井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

18きっぷで北へ。旅程立案のためにExcelを駆使して比較検討

ある年の9月初頭に新白河駅で。階段の上り下りが不要になるように、黒磯~新白河間の列車と新白河~郡山方面の列車を同じホームの前後につけるのが基本。普通列車で東北本線を北上すると、誰もが通る道

 前回、鉄道旅行の旅程作成における大原則「乗り継ぎ旅程は、運転本数が少ないボトルネック区間から前後に延ばす形で立案する」について書いた。今回はその続きで、複数の選択肢を並べて比較検討する場面について考えてみる。

例えば、普通列車で北に向かう場合

 考えられる経路が1つだけなら話は単純だが、複数の経路が考えられる場面、あるいは行けそうな複数の方面に行程を延ばして比較検討する場面も考えられる。そこで、18きっぷのシーズンということで「上野から普通列車だけを乗り継いで東北方面に向かう行程」を想定してみる。

 これを書いている2022年12月初頭の時点では、上野駅を朝一番に発つと、その日のうちに青森まで行ける。実のところ、トータル18時間ぐらいを要し、しかも途中で遅延が生じると全面崩壊しかねない。だから、こんな壮大な(?)行程は、不慣れな方、覚悟がない方にはお勧めいたしかねる。しかし今回はサンプルとして取り上げてみる。

 もっとも分かりやすいのは、東北本線をひたすら北上するルート。ただし、盛岡~青森間は第三セクターの「IGRいわて銀河鉄道」と「青い森鉄道」に移管されている。もちろん、運賃を追加で支払えばこの両線も利用可能だから、選択肢には入れておく。

 また、仙台から仙山線で奥羽本線の羽前千歳に抜けて、そこから奥羽本線で秋田~青森に向けて北上するルートがある。それに加えて、東北本線を盛岡まで北上して、その先の好摩から花輪線で大館に抜けるルートもある(現在は災害で不通になっているが)。この場合、盛岡~好摩間はIGRいわて銀河鉄道の利用となる。

 実はさらに、高崎線~上越線~信越本線~羽越本線と経由して秋田に向かい、奥羽本線に入るルートもある。仙台まで行くのに、東北本線ではなく常磐線を使うルートもある。

上野から北上する形で、普通列車を乗り継いで青森に向かう場合に採り得る選択肢は、こんな按配になる。IGTいわて銀河鉄道と青い森鉄道は別会社だから、線を色分けしておいた

 こうした多様な選択肢のうち、どれを選ぶか。そこで登場するのが、おなじみ「Microsoft Excel」である。基本的な機能しか使わないから、バージョンはおおむね何でもよい。実はこれ、筆者が十数年前から、スケジュール立案に常用している手法である。

 何をするかというと、前回書いた「ボトルネック区間から前後に延ばす」に留意しつつ、選択肢となり得る行程をそれぞれ、ワークシートの各所に「パーツ」として入力していくのだ。いきなり一連の行程を列挙する必然性はなくて、路線別・地域別に離して入力しておけばよいし、その方がむしろ分かりやすい。それをあとから線でつなげばよいのだ(後述)。

 必須の情報は、駅名、発時刻、着時刻。そして、もしも必要なら列車番号。普通列車には愛称がないことがほとんどだから、識別の情報が欲しい場合は列車番号も入れておく。これは紙の時刻表を見れば載っている。

 Excelのメリットとして、日付や時刻同士の計算がある。これを利用すると、乗り継ぎを行なう駅で「2本目の出発時刻」から「1本目の到着時刻」を差し引く計算式を入力して、乗り継ぎ待ち時間の計算ができる。これがけっこう便利だ。

発時刻と着時刻の差分を計算する数式を入力すると……
こうなる。こうしておけば接続時間の長短が分かりやすい

 離して入力した行程をつないだり、行程を分岐・合流させたりする場面では、関連する行程同士を図形描画ツールの「矢印付き直線」で結ぶ。これには図形描画機能が必要なので、その機能がない最初期のバージョンでは具合がわるいのだ。なお、複数の行程案ができてきたら、線の色を変えて区別すると分かりやすい。

そしてこうなった

 その作業を、2022年9月号の時刻表を用いて行なった結果が、これである。2022年12月現在、東北方面にはいくつか災害不通区間が発生しており、このサンプルでは花輪線が該当する。それはもちろん実行不可能だが、選択肢を拡げる観点から入れてみた。あくまで「こういうExcelの使い方があるのだ」という観点から見てほしい。

とりうる選択肢を列挙して、それぞれ矢印でつないでみた結果

 王道は「18きっぷだけで済ませる」であろうとの観点から、仙台から仙山線~奥羽本線と抜けるルートを基軸に据えた。その両側に、ほかの選択肢を並べたり、分岐させたりといった配置をとっている。ついでに、話のタネとして青森以外の方面に、いくつか分岐を延ばしてみた。同じ方面でも、すぐに接続する列車ではなく何本かあとの列車に乗り継ぐ場面では、やはり行程が分岐することになる。

 先に述べたように、Excelは旅程の分岐・合流を図形描画ツールで示せるだけでなく、時間の差分も計算できる。だから、こういう形で選択肢を並べてみると、「この駅では乗り継ぎ時間に余裕がないな」「この経路では、何もなさそうな駅で長く待たされるな」「この経路と、この経路がつながるな」といったことが見えてくる。こうして複数の選択肢を俯瞰できると、行程を組み上げる役に立つ。

 ただ、乗り継ぎ待ち時間を長くとれる駅でも、そこで食事できる場所がなかったり、食べ物の調達ができなかったりすると不便だ。そういう話になると紙の時刻表だけでは情報が足りないので、そこはGoogleマップなどのお世話になるのがよいだろう。

 可能なら途中の何か所かの駅で、乗り継ぎ待ち時間に余裕を持たせておきたい。遅延が生じたときのバッファになるし、気分転換や食事や買い物にも利用できる。ただひたすら列車に乗りっぱなしというのは、意外と疲れるものだ。

 ただし、鉄道路線が交わる要衝だからといって、駅前も栄えているとは限らない。ときには「鉄道の要衝だが駅前には何もない」駅もあるので、そういう意味でも駅周辺情報のリサーチは必須である。どこの駅のこととはいわないけれども。

 また、駅の構内がどんな配置になっているか分からないと不安、ということなら、「○○駅 構内図」と検索ワードを指定して調べる。大抵、これで鉄道事業者各社が公開している駅構内図が出てくる。

羽越本線の村上駅で。ここでも、同じホームに2本の普通列車を「縦列停車」させて乗り換えの便宜を図っている