旅レポ

タイ東部、ラオス国境沿いのアドベンチャーがスリリング! 闇夜に輝く2つの寺院は必見

断崖絶壁もあるタイ東部のウボンラーチャターニーへ

 タイ国政府観光庁のプレスツアーで観戦した、オートバイ最高峰レースのMotoGP世界選手権「PTT Thailand Grand Prix」(MotoGPタイグランプリ)。

 このイベントが開催されたブリーラムのチャーン・インターナショナル・サーキットがあるタイ東部には、なかなかスリリングなアドベンチャーを楽しめるスポットがある。MotoGPのレースの迫力に負けない大自然のアクティビティと、闇夜に輝く寺院をチェックしてみよう!

洪水被害のあったウボンラーチャターニーで巨大ポンプ車が展示

 ブリーラムの市街中心部から東へ約240km、クルマで3時間ほどのところに位置するウボンラーチャターニーは、隣国のラオスに接するタイ最東部の県だ。日本ではあまり報道されていないが、付近一帯では9月半ばに大雨による洪水被害があり、その被害の爪痕は至るところで目にした。ただ、訪れた10月初旬は完全に水が引いて活気を取り戻しており、今後観光の際に洪水の影響を直接受けることはまずないだろう。

メコン川では増水した流れが川沿いの土手を階段ごと削り取っていった
川の中洲の灌木に引っかかるゴミ。この木がすっかり隠れるくらいまで増水したことが分かる

 洪水に関連して、ウボンラーチャターニーの街のシンボルの1つであるラクムアン(市の柱)の前には、浸水した地域の排水のため街に貸し出された巨大なポンプ車が展示されていた。実はこのポンプ車、2018年7月に北部のチェンライで少年たちが閉じ込められたタムルアン洞窟の事件でも活躍したもの。ポンプ車には横断幕が掲げられ、そこに感謝や応援の言葉を書き込む人々の姿が絶えなかった。

ウボンラーチャターニー中心部にあるラクムアン(市の柱)
ラクムアンの前に設置されていたポンプ車
次々と人が訪れ、メッセージを書き込んでいた
エンジンは日本のいすゞ製で、排気量は6000cc。1分間に2000Lの排水能力がある
全長20m、パイプ部分だけで16mある
運転席
運転席の前方には「#SAVEUBON」のハッシュタグが書かれたステッカー
ラクムアン(市の柱)

足のすくむ絶壁と壁画、キノコ形の奇岩がまとめて見られるパー・テーム国立公園

 そんなウボンラーチャターニーの街からさらに東へ100km、パー・テーム国立公園まで足を伸ばすと、東部最大のアドベンチャースポットと言ってもよい断崖絶壁にたどりつく。メコン川を隔ててラオスを臨む崖上からは、まさに息を呑むようなパノラマが広がる。

手すりも何もない断崖絶壁
メコン川とその向こう岸のラオスを臨む

 ただし手すりなどは設置されておらず、ちょっとでも足を滑らせれば崖から真っ逆さまなので要注意。写真映えを狙って崖の縁から脚を投げ出して撮影する人もいるが、自己責任で!

足を投げ出して撮影する人も

 ところでこの断崖絶壁は、ただの切り立った崖というわけではない。崖下には片道2km以上の徒歩ルートがあり、その途中で3000~4000年前に描かれたと見られる古代の壁画を目にすることができる。人や動物の姿、手形などがおおまかに4か所に分かれて描かれていて、なかには長さ180m、計900m 2 の広範囲にまとまって描かれているところもある。

崖下の壁画へと至る道
壁画をすべて見るルートは片道2km余り
岩が張り出した崖の下を歩く
1か所目の壁画。魚のような絵やオブジェなどが見える
頭をぶつけそうになる狭いところを通り抜けて次の壁画へ
最も広範囲に描かれている2か所目の壁画
ゾウや魚、瓶らしきものが描かれている
壁画はずっと先の方にも続いている

 真夏の暑さのなか、起伏の多い森をひたすら歩くような形になり、水が流れる滑りやすいポイントもある。壁画を観察するときはトレッキングに出かけるくらいのつもりでしっかり装備を整えておきたい。巨大な壁画は古代の人々にとって日々の出来事を記す日記のようなものだったとされているが、ここで何を思い、どんな暮らしをしていたのか。大自然を歩きながら、そんなことに思いをはせずにはいられない。

手形や記号のようなものが描かれている
崖上から小雨のように降り注ぎ、足元を濡らしている
GPSによる実測では2.75km歩いた

 さらに断崖絶壁から1~2km離れた場所にあるのは、「サオ・チャリアン」と呼ばれるキノコ形の奇岩。まるで皿のような岩が水に流され、別の岩の上に乗り上げてしまったように見えるが、長年の浸食で脆い部分が削り取られ、危ういバランスをギリギリでキープするような奇岩が形作られたという。

キノコ形の奇岩がある「サオ・チャリアン」
岩が別の岩に乗っかってできたように見えるが、浸食や風化でこのような形になったという
下から見上げるとなかなかの迫力

 これら奇岩群は遠くから眺めることも、近づいて触れることもできる。近くで見れば見るほど、上に乗っている岩が絶妙なバランスで支えられていることが分かるだろう。しかしさらに浸食が進めば、いずれはこのキノコ形の岩も崩れて見られなくなってしまうかもしれない。今のうちに、この岩の奥にある、岩盤の隆起によってできたとされる亀裂の入った大岩とあわせて見ておきたい。

登って近づくこともできる
見れば見るほど奇跡のようなバランスで成り立っているように思える
奇岩に向かって右側、奥の方に入っていくと、地割れしているかのような岩の地面が現われる。地盤が隆起し、割れたためにできた地形とのこと
パー・テーム国立公園

2色の川の流れを見るならボートから!

 もう1つのアドベンチャースポットは、パー・テーム国立公園の南、メコン川とムン川の合流地点に現われる色違いの流れ、「Two-Color River」と呼ばれる場所だ。メコン川の茶色く濁った水と、ムン川の緑色の水とが合流するところでは、きれいに2色に分かれて見えることがあり、合流地点に設けられた展望台からその様子を観察できる。

真ん中から川が2色に分かれて見える「Two-Color River」の展望台
展望台から正面を眺めると2色に分かれて見える、という話だが……
左方向から奥方向へメコン川が流れ、右側からムン川が流れ込んでいる。写真の手前と奥側とで分かれて見えるというが、この日は見にくかった

 ただし、きれいに2色に分かれて見えるかどうかは運に左右されるところもある。天気のよい、ある程度日が昇った時間帯で、合流地点からムン川の10kmほど上流にあるダムから放流されているとき、といった条件に合致していないと、どちらも茶色く濁った水になるので境目が分かりにくくなるようだ。

 よりはっきり境目を見てみたいなら、近くのボート乗り場から貸切ボートで直接川の境目まで行くのもアリ。10人までなら、船頭付きのボート一隻を600バーツ(約2161円、1バーツ=約3.6円前後)で借りることができる。川の上を移動するだけとはいえ、ここは一応ラオスとの国境。乗船前には国境を警備する人たちに写真撮影されるなど、やや緊張する場面もある。が、それも含めてメコン川の冒険を楽しみたい。

近くにあるボート乗り場
10人まではボート1隻で600バーツ(約2161円)。10人以上は乗船定員まで1人あたり60バーツずつ追加
乗船前に写真撮影がある。国境らしい緊張感が少しだけあるが、堅苦しい感じはない
ボート乗り場は本来もっと整備されているはずだが、洪水で流されてしまったもよう
転ぶと泥だらけなるので慎重に坂を下りて乗り込む
いよいよ出発
雄大なメコン川の流れをいったん遡る
ラオス側には砂浜海岸のような場所も
移動や物資の運搬、漁のためのボートが頻繁に行き交う
Two-Color Riverの展望台が遠くに見える
右側からムン川が流れ込んでいる
後方はメコン川の上流
この近辺では2つの川の流れがぶつかる影響で渦があちこちで発生している

 なお、今回筆者が訪れたタイミングではダムの放流が止まっており、大雨の影響で川が濁りやすい状況でもあったのか、残念ながら2色に分かれて見えることはなかった。地元の人の話によると、6月、12月、1月が一番はっきり見えやすい季節だそうだ。メコン川の流れは冷たく、ムン川の方は温かいことから、ボートの上から川に手を差し込んで、水温の違いによって境目をはっきり知ることもできるだろう。

ムン川の上流方向を臨む
川面が横方向にシワのようになっているところが2つの川の流れがぶつかるところ。ここを境に水温がはっきり変わる
手を川に差し込んで見ると違いがよく分かるはずだ
Two-Color River View Point

闇夜に輝く2つの寺院

夜になると光輝く「ワット・シリントーンワララーム・プープラオ」

 ウボンラーチャターニーには、夜になると光輝く寺が2つもあるという。1つは「Two-Color River」のさらに南にある、「ワット・シリントーンワララーム・プープラオ」という寺院。昼間はにぎやかな絵が描かれた寺院だなあ、という印象だが、日が暮れて暗くなってくると、徐々に寺院の壁の絵や周囲の地面の一部が淡い光を放ちはじめ、幻想的な雰囲気を醸し出す。

出家した子供たちが大勢集まっている
僧侶の方もドローンで撮影する時代
正面から見た本堂
本堂の裏側の壁が光るということらしいが……

 壁面や地面が特殊な塗料でペイントされていて、日中に蓄光したものが夜に放出されるというシンプルな仕掛けながら、周囲が完全に暗闇に包まれても、なんとなくずっとぼんやり眺めていたくなる。カップルのデートスポットに最適かも。寺院の出入り口付近の歩道には誰もがよく知る日本のキャラクラーやマークが彫られた石畳が敷き詰められ、伝統ある寺院ながら自由さあふれるスタイルもおもしろい。

日が落ちて暗くなってくると、じわじわ光り始めた
昼間は花が描かれていた地面も……
ぼんやり光って見えるように
ワット・シリントーンワララーム・プープラオ

 もう1つは、ウボンラーチャターニーの街の中心部、「ワット・プラタート・ノン・ブア」という寺院。こちらはホワイトとゴールドが目に映える尖塔のようなシルエットで、夜の闇とライトアップされた寺院とのコントラストが美しい。夜にもかかわらず、祈りを捧げたり、おみくじで運勢を占ったりする現地の人や観光客が多く訪れていた。

「ワット・プラタート・ノン・ブア」
夜でも黄金色に輝いている
ライトアップされた本堂と暗闇のコントラストが美しい
本堂の内部
夜でも多くの人が訪れ、祈りを捧げている
おみくじで運勢を占う人も

 ちなみに寺院の敷地内では、毎年7月ごろにウボンラーチャターニーで開催されるキャンドル・フェスティバルで使われる、ロウで作られた巨大オブジェが見られる場合もある。一回り小さいレプリカのオブジェも常に2体設置されていて、これらを目の当たりにすると、ウボンラーチャターニーのお祭りの壮大さを否応なしに予感させる。MotoGPタイグランプリが開催される3月もよいけれど、お祭り期間中の7月もウボンラーチャターニーの見どころは多そうだ。

山車のようにして使われる、ロウでできた巨大なオブジェ。前回のキャンドル・フェスティバルで実際に使われたものだという
日沼諭史

1977年北海道生まれ。Web媒体記者、モバイルサイト・アプリ運営、IT系広告代理店などを経て、執筆・編集業を営む。IT、モバイル、オーディオ・ビジュアル分野のほか、二輪・四輪分野などさまざまなジャンルで活動中。どちらかというと癒やしではなく体力を消耗する旅行(仕事)が好み。Footprint Technologies株式会社代表。著書に「できるGoPro スタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)などがある。