井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

時刻表に載っていない列車

予讃線の喜多山駅で。JR四国の振子特急は韋駄天走りで有名だが、それだけに通過駅では時刻を示しての注意喚起も必要になるわけだ

 大抵の場合、駅の駅舎あるいはホームには「当駅発車時刻表」が掲出してある。また、直近に出る列車の行き先や時刻を表示する「発車標」が設置されている事例も多い。これらの情報源を見れば、いつ、列車の発着があるかが分かる。もちろん、紙の時刻表を見てもよい。

 ところが実際には、こうした各種の「時刻表」に載っていない列車が現われることがある。特に、駅に掲出されている時刻表を参考にして「何時まで列車は来ないな」と思っていると、来ないはずの列車がいきなり現われてビックリさせられることもあり得る。

通過列車は「当駅発車時刻表」には載らない

 分かりやすいところでは、「通過列車」がある。全駅に停車する各駅停車だけではなく、速達化のために主要駅にだけ停車する列車が設定されるのは、よくある話だ。以前にも取り上げたように、路線によっては「普通列車よりも特急列車の方がずっと多い」なんていうことも起きる。

小田急小田原線の百合ヶ丘駅で。特急「メトロはこね/メトロえのしま」(右)と、急行(左)のいずれも、この駅は通過である

 もともと速達化が目的で設定される列車だから、可能な範囲でスピードを上げて走ることが多い。もちろん、ホームに立っている人と触車するようなことになれば惨事だが、離れて立っていても風圧による影響ぐらいは受ける。冬季の積雪地帯では、ハデに雪煙を舞い上げることもある。だから、通過駅の旅客に対する注意喚起が必要になる。

 発車標が設置されている駅では、通過列車は「通過」と表示するのが一般的だ。また、「特急街道」の小駅では、利用者に対する注意喚起のために、「当駅では何時頃に特急列車が通過しますから注意してください」という掲示を出していることがある。さらに、列車が接近すると自動放送が入ることもある。

 しかし、こうした情報が常にあるとは限らない。だから、駅の時刻表だけを頼りにして「何時まで列車は来ないから大丈夫」と思い込んでいると、いきなり特急列車が突っ走ってきてビックリさせられるかもしれない。要注意だ。

 これは分かりやすい事例だが、ほかにもいろいろと「時刻表に載っていない列車が通る」事例はある。

貨物列車

 まず、貨物列車。旅客は乗れない列車だから、旅客向けの時刻表に載せる必然性は皆無だ。鉄道貨物協会が毎年刊行している「貨物時刻表」を見れば、どの路線にどんな貨物列車が設定されているかは分かるが、個々の駅ごとの通過時刻をすべて書いているわけではない。すると、途中駅での貨物列車の通過時刻は分からない。毎日、同じ路線を利用していれば覚えてしまうかもしれないが。

函館本線の森林公園駅を通過する貨物列車。もちろん、駅の時刻表には載っていない

 ただし、JR西日本の一部エリアでは、発車標に「貨物」を表示する事例を見かけたことがある。なにも貨物列車撮影の便宜を図っているわけではなくて、旅客に対する注意喚起が狙いだろう。

回送列車

 これも分かりやすい部類。例えば、朝のラッシュ時に郊外から都心に向けて多数の列車を走らせる場合、反対方向は需要が少ないことが多い。すると、都心側のターミナル駅に着いた列車を折り返し、回送列車として車庫に戻すようなことが起きる。逆に、ラッシュに備えてターミナル駅に車両を送り込むために、車庫から出した車両を回送する事例もある。

 このほか、車両が所属している車庫と実際に運用する現場が離れている場合、車両を送り込んだり車庫に戻したりするために回送列車を設定することがある。

「回送するぐらいなら営業してくれればいいのに」というのは自然な感情だが、需要と供給のバランスというものがある。また、回送列車は旅客がいないわけだから、途中の駅を通過させたり、長時間停車させたりといった調整がやりやすい。

田町駅の山手線ホームに現われた、京浜東北線用のE233系1000番台。「回送」表示だが、検査のために東京総合車両センターに入場したあとの帰りだろうか

試運転列車

 以前にも解説したように、鉄道車両には法令で定められた検査がある。大掛かりな検査をすませたあとは、その車両が問題なく機能するかどうかを確認する必要があるので、実際に本線上に出して試運転を行なう。試運転列車に旅客を乗せるわけにはいかないので、これは必然的に時刻表に現われない列車となる。

 また、車両メーカーで新造した新車を営業に就ける前に、問題なく機能するかどうかを確認するための試運転が行なわれる。ことに新幹線では、新造車両はある程度の「走り込み」を行なってから営業に就けることが多い。初期故障による輸送障害を防ぐためである。

 このほか、技術開発を目的として、本線上で試験用の車両を走らせる事例もある。東海道新幹線の場合、N700Sで最初に製造した確認試験車(J0編成)が、営業に使わない試験専用車となっている。新しい機器やシステムを開発すると、まずこの車両に載せて本線上を走らせている。

N700Sの確認試験車「J0編成」。この編成は営業運行に就いたことが一度もない、純然たる試験用車両
側面の行先表示も「試運転」となる

 東北新幹線でも、純然たる試験車として新造されたE956形「ALFA-X」の試運転を見かけることがある。遭遇できたらラッキーである。

JR東日本の試験車、E956形「ALFA-X」。ドクターイエローの比ではないレアものだ
東京メトロ南北線の某駅で、発車標に「試運転」が現われていたことがある

検測車

 試運転列車は車両の試験が目的だが、軌道、電車線、信号・通信設備といった、地上側の施設・設備が問題なく機能しているかどうかを確認する必要もある。それを走りながら調べるのが検測車。検査・測定の頭文字をとって検測車である。

 もっとも有名なのはいうまでもなく、東海道・山陽新幹線の「ドクターイエロー」こと923形と、東北・北海道・上越・北陸・山形・秋田新幹線を受け持つE926形「East i」であろう。在来線でも同種の車両が使われていることがあるほか、一部民鉄でも検測車の導入事例がある。

「ドクターイエロー」だから「新幹線のお医者さん」と呼ばれることが多いが、実際の仕事の内容からすれば、むしろ「検査技師」である。

923形。2編成あり、JR東海とJR西日本が1編成ずつ保有している。これはJR西日本所属のT5編成
こちらは東日本エリアの新幹線を一手に引き受けている、E926形「East i」
JR東日本の、主として非電化の在来線を走り回っている、キヤE193系「East i-D」。これはディーゼル・エンジンで走る気動車だが、電車バージョンのE491系「East i-E」もある

そのほかにもいろいろ

 ここまで挙げたもの以外にも、鉄道事業者が業務遂行の所要を満たすために走らせる、さまざまな業務用の列車がある。

 例えば、交換用のレールやバラスト(砕石)を現場まで輸送するための「工臨」、モノや車両を自前で輸送する「配給」。そして、宗谷本線、石北本線、函館本線あたりで人気の「排雪」などが挙げられる。

 また、これは一部路線に限られる話だが、新人運転士を養成するための訓練運転を行なうために、専用の列車を本線上に出す事例がある。筆者が遭遇した事例としては、名鉄瀬戸線がある。ちゃんと先頭部に「教習車」と掲示を出して走らせているので、一目でそれと分かる。

レール輸送列車の例。手前の貨車は2両で19本×2段のレールを搭載している。奥の貨車も同じなら、25mのレールが全部で76本載っている計算
宗谷本線の排雪列車。営業列車の間を縫うようにしてダイヤが設定されている
たまたま、名鉄瀬戸線で遭遇した教習車。行先表示は「回送」だった