井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

乗り放題や定期券、普通乗車券もスマホで完結。JR四国の「スマえき」使ってみた

JR四国のチケットアプリ「しこくスマートえきちゃん」で普通乗車券を購入して、乗車中の図

 筆者は2019年と2023年の二度、スウェーデンを訪れている。あちらでは、路線バスや都市間列車・近郊列車を利用する際に、スマートフォンとクレジットカードがあれば、乗車便を検索してキャッシュレス乗車が可能な仕掛けが整っていて、かなり楽ができた。裏を返せば、不慣れな外国人はスマートフォンとクレジットカードがないと詰むということでもあるのだが。

「スマえき」とは

 一方、日本の鉄道におけるチケットレスサービスというと、交通系ICカードを利用するものが多い。JRグループのみならず、多くの民鉄でも導入されており、カードを所持している人も増えているから、筋の通った選択といえる。といっても、これも場所による。

 JR四国では、香川県の一部エリアでJR西日本と同じ「ICOCA」を導入しているが、これは瀬戸大橋線を通じた岡山方面との往来があるから、という理由だろう。そのほかのエリアでは交通系ICは未導入、それどころか自動改札機が設置されている駅すら限られるのが実情である。

 それを逆手にとった、ということだろうか。JR四国は2022年11月に、スマートフォンで動作するチケットアプリ「しこくスマートえきちゃん」(略称:スマえき)を公開した。当初は特別企画乗車券(いわゆる「おトクなきっぷ」)しか購入できなかったが、2023年4月から、片道乗車券、通勤・通学定期券、自由席特急券も購入できるようになった。

 購入できるきっぷは、JR四国のWebサイトで確認できる。対象はJR四国エリアで、JR四国のエリア外に出るきっぷは扱わない。JR西日本とJR四国の境界駅である瀬戸大橋線の児島駅が対象から外れるのは、この駅がJR西日本の管轄下にあるからだろう。

「スマえき」を使ってみた

 前述したように、JR四国では自動改札機が設置されている駅すら限られる状況なので、「スマえき」は自動改札機に頼らない。駅係員や乗務員が画面を目視確認する方法が基本となっている。

 まず、「スマえき」を手元のスマートフォンにインストールして、会員登録を行なう。会員情報設定画面で、クレジットカードの情報も登録できる。

 手始めに、週末限定・有効期間1日で特急自由席が乗り放題となる「週末乗り放題きっぷ」を購入してみた。駅の指定席券売機で紙のきっぷを購入する方法もあるが、「スマえき」なら駅にいる必要はない。空港から駅に向かうバスの車中で購入しておき、駅に着いたら直ちに改札に向かうことができた。

会員登録後の初期画面。「チケット購入へ」をタップする
券種の選択。これは「おトクなきっぷ」だが、最上部で「きっぷ」「定期券」も選択できる
「週末乗り放題きっぷ」を選択。使用する日付の指定も必要
下までスクロールすると「購入」ボタンが現われる。ちょっととまどったのは、「金額を計算」をタップしないと購入に進めないところ。それ以外は、特に迷うことはなかった
購入を済ませると、その日に利用可能なきっぷの一覧がトップ画面に現われる。ここで、これから使用するものをタップする
「使用開始」をタップすると有効になる
使用開始を指示すると、背景にアニメーションの地紋が表示される。駅の改札、ワンマン列車の降車、車掌による検札では、この画面を乗務員や駅係員に提示する。フリーパス型の商品では「使用終了」の代わりに「出場」が表示され、それをタップすると「入場」に変化する

 使用中のきっぷでは、地紋(?)がアニメーション表示される。スクリーンショットではなくアプリの画面を提示していますよ、と一目で分かるようにするための工夫だろう。

 また、普通乗車券も購入してみた。特に難しいことはなく、発駅・着駅と日付と人数を指示するだけだ。駅の自動券売機で紙のきっぷを買っても同じことはできるが、キャッシュレス化できるのは「スマえき」の利点だろう。

こちらは普通乗車券の購入画面。発駅と着駅、日付、人数の指定が必要
「次へ」をタップすると、この画面になる。同じ発着駅でも複数の経路を選択できる場合があるため、「経路の選択」が必要になるのは注意点
経路をタップ操作で選択すると購入画面になる
使用開始前の乗車券。「使用開始」をタップするところはほかの券種と同じ
使用中の乗車券。地紋の色が「週末乗り放題きっぷ」のときとは異なる。使用を終了したら、「使用終了」をタップする
使用終了を指示したあとの画面。使用中とはひと目で区別できる

 なお、有効期限が過ぎたきっぷは、自動的にトップ画面の一覧から消える。

 使用開始日の変更や使用開始前の払い戻しも「スマえき」で行なえる。このうち使用開始日の変更は、未使用、かつ有効期間開始日より前、という条件が付く。購入日から最大3か月先まで変更が可能で、回数制限はない。「とりあえず購入だけしておいて、使用開始日はあとで決める」という使い方ができるわけだ。

「スマえき」利用時の留意事項

「スマえき」は係員に画面を提示するのが基本的な使い方。ただし、自動改札機が設置されている高松駅と高知駅には「スマえき専用改札機」が設置されており、ここに「スマえき」の画面に表示される二次元バーコードを読み取らせると通過できる。

高松駅に設置されている「スマえき専用改札機」。IC専用通路と併設する形
読み取り装置に、「スマえき」の画面に表示されている二次元バーコードを読み取らせる

 この「スマえき」を利用する場合、紙のきっぷとは条件が異なるところがいくつかある。

 まず、乗車券の距離に関係なく有効期間が1日間になる点と、途中下車ができない点が相違点となる。

 また、アプリの画面を提示する必要があるため、アプリが起動できない、あるいは電池切れや端末の故障・破損といった事態になると、「スマえき」による乗車は不可能になる。長大トンネルを通過中で「圏外」になっているときに、ちょうど検札が来てしまった、なんていうことになると慌てる。いつでも提示できるように、乗車中はアプリを起動したままにしておく方が無難かもしれない。

 こうした制約や注意点を承知したうえで利用する分には、「駅にいなくてもきっぷの購入が可能」「紙のきっぷを発券してから乗る必要がない」というメリットは大きいと感じた。

 おもしろいところでは、ほかの「スマえき」会員のために「代理購入」ができる。利用する人と支払をする人が別になる場面、例えば親が子供のために通学定期券を用意するような場面を想定した機能だが、それ以外でも応用が効きそうではある。