旅レポ
女一匹桜旅? 遺伝学研究所に三嶋大社……三島の桜を見に行ってきた
気がついたら三島行きの桜鑑賞日帰り旅を計画。どうして三島なのか?
(2016/4/7 00:00)
アサガオ好きが嵩じて、三島へ桜を見に行きたくなった。それがすべての始まりである。
どうしてアサガオが好きなのに三島で桜なのか? 読まれている方が困惑しているのではないかと少し心配だが、事情については文中でおいおい説明していけたらと思う。年度末のあわただしさを「4月になったら三島に旅行に行くんだ」と唱えながら乗り切り、ついに旅が実現。今回は4月2日に静岡県三島市にある国立遺伝学研究所と三嶋大社へ、日帰り弾丸ツアーで花見に行ってきた。ひとりで。
果たしてどんな桜と風景に出会えたのか。桜あり、グルメあり、そしてついでにちょっとした下心ありの女一匹旅をお送りしたいと思う。
三島のソメイヨシノはまだ三分咲きだった
今回の旅、最初の目的地は国立遺伝学研究所。研究施設ということで通常は関係者以外立ち入ることはもちろんできない。しかし、毎年4月第1週土曜日は一般公開を行なっており、この日は遺伝学における研究成果の発表を見られるのはもちろん、かつて研究用に植えられていたさまざまな品種の桜を鑑賞できるのだ。
遺伝学研究所構内では、おなじみのソメイヨシノから珍しい品種まで植えてある。普段見られない桜も鑑賞できるかもということで、私のような植物・園芸好きにはたまらない1年に一度のレアな催しだ。そしてまた、一般公開においては個人的にちょっとした狙いもあるのだがそれはさておき。
三島駅から遺伝学研究所へはバスで15~20分。一般公開日にはシャトルバスが運行される。しかし、いざバスに乗って周りの景色を見てみると、思っていたよりソメイヨシノの開花が遅く、三分咲きといったところだ。「ちょっと来るのが早かったかなー」と思ったものの、さまざまな品種が揃っている遺伝学研究所なら、なにかしらの早咲き品種は開花しているだろうと、とりあえずどーんと構えてみる。
アサガオと研究発表でワクワク
門を抜けて順路に沿っていくと、さっそく遺伝学研究所の建物へ。しかし入口前に人だかりができている。見ると物販コーナー、それもアサガオのタネのコーナーに人が集まっているらしい。
というのも、この遺伝学研究所は九州大学と共にアサガオの研究を行なってきたということで、珍しいアサガオの種子がストックされている。一般公開日ではこの種子の頒布が行なわれるのだ。どうしてアサガオ好きな私が、遺伝学研究所に惹かれたのかお分かりになっただろうか。そう、遺伝学研究所はある意味アサガオ好きの聖地であり、珍しい品種が気になったから。「桜を見るときにあわよくば、種を入手できないか、ぐふふ」と下心を抱いていたわけだ。
人だかりに交じって購入しようと種子のラインアップを見たところ、何と開門10分強ですでに人気の品種は売り切れ。自分も熱烈なアサガオ好きだと思っていたが、上には上がいる。それでも3品種の種子を購入した。
早くもアサガオの種ミッションが達成されたところで、建物内で行なわれている研究発表へ。入るといきなり「大腸菌と動物細胞を比べてみよう」とペーパークラフトの模型に、納豆菌としておなじみの枯草菌を植えたシャーレなどが視界に入ってきて、理系の心が刺激されることに。ノーベル化学賞を受賞した下村脩博士が発見した緑の蛍光タンパク質と、その発展形の黄や青、赤色の蛍光タンパク質の展示ではふと「きれい」と思ってしまった。
こちらでは遺伝学の研究を行なっているだけあって、「生命を形づくる分子・細胞」「多様なモデル生物を用いた研究」などジャンルごとに会場が分かれ、それぞれの展示には担当の研究員が付いて、来場者に最先端の研究内容をやさしく説明している。
周囲を見回してみると中高生や親子連れが多かったが、顕微鏡や標本、なかにはパラパラマンガを使っての研究紹介は見応えがあり、大人でも興味深い内容だ。年1回の展示では惜しいぐらいの密度の濃い内容にワクワクしている自分がいた。
そして、まだ見ぬ桜に出会いに行く
さて、いよいよ桜の探訪だ。実は構内の桜は、遺伝学普及会が販売しているiPhoneアプリ「さくら図鑑」で紹介されている。1300円とアプリにしては少しお高めなので少し躊躇したものの、この日のために思い切って購入。木の位置番号や品種名のアイウエオ順で桜の品種が検索できるというものだ。写真と説明が充実しているので、遺伝学研究所の散策に使わなくても、写真とデータを眺めているだけで幸せ気分に。
また、正門を入るとすぐに「桜鑑賞案内所」というブースがあり、ここで「遺伝研のさくら」という本も売られている。こちらも「さくら図鑑」同様、遺伝学研究所の構内に植えられている桜を網羅したカタログだ。
「さくら図鑑」を起動して、さっそく桜巡り。遺伝学研究所の敷地をぐるっと囲むように桜が植えてあるので、敷地内を回りながら見て歩くことになる。遺伝学研究所に植えられている桜は全150種。ただし、桜といっても品種ごとに早咲き遅咲きと開花時期が違うので、一般公開日に開花しているのはその1/3ぐらい。まばらに咲いているといった感じだ。
そんな理由もあって、遺伝学研究所の花見で「春色に染まった満開の桜並木を通り抜ける」を期待すると肩透かしをくらうかもしれない。ここでの桜鑑賞の魅力は「まだ見たことのない桜に出会う」「桜の多様性に触れる」の2つだと思う。
花が大きい桜、小粒の花の桜、濃いピンクから白に近い淡い桜色、細長い花びらにフリルのような花びら、桜と一言でいっても品種ごとにさまざまで個性豊かだ。それぞれのよさを愛でるのもいいし、アイドルグループのファンのように自分の好きな「推しメン」ならぬ「推し桜」を見つけてもいいだろう。
なお、私が一番好きになった桜は、大輪の花で花びらに筋が入ったゴージャスなピンクの「陽光」だ。しかし、陽光とは対照的に花色が薄く、花と同時に葉も出てくる「ヤマザクラ」の楚々とした魅力も捨てがたい。きれいどころに囲まれて選べない幸せ。
また、紅色で小さな花が密集して咲く「一重紅枝垂」は満開で大木だったこともあって、撮影する人があとを絶たないほどの人気だったし、行程の最後に現れた八重咲きの「火打谷菊桜」は、近くにいた女性から「ポンポンみたいでかわいい!」という声が聞かれた。一本一本、木をまわって品種ごとの桜の魅力を楽しむ。そんな花見ができる場所はそうそうないだろう。
さまざまな桜に出会ってすでに頭のなかが桜だらけ。構内自体は咲いている品種と咲いていない品種でまばらな開花状況だったが、私の頭のなかではデフラグされて桜の園になっている。個人的には2週間後に開花の遅い八重桜系が開いたときにもう一周したかった。うう。後ろ髪引かれる思いで、シャトルバスに乗り込み再び三島駅へ。
国立遺伝学研究所
所在地:静岡県三島市谷田1111
TEL:055-981-6707
夢のような美しさの桜・三嶋大社
続いて向かうのは三嶋大社。三島市にあるのに「三島」ではなく「三嶋大社」。遺伝学研究所はアサガオつながりだったが、三嶋大社はどうして行こうと思ったのか。
さかのぼること約3カ月前。仕事で静岡県を訪れた際、静岡県観光協会の人と話をし、その際に遺伝学研究所の桜の話をしたところ、「ぜひ、三嶋大社の桜も見てみてください。私のイチオシです!」と強く勧められたのだ。観光のプロが絶賛する三嶋大社の桜。やはりこれは見ておかないと、そんな使命感に駆り立てられたのである。
三嶋大社は三島駅から歩いて10分のところ。しかし、三嶋大社にたどり着いたとき、正直なところ不安になった。ソメイヨシノは三分咲き。大鳥居の周囲を見ると、申し訳なさそうに咲いている桜の木がチラホラ。もしかして、まだ満開にほど遠いのではないだろうか?
しかし境内に一歩入ってみて、その心配が杞憂だったことを知る。大鳥居から参道に入って見上げると桜のトンネルが。また、参道を挟むように位置する神池のほとりには、ソメイヨシノ、大島桜、そして枝垂れ桜とさまざまな桜が花を開いており、なかには満開の木も。
しかも、総門までの参道を歩いていたら、曇りだったはずの空に陽が差し、いつの間にか青空になっている。「ああ、これは私の日頃の行ないがよかったからかもしれない」と思っていたら、私の後ろにいたおじいさんが友人らしき連れに「私の日頃の行ないが~」と同じことを言っていた。いやそれ私のセリフ。
総門に入る前に神池のほとりから、満開になっている早咲きの枝垂れ桜のそばに立ち、桜越しに青空を見てみた。グラデーションに広がる青い空に桜のピンクが広がる様を見て、あまりの美しさに「幸せすぎて怖い」と弱気なことを思ってしまう。当方、あまり幸せに慣れてないもので。あわてて「いやいや、年度末がんばったから三嶋大社の神様からご褒美をいただけたんだ」と取り消しておいた。
社務所や宝物館のある総門の内に入ると、今度は三島桜や大島桜が並んでお出迎え。先の神池におけるあでやかな雰囲気から一変、こちらは華やかだけどどこか清々しく神社らしい装いに。宝物殿の向こうに鹿が飼育されている神鹿園があり、園内にも桜が咲いている。鹿に桜、ちょっと花札みたい……あ、花札は鹿に紅葉か。
神門を超えたら舞殿そして本殿へ。本殿でお参りしようと思ったら予想外の行列ができていた。無理もない。あの神々しい桜並木を見てしまったら、お参りをせずに引き返すなんてバチ当たりにも程があるだろう。もしかしたらいつも行列なのかもしれないが。列に並んでぼんやりしたり、スマホを眺めたりしながら参拝を待つ。ひとり旅は気楽でいいものだが、こういうときは所在なく寂しいものだ。
参拝後、せっかく三嶋大社に来たことだし、と境内で販売されている名物の縁起餅「福太郎」を食べていくことにした。「福太郎」とは烏帽子をかぶる翁の面を型どった餅。境内で箱入りのものが販売されているほか、座って食べられるスペースが用意されている。今回はお茶付きのセットを頼んでみたが、餡の甘さが控えめでしつこくなく上品な味。ただ、餅から盛り上がった餡を見て一瞬、烏帽子よりに先にリーゼントを連想してしまったのは、自分が昭和生まれだからだと思いたい。
三嶋大社
所在地:静岡県三島市大宮町2-1-5
TEL:055-975-0172
うなぎなのに「鯛」? 不思議なたい焼きをいただく
縁起餅をいただいたばかりではあるものの、三嶋大社を出たらいよいよ待ちに待っていた食事。三島といえばうなぎである。静岡のうなぎというと浜名湖を思い浮かべる人も多いかもしれないが、三島もうなぎが名物。富士山の雪解け水がもとになった湧水にうなぎを打たせることで、身の臭みや余分な脂が落ちるのが特徴だ。目指したのは三嶋大社の真向かい、横断歩道を渡ってすぐのところにある「すみの坊 三嶋大社前店」。
早速、並うな丼をいただいたが、並でありながらボリュームたっぷり。うなぎはフワフワの肉質で口に入るとすぐほどけてしまう。そして、うなぎ特有の泥臭さがあまりないのは、やはり三島のうなぎだからか。
そして、もう1つこのお店ならではの珍しいメニュー「うなぎたい焼き」をいただいた。うなぎなのにたい焼き。うなぎなの? 鯛なの? タネ明かしすると、タレを混ぜたご飯を皮代わりにして、うなぎの切り身をくるんだ、たい焼きの形をしたうなぎ飯。食べ歩きも可能な人気メニューだ。こちらもひと口いただくと、ご飯がややモチモチ食感だがやはりうな丼だ。
この「うなぎたい焼き」、お店の方によると1日60~70食の限定メニューで、この時期だとお昼ごろには売り切れてしまうとのこと。もし、これを読んで食べてみたいと思ったら、前日までに電話予約して取り置きしてもらうのがよさそうだ。
すみの坊 三嶋大社前店
所在地:静岡県三島市大社町18-1
TEL:055-972-3888
桜を見るために訪れて、うなぎで締めくくった三島への日帰り弾丸ツアー。きっかけはアサガオだったが、細い糸がつながっていき、気がついたら桜旅になっていた。微妙に「ただの思いつきを実行しただけじゃないか?」という気がしないでもないが、実際にプランを立てて行ってしまえば、それは「旅」になる。決して開き直りではない。決して……。
寒い季節が終わり、身軽になる春はちょっとしたふらり旅にうってつけ。自分の興味や関心を書き出してみれば、自分なりの素敵な旅のきっかけが得られるのではなかろうか。