井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

企画商品を併用して運賃を安くする

これは、「新千歳空港→札幌」の普通乗車券と、札幌~旭川間往復の「Sきっぷ」の組み合わせ。普通に買うよりこちらの方が安い

 以前にも取り上げたように、JRグループの普通乗車券は基本的に「長い距離になるほど割安になる」。裏返せば、短距離の乗車券を細切れに買うと割高になる。ところが、割引商品を併用すると例外が発生することがある。

新千歳空港から旭川まで往復したときのこと

 例えば、新千歳空港~旭川間を往復する場合。これは筆者が実際に経験した事例で、新型コロナの影響で羽田~旭川便が大幅に減便されていたときに、代案として新千歳発着とした場面で発動した。

 普通に乗れば、新千歳空港~旭川間の片道乗車券が3650円、札幌~旭川間の自由席特急券が1830円(指定席なら2360円)で、合計は5480円~6010円となる。往復なら1万960~1万2020円だ。

 ところが、札幌~旭川間には、特急自由席限定の企画商品「Sきっぷ」があり、往復で5550円、有効期間は6日間。これにプラスして、新千歳空港~札幌間の乗車券が片道1150円、往復で2300円。「Sきっぷ」と合わせても7850円で済んでしまう。ちなみに、札幌~旭川間の「Sきっぷ」は新千歳空港駅の指定席券売機でも買える。

新千歳空港~札幌間の足は「快速エアポート」
札幌~旭川間は、特急「ライラック」または「カムイ」が頻発している。所要1時間25分

 冒頭の写真では紙のきっぷを買ったが、新千歳空港~札幌間で交通系ICカードを利用することが多いだろう。どちらにしても、札幌ではいったん出場してから再入場する必要がある。そうしないと、旭川駅で出場する際に、入場記録がない「Sきっぷ」を自動改札機に投入することになってしまう。交通系ICカードの方も、出場記録を付けておかないと、次回乗車時にエラーが出てしまう。

 もっとも、札幌駅でついでに食事や買い物をできるから、いったん出場するのは、そうわるい話でもない。

企画商品が設定されるのは競合が激しい区間

 どうしてこんな現象が発生するのか。それは、「ほかの競合交通機関との対抗上、割安な企画商品をぶつけている」区間が存在するため。その「割安」の度が大きいと、分割してきっぷを買っても安くなってしまうのだ。

 札幌~旭川間といえば、JRだけでなく高速バスも多数が行き交い、さらに自家用車で行き来する人も多そうな激戦区。そこで、自由席限定・途中下車不可とする代わりに割安にした「Sきっぷ」が設定されたのだろう。

旭川の駅前。札幌行きの特急が出る駅だが、駅前からは札幌行きの高速バスも出ている。もっとも、最大のライバルは自家用車であろう
岩見沢駅の「話せる券売機」。ここに限らずJR北海道では、「話せる券売機」にちょっとした工夫をしていることがある
「話せる券売機」には二次元バーコードリーダーが付いている。そこで「Sきっぷ」用の二次元バーコードを印刷して備え付けることで、需要が多い「岩見沢~札幌」「岩見沢~旭川」の「Sきっぷ」を迅速に買えるようにした。これは名案

 札旭間に限らず、「2駅間の往復セットで割安」な企画商品が設定されている区間は少なくない。その多くは特急列車が対象で、指定席の場合もあれば、自由席の場合もある。鉄道が強みを発揮しやすいのは都市間輸送、という事情を反映したものといえる。

 また、特定エリア内で乗り放題の企画商品が設定されている場合に、そのエリアからはみ出す分の乗車券を別途用意して組み合わせるパターンもある。もっとも、これが得になるかどうかは乗り方次第のところがあるので、事前の試算は欠かせない。

JR東日本の「休日お出かけパス」は、2023年8月時点で2720円。通常なら片道1980円、往復3960円かかる上野~宇都宮間だが、「休日お出かけパス」に自治医大~宇都宮間の乗り越し(片道330円、往復660円)を足しても3380円で済む計算

 企画商品の数は多いし、内容も陣容も変わる。だから個別の商品を羅列することはしないが、JR旅客会社各社のWebサイトで「おトクなきっぷ」の項を調べてみてほしい。大抵、「往復タイプ」といった類のカテゴリーがある。もちろん、紙の時刻表にも「おトクなきっぷ」の情報をまとめたページがある。

注意書きは熟読すること

「安いものには安いなりの理由がある」は世の中の鉄則だが、鉄道業界における企画商品も例外ではない。安価な企画商品には大抵、何かしらの制約があり、それが注意書きに書かれている。

 例えば、「設定区間だけの利用」に限定されており、そのまま先の区間まで乗り越すことができない、あるいはほかのきっぷと組み合わせての利用ができないものがある。

 もっとも、いったん出場すればそこで「切れる」わけだから、そこで別のきっぷを使って再入場すれば済む話。実際、冒頭で挙げた札旭間「Sきっぷ」の事例でもそうした。ただし、それを考慮に入れて、乗り換え時間に余裕を持たせる必要がある。

 また、「途中下車ができない」との制約も一般的だ。このほか、週末限定、盆暮れ正月などの繁忙期に使えない、などなど。

発売期間と発売場所にも注意

 そしてもう1つ。地元の利用者ならともかく、よそ者にとって問題になりやすいのが「発売期間」と「発売場所」。前日までしか発売しない(当日購入不可)、あるいは発売場所が限られるものが間々あるからだ。

 例えば、以前に取り上げたJR北海道の「一日散歩きっぷ」(2023年度設定)。利用可能なエリアはやたらと広く、東は新得、西は長万部までカバーしているが、買える場所は札幌・小樽近辺に限られる。してみると、札幌近辺の人がちょっとお出かけ、という使い方を想定しているのだろう。新千歳空港でも買えないから、筆者は交通系ICで千歳まで移動して買っている。

「一日散歩きっぷ」(2023年度設定)。室蘭本線を行ったり来たりするために千歳駅で購入した(左下に発売駅の表示がある)