井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

冬の18きっぷシーズン到来。旅程を立てるときはボトルネック区間から

「青春18きっぷ」は安上がりに遠出する手段と認識されやすい傾向があるが、スケジュール立案には要領がいる

「冬の青春18きっぷシーズン」である。そこで今回は、鉄道旅行における旅程の立て方について取り上げてみたい。

紙の時刻表があると便利

 今では、Webサイト、あるいはスマートフォン用アプリといった形で、乗換案内の利用が一般化している。筆者自身も便利に利用させてもらっているが、この種のサービスは基本的に「A地点からB地点まで、最速あるいは最安で移動したい」という用途が主体だ。発地と着地と日時が明確になっていれば、それでよい。

 しかし、これが「18きっぷで遠出をしてみたい」といった場面になると、いささか様相を異にする。単純に「何でもいいから18きっぷで東京から青森まで行きたい」程度であれば、18きっぷに特化した検索を行ってくれる乗換案内サービスもあるが、「いろいろなルートを並べて比較してみたい」となるとお手上げだ。

 そこで、紙の時刻表をお勧めしたい。路線ごとに列車が並んでいるから、比較検討する作業に向いている、という理由だ。

 問題はそこから先。旅程作成に慣れていないと、どのような手順で作業を始めるだろうか。ありそうなのは、発地から順番にたどっていく形。例えば「自宅の最寄り駅を8時ぐらいに出て、最初に乗る電車が○○行きだから、そこで△△行きに乗り換えて……」といった具合。

 大都市圏の各線みたいに運行本数が多いところなら、これでも困らない。しかし、経路の途上に運転本数が少ない区間が入ってくると、話が違う。おそらく、発地から順番にたどっていくうちに「接続がわるい」あるいは「接続する列車がない」といった事態に直面するのではないだろうか。

根室本線の音別~白糠間で。ここもそうだが、沿線人口や人の往来が少ないところは、当然ながら列車の本数も少ない。特に普通列車は、そうした傾向が強くなる

もっとも運転本数が少ない区間はどこ?

 そこで例として、東京を起点として、災害に起因する長期不通から復活したばかりの只見線を訪れる、という旅程を考えてみる。只見線は上越線の小出と磐越西線の会津若松を結ぶ路線だから、まずはこの両駅のうちいずれかに行かなければならない。今回は小出から入るルートを対象とする。

 起点は分かりやすく上野駅とする。そこで上野駅から順番にたどっていく……のでは、途中で詰む可能性が高い。最初に調べなければならないのは、「想定している経路上で、もっとも運転本数が少ない区間」を見つけ出すこと。それが本稿の本題「乗り継ぎ旅程は、ボトルネック区間から前後に延ばす形で立案する」である。

 特に18きっぷ利用の場合、区間によっては普通列車の本数が極端に少ないことがあるので、これが重要になる。ウソのような本当の話だが、特急が1時間に1本ぐらいの頻度で走っているのに、普通列車が半日ぐらい来ない、なんていう区間も実在するからだ。

 そして、東京から只見線に向かう場合、もっとも本数が少なそうなのは只見線であろうと容易に想像がつく。実際、ここを日中に乗り通そうとした場合、使える列車は上下それぞれ1本だけ。小出からだと同駅発13時12分の430Dで、会津若松着17時24分。これを中核にしてスケジュールを組む必要がある。つまり「小出に13時12分までに着くためにはどうするか」と、上越線~高崎線の時刻表を上野に向けて遡る形で調べる。

 ところがそこで、第2のボトルネックが現われる。それが上越線の水上~越後湯沢間。ここを毎日走っている普通列車は1日5往復しかない。ただし日によっては、1往復について「国境の長いトンネル」を越えて、越後湯沢~水上間で臨時に延長運転される。

只見線の全線を走り通す列車は、上下それぞれ1日に3本ずつしかない。会津若松の近隣では、いくらか本数が増えるのだが
水上駅で長岡行きに乗り換えたときの撮影。ここから長岡方面に向かう普通列車は、1日に5本、臨時延長があっても6本だけ

 ともあれ、「小出に13時12分までに到着できる下り普通列車」が水上から出ていなければ万事休す。そこで土休日の時刻を調べてみると、水上発11時40分、小出着12時57分の8735M(越後湯沢からは1735M)という列車がある。ただしこれには水上~越後湯沢間について「2月26日までの土曜・休日と12月17日~1月9日運転」というただし書きがついている。

 つまり、この延長運転が行なわれる日以外は、早起きした挙句に小出駅で2時間近く待たないといけなくなるのだ。ちなみに、水上以南は列車運転本数が多いので、特にボトルネックは発生しない。

 一方、会津若松から先だが、試しに時刻表を調べてみてほしい。郡山に出て上野までその日のうちに戻れるか。仙台方面はどうか。そうなると、単純な「A地点からB地点への移動」では済まず、さまざまな選択肢を並べて比較検討する必要が生じる。そこで役に立つ(かもしれない)話を、次回に取り上げる予定だ。

地元の流動が少ない区間は普通列車も少ない

 いちいち実例を挙げ始めると際限がないが、一般的な傾向として、北海道内なら振興局の境界、内地なら県境にかかる区間は、地元住民による流動が少ないことが多い。需要が少なければ当然、供給(つまり普通列車の本数)も少ない。まずはそういう区間を見つけ出して、そこから前後に延ばさないとスケジュールを組めない。

 先に挙げた水上~越後湯沢間は典型的な県境閑散区間で、18きっぷのシーズンでもなければ空いていることが多い。収支状況が極端にわるいことで話題にのぼる芸備線の備中神代~備後落合間も、沿線人口が少ない上に県境区間である。

 北海道では、函館本線の森~長万部間、室蘭本線の長万部~豊浦間が、「特急はバンバン走っているのに、普通列車が極端に少ない区間」の典型例。例えば、長万部から室蘭本線の普通列車で東室蘭方面に向かおうとすると、6時38分発の475Dの次は15時34分発の481Dで、9時間近くも間が空く。こういう区間を「18きっぷ旅行」の旅程に組み込もうとすると、旅程作成に難渋する。

室蘭本線の黄金駅で。ここに発着する普通列車は1日に上下10本ずつだが、長万部まで行き来できる列車は下り4本、上り5本のみ

 ちなみに、「18きっぷ利用者にとっての難関」として有名な区間は、日豊本線の佐伯~延岡間。この区間を走り通す普通列車は、下りは早朝の1本だけ、上りは早朝と夜遅くに1本ずつ。夜の上りは大分行きに接続しているが、朝は上下とも前泊しないと乗れない。