荒木麻美のパリ生活
パリで船上生活を楽しむ人々
多少の不便はなんのその。自然を近くに感じられるペニッシュ生活
2017年8月19日 00:00
パリを訪れたことのある人なら、たくさんの船がセーヌ川などに浮かんでいるのを見たのではないでしょうか? そのなかでも「Péniche(ペニッシュ:平底船)」という船について今回はご紹介したいと思います。
ペニッシュの定義は船の底が平らになっていて、長さが最大で約38.5m、幅が最大で約5mの船を指します。ペニッシュで暮らす人のことを「Pénichard(ペニシャール)」というのですが、パリでは約400世帯のPénichardがいます。
ペニッシュの暮らしについて調べてみたところ、郵便はペニッシュまで、または停泊所の一角に設置された共同郵便受けに配達されます。水や電気は一般道から遠くなければ引くことができます。そうでない場合は、電気は発電機またはソーラーパネルを設置し、水は停泊所からもらうか、川や運河から引き、船内の浄水装置を通してから使います。生活汚水は船内の浄水設備を通してから川や運河に流します。ガスはボンベを購入します。
ペニッシュならではの費用としては、停泊所代、10年に一度義務付けられている船のメンテナンス代があります。船にかける保険料は、一般の家より高めであることが多いようです。
ペニッシュを運転するためには、船の長さが20m以上か以下によって、2種類の免許証があります。どちらも川か運河のみで、海で運転することはできません。
船の停泊はVNF (Voies Navigables de France)によって認可され、停泊許可はVNFを通さずに譲渡することはできません。2016年のイル=ド=フランスの新規停泊許可申請状況を見てみたところ、約300隻が認可待ちとなっています。パリに限ってみると、最後に停泊所の空きが出たのはなんと2013年に1つのみ! 船を買う場合は停泊許可が船と一緒に認可されるのかを、購入前にVNFに確認することが必須ですね。
さて、これまでペニッシュを外からはたくさん眺めましたが、中からも見てみたいなぁと思っていたところ、ペニッシュに住む夫の友人夫妻からご招待が! 喜んで行ってきました。場所はパリ近郊のブーローニュです。この辺りにもたくさんのペニッシュが停泊していました。
ペニッシュの住人はマルタンとシャルロット夫妻に末娘さんの3人。ほかの子供たちはすでに独立したそう。マルタンは映画のラインプロデューサーで、シャルロットは映画や舞台の衣装をやっています。
ペニッシュは1895年に製造されたオランダ製で、リベット接合による鋼船です。船の長さは24.5m、幅は4.5m。砂を運んでいたそうで、船の名前「Vrouwenzand」は、オランダ語で「砂の貴婦人」という意味だそう。この船には翼を付けることができ、翼を付ければ海を渡ることもできそうです。
2人が船に暮らして15年くらい。船で暮らそうと思ったのは、引っ越し先を探しているときに、たまたま売りに出されていたこの船を見に来て、夫婦揃って一瞬で「ここで暮らそう!」と思ったからだとか。
船の暮らしについて聞いてみたところ、
「普段はとても静か。音に関して近所に気兼ねすることもない。家でパーティーを開くときは、お互い事前に言っておくけどね。ここで50人を招いてパーティーをしたこともあるよ! あとは水上にいるということで、自然を感じられるのがなによりいいよね。当たり前のことだけど、船なので揺れるよ。近くを船が通ったときの揺れは強い。でもそれも慣れちゃうし心地よく感じるんだよ」。
とのこと。ただ、船上生活のデメリットがないわけではなく、
「うちは大丈夫だけど、夏は湿気が多くなるペニッシュはあるみたい。あと、川の汚染具合によっては悪臭や、蚊などの虫が発生することも。それから大雨による川の増水には注意が必要だね」。
だそうですが、これらデメリットを補って余りあるよさが、船上生活にはあるのだと感じました。ここで育った末娘さんはもちろん、飼い猫のビスコットも、のびのびとリラックスして暮らしている様子がうかがえました。
パリのペニッシュのなかには、宿泊施設となっているところもあります。 「Paris」「Peniche」「Hotel」などで検索してみてください。パリ滞在の思い出としてペニッシュ宿泊体験をしてみるのもきっと楽しいですよ。
OFF Paris Seine
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