井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

JRなど鉄道各社の特別塗装車と出会うには? 車両の検査と運用の仕組みを知る

塗り替え直後に2両セットで走っていたときの、183系復刻塗装車。前日まで5両だったが、これを撮影した日は所定の4両に戻っていた

 JR北海道は2022年の春から、「いまこそ輝け! 北のキハ183系」キャンペーンを実施している。その一環として、国鉄時代末期に登場した「新特急色」の復刻塗装車を2両用意して、石北本線の特急「オホーツク」「大雪」で走らせている。

 これに限らず、一部の車両を復刻塗装車や特別塗装車にする事例が各地にある。ところが、それを撮ったり乗ったりしようとすると、案外とハードルが高い。どの列車に充当されるかが分からないことが多いからだ。

なぜ2両セットが続かないのか

 JR北海道が用意した復刻塗装車は、遠軽方先頭車の「キハ183-8565」と、中間に入るグリーン車の「キロ182-504」。塗り替え当初、2022年5月のゴールデンウィーク後半には2両ペアで、充当する列車を事前に予告して走らせた。ところがそのあとはペアを解かれて、バラバラに走っていることがほとんどだ。

冒頭の写真から1か月ちょっとあとの撮影。ペアを解かれて、復刻塗装車は先頭車だけになっていた。この日、復刻塗装のグリーン車は走っていない

 Twitterを見ていると「2両セットで走らせてほしい」という投稿をしばしば見かけるのだが、実はこれが意外と簡単ではない。なぜか。

 クルマに車検があるのと同様に、鉄道車両にも規定の検査がある。その細かい内容については割愛するが、前回に検査を施行したあとの走行距離、あるいは経過時間で期限が決まる。どちらか一方の期限が来る前に車庫に戻して検査を実施しなければ、その車両は営業運行に使えなくなる。

 2022年12月19日に、山陽新幹線で「のぞみ12号」が出発したあとで、当該編成が検査期限を超過していたと判明した。このときには新神戸駅で運行を打ち切り、乗客は後続の列車に乗り換えとなった。検査期限切れは、そこまでするぐらい「重い」ものなのだ。

 183系に限らず気動車や客車は、「1両単位の管理」が一般的。すると、同じ列車で編成を組んでいる複数の車両がそれぞれ、検査のタイミングが異なる事態は普通に起きる。そのため、もっとも早く検査期限を迎える車両に合わせて車庫(183系の場合、札幌の隣の苗穂)に戻さないといけない。そして、該当する車両を編成から抜いて、別の車両と差し替える。

 だから、同じ「オホーツク」「大雪」用の4両編成でも、日々の運行を続けている間に、一部の車両だけが差し替わることの繰り返しとなる。その結果、最初は2両が揃って走っていた復刻塗装車も、ペアを解かれてしまう。

 もう1つの事情として、走行距離の均等化がある。特定の車両ばかり営業運行に使用していると、その車両だけ走行距離がどんどん伸びてしまい、早く検査に入れなければならなくなる。理想は、どの車両も同じぐらいのペースで走行距離を伸ばして、同じぐらいの間隔で検査に入るようにすること。人気があるからといって復刻塗装車ばかり走らせるわけにもいかないのだ。

 あと、2両をバラバラに走らせる方が、遭遇するチャンスの絶対数は増える。そういう見方もできる。

運用が分かれば捕捉の確率は上がる

 部外者が、個々の車両の検査タイミングを推し量るのはムリがある。しかし、いったん営業列車として本線上に出てくれば、その車両がどういう順番で、どの列車に入るかは決まっている。「オホーツク」「大雪」の場合、こうだ。

1日目: (苗穂から出庫)→オホーツク1号(札幌~網走)→大雪4号(網走~旭川)→大雪3号(旭川~網走)
2日目: オホーツク2号(網走~札幌)→(苗穂に入庫)→オホーツク3号(札幌~網走)
3日目: 大雪2号(網走~旭川)→大雪1号(旭川~網走)→オホーツク4号(網走~札幌)→(苗穂に入庫)

 ある日に「オホーツク1号に復刻塗装車」というTwitterの目撃投稿か何かがあれば、その日の大雪4号・大雪3号にも続きで入ると予想できるし、翌日のオホーツク2号を狙う手もある。ほかの日も基本的には同じ要領だ。ただし、2日目の途中、あるいは3日目の行程を終えて苗穂に戻ったあとで、一部あるいはすべての車両が入れ替わる可能性はある。

 出庫した車両が、どの列車からどの列車に回って、最後に車庫に戻るかという一連の組み合わせ。いわゆる「運用」が分かれば、特定の車両を狙う際に役立つわけだ。ただし、ダイヤの乱れや車両の故障、鹿や熊みたいな野生動物との衝突といった事情から、運用が予定どおりに回らなくなることがある。事前予告が難しい、あるいは予告どおりにいかないことがある主な理由は、そのあたりにある。

編成単位で管理している事例もある

 ちなみに、都市部の電車や新幹線は、1両単位ではなく1編成単位で管理するのが普通。気動車でも、JR世代の車両は編成単位で管理するものが多くなった。その場合、編成を組んでいる車両の顔ぶれが途中で変わることはなく、一緒に走って、一緒に検査に入る。故障があれば1編成丸ごと入庫となり、代わりに予備車を1編成出す。

JR東日本は、E2系のうち1編成について、昔の200系時代の塗装にして走らせている。新幹線は編成単位の管理だから、1編成を丸ごと塗り替えて、常にワンセットで走っている
JR西日本は伯備線~山陰本線を走る特急「やくも」に国鉄時代の塗装を復刻させた381系を1編成用意しているが、これも編成単位で動いている

 JR北海道でも、電車は1編成単位で管理されている。そして、おもしろいのは261系気動車。前後の先頭車は隣接号車とセットになっていて、その2両のペアを背中合わせに連結した4両編成が運行時の最小単位。だから、車両の一部差し替えが必要になったときには、その2両のペアが単位になる。ただし「はまなす」「ラベンダー」編成は常に5両がワンセットとなる例外。

261系4両編成の「とかち」。前半分の2両と後ろ半分の2両がそれぞれ別個の管理単位で、増結があれば2両目と3両目の間に1両単位で挟み込まれる
ただし261系のうち、ピンクの「はまなす」編成(写真)と青の「ラベンダー」編成は例外で、常に5両がワンセットで動く