井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

乗車券は細切れにせず、長くまとめる方が安くなる

伯備線の豪渓駅。東京からストレートにここまで往復せずに、行きも帰りも寄り道をした。さて、乗車券はどういう経路で買うべきか?

 以前、伯備線の豪渓駅を訪れて、その帰途に播但線に寄り道したときの話を書いたが、そのときに購入した乗車券は「東京都区内→豪渓」「豪渓→東京都区内」。姫路から播但線内を往復する分は、いったん出場してSuicaを用いたとの内容であった。

帰途に寄り道したのは播但線。103系電車が残る、数少ない路線の1つ
播但線の溝口駅。なかなかよい雰囲気の駅舎

実際の経路どおりに買うのが正解か?

 移動の経路をそのまま書くと、こうなる。

東京→(東海道・山陽新幹線)→岡山→(山陽本線)→倉敷→(伯備線)→豪渓
豪渓→(伯備線)→倉敷→(山陽本線)→岡山→(山陽新幹線)→姫路→(播但線)→溝口→(播但線)→姫路→(東海道・山陽新幹線)→東京

 乗車券は「区間が重複しない限り1枚にできる」が、このときの経路は「往復プラス寄り道」。すると、第1レグの「東京→豪渓」で1枚、第2レグの「豪渓→姫路→溝口」で1枚、第3レグの「溝口→姫路→東京」で1枚。これが経路どおりの乗車券の買い方。

経路どおりに乗車券を購入すると、「東京都区内→豪渓」(青線)、「豪渓→姫路→溝口」(赤線)、「溝口→姫路→東京都区内」(黄線)と、3枚の乗車券になる。しかし、そうはしなかった

 では、それをしなかったのはなぜか。理由は「往復割引」にある。片道の営業キロが601km以上の乗車券は「往復割引」が適用されて、行きと帰りの運賃がそれぞれ1割引になる。

 東京~豪渓間の営業キロは764.1kmあるから、片道運賃は1万1000円、往復で2万2000円。ところが往復割引を適用すると、11000×0.9×2=1万9800円となり、2200円の得になる。姫路~溝口間の営業キロは14.5kmだから片道で240円、往復で480円。それを加えた合計は2万280円。

実際に購入した乗車券は、「東京都区内→豪渓」の往復。姫路~溝口の往復はSuicaでまかなった

 では、経路どおりに買っていたらどうなるか。まず東京→豪渓は1万1000円で変わらず。豪渓→姫路→溝口の運賃計算用営業キロは134.3kmだから2310円、溝口→姫路→東京の運賃計算用営業キロは658.8kmだから1万10円。合計2万3320円で、なんと3040円の差が付いた。

 これが、経路どおりの乗車券にしないで「往復プラス寄り道」とした理由。JRの乗車券は遠距離逓減制といって、長距離になるほど1kmあたりの賃率が下がる。そこに往復割引が加われば鬼に金棒。

 その遠距離逓減制の応用が、周回ルート。例えば、東京と金沢の間を行き来するのに、シンプルに北陸新幹線で往復するのではなく、東海道新幹線~北陸本線~北陸新幹線(またはその逆)という周囲ルートを構築するわけだ。

 なお、この「往復プラス寄り道」が成立するためには、途中下車が使えること、という前提条件がある。また、「幹」となる往復部分の距離が長く、「枝」となる寄り道部分の距離が短いほどに、旨みが大きい。「幹」となる往復部分の距離が短く、「枝」となる寄り道部分の距離が長くほどに、旨みは薄れてくる。

途中下車も活用する

 といったところで、途中下車制度の話も。

 乗車区間が片道100kmを超える紙の普通乗車券(ここ重要)であれば、原則として「途中下車」の制度を利用して、途中の駅で出場・再入場できる。この制度にはいろいろ例外があるが、その話はとりあえずおいておくことにして。

 先の例でいうと、帰途に寄り道のため、姫路でいったん出場したのは途中下車の一例。さらに、実は往路にも新大阪で途中下車した。これは、「新大阪→大阪→天王寺」「天王寺→大阪(うめきた新駅)→新大阪」とラケット状に乗り回ったため。もちろん、その分の乗車券は別途購入だが、経路どおりに乗車券を買うよりも安くあがる。

先の「往復プラス寄り道」に加えて、往路にも寄り道をしていたので、実際の移動はこういう内容になっていた。もちろん、大阪での寄り道も別途購入である

 さらに往路は、岡山でも途中下車して宿泊した。つまり往路には二度の途中下車を発動したわけだが、あと戻りしなければ、回数に制限はない。経路の途上に宿泊地がある場合、途中下車できるのであれば、全行程をまとめた1枚の乗車券にして宿泊地で途中下車する方が割安になるわけだ。

 営業キロ100km以下の乗車券だと有効期間は1日だが、そもそも100kmを超えなければ途中下車できない。101~200kmの乗車券なら有効期間は2日だから、途中で1泊しても問題ない。もっと距離が長くなると、それに合わせて有効期間も延びる。

途中下車の方法

 途中下車するときにはどうするか。有人改札口なら「途中下車します」と申告して、券面に「途中下車印」(その実体は、駅名のハンコ)を押してもらう。ローカル線のワンマン列車なら、降車時に乗車券を運転士に見せて申告することになる。

 では、自動改札機はどうか。この場合、乗車券の経路途上にあって途中下車の対象となる駅で出場すれば、自動的に途中下車だと認識されて、日時と駅名と「途中下車」あるいは「出場」の印字がされる。

 10年以上前に、途中下車で出場しようとしたらエラーになった経験があったが、近年ではそうした経験はない。もちろん、「途中下車」印字後の乗車券は取出口から出てくるから、それを回収するのを忘れないように注意したい。

上の乗車券を見ると、自動改札機による「小倉 途中下車」の印字や、出雲市駅の途中下車印があるのが分かる。日付入りの丸いスタンプは車内での検札で押されたもの。ちなみにこの乗車券は、「福岡市内→(山陽新幹線)→新山口→(山口線)→益田→(山陰本線)→伯耆大山→(伯備線)→倉敷→(山陽本線)→岡山→(山陽新幹線・東海道新幹線)→東京都区内」というややこしい経路。経由のうち最後の「新幹線」が印字エリアに収まらず、手書きされている
下の乗車券を見ると、岡山で在来線・新幹線の乗り換え改札を通ったときの印字に加えて、姫路での途中下車を示す「出場」の印字があるのが分かる。「復割」は往復割引の適用を示す

 なお、交通系ICカードや一部の割引きっぷなどでは、途中下車ができない。「紙の普通乗車券で」「片道100kmを超えること」が基本だ。そこに注意すれば、いろいろと応用が効く制度である。

めんどくさい乗車券の一例

 最後に、「区間が重複しなければ1枚の乗車券にできるし、それを利用して区間を長くとる方が割安になる」を盛大に活用した事例を1つ。かつて、中国地方の乗りつぶしを企てて、最後に残った区間を一気に退治しようとして作った乗車券は、こんな内容だった。

東京都区内→(東海道新幹線)→新大阪→(東海道本線)→尼崎→(福知山線)→谷川→(加古川線)→加古川→(山陽本線)→姫路→(姫新線)→新見→(伯備線)→備中神代→(芸備線)→広島→(山陽本線)→岩国→(岩徳線)→櫛ヶ浜→(山陽本線)→徳山→(山陽新幹線)→福岡市内

 経路が複雑かつ経由が多過ぎて、経路の一部を手書きで加筆。しかも、その場で即座に発券とはいかなかった記憶がある。