旅レポ

サミット目前の伊勢市で「桜めぐり プレスツアー」に参加(その1)

伊勢神宮参拝、神宮奉納大相撲の観覧、伊勢の美味しいものも味わう

 2016年5月26日~5月27日に開催される伊勢志摩サミットの終了後も長期的に観光客が訪れる国際的な観光都市となるべく、伊勢市情報発信センターがメディア取材への全面協力に賛同する店舗や観光施設を集め「伊勢志摩サミット プレスサポーターズ おもてなし 100」を結成したことは以前にも紹介した。

 その一環として伊勢市情報発信センターが、伊勢の文化や食、季節の観光地を巡る「桜めぐり プレスツアー」を開催したので、伊勢市内の散策も含めてレポートする。

東京から約3時間半、厳格な空気が漂う伊勢神宮へ

 伊勢市情報発信センターから提案されたツアーのスケジュールを見ると、第61回神宮奉納大相撲の開催時刻の都合で朝9時に伊勢市情報発信センターに集合となっていた。ちょうど予定が空いていたのをいいことに前日の午前から移動した。東京駅を11時40分に出発する「のぞみ335号」に乗り込み、13時21分に名古屋駅に到着。その後、13時37分発の鳥羽駅行きの快速「みえ11号」に乗れば15時11分には伊勢市駅に着くことができる。乗り換えの待ち時間を含めても3時間半少々で、この時間の到着ならば、伊勢神宮の4月の参拝時間は6時までなので、余裕をもって行動できる。

東京駅からのぞみ335号に乗車
名古屋駅からは快速みえ
土日や祝日にみえ11号で伊勢市駅まで行く際、名古屋駅で座れないことも多いようなので、できれば指定席をオススメする

 伊勢市駅に降り立ち、まず最初に向かったのが「外宮」(げくう・豊受大神宮)。「外宮先祭(げくうせんさい)にのっとり、外宮から参拝することがならわし」とのことなので、それに従うことにした。

 外宮に祀られているのは、内宮の天照大御神の食事を司る御饌都神(みけつかみ)の「豊受大御神」、衣食住を始め産業の守り神である。天照大御神の御饌都神なので、内宮の祭儀に先だって御饌都神にお食事を奉る祭典の順序にならって、参拝も外宮から内宮の順に参拝するのだそうだ。伊勢市駅の改札口を出て駅前ロータリーから真正面に伸びる道が「外宮参道」なので、そこを真っすぐ歩いていけば5分程度で到着する。

 伊勢神宮の公式Webサイトに掲載されているモデルコースを見ると、はじめに正宮である豊受大神宮、その後に別宮の多賀宮、土宮、風宮をまわるように記されていた。それぞれの別宮に何が祀られ、どんな意味を持っているのか、ぜひとも伊勢神宮のWebサイトを参照してほしい。

外宮の正宮と、多賀宮、土宮の別宮のすべてをまわらなくてはいけないわけではないが、何が祀られているかは確認しておいたほうがいい
外宮の風宮と、式年遷宮の川原大祓が行なわれる場所を記す三ツ石、外宮神域の守り神である四至神(みやのめぐみのかみ)
一拝(一礼)してから鳥居をくぐり、木立の中を10分ほど歩くと正宮に着く。参拝時間は季節により異なるので注意

外宮の近くで伊勢肉が絶品の店に出会う

 まだ暗くなってもいなかったが、予約しているホテルが駅から離れていることもあり、早めの食事にしようと思い、事前に教えてもらっていた食事処のなかの一軒が、外宮交差点至近にあったので訪問しようとしたところ、その店舗の隣の店が気になった。

 一見、普通の食堂のような作りの店構えであるが、正面から見て右側にカウンターがあり、その近くで数人が何かを食べている。近寄ってみるとそれはコロッケ、カウンターはコロッケやメンチカツを購入するためのもののようだった。店舗入り口に置かれていたメニューを見ると、店舗名は「豚捨」(ぶたすて)であるが「名産 伊勢肉」「国産和牛」と書かれていたので迷わず入ってみることにした。

 店内は明るく、ガラス張りのカウンターの向こう側が厨房となっており、調理している一部始終を見ることも可能な作りだった。

 豚捨と言う店舗名は、運営している会社名そのもので、1909年(明治42年)創業の和牛の専門精肉販売会社とのことなので味も期待できる。社名の由来については「現在の社長は4代目なんですが、初代の社長が捨吉という名前で、食肉店をはじめたのちに、お客さまから牛肉が美味いことから『豚なんか捨てちまえ』と豚肉を投げ捨てられたのが豚捨のはじまりらしいです」とのこと。

明るく清潔な店内と豚捨外宮前店のメニュー。同じ系列でも豚捨の他店舗はメニューや価格が違うとのこと

 もともと三重県には伊勢牛と伊賀牛しかなく、1877年(明治10年)頃から東方へ伊勢肉の名は広まったが、1935年(昭和10年)頃から松阪牛が登場し、1960年(昭和35年)頃から各地の食肉店で「松阪肉」を看板に掲げる店が増えたことで、ブランドの認知度としては松坂肉に軍配があがるようになったとのこと。

 人気メニューを聞くと、外宮至近なので参拝帰りに小腹が空いて寄る客が多いのか「牛丼」とのこと。しかし、同社の東京・丸の内の店でも牛丼は食せるようだったことと、せっかく伊勢肉を売りにしている店に入ったのだからと思い、「ぶたすて膳」(牛もも肉のステーキ膳)をオーダーした。こちらで使用されているのは黒毛和牛の雌のみとのことである。

 しばらく調理を眺めたりしながら待つこと10分強、「ぶたすて膳」が目の前に現れた。メイン料理は「牛モモ肉のステーキ 焼き野菜添え」で、「岩戸塩」「わさび」「ゆず胡椒」の3種の薬味と特製ソース。「サラダ」「小鉢」「コロッケ」「ごはん」「みそ汁」「漬物」で、食後に「デザート」が付く。

 食べる前に写真を撮っているとステーキの表面にジワジワと肉汁が滲み出てきて、さらに期待が高まった。実際に箸で口に運ぶと牛肉の香りが口の中に広がり美味い。赤身であるにもかかわらず、舌で上あご側に押せば潰れる柔らかさは絶品である。ステーキを食し、とても柔らかいと伝えると「これは赤身なので堅いほうですよ」と微笑みながら返答。また外宮を訪れた際には、ぜひ寄りたい店である。

これが「ぶたすて膳」(3500円)。店舗の表で食べている人もいたコロッケもセットに入っている。付け合わせやデザートは季節により内容が異なるとのこと
翌日、地元の人に聞いたら「日にちや時間帯によっては、コロッケを買う人の行列ができる」ほどの人気店のようだった
外宮参道は伊勢市駅から外宮までを結ぶ直線の道で、両脇にはさまざまな「伊勢の味」を食せる店が並んでいるので、宿泊での訪問時には、この近くに宿を取るのもよいだろう

伊勢に春の訪れを告げる、第61回神宮奉納大相撲を4月3日に開催

外宮の参拝から一夜明けた4月3日に、第61回神宮奉納大相撲を観覧

「国技」として尊ばれてきた相撲は、古くから日本人の暮らしと結びつき、神事との関わりも深かったことから大相撲を天照大御神を祀る神宮に奉納する「神宮奉納大相撲」が1965年(昭和30年)に始まり、今年は61回目となる。

 稽古相撲は午前7時に開始。よい席で観覧しようと、会場となる神宮会館の神宮相撲場受付には早朝から列ができており、国道23号にまで伸びている。

 午後からは幕内力士によるトーナメント戦が行なわれ、本場所さながらの取り組みは「春のお伊勢場所」と呼ばれて多くのファンに親しまれている人気イベント。本場所や巡業以上に力士と身近に触れ合え、ファンが近くにいる力士に気軽に声をかけたり、なかには力士とスマートフォンで写真を撮っていた女性もいたりするほど。

 出場した力士に感想を聞くと「こういう神聖な場所で相撲を取れるのは、すごくうれしいことです。お客さんも毎年毎年増えてきて、一力士としてもうれしいです」とコメントしてくれた。

 少年力士稽古相撲では少年3人と力士が稽古を行ない、その幼い仕草などに場内から笑いと応援する歓声が上がり、そのあとに続く序二段・三段目の取り組みになると、かなり本格的で迫力のある取組を間近で観戦することもでき、相撲ファンたちはとてもうれしそうだった。

朝7時から行なわれた稽古相撲。稽古とはいえ、かなりの迫力があるものだった
少年力士稽古相撲では、力士に突き飛ばされ泣いてしまう男の子もいた。確かに怖いかも知れない
本場所さながらの取り組みを至近距離で見られるのは、相撲ファンにとってはたまらない魅力である
第61回神宮奉納大相撲の様子(序二段・三段目取り組みの一部)

内宮宇治橋前の「勢乃國屋」で精進料理

 伊勢神宮の土産物として「神代餅」の名前を聞いたことがある人も多いとは思うが、内宮宇治橋前の「勢乃國屋」では小豆、 天然よもぎ、玄米から精米したもち米だけを使って作っている。色料を一切使用していない自然の素材だけを活かした草餅であり、多くの参拝客が購入するが、勢乃國屋の1階は土産物屋で、2階以上は食事処となっている。各種の海鮮丼や手こね寿司、伊勢うどんなどを食べることができるのだが、日本の文化である「食」を求めているインバウンド需要を狙い精進料理も供するようになったとのこと。その精進料理を食した。

 精進料理がどんなものかの詳細はWebサイトを検索すればいくらでも出てくるが、肉や一部の野菜を食すことを制限されているなかでも、栄養が不足することなくバランスされている必要があり、その条件を満たすために工夫し多くの手間暇をかけて作られる。信仰のためではなく、味わいながら、何をどのような手法を用いて調理しているのか推測してみるのも面白いだろう。

精進料理(1500円・税別)の内容は「冷奴」「豆乳生麩」「一八穀サラダ」「野菜かき揚げ」「お吸い物(昆布だし)」「ごはん」「鍋(南京生麩、よもぎ生麩、水菜、しいたけ、まいたけ、エノキ、大根、人参、昆布だし、味噌だれ)」

日本の原風景が広がる場所に、天照大御神を祀る伊勢神宮「内宮」を参拝

 伊勢神宮には、内宮の正宮と外宮の正宮を始め、14所の別宮、43所の摂社、24所の末社、42所の所管社があり、それら125の宮社すべてを含めて「神宮」と呼ぶ。

 時間に余裕があったこともあり、前日に外宮では別宮も含め参拝したのだが、内宮の参拝時にはスケジュールがタイトだったために正宮のみを参拝した。内宮にも正宮の他に荒祭宮、月読宮、瀧原宮、伊雑宮、風日祈宮、倭姫宮などの別宮がある。こちらも外宮の別宮と同様、それぞれの別宮に何が祀られ、どんな意味を持っているのか、ぜひとも伊勢神宮のWebサイトを参照してほしい。

五十鈴川に架かる宇治橋と両岸にある鳥居

 鳥居をくぐり、日常から神聖な世界への架け橋と言われる宇治橋を渡り、皇室の祖先である天照大御神を祀っている内宮に進む。手水舎で手と口を清めて先に進むと、そこは神域である。神宮の境内地として管理されてきた伊勢神宮の宮域林は、荒れているようなことは一切ない。すべての木々一本一本が管理され、感動すら覚えるほど保全されている。宮域林は遷宮を見据え、造営用材の自給自足のため「神宮森林経営計画」を1923年(大正12年)に策定、200年生の檜の育成に取り組んでいるとのことだ。

 木立の中の玉砂利が敷かれた参道を15分ほど歩くと、正宮(皇大神宮)に着き、二拝・二拍手・一拝の作法で参拝した。

正宮の石段を登り始めるところから上や、札所については写真撮影は禁止なので、撮影目的での訪問時には留意のこと
立ち並ぶ大樹。感動すら覚えるほど保全されている
内宮のあちらこちらで桜が見ごろになっていた。4月10日まで五十鈴川の桜まつりが開催されている(状況により早期終了の可能性があり)

酒井 利