荒木麻美のパリ生活

新型コロナと静かなパリの日常。3月17日から2週間外出禁止

新型コロナウイルスの影響で外出禁止となっているパリの様子をお伝えします

 新型コロナウイルスに対し、フランスでは3月に入ってからだんだんと生活に制限が入ってきていました。そして3月16日20時、マクロン大統領からの演説と、22時からカスタネール内務大臣の会見があり、EU及びシェンゲン圏への入境が閉鎖され、EU域外の国とEU圏内の国の間の渡航を30日間停止するなどのほか、市民生活に直結する部分としては、翌日17日の正午から、最低15日間の外出禁止となりました。

 そのような状況になってから数日が過ぎ、パリの一市民である私が現在、どのような生活を送っているのかをご報告したいと思います。

必要があれば、近所の外出は自由

 現在外出禁止ではあるのですが、内務省のWebサイトから「Attestation de déplacement dérogatoire(例外的移動証明書)」というのをダウンロードして必要事項を記入して印刷し、これを携帯すれば、近所の外出は可能です。印刷をできない人は手書きでも大丈夫です。

 外出を許可される理由としては、

1.テレワークができない必要不可欠な仕事または延期できない仕事のための、自宅と職場間の移動(別途出勤証明書も必要)
2.許可された施設における必要不可欠な買い物をするための外出
3.(医者にかかるといった)健康目的の移動
4.親族のためにやむを得ないもの、脆弱な人々への支援、子供の監護のための移動
5.集団的スポーツを除く個人的な運動や、ペットのために必要な、自宅近くにおける短時間の移動

なので、私は2と5にチェックをして、もちろんほかの人に近付きすぎないように気を付けつつ、ときどき外出しています。

 外に出ると、これがパリとは思えないほど静かです。飲食店をはじめとするお店はほとんどが閉まっており、外に出ている人、クルマが劇的に少ないのです。

 自宅周辺で開いているのはほとんどがスーパーや肉屋、八百屋などの食品関係の店。あとは薬局、雑誌や新聞も売っているタバコ屋、ガソリンスタンドくらいでしょうか? 病院はもちろん開いていますが、電話での相談や、オンラインで診断、処方箋を出してくれるシステムもあります。

 クルマ・バイク・自転車の修理店や、眼鏡店、IT機器の修理店なども営業可能なのですが、自宅周辺で開いているところはありません。

日付は外出日になっていないといけないという噂があるので、消せるペンで日付を書いて都度更新しています。滞在許可証も一緒に携帯
パリ市が出している新型コロナウイルス感染予防方法のポスター
道行く人は、マスクをしている人がとても多いです。以前は決して見られなかった姿です

 自宅近くの東駅まで行ってみましたが、動きそうな列車は皆無です。駅構内にも数少ない列車に乗るチケットを持っている人以外は、セキュリティのチェックがあって入れません。

パリ東駅の様子

 公園も閉鎖、教会もお葬式以外のミサなどはすべてオンラインで、と書かれています。

飲食店の営業は禁止なのですが、テイクアウトとデリバリーはOK。デリバリーをする人の姿がとにかく多いです
レンタサイクルを使ってデリバリーをする人たち
一応営業中のホテルの窓にこんなものが。発音は2行ともほぼ同じ「ソン・ソルティール」なのですが「外出しないで乗り越える」の意味でクスっとしました
郵便局もほとんど閉まっていますが、開いている郵便局まで行くと長蛇の列
どの公園にも入れません
教会自体は開いています。これから復活祭の時期でミサがたくさんあるはずなのですが、すべてオンラインでと書いてあります

 私の住むエリアにある、ラ・ヴィレット貯水池とサン・マルタン運河のまわりでは、散歩やジョギングをしている人がちらほらいます。ただし、20日の金曜日からは、セーヌ川岸も立ち入り禁止となりました。うちの近くの水辺ももうすぐそうなるかもしれません。

マスクをしながら運動をする人の姿も
筋トレに励む人々
いつもはにぎわっているドッグランには誰もいません

 外では多くの警察官が外出理由のチェックをしています。警察のヘリコプターやドローンからも監視をしているとか。

 チェックは歩いている人だけではなく、クルマも停めて聞いています。もし違反となった場合には罰金135ユーロ=約1万6000円(1ユーロ=約118円換算、38ユーロから18日に引き上げられました)です。45日以内に支払わなかった場合には、この額は375ユーロ(約4万4300円)まで加算されます。この罰金制度に便乗し、ニセ警察官による詐欺も出ているそうです。

 買い物は、店内に入れる人数に制限があるので、客が一定数以上になったら店外で入場を待つことになります。待つときは前後1m開けないといけません。店内に入るときは、店によってはアルコール消毒液を手に付けてくれます。

 外で多少待つことになりますが、店内は空いているので、長蛇の列のお店を避けていれば、トータルの買い物時間は以前とそう大差ありません。

ちゃんと並ぶフランス人を見るというのはとても新鮮
店内には1mの間隔を示すテープが張ってありました
店外の看板にはこの店の場合、店内は最大20名、入店時に手の消毒をし、支払いはカードのみ、商品の補充はきちんとされるので買い過ぎないこと、といったことが書かれています
フランス人には欠かせないパン屋さんは、本来であれば週に1日は休まないといけないのですが、今は週に7日の営業が許可されています

 店によっては品切れ、品薄のものはあります。特にトイレットペーパーなどの紙類、飲料水、保存食品全般です。でもうちの周囲にはスーパーがたくさんあるので、いくつかまわれば、今のところはなんでも手に入ります。外出禁止前と価格も同じです。

交通機関は大幅削減中

 外出禁止になりそうだという噂は16日の発表前からあったのですが、田舎に家がある人などはそちらに行ってしまう人も多かったです。

お向かいのアパートも、外出禁止となる前に、数軒が雨戸を閉めてどこかに行ってしまいました

 夫の姪も、現在リヨンの大学に行っているのですが、外出が禁止になる前に「両親のところにこれから行くわ!」という連絡が私にあり、その後、急いで飛行機に乗ってブルターニュに向かっていました。

 なお、現在のパリの公共交通機関に関しては、メトロもバスもだいたい50%減くらいで動いていますが、乗車率は外から見ていると20~30%くらいに見えます。バスはもっと乗っている人が少なく、数名というのもよく見かけます。

 そのほか、パリに残っている知り合いを見ると、子供がいる家庭では学校がお休みなので、オンライン授業を受けているそうです。仕事は一部を除いてテレワークとなっていますから、不安はありながらも、家族がそろってずっと一緒にいられることを喜ぶ声も聞かれます。

 ただ、一人暮らしの人は、家でのんびりしている人が多いようですが、「一人で退屈だ!」と連絡をしてくるフランス人は早くもちらほらといます。

あちらこちらに助け合いの精神が

 外出禁止が始まってすぐ、助け合いの精神を目にしました。例えばうちのアパートの1階では、アパート内に住む誰かが

「お年寄りや健康に問題のある人は、遠慮なく連絡をしてください。買い物とかお手伝いします」

という張り紙をすると、それに続いて何人もが「私もやりますよ」という張り紙を足していっています。

 我が家もお隣が高齢のおばあさんの一人で暮らしなので、買い物に行くときはドア越しに「何かいるものはありますか?」と声をかけるようにしています。

「スーパーの扉にも高齢者で助けが必要な人は連絡を」という紙が張ってありました

 Nextdoorというご近所ごとにネットワークを作るWebサイトがあるのですが、ここにも「困っている人のお手伝いをしますよ」「外で働く親のお子さんたちの面倒を無料で見ますよ、勉強を見ますよ」といったメッセージが出ています。

 外出禁止の始まった翌日の18日からは、毎日20時ちょうどに、日々奮闘している医療従事者や消防隊員に向けたエールを送ろうと、窓際に出て拍手をすることがフランスでも始まりました。

新型コロナ対応に奮闘する医療従事者や消防隊員に向けたエールを送るパリ市民。毎晩20時ちょうどに数分間、エールの拍手が起こります

 外出に制限があっても、オンラインでできることもたくさんあります。例えば以前ご紹介したゼロ・ウェイストの家(La Maison du Zéro Déchet)では、オンラインでの「ゼロ・ウェイスト入門」のセミナーをやっていました(関連記事「リサイクルを超え、ごみを出さない生活にシフトする人が増加中。パリの『Zero Waste(ごみゼロ)』への取り組み(前編)」参照)。この機会に、もし買える物が減っても暮らしにさほど困らない生活にシフトしていくのはいいことですよね。

これまた以前ご紹介した、私が通っているシヴァナンダヨガセンターでもオンラインクラスがすぐに始まりましたし(関連記事「異国情緒漂うパリのインド人街をぶらぶら散歩」参照)、パリのオペラ座では、ニューヨークのメトロポリタン・オペラにならい、過去に上演された作品を中心とする無料ストリーミング配信を行なっています。

 今回の外出禁止はとりあえず2週間の予定ですが、それでは終わらない、もっともっと長くなるという噂が多く聞かれます。禁止の内容も日々変わります。

 ただ、行けるところが限られているものの、今現在ものすごく困っていることはありません。私はアジア人であることで差別的言動を受けたこともまだありません。

 2018年からの黄色いベスト運動、年金改革反対運動の影響もあり、フランス経済もこれからさらに大変なことになりそうです。でも外出禁止となったことで、普段多忙でなかなか一緒にいられない夫との時間ができました。これまでとは別の生活習慣や楽しみを見つけながら、外出禁止解除を待ちつつ静かに過ごしたいと思っています。

外にいる人が少ないためか、残念なことに車上荒らしが増えている感じです
外出禁止となる直前に、市町村議会選挙の第一回投票がありました。行ってきた夫によると「人がなるべく接触しないように配慮されていた」とのことでしたが、新型コロナウイルスの影響で、実際は棄権率約56%というさんざんな結果でした

荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。Webサイトはhttp://mami.naturo.free.fr/