旅レポ

静岡市には徳川家康ゆかりの地がたくさん! JR東海「どこ行く家康」キャンペーンで行ってみた

ひかり507号

 NHK大河ドラマ第62作目として放送中の「どうする家康」。古沢良太氏が脚本を担当し、松本潤さん演じる徳川家康の生涯を今までにない視点で描いたドラマとして話題を集めている。

 JR東海は、日程のピークや観光地などの定番をずらしてゆったり旅行する「ずらし旅」として、同ドラマの世界観を体感できる「どこ行く家康」キャンペーンを展開している。今回、キャンペーンの舞台の1つである静岡市で、1泊2日のプレスツアーに参加してきた。大河ドラマや徳川家康ゆかりの場所をめぐる様子をレポートする。

家康の嚆矢の地・静岡

三笑亭本店

 徳川家康は、75年の生涯のなかで、約3分の1を駿府こと静岡市で過ごしたという。現在の愛知県にあたる三河国で松平家の嫡男として生まれた家康は、幼少期を今川氏の人質として過ごしたことが知られている。静岡市は、このころに家康が教育を受けた臨済寺や、元服式を行なった静岡浅間神社を有している。また、家康が大御所時代に住んだ駿府城や、家康が埋葬された久能山東照宮があるのも、この静岡市だ。家康の始まりと終わりの場所といえる。

 新幹線でJR静岡駅に降り立ち、すぐに「三笑亭本店」へと向かった。100年以上営業しているというすき焼きが自慢の料亭で、厳選された静岡県産の黒毛和牛と季節の野菜を楽しめる。女将さんや仲居さんが、目の前で食べごろを見極めながら調理してくれた。お肉だけでなく、ねぎ、春菊、椎茸、糸こんにゃく、豆腐に秘伝の「割下」が染み込み、最後にはうどんも投入する。

静岡県産の黒毛和牛や季節の野菜を、女将さんが食べごろを見極めながら調理してくれる

 三笑亭は、昭和15年の静岡大火や昭和20年の静岡大空襲を乗り越え、市内で最も長い歴史を有する肉料理店となった。建物は、昭和23年から10年かけて建設されたもので、一枚板や大きな木がそのまま天井や柱に用いられている。店名は、中国の故事「虎渓三笑」にちなんでいるそうだ。虎渓三笑は、慧遠、陶淵明、陸修静が歓談していたところ帰り道でも話が尽きず、いつの間にか虎のいる渓谷を過ぎてしまい3人は大笑いした、という内容で、和気藹々と鍋を囲んで黒毛和牛に夢中になる三賢人が思い浮かぶ。

 ちなみに、三笑亭のすき焼きをコースで楽しめるのは基本的にディナーのみ。料金は1名9317円~1万2947円となる。

天井の一枚板

家康が元服式を行なった静岡浅間神社&大河ドラマ館

 続いて向かったのは、家康が元服式を行なったとされ、家康も神として祀られている静岡浅間神社。神部神社、浅間神社、大歳御祖神社の3本社と、麓山神社、八千戈神社、少彦名神社、玉鉾神社の4境内を総称して静岡浅間神社と呼び、駿河国総社・冨士新宮として千古の昔から広く崇敬されている。目に見える神社はこの7つだが、実際には合計40の神社に56の神々が祀られているのだそう。

八千戈神社
境内を案内してくださった宇佐美さん

 漆は紫外線に弱いため、紫外線に当たるとどんどん失われていってしまう。日が当たらない箇所ほどつやが残っているのはこのためだ。現在も、20年がかりで漆を塗り替える大工事の最中だった。1年あたり約3億円をかけており、あと11年ほどかかるという。社殿群はいずれも総漆塗りの極彩色で、漆塗りの面積としても日光東照宮に次ぐ規模だ。塗り替えの費用としては、合計50億円にのぼる。漆塗りによる外観の美しさは、江戸時代の儒学者・貝原益軒も次のように「東海の日光」として評価した。「美麗なる大社なり。日本にて神社の美麗なる事、日光を第一とし、浅間を第二とすと云う」

漆塗りの面積は日光東照宮に次ぐ規模で、江戸時代の儒学者・貝原益軒も「東海の日光」として評価した

 本殿や門の至るところに施されている彫刻は、信州諏訪に本拠を置き、中部地方に数多くの彫刻を残している立川一門が担当した。安永2年の火災で静岡浅間神社が焼失した後の再建のときから、初代、2代目、3代目へと受け継がれ、約40年間携わったという。この一大事業に携わった職人は、明治になって工事が終了すると、新たな別の職についた。これが、家具づくりや塗り下駄、プラモデル、ミニ四駆など、静岡の地場産業のはじまりである。特にプラモデルは、国内生産高の9割を静岡県が占めている。木工からプラスチックへ、職人が用いる素材が時代とともに変化していった。

安永の大火から逃れ、消火を手伝ったという伝説が生まれた「水呑の龍」

大拝殿から本殿へ

 楼門を通り、「舞殿」へと進む。境内の多くの建物が漆塗りを施されているなか、舞殿は素木造りで、前後に軒唐破風をつける三斗組入母屋造妻入の建物となっている。その向こうにある「大拝殿」は、高さ25mの巨大な建物。浅間神社は富士山を拝む信仰のため、このように大きく作られたのではないかと言われているのだそう。

素木造りの「舞殿」
大拝殿

 大拝殿のなかに入ると、その天井の高さに圧倒された。ぎっしりと10面の天井絵が施されているが、神社にこれほど大きな天井絵があるのはとてもめずらしいのだという。中央の2枚の龍の絵は1枚約6畳で、左右の天女の絵は1枚約4.5畳と、下から見た印象よりさらに大きいことがわかる。また、神部神社拝殿側には、ネズミやウサギなどの彫刻が、浅間神社側には、木花之開耶姫命(このはなさくやひめのみこと)にちなんだ桜や子授けに関する彫刻が多く施されている。

 彫刻を見上げていると、梁からちらりと覗く「目覚め猫」と目が合った。日光東照宮の回廊に「眠り猫」の彫刻があることが知られているが、静岡浅間神社の猫の彫刻は舌を出しており、起きていることからこのように名付けられたとのことだった。なお、「目覚め猫」と一緒に彫られている植物はホオノキと推定されているが、猫との組み合わせの理由についてはわかっていないそうだ。

天井の高さに圧倒される
天女の天井絵は1枚約4.5畳の大きさ
大拝殿から拝む神部神社と浅間神社
目覚め猫

 今回は、特別に本殿まで案内していただいた。神部神社と浅間神社それぞれにお参りする。この日は雲があり見えなかったが、本殿は富士山の方向を向いており、晴れた日には山容を臨めることもあるという。麓にいても見えなくなってしまったり、蜃気楼で浮き上がって見えたりと、その変わりゆく姿が富士山を信仰の対象としていることが感じられる。

 もちろん、本殿でも多様な彫刻を見ることができた。裏側には三代彫刻である「張果老」「力士・天人」「粟穂に鶉」があり、神部神社は麒麟の彫刻、浅間神社は虎の彫刻に守られている。

本殿へ
本殿
細部まで金箔が施されている

 西洋の建築や芸術作品が素材そのものを末長く使うのに対し、日本の芸術では設計図に魂が宿されてきたという。静岡浅間神社も、細部を彩る金箔や建築物の方角、彫刻など、すべてに意味が込められた空間だった。しかし、安永の大火を逃れたことから、口に水を含んで消火を手伝ったという伝説が生まれた楼門の彫刻「水呑の龍」のように、天災によって失われることなく存在し続けてほしいと思う。

お休み処。お土産も購入できる

静岡市大河ドラマ館

静岡市大河ドラマ館

 大河ドラマ「どうする家康」の放送に伴い、境内には1年間限定で大河ドラマ館がオープンしている。静岡市内でも撮影が行なわれた同作のメイキング映像やストーリーの解説、撮影で使われた衣装・小道具などを見ることが可能だ。白い衣装では、実際に撮影で使用された際についた汚れなども確認できる。

家康の衣装
家康・瀬名の婚礼衣装
今川義元の衣装

 なかでも興味深かったのは、人物デザインについてなど、スタッフワークのコーナーだ。松本潤さん演じる徳川家康が青色の衣装を纏っている理由や、今までにない徳川家康像がどのように作られていったのかなど、歴史に詳しい人もさらに楽しめるような展示になっている。ここでしか見られない出演者インタビューでも、それぞれのキャストが考える家康像を知ることができるので、これからドラマを観てみよう、という人もより気分を高められそうだ。

人物デザインの仕事や静岡について知ることができる

 4月28日には、展示内容が一部リニューアルされる。これまでのドラマで描かれた家康と今川氏・駿府との関係を振り返りつつ、駿府城跡の発掘現場で見つかった出土品などが新たに加わる。スタンプを集めることで静岡浅間神社の限定御朱印がもらえるスタンプラリー企画もスタートするそうなので、すでに訪れた人も再び楽しめるだろう。

「静岡市歴史博物館」で家康の生涯をおさらい! 地元・駿府の人々の暮らしとつながる

静岡市歴史博物館

 日が傾き始める前に、バスで駿府城周辺の景色を眺めながら「静岡市歴史博物館」へと移動した。1月13日にオープンしたばかりの博物館で、家康の生涯や駿府、今川氏について、家康を中心としたストーリー仕立ての展示が楽しめる。

 建築設計を手掛けたのは、さまざまな美術館を生み出してきた建築家ユニット「SANAA」。建物に入ると、戦国時代末期の道と石垣の遺構が広がっている。発掘現場をそのまま展示しているそうだ。2階の展示室入り口まで、この遺構をぐるりと見て回りながら長いスロープを進んでいく。

2階の展示室まで吹き抜けを長いスロープで進む
戦国時代末期の道と石垣の遺構をそのまま展示している

 2階には、75年の生涯のうち3分の1にあたる25年を駿府で過ごした家康の人生と人となりをたどる展示が用意されている。メディアテーブルなどデジタル技術を駆使した展示がされているほか、世界各国の施設がもたらした宝物や家康の私物、肖像画なども見ることができた。3階には、家康が整えた東海道・駿府城下町の人々の暮らしをテーマとした展示がある。商売やお祭り、お茶などの産業の様子が、屏風や絵図から読み取れる。静岡市の家康ゆかりの地をめぐってから展示を見てみると、駿府の人々のために家康が成してきたことやプライベートな一面がひと続きに感じられ、親しみが湧いてくる。

メディアテーブル
紅糸威腹巻
伊予札黒糸威胴丸具足
東照大権現像
桶狭間今川義元血戦
人宿町三丁目

 なお、3月25日~5月7日の企画展示として、「駿府の華 静岡浅間神社」が行なわれている。江戸時代の二度の大火で全焼し、60年の歳月を費やして再建された静岡浅間神社について、所蔵品を通じてその歴史を辿れる内容になっている。ゴールデンウィーク期間など、静岡浅間神社と併せて訪れてみてほしい。

企画展示として「駿府の華 静岡浅間神社」が行なわれている
駿府城跡を眺められる空間も

静岡市でマグロを食べるならここ! 「まぐろ専門店 焼津港みなみ」

まぐろ専門店 焼津港みなみ

「ホテルアソシア静岡」にチェックインした後、JR静岡駅を挟んで反対側にある「まぐろ専門店 焼津港みなみ」に歩いて向かった。地元の人に「静岡市でマグロを食べるならここ!」と言われるほどで、常に行列をなしている名店だという。

 静岡はわさびの名産地で、安倍奥清流や伊豆天城地域で採れた生わさびを醤油漬けにした「つんつん漬け」が有名だ。今回は、赤身やトロだけでなく、マグロの喉仏を使ったつんつん漬けもいただくことができた。

赤身やトロに加え、マグロの喉仏を使ったつんつん漬けもいただいた

 新鮮なマグロの盛り合わせにも、擦りたてのわさびが添えられている。わさびは透明感のある深緑色で、まずその美しさに驚いた。同時に辛そうな印象も受けたのだが、なめらかにとろけていくマグロを、意外にも支えるように香ってくる。マグロ自体も濃厚で甘みがあるため、次の1切れではわさびをつけるか、つけないか、と悩んでしまうほどだった。マグロと相性抜群の醤油ももちろん用意されているが、ぜひ1切れは何もつけずに楽しんでみてほしい。

ミニ海鮮丼
わさびにも光沢がある

 その2では、久能山東照宮や鰻の名店など、旅の2日目の様子をレポートしていく。

空室・料金チェック
編集部:大竹菜々子