週末駅弁

新宿駅「新宿弁当」

「新宿弁当」

 都心から山梨や長野に向かう中央本線を走る特急列車の多くが始発駅とする新宿駅。その駅名がそのままお弁当の名前となった「新宿弁当」は、中央本線沿線の美味しいものを集めた駅弁です。

中央本線沿線の美味しいものを盛り込んだ「新宿弁当」

 このお弁当、まず気になったのが包み紙のクラシカルな絵柄です。後に国有化される中央本線の前身、甲武鉄道の開業時に作られた「蒸気車往復繁栄之図」というものだそうで、沿線や周辺の名所(特に桜の名所)や旧跡などが描かれていてなかなか興味深く見入ってしまいました。

 描かれた新宿停車場の駅舎や周辺の描写に明治時代の趣が感じられなかなか魅力的です。食べ終わったあとに上に貼られたシールを剥がしてみると、長く連なった客車が現われました。

「蒸気車往復繁栄之図」(明治22年)が描かれた包み紙がとても魅力的です

 肝心なお弁当の中身ですが、フタを開けてまず目に入るのがご飯の上に乗った小さな梅と大きな鮭です。梅は山梨の甲州小梅、鮭は信州味噌の原点と言われている安養寺味噌で焼いた味噌焼きです。

 見た目にインパクトのある鮭は一見味が濃そうな感じもしましたが、熟成期間の長さが特徴だという安養寺味噌のまろやかな味は強過ぎずご飯にちょうど合い、ほかのおかずとのバランスもよい感じです。また、おかずの玉子焼きの甘さも淡い感じです。

安養寺味噌で焼いた鮭の味噌焼き

 一方、強い味で存在感を主張しているのが内藤とうがらしを使用した原木採りの椎茸煮です。肉厚の椎茸にピリッとしつつも、現代の鷹の爪と比べ優しい味付けをした椎茸の煮物はとても美味しくいただけました。内藤とうがらしというのは練馬大根や亀戸大根と並ぶ江戸野菜の1種で、かつては新宿辺りで盛んに栽培されていたそうです。その後、新宿街の繁栄とともに一度は消えかけてしいますが、近年また栽培が復活したそうです。

 現在の新宿駅のスタンプにはこの内藤とうがらしが描かれているくらい、新宿と縁の深い存在だったようですので、この椎茸目当てに「新宿弁当」を選ぶというのもアリかもしれません。

内藤とうがらしを使った原木採りの椎茸煮
新宿駅の駅スタンプにもとうがらしが描かれています

 そのほか、甲州名物のソースかつはちょっと濃いめの味。里芋、れんこんなどを煮た甲州煮は優しい味ながられんこんだけはちょっぴりピリ辛とお弁当全体としては淡くやさしい味と、濃いめの味、ピリ辛がバランスよく選ばれている感じがします。くわえて長野県らしい野沢菜炒めや、山梨県、長野県で多く生産される巨峰の寒天餅が中央本線らしさを一層引き立てます。

ソースかつは濃いめの味
濃い味と淡い味がバランスよく入ったおかず
信州名物、野沢菜の炒め物
巨峰寒天餅

 今回いただいたお弁当のおかず内藤とうがらし(新宿)をはじめとして山梨や長野といった中央線沿線の街で長い歴史に育まれた名物も多く、包み紙に描かれた時代から脈々と受け継がれている味を楽しんでいる感じがちょっぴり感慨深くもありました。

「新宿弁当」

価格: 1200円
販売駅: 新宿駅
購入場所: JR新宿駅内南口コンコース 駅弁屋 頂
購入日: 2022年1月20日