井上孝司の「鉄道旅行のヒント」
電車が止まって閉じ込められる前に。悪天候が予想されるときの対応について考える
2023年8月30日 06:00
強力な台風の襲来が予想されたため、8月15日に東海道・山陽新幹線(名古屋~岡山間)が計画運休となった。これは無事に切り抜けたが、翌16日に静岡県内で長時間にわたって豪雨が発生、東海道新幹線は長時間にわたる運転見合わせとなった。図らずも「予定した運休」と「突発的な運休」が続いたことになる。
事前に対処できる場合と、できない場合
列車が予定どおりに運行できなくなる理由は多々あるが、「事前に予想ができる場合」と「予測不可能で突発的に見舞われる場合」に大別できる。両者の中間として「事前の予測を上回った場合」もある。
台風や降雨・降雪といった悪天候であれば、ある程度は事前に予想できる。近年では計画運休を決めて、1~2日前に告知する場面が増えてきた。だから、当日を迎える前にお出かけを中止する、あるいは日程を変更する余地がある。この場合、きっぷの使用を開始する前に取り消し&払い戻し、あるいは変更をかけることになる。
また、ダイヤの乱れが原因で車両の運用が回らなくなり、一部列車が運休という場面もあり、これは筆者も見舞われた経験がある。
では、列車に乗ってしまってから遭遇する可能性があるトラブルはどうか。
事前の予測が不可能なものとして、地震、各種の事故、車両故障などが挙げられる。この場合、抑止による足止め、遅延、あるいは途中駅での運転打ち切りといった事態が考えられる。
事前の予測を上回る可能性があるトラブルとしては、降雨・降雪・強風が挙げられる。降雨や強風には規制値があり、それを上回ると列車の運転が抑止される。降雪は、除雪が追いつかなくなったり、分岐器不転換が起きたりといった場面が考えられる。一時的な抑止なら運行再開の可能性があるが、施設の損壊に至れば不通区間の発生となり、身動きが取れない事態になりかねない。
使用開始前の変更・取り消し
まず、きっぷを使用する前に変更。あるいは中止を決めた場合。
利用者側の都合で乗車券や特急券などを払い戻す場合には、手数料が差し引かれる。しかし、鉄道事業者側の事情に起因して運行が不可能になった場合には、手数料は差し引かれない。最近では、「これこれこういう事情で払い戻す場合には手数料はかかりません」とX(Twitter)で告知する場面をよく見る。
なお、払い戻しはどこの駅でもできるのが通例だが、一部の企画商品は、購入した窓口でなければ払い戻しができない。また、クレジットカードで購入した場合、きっぷを購入したJR旅客会社によって取り扱いが異なることがある。
では、変更はどうか。以前にも書いたように、JRの特急券は原則として、「発車時刻前であれば」「1回限りで」別の列車への変更ができる。2回目以降は「いったん取り消して払い戻しを受けたうえで、新たに買い直し」である。ただし、EXサービスみたいにシステム側で工夫をして、改札通過前であれば何回でも変更できるようにしている場合もある。
ことに輸送障害に見舞われた場合、変更は先手必勝。別の日、別の列車に空きが見つかったら、よくばらずにとっとと決めたい。もっとも、盆暮れ正月・ゴールデンウィークのような超繁忙期では、前後の日が完売状態という可能性が高いのだが。
また、窓口やネット予約サービスが混雑して、変更や買い直しがスムーズにできない可能性もある。窓口に行列ができていたら、指定席券売機も見てみてほしい。特急券は新規購入だけでなく変更も指定席券売機で行なえるから、そちらの待ち行列が短ければ儲けものだ。
使用開始後の変更・取り消しと特急料金の遅延払い戻し
では、きっぷの使用を開始したあとで変更・取り消しが必要になった場合はどうか。事故などの理由で列車が運転できなくなった場合の取り扱いについては旅客営業規則で定められており、規則で定めた条件・内容の範囲内で対応することになっている。それはそうだろう。
例えば、特急列車が途中駅打ち切りとなった場合には、後続の特急列車に案内されるのが基本だ。もっとも、不通区間が発生すれば後続列車も足止めになるのだが。
途中で旅行を取りやめて引き返す場合はどうか。普通乗車券は、有効期間内、かつ、未利用区間の営業キロが1券片につき100kmを超える場合に限り、未利用区間分の払い戻しが可能と定められている。
有名なのは、「到着時刻よりも2時間以上遅れたら特急料金は払い戻し」。筆者も、盛岡駅で上りの新幹線に乗ろうとしたら福島県内の強風が原因で抑止がかかっていて、結果として遅延払い戻しになった経験がある。
実はこのとき、抑止を知った瞬間に指定席券売機に飛びつき、予定よりも早い列車の指定席に切り替えて入場した。発車時刻が早い列車が先に出ると踏んだためだが、「抑止が解けて一斉に動き出したときに、発車時刻が早い列車の方が、遅延の数字が大きくなるのでは?」という読みもあった。
特急料金の遅延払い戻しは広く知られているだけに、着駅の窓口に払い戻しを求める行列ができることが、ままある。8月16日に東海道新幹線の大規模抑止が発生したときには、一部の駅で払い戻しに充てる現金が払底してしまったという。
しかし実は、当日でなくても1年以内なら払い戻しは受けられるし、それはどこの駅でも構わない。ただし当然ながら、証拠物件となる特急券は必要である。また、改札を出るときに遅延の証明を受けるようにしたい。筆者は経験したことがないが、指定席なら自動改札機が遅延の旨を印字することがあるようだ。
規則と代替ルートを頭に入れておく
JRグループの場合、券種、購入方法、使用開始の前か後か、といった条件ごとに細かく規定があるため、話は単純ではない。しかも、チケットレスサービスが加わったことで、ますます複雑になった。自動的に返金されることもあれば、自分で取り消し手続きをしなければならないこともあるからだ。
実は、紙の時刻表には運賃・料金の計算や、変更・払い戻しなどの取り扱いに関する記述もある。また、JRグループ各社のWebサイトにも同様の情報が載っている。
そしてチケットレスサービスやネット予約サービスでも、遅延や運休が発生した場合の取り扱いや、払い戻しのやり方に関する記述がWebサイトに載っている。何もトラブルがなければ縁のない話だが、ひととおり目を通しておくと、もしものときに慌てずに済む。
なお、平素から代替ルートを意識するに越したことはない。トラブル発生時には初動が大切。迅速に変更しようとすれば、代替ルートを探し回るよりも事前に知っている方が強い。動かずに宿泊して待つと決めた場合にも、意思決定が遅れれば、どんどん空室はなくなる。
そしてもう1つ。どんな結論にせよ、いったん決めたら振り返らないこと。あとになって「変更・中止しなくてもよかったなあ」「あっちの選択肢の方がよかったかなあ」となることがあるかもしれないが、それをいちいち気にしたら、ますます気が滅入るだけである。