荒木麻美のパリ生活

パリから2時間。猛暑のウィーンで弓道と、新しい芸術家団体「ウィーン分離派」の作品を見る

 私は日本で始めた弓道を渡仏後も続けています。7月中旬にオーストリアのウィーンにて、日本からいらした先生方の指導を受けられる講習会があったので行ってきたのですが、せっかくなのでウィーン観光もしてきました。

 パリからウィーンまでは飛行機で2時間です。空港から市内まではいろいろな行き方がありますが、私は手軽で安い、オーストリア連邦鉄道の高速列車を使いました。事前にウィーン市内の公共交通機関が1週間乗り放題のデジタルチケット(19.70ユーロでとてもお得)は買っていたので、市外にある空港までの不足分を空港の自動券売機で買ったのですが、これがたったの2.1ユーロ。列車とメトロを乗り継いで、空港から1時間ほどでウィーン市内にある目的地に到着しました。

空港から市内まで、私が乗ったのはこの「Railjet」という列車。大型荷物を置くところもありました
市内を走るトラム。1週間乗り放題チケットは、近郊列車、メトロ、バス、トラムに使えるのでよく使いましたが、チケットの確認をする人(制服を着ておらず、おそらく私服なので分かりづらい)に会ったのは、6日間の滞在中に1回だけでした

 私がウィーンに行くのは今回が初めてでした。なんとなく夏は涼しいところだと思っていたのですが、これが大間違い! そのときのパリは25℃くらいだったのですが、ウィーンは連日35℃くらいでとにかく暑い。熱中症にならないように、ウィーン滞在中は体調管理に気を使いながら過ごしました。

ウィーンにある立派な弓道場。実り多い講習会でしたが、半屋外なので、終日サウナにいるような気分でした

 弓道の講習会後、まず行ったのはウィーン国立歌劇場です。私はオペラやバレエにうといのですが、指揮者の小澤征爾さんが過去に音楽監督を務めたところですし、行ってみることにしました。

 私が鑑賞したのはアメリカ人個性派俳優のジョン・マルコヴィッチが出演するオペラだったのですが、英語で字幕が出るものの、私には最後まで「?」な内容。雰囲気が分かれば十分と取った席は最上階の安い席(13ユーロ!)だったので、舞台の左端が見切れていましたが、オーケストラを真上から見ることができ、音が素晴らしかったので満足です。

私のような安い席で気軽に楽しむ人もいれば、エレガントに着飾っている人たちが映画のワンシーンのように現われたり、お客さんたちをロビーで眺めているのも楽しかったです

 ウィーンには有名な宮殿がいくつかありますが、滞在時間が限られているのと、フランスにも宮殿はたくさんあるのであまり食指が動かず。無料で開放されていたシェーンブルン宮殿の庭だけを散歩がてら見てきましたがとにかく広大! 動物園も入っており、市民の憩いの場となっているようでした。そして外から見る宮殿は、想像よりかなりシンプルだったことが意外でした。

女帝マリア・テレジア治世のときに完成したシェーンブルン宮殿。宮殿の黄色はマリア・テレジア・イエローともいうのだそうです
ウィーン中心部にあるため何度か前を通ったホーフブルク王宮。皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の妃エリーザベトの生涯が分かるシシィ博物館などが入っています

 町を歩いていると、ウィーンも教会が多いです。ウィーンの象徴となっているシュテファン大聖堂をはじめ、大小いくつかの教会をのぞいてみました。

シュテファン大聖堂ではミサの真最中でした。観光客も含めて人が多いので、荘厳な雰囲気を静かに感じたい人は、朝早くなど、時間帯を選んだ方がよさそう。中央部やカタコンブに入るには入場料が必要です
ミノリーテン教会にはレオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」と同サイズのコピーがあります。モザイク画なので鮮やか
ヨハネ・パウロ二世によって奉献された小さな教会。ポーランドコミュニティのためにポーランド語でのミサも行なわれているそうです

ウィーン市内を見ていて私が一番楽しかったのは、ウィーン分離派(セセッション)に関するものです。1897年、画家のグスタフ・クリムトを中心に作られた新たな芸術家団体がウィーン分離派ですが、翌年にヨゼフ・マリア・オルブリッヒの設計により、同名の建物が完成します。

セセッション

 次に行ったのはウィーン分離派の中心人物の一人であり、私の好きな建築家の一人でもある、オットー・ワーグナーによるマジョリカハウス。壁面の赤い部分はマジョリカ焼きと呼ばれるタイルでできており、目を引きます。隣のメダイヨン・マンションもワーグナーの設計。住宅のため、素敵であろう中を見られないのは残念でした。

 黄金の装飾が美しいカールスプラッツ駅舎もワーグナーによるもの。今はワーグナーを紹介する博物館となっています(冬季を除く)。

 最後に行ったのはウィーン郵便貯金局です。ワーグナー晩年のころの作品ですが、インテリアも手掛けており、全体的にとても機能的そうでモダン、そして美しい。中は無料で見学できます。

 ウィーンには美術館もたくさんあるのですが、私が行ったのはベルヴェデーレ宮殿の上宮です。クリムトと、クリムトの弟子であったエゴン・シーレの作品を中心に、貸し出されている日本語オーディオガイドとともに鑑賞しました。混んでいるかと思ったクリムトの「接吻」がある部屋にもそれほど人がいなかったので、ゆっくりと見られてとてもよかったです。

 食事に関して、夜はせっかくなのでできるだけウィーンならではのものを選んで食べました。基本はウィーン風カツレツをはじめとする肉料理にジャガイモの付け合わせという感じ。町の小さなビストロから有名なホリイゲ(ワイン居酒屋)の一つにも行きました。

 訪ねたホリイゲはウィーン中心部から40分ほどかかりましたが、いかにも観光客向けな感じで、伝統衣装を着た店員さんに、リクエストに応じて歌を歌ってくれる流しのおじさんたちも登場して、楽しいひと時を過ごしました。時間のないときに食べた、オーストリアのファーストフード的なものも、分厚いお肉がついて、思いのほか美味しかったです。

ふらっと入ったビストロのご飯は安くてボリューム満点
オーストリアのファーストフード「Leberkas-Pepi」(Operngasse 12, 1010 Wien)。人気店のようで、昼間にお店の前を通ったら、たくさんの人が並んでいました
有名なホリイゲ「マイヤー(Mayer am Pfarrplatz)」(Pfarrpl. 2, 1190 Wien)。日本人のお客さんもちらほらと
朝や昼はカフェでのんびりと。旅行中はどうしても野菜と果物不足になりがちなので、果物たっぷりのミューズリーがありがたかったです

 3日間の弓道の講習会中は、ウィーン中心部から少し外れたところにある道場から近い、貸し切りの民泊アパートに泊まっていました。講習会後の観光中は、中心部にあるドミトリーに泊まりました。ドミトリーに泊まるのは私の人生で初めてのこと。同じくフランスで弓を引いている友人がこのドミトリーを見つけ、2人なら安心と便乗させてもらったのですが、高級ホテルの一室をドミトリーにしているので、屋上のプールやジムを使えるのがユニークです。

 ここには2泊しましたが、定員6名の部屋にシャワー、トイレ、洗面台が複数あり、専用のロッカーもありました。私の滞在中は定員いっぱいになることはなく、男女混合でしたが、宿泊者たちはルールをわきまえており、夜中に騒ぐこともないし、空調は利いているし、毎日の清掃はきちんとされていたし、1泊50ユーロという格安の値段を考えれば、何も文句はありません。仕切りのカーテンがないので、目隠しと耳栓を持っていくといいかなくらいです。この歳でドミトリーに泊まるなんて、貴重な経験となりました。

 こうしてウィーンでの6日間はあっという間に終わりです。もちろんどう過ごすかによりますけど、私の場合、ウィーンは予想よりも低予算で楽しめたのが意外でした。あと人がとても親切。これはとても大事なこと! もう少し涼しければもっとたくさんのところを見られたと思いますが、暑くて食べる気になれなかったザッハトルテも含めて次の機会に。

荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。Webサイトはhttp://mami.naturo.free.fr/