旅レポ
“レースファンの聖地”インディアナポリス・モーター・スピードウェイに行ってみた
佐藤琢磨選手が日本人として初優勝したインディ500から1年
2018年7月3日 00:00
北米最高峰のモータースポーツ・シリーズとなる「インディカー・シリーズ」第6戦「第102回インディアナポリス500マイル・レース」(102ND RUNNING OF THE INDIANAPOLIS 500:通称インディ500)が、米国インディアナ州の州都インディアナポリス市のインディアナポリス・モーター・スピードウェイで5月15日~27日の12日間にわたって開催された。
2017年のインディ500は佐藤琢磨選手が優勝したことで大きな話題となったが、筆者は2018年のインディ500を取材するために、5月下旬にインディアナポリス・モーター・スピードウェイがあり、インディアナ州の州都になるインディアナポリスに旅行することになった。インディアナポリス・モーター・スピードウェイに併設されている、殿堂博物館(Hall of Frame Museum)などの観光名所にも行ってみたので、その模様をお届けしていきたい。
行ってみて分かったことは、インディアナポリス・モーター・スピードウェイ、それ自体がレースファンにとって聖地のような場所だったし、まさに「聖地巡礼」のような旅になった。
インディアナポリス空港に着いたときからインディ500は始まっている、「This is May」などの歓迎メッセージ
インディアナポリス空港は、アメリカの空港としては中規模の空港で、到着ロビーと出発ロビーが1つの構造になっている。出発の場合は手荷物検査の前、到着の場合は制限エリアから出たところがホールになっており、そこの窓になる部分に「This is May」(これが5月だ)とのメッセージとインディ500のロゴが飾られている。
それだけなくホールにはインディカーのショーカーが飾られており、そこにはドライバー達のサイン(英語ではAutograph)が書かれており、最も目立つドライバーのヘッドレスト部には昨年の優勝者である佐藤琢磨選手のサインが入っていた。また、到着したゲート近くのエスカレータにも、佐藤琢磨選手の写真が入っていたりして、インディ500に優勝するというのはこういうことなんだなぁとしみじみ感動したのだった。
そのインディアナポリス空港のホールには、その名も「500 GRILL」と呼ばれるレストランもある。インディ500のロゴなどもついているため、インディアナポリス・モーター・スピードウェイのオフィシャルストア的なレストランのようだ。メニューもなかなか徹底して、料理の種類も「Appetizer Row」(前菜列)、「Salada Row」(サラダ列)、「Burger Row」(バーガー列)のように、インディ500のスターティンググリッドがRow(列)で紹介されるのに引っかけていた。
もちろんメニューもその関連になるようにしており、たとえばオニオンリングは、「Pole Position Onion Ring」(ポールポジションオニオンリング)、チーズ、チキンやオニオンリングなどの揚げ物の盛り合わせは「4th Turn Combo」(第4ターン盛り合わせ)となっていた。4th Turn Combo、Carb Day Platter、今回はそのお味の方はアメリカのファミリーレストラン的なお味で、ケチャップなどの調味料を上手く組み合わせると割と美味しくいただくことができた。インディ500の期間中は、町中インディ500一色なので、わざわざここのレストランに行く必要があるとは思えないが、乗り継ぎなどでインディアナポリス空港に行くという機会があったりすれば寄ってみるといいのではないだろうか。
インディ500が行なわれるIMSは、それ自体が1つの博物館のような存在
到着した日の翌日には早速サーキットに行って、各種のイベントに参加した。この日はレースの前々日に当たる金曜日で、カーブデーと呼ばれており、午前中に最終の練習走行が行なわれ、その後ピットストップチャレンジなどの各種イベントが行なわれる。同じようにレース前日に当たるレジェンズデーも同様で、この日は走行はなくドライバーサイン会やオープンドライバーズミーティングなどの各種催しものだけが行なわれている。
ガソリンアレイと呼ばれるインディアナポリス・モーター・スピードウェイのガーレジエリアに入れるチケットを持っている来場者はピットエリアにも入れるほか、練習走行後にコースに出て、実際にインディカーが走ったあとを歩いたりできる。
実際、カーブデーにはそうした来場者でコース上はあふれていた。IMSのコースに出られるとなれば、やることは1つだ。
「Brickyard」というIMSの愛称の由来にもなった、スタート/フィニッシュラインに埋められたレンガのラインだろう。実際に、筆者もそのBrickyardに行ってみたが、多くの来場者がBrickyardにキスをして、それを写真に収めていた。今回初めて行ってみて気がついたことは、Brickyardってコース上だけなのかと思っていたら、実際にはピットロード側にも続いていて、それは「へー」と思わされた。
また、そのガソリンアレイ(IMSのガレージエリアの名称)に回ってみると、チームのガレージを外から覗くことができる。レーシングマシンの整備している様子を、間近で見ることができる貴重な機会だ。インディカーの特徴は、このようにファンとチームがとても近いところで接することができることにある。また、ドライバーも同様で、筆者がガソリンアレイをうろうろしていると、ちょうどエリオ・カストロネベス選手が、ファンにサインをしている様子に遭遇した。ドライバーはとても忙しいはずだが、カストロネベス選手はチームの関係者が呼びに来るまでずっとサインを続けていたのが印象的だった。会場でドライバー紹介などを見ていると、カストロネベス選手やトニー・カナーン選手などの時にひたすら声援や拍手が多きことにすぐ気がつかされる。そうしたのも、こうした地道なファンサービスの賜なんだぁと感じた。
そして決勝レースの翌日にはIMSにあるホンモノの博物館「Hall of Frame Museum」に「お参り」する
その後5月27日に決勝レースを取材し、決勝レースのレポート(僚誌Car Watchの記事参照)を仕上げたりして、仕事は完了。翌日の5月28日は予備日にしていたので、その空き時間を利用してインディアナポリスの市内などをちょっとした観光してみることにした。
といっても、インディ500を見に来ているのだから、もちろん見に行くところはインディ500関連だ。最初に行ったのは、インディ500が開催されたIMSの中にある殿堂博物館(Hall of Frame Museum)だ。殿堂博物館は、インディ500関連の車両やドライバーのグッズなどが展示されている博物館で、入り口にはお土産を売っている公式ショップがあり、その奥に博物館がある。入場料金は大人10ドル(1100円、1ドル=110円換算)、子供(5歳~15歳)5ドル(550円)、5歳未満は無料となっている。
筆者が訪れた時期には「Amazing Unsers」という企画展が行なわれていた。Unsersというのは「アンサー家族」という意味で、ボビー・アンサー、そしてその弟のアル・アンサー、そしてアル・アンサーの息子であるアル・アンサー・Jrの3人のレジェンドドライバーをだしているファミリーのことを指している。
この3人で合わせてインディ500が9勝、インディカー・シリーズのチャンピオン7回、インディカー・シリーズでの優勝108回、83回のインディカー・シリーズでのポールポジション、1万4377回のインディカー・シリーズでのラップリード、909回のインディカーシリーズレースのスタートという、とてつもない記録を残したファミリーだ。比較対象が、3世代続けてインディカードライバーを輩出しているアンドレッティ・ファミリー(祖父マリオ、父マイケル、そして孫で現役のマルコ)がインディ500の優勝は祖父マリオの1勝でしかないと言えば、アンサーファミリーがいかにすごいか分かるだろう。
今回の企画展では、そうしたアンサーファミリーのインディ500が9勝の車両が展示されており、実際に見ることができた。40代半ばの筆者はアル・アンサーJrの活躍ぐらいしかリアルタイムには覚えていないが、その父のアル・アンサー、ボビー・アンサーも歴史としてだけ知っており、それに初めて近づくことができたのは非常に貴重な機会となった。展示されている車両はインディカーだけでなく、ポルシェ962のような、父アルと息子アル・Jrが組んでIMSAレースに出たときの車両なども展示されていた。
展示されている第1回、100年目、100回目の優勝車両のうち2台がホンダ・エンジン車に感動
常設展の方には、インディ500を彩った車両が展示されている。なかでも中央に展示されているのは3台の車両。真ん中の黄色い車両は第1回(1912年)のインディ500の優勝車両。そしてその左右に展示されているのは100年目にあたる2011年の優勝車両であるダラーラ・ホンダ(ドライバーは故ダン・ウェルドン)と100回目にあたる2016年の優勝車両であるダラーラDW12・ホンダ(ドライバーはアレクサンダー・ロッシ選手)。こうしてみると、100年目も、100回目もホンダエンジン搭載車だったことが分かる。これって考えて見ればすごいことで、我が国のメーカーであるホンダもアメリカモータースポーツの文字通り殿堂入りなのだなぁと素直に感心した。
なお、昨年の佐藤琢磨選手の優勝車両は、日本に送られてツインリンクもてぎにあるホンダ・コレクション・ホールに収蔵されているため、ここにはない。
このほかにも、非常に貴重な車両がいくつも展示されていたほか、過去のドライバーのヘルメットなども展示されていた。そして壁には、歴代の優勝者の写真が。もちろんその2017年の箇所には佐藤琢磨選手の写真が……。今回のインディ500ではそこかしこに佐藤琢磨選手の写真が飾られていた。こうした結果を出した人へは誰であろうが、どこの国の人であろうがリスペクトするというのはアメリカの素晴らしい文化だと筆者は思っているが、それを再確認すると同時に、インディ500に勝つということの「価値」を再確認させてもらった。今年での佐藤琢磨選手はレース開始早々にアクシデントでリタイアになってしまいとても残念だったが、いつの日か、また日本人のドライバーがインディ500を制覇するという日が来るといいなと願わずにはいられなかった。
SATO通り、Power通りなど、インディ500参戦ドライバーの名前が通りの名前に
そうした殿堂博物館を楽しんだあとは、インディアナポリスのダウンタウン(中心街)へと行ってみた。というのも、インディ500の週末には、各通りの名前を示す標識がドライバーの名前に変えられているからだ。今回の目的地はもちろん「SATO St」に変わっている標識だ。「SATO St」は、インディアナポリスの中心の中心と言える、Soldiers and Sailors Monumentという、米国の戦死した兵士達をたたえる塔の北側にあるノース・メリディアン通りが「SATO St」に変更されていた。メリディアン通りは、Soldiers and Sailors Monumentを貫く通りであるということからも分かるように、インディアナポリスの目抜き通りの1つと言ってよく、それが「SATO St」になっていたというのにも、やはりインディ500勝者へのリスペクトを感じた。
ほかにも、今年のインディ500ウィナーとなったウィル・パワー選手の「Power PL」(パワー通り)、人気のエリオ・カストロネベス選手の「Castroneves Dr」(カストロネベス通り)、今年のインディ500でレースからの引退をした女性ドライバーダニカ・パトリック選手の「Patrick Ave」(パトリック通り)などを見つけることができた。なお、基本的には全選手の名前がついた通りがどこかにはあるとのことなので、それを探して歩くのも楽しいだろう。