井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

鉄道の乗り放題きっぷをうまく使おう。フリー乗車券の有効活用あれこれ

これは長野電鉄の全線フリー乗車券。特急の自由席も利用できる

 鉄道事業者各社が出している、さまざまな企画商品のなかに、「フリーパス」「乗り放題」に属する一群がある。指定したエリア内で乗り放題、というものだ。また、「青春18きっぷ」みたいに、対象列車を限定して乗り放題というものもある。内容は多種多様なので、ここでは「フリー乗車券」と総称する。

 この手の商品は往々にして「安上がりに遠くまで行く手段」とみなされるが、はたしてそれだけが活用法なのか?ということを考えてみたい。

往復や重複があると、乗車券を購入する手間が増える

 日本の鉄道の運賃制度では基本的に、乗車する区間に重複が発生しない範囲で、1枚の乗車券になる。例えば、東海道本線で新橋~横浜間を往復するときには、「新橋→横浜」と「横浜→新橋」の乗車券を別々に購入する。もっとも当節、都市部では交通系ICカードの利用が多くを占めるから、いちいち乗車券を買うことは少なそうだが。

 では、重複とは何か。例えば、東京から東北新幹線で新青森まで行って、左回りに周回する場合。東京~(東北新幹線)~新青森~(奥羽本線)~秋田~(羽越本線)~新発田~(白新線)~新潟~(上越新幹線)~大宮~(東北新幹線)~東京と経路を組み立ててみる。ところが、最後の大宮~東京間は、最初に通る経路と重なる。こういうラケット形の経路では、合流点となる大宮でいったん乗車券の区間を切って、そこに大宮~東京間の乗車券を足す2枚ワンセットになる。

 同じ「東京発で1周」でも、東京~(東海道新幹線)~名古屋~(東海道本線)~岐阜~(高山本線)~富山~(北陸新幹線)~高崎~(上越新幹線)~大宮~(東北新幹線)~東京という経路なら、重複する区間はないので1枚の乗車券で済む。

周回する経路ではあるが、最後の「大宮~東京」は最初に通る経路と重複するため、この区間(赤矢印の部分)は別の乗車券になる
このように、経路が重複する区間がなければ、周回する1枚の乗車券を構成できる

 ところが、フリー乗車券は「乗り放題」だ。利用可能なエリア内、あるいは対象列車を利用する限り、どのように乗車しようが関係ない。突然、気が変わって旅程を変更しても構わない。もちろん、有効エリア内でのことだが。

フリー乗車券が活きる場面(1)勝手気まま

 すると、「最初に全行程をカッチリ立案しておいて、特に支障がなければそのとおりに実行する」場面以上に、「出たとこ勝負で勝手気ままに乗り回る」場面で、フリー乗車券のメリットは大きい。なにしろ出たとこ勝負で勝手気ままだから、最初に区間を決めて乗車券を買っておくのは難しい。

 筆者は事前にカッチリと計画を立てておくことが大半だが、たまには例外もある。2022年10月に札幌を訪れたときには、281系気動車のラストラン列車「スーパー北斗」を撮ったあとで暇になってしまった。このときにはJR北海道の企画商品「一日散歩きっぷ」を買っていたので、道央のかなり広い範囲が、普通列車限定ながら乗り放題になる。

これが「一日散歩きっぷ」。エリアは券面に記載されている。普通列車限定、かつ北海道の列車本数の少なさを考えると、とうてい1日で回りきれる広さではない。

 そこで1日目は、四半世紀ぐらい訪れていなかった、室蘭本線の沼ノ端~岩見沢間を再訪してみた。ただし、これは事前に計画を用意しておいた。なにしろこの区間は本数が少ないので、行き当たりばったりではうまくいかない。

岩見沢の駅前で。札幌~岩見沢間は日中、おおむね毎時2本の割合で普通列車があるから、比較的、移動はしやすい
岩見沢から室蘭本線に。苫小牧~沼ノ端~岩見沢間を走り通す普通列車は1日に6~7本しかない(そのほかに区間列車が少しある)

 2日目は、「スーパー北斗」を撮ったあとはノープランだった。そこで急遽思い立って、札幌から学園都市線(札沼線)に乗って当別まで往復してきた。駅名が変わったり新駅ができたりしているから様子を見てみよう、という名目で。こんな場当たり行動ができるのは、「一日散歩きっぷ」の恩典といえる。そして最後に新千歳空港に向かったが、新千歳空港もエリア内だ。

新駅「ロイズタウン」。ご存じ、製菓メーカー・ロイズコンフェクトの工場最寄り駅で、2022年3月に開業したばかり
当別駅。ここから1つ先の北海道医療大学が、現在の学園都市線の終着駅
2022年3月に改称する前は「石狩当別駅」だったので、旧駅名のレリーフがそのまま残っている。

「計画どおり」と「勝手気まま」の折衷案として、「複数のバリエーションを計画しておいて、その場で選ぶ」もある。すると、以前に紹介した「Excelを駆使した行程立案」が効いてくる。実現可能な選択肢をいろいろ用意しておいて、そのなかから気分で選べばよい。

フリー乗車券が活きる場面(2)乗りつぶし

 もう1つ、フリー乗車券が活きるのは、いわゆる乗りつぶし。行き止まりの路線では、終着駅から逆戻りして同じ区間を往復することが多いし(これを「単振動」と呼ぶことがある)、あちこちの路線を乗り回る間には乗車区間の重複が多発する。そこで個別に乗車券を買っていたら、手間がかかる上に割高についてしまう。

 そこでフリー乗車券が強みを発揮する。特に、中国地方や東北地方みたいに「普通列車しか走っていないローカル線」がたくさんあるエリアを乗り回るには、「青春18きっぷ」が役に立つ。現地までは新幹線などを使って時間を節約しておき、現地では18きっぷを活用する。普通列車しか走っていなければ、普通列車限定の乗り放題で何の問題もない。

備後落合駅で。芸備線(新見方面)、芸備線(三次方面)、木次線の列車が一堂に会するタイミングがあり、このときはにぎわう。しかし、接続がよいということは、同じ行程で移動する「同業者」がたくさんいるということでもある

 なお、地方民鉄ではフリー乗車券の設定があるだけでなく、起点から終点まで往復するだけで元を取れることすらある。昔と違い、今は各社のWebサイトでこうした商品に関する情報を事前に得られるから、下調べをしておくと「お得」と「自由度」を一気に手に入れられるかもしれない。

冒頭で示した、長野電鉄のフリー乗車券の裏面。このように日付の押印を受けて使用する

 大手民鉄でも、名鉄の「名鉄電車全線2DAYフリーきっぷ」みたいな事例がある。名鉄はエリアが広く、路線が多く、しかも行き止まりの支線が多い。それを一挙に乗りつぶそうとすると、こうしたきっぷが重宝する。いちいちきっぷを買い直す手間がかからないだけでも、案外と楽になるものだ。

ひたすら“元を取る”だけが能ではない

「食べ放題」でも「乗り放題」でも、つい「いかにして元をとるか、なるべくたくさん食べたり乗ったりするか」と考えてしまう。しかし、もうちょっと気分に余裕を持った、「自由度のためにフリー乗車券を使う」という考えもよいのではないか。

 この手の商品は通年で設定されるものだけでなく、期間限定で設定されるもの、そして単発で設定されるものがある。情報収集にはぜひともトラベル Watchを活用していただきたい。なお、販売期間だけでなく、販売形態や販売場所に関する確認も忘れないようにしたい。特定の駅でしか販売していないこともあるからだ。