荒木麻美のパリ生活

フランスの応用美術名門校、エコール・ブールを見学

創立130年。将来を嘱望された未来の職人たちの姿が

フランス有数のデザイン学校「エコール・ブール」

 メティエ・ダール(美術工芸)とデザインの学校として、フランス有数の学校の一つがパリ12区にあります。ルイ14世に仕えた宮廷家具師、アンドレ=シャルル・ブールの名を冠した「エコール・ブール」です。1886年に創立され、130年を迎えました。最近では4年に渡る大改装も終わり、最新設備も導入されました。

 エコール・ブールでは「応用美術」、つまり「美術作品を実用品に応用したもの」を学ぶ学校なのですが、その水準の高さから、「プロが選ぶインテリアデザイン学校」でも常に上位となっています。

 そんなエコール・ブールの噂は前から聞いていたのですが、2月に一般開放日が2日間にわたってあるというので見学に行ってきました。

 前述のようにエコール・ブールはもともと家具職人を養成するために創設された学校ですが、今では美術工芸系のほか、のちに追加されたデザイン系のコースもあります。現在の学校全体の生徒数は約1500人で、先生は約160人だそう。エコール・ブールには高校卒業資格を取る前の人も入学できますし、成人向けのコースもあります。公立の学校なので、一部のコースを除いて授業料は無料です。

 各コースの受け入れ人数は多くて約30名だそうですが、申し込み数は1000人程度とか。一部を除いて筆記試験はなく、これまでの学校での成績や、どれだけやる気があるかを記した論文、これまで作った作品の提出などから厳しく審査をされます。

 外国人留学生の相談コーナーもあったので話を聞いてみたのですが、国内だけでも多くの入学希望者がいることもあり、外国人留学生はあまりいないそうです。日本人は数人いるものの、個人での留学ではなく、日本のいくつかの美術大学との提携があるので、そこからの交換留学生がほとんどとのことでした。

 成人向けのコースは有料です。主に2つあり、1つはCMAというパリ市が主催する市民講座で、未経験者でも入学することができます。エコール・ブールで学べるコースはアクセサリー関係のみですが、パリ市が運営しているために費用が格安です。もう1つのGRETAはすでに技術を持っている人がその向上を目指すことが多く、コースは美術工芸系とデザイン系の多岐に渡っています。

130年前の生徒たちのポーズを現代の生徒たちが真似て撮ったらしい写真

 さて、学校内を急ぎ足ではありますが一緒に見ていきましょう。まずは美術工芸系のコース。

「金属加工」コースの作品群を通り抜け、「象嵌(ぞうがん)」コースのアトリエへ行くと目に入ったのは昆虫の標本。何に使うのか尋ねると、父親が集めた昆虫を使って作品を作っているのだとか。なかなか独創的。

「金属加工」コースの様子
「金属加工」コースの様子
昆虫を使った作品など

 アクセサリーもあったのですが、この1つが専門家による査定価格が25万ユーロ(約3375万円、1ユーロ=約135円換算)と聞いてビックリ!

 日本語で何というのが分からないのですが、フランス語を直訳すると「表面の装飾加工」コースというのもありました。デモンストレーションでは、卵の殻をカッターでひたすら細かく刻んで板などに張り付けていたのですが、見ているだけで肩が凝りそうでした。

「表面の装飾加工」コースの様子

 次に行ったのは「高級木製家具製作」のコースです。ため息が出るほど細かな工夫を凝らした、美しくて繊細なデザインの家具が並んでいました。

「高級木製家具製作」コースの様子

 さらに家具のなかでも「椅子製作」に特化したコースもあります。天井にびっしりと吊り下げられた大量の椅子には圧巻の一言。

「椅子製作」のコース

 家具に関連して、「室内装飾」コースもあります。ここでは完成した椅子に布を張り付ける作業や、3Dプリンタがボールを作る様子などを見ることができました。

「室内装飾」コースの様子
「室内装飾」コースの様子

「木工彫刻」コースもあり、ここでは家具の部品の飾りを彫る学生、美術館の作品を模造する学生などがいました。

「木工彫刻」コースの様子
「木工彫刻」コースの様子

「鍛金」と「彫金」のコースもあります。専門外の私には最初この2つの違いが分からなかったのですが、日本語に訳せば一目瞭然。彫金は金属を彫ることで、鍛金は金属を叩いて形を作ることなのですね。

これが鍛金で
これが彫金

 私にとって一番興味深かったのは「家具修復」コースです。学校にはルーヴル美術館やオルセー美術館、ヴェルサイユ宮殿やフォンテーヌブロー宮殿の家具の修理の依頼なども持ち込まれるそうです。実際、「ルイ13世時代の家具を修復中」といったパネルがあちらこちらにあったのですが、先生が付いているとはいえ、学生にこれらの歴史的重要文化財を修復させるなんて驚きです。

「家具修復」コースの様子

 工芸コースの最後に見たのが「ジュエリー製作」コース。ここは学生もそうですが、見学者も若い女の子が圧倒的に多くて華やいだ雰囲気でした。

「ジュエリー製作」コースの様子

 美術工芸系をざっと見たところで、次はデザイン系のコースなのですが、残念ながら写真撮影不可のところばかり。でも、例えば「プロダクトデザイン」コースの作品は、モダンで変わったデザインながら、実用的でもありそうな椅子や机などが並んでいました。

ここが「プロダクトデザイン」コースの教室。完成した作品は撮影不可のため、紹介できなくて残念
「プロダクトデザイン」コースの様子

 急ぎ足ではありましたが学校全体を見学して感じたことは、多くの生徒たちが自信にあふれ、礼儀正しい子が多かったことです。それから生徒、先生、スタッフも合わせて、学校全体でアットホームな雰囲気を醸し出していました。実際に何人かの生徒に話を聞いてみたのですが、「学校全体が家族なんだよね」といったことを言う人が多かったです。

 行政や企業とのコラボレーション企画や提携校との交流も盛んなようですし、エコール・ブールの卒業生たちはこれまで同様、多岐な分野に渡って活躍していくことでしょうね。

荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。Webサイトはhttp://mami.naturo.free.fr/