ると、妙なことに気付く。隣接する2駅の間については、特急料金が斜体になっていて「※」付き、かつ、金額が揃っている。

 例えば山陽新幹線を見ると、姫路~相生間の特急料金は斜体表示で870円、相生~岡山間の特急料金は斜体表示で990円となっている。ほかの隣接駅間を見ても、みんな870円または990円だ。これを特定特急料金といい、東海道・山陽新幹線の場合、駅間距離によって870円の場合と990円の場合がある。

 東海道新幹線の東京~品川間も特定特急料金は870円だから、運賃が180円、特急料金が870円、合計1050円になってしまう。運賃の5倍近い特急料金を足して新幹線を利用する人なんているのだろうか。と思ったが、筆者は一度、東北新幹線を東京~上野間だけ利用したことがあった。運賃は170円、特定特急料金は880円、合計1050円である。

 ともあれ、ここまでは「基本」の話だ。

間に駅を挟むのに特定特急料金が設定されることがある

 ところが、時刻表などに載っている早見表を見ると、隣接する2駅ではなく、間に1駅を挟んだ区間で、特定特急料金が設定されているケースがあるのが分かる。

 東海道新幹線では、東京~(品川)~新横浜、三島~(新富士)~静岡、静岡~(掛川)~浜松、豊橋~(三河安城)~名古屋が該当する。山陽新幹線では、福山~(新尾道)~三原、三原~(東広島)~広島、新山口~(厚狭)~新下関が該当する。

新山口から新下関まで新幹線を利用したときのきっぷ。乗車券と特急券を1枚にまとめたもので、内訳は乗車券の分が1170円、特急券の分が990円だと書かれている

 これらの区間には、いずれも共通点がある。それは「あとから間に駅が増えた」。つまり、以前は隣接する2駅だったものが、駅の新設によって隣接駅ではなくなってしまった組み合わせである。上でカッコ書きしたのが、あとから新設された駅だ。

東海道新幹線の品川駅は、東京~新横浜間にあとから加わった駅。同駅の開業後も、東京~新横浜間の特定特急料金は維持されている

 杓子定規に考えると、「新駅の増設によって、隣接する2駅ではなくなったのだから、特定特急料金を設定する理由はなくなる」という話になろう。だが、さすがにそれはあんまりだと考えたのか、特定特急料金が維持されている。

 これと同じことが、東北新幹線の古川~(くりこま高原)~一ノ関、一ノ関~(水沢江刺)~北上、北上~(新花巻)~盛岡の各駅間、それと上越新幹線の熊谷~(本庄早稲田)~高崎にもいえる。東北・上越新幹線では、隣駅との間に設定される特定特急料金は一部の例外を除いて880円だが、一ノ関~北上、北上~盛岡、熊谷~高崎も880円、古川~一ノ関は1000円だ。

東北新幹線の新花巻駅。ここは北上~盛岡間にあとから加わった駅だ。同駅の開業後も、北上~盛岡間の特定特急料金は維持されている

 おもしろいことに、東京~大宮間にも1000円の特定特急料金が設定されている。ここはあとから途中に駅ができたわけではなく、まず大宮~上野、次に上野~東京と段階的に延伸されたのだが。

特定特急料金が活きる場面

 この特定特急料金の存在を頭に入れておくと、役に立つことがある。

 例えば「青春18きっぷ」みたいな在来線普通列車専用のきっぷを利用していて、一部区間だけ新幹線で先回りするとき。特定特急券が設定されている2駅間だけ新幹線を使うわけだ。在来線が不通になったりダイヤが乱れたりしたときに、旅程崩壊を回避するために新幹線でリカバリーする場面も考えられよう。

 特に、東海道新幹線の静岡~浜松、それと山陽新幹線の相生~岡山、三原~広島、新山口~新下関は、在来線で70km前後もある。ここで新幹線の乗車券と特定特急料金を投入すると、費用対効果の高い時間短縮を実現できる。小倉~博多間で新幹線のシェアが案外とある理由も、この辺にある。

相生駅に到着する500系「こだま」。ここから在来線の普通列車で岡山まで行くと1時間以上かかるが、新幹線なら半分以下の所要時間で済む

 もっとも、新幹線の列車運転本数という問題がある。在来線から新幹線に乗り換えても、新幹線の本数が少なく、待ち時間が長いとせっかくの所要時間差を食いつぶしてしまい、到着時刻は大差ありませんでした。というコントみたいなこともあり得る。