旅レポ
日本海きらきら羽越観光圏で地元食材を使った料理や人気観光地を巡ってきた(その2)
特産品や伝説のカクテル、農家民宿で郷土料理を楽しむ
2017年10月24日 00:00
新潟県、山形県、秋田県の3県10市町村にまたがる観光エリア、日本海きらきら羽越観光圏。前回は、プレスツアーで堪能してきた、海の幸を中心とした魅力的な食について紹介したが、今回は、海鮮以外の食や特産品、そして実際に泊まった宿などを紹介したいと思う。
山形県の庄内町で200年受け継がれている手作りほうき「槇島ほうき」
最近では、家庭でほうきを使うことがめっきり減っている。しかし、山形県には日本だけでなく、世界的にも注目を集めているほうきがある。それが、山形県東田川郡庄内町で作られている「槇島(まぎしま)ほうき」だ。
槇島ほうきは、庄内町の槇島集落で200年前から作られているそうだ。元々は槇島集落の農家が使っていたもので、その出来のよさから行商も行なわれていたという。
この槇島ほうきは、「ほうききび」というトウモロコシの仲間の植物を使って作られている。ほうきの穂先から持ち手の部分まで、ほうききびを束ねて作られていることで、一般的なほうきにはない重厚で独特なデザインとなっている。しかし、その重厚なデザインとは相反するように、非常に軽いのが特徴だ。実際に手に持ってみると、そのサイズ感からは考えられないほどに軽く、とても扱いやすいのに驚かされる。
また、非常に丈夫という点も特徴の一つ。ほうききびの穂先は、一般的なほうきにはない適度な堅さがあることで、使っている間の摩耗が少なく、長期間使えるのだという。実際に、座敷や台所など室内で15年ほど使い、その後は稲作の作業所で使うというように、30~50年も使っているそうだ。穂先を手で触ってみると、一般的なほうきに比べるとごつごつとした印象を受けるが、とはいえしなやかさもあり、扱いやすいほうきと感じる。
カラフルな点も特徴だ。もともと槇島ほうきは、黒の糸のみで編んで作られていたそうだが、時代の変化に合わせるように、赤や緑など、カラフルな糸を使ってデザイン性を高めた。また現在では、部屋の掃除に使う大型のものだけでなく、テーブルやパソコンのキーボードのすき間を掃除する小型のもの、さらには根付やストラップ用のものまで、さまざまなサイズのものが作られるようになっている。
そしてなにより大事なのが、槇島ほうきはすべてが手作りという点だ。大量生産ができないことや、原料となるほうききびの栽培から始まりほうきが作られるまでに多大の時間と手間がかかる。価格は製品によって1500円~1万5000円と幅があるが、8年ほど前に槇島ほうきがマスコミで紹介されて以降、一時は長期間待たないと購入できないほどの人気になったそうだ。
この槇島ほうきは、JR羽越本線 余目駅の駅前にある、庄内地方の観光拠点施設「庄内町新産業創造館クラッセ」で販売されている。米倉庫として使われていた建物を活用して作られた施設で、庄内地方の観光情報の紹介はもちろん、庄内地域の特産品も多数販売されている。槇島ほうきに興味がある人はもちろん、庄内地方を観光する場合には足を運んでみるとよいだろう。
酒田で伝説のカクテル「雪国」を味わう
筆者は下戸なので、お酒についての知識はかなり乏しい。日本酒やワインの味がまったく分からないのはもちろん、カクテルの種類もほとんど知識がない。そのため、日本発祥で世界的に有名な「雪国」というカクテルがあることも、今回のツアーに参加するまで恥ずかしながらまったく知らなかった。
雪国というカクテルは、井山計一さんというバーテンダーが1959年に考案したものだ。ウォッカをベースとして、ホワイトキュラソー、ライムコーディアル、ミントチェリー、レモン、砂糖を使って作られている。当時のコンクールでグランプリを獲得し、現在では日本だけでなく海外でも「YUKIGUNI」として親しまれている、数少ない日本発のスタンダードカクテルだ。
この雪国を考案した井山さんは、1952年(昭和27年)にバーテンダーとなり、現在でも現役で活躍している、伝説のバーテンダーだ。その井山さんが活躍しているお店が、酒田市にある「ケルン」だ。1955年(昭和30年)にオープンした井山さんがオーナーのお店で、井山さんが現役で活躍していることもあって、全国から客が集まる知る人ぞ知る人気店だ。
ケルンは、朝から夕方までは喫茶店、夜はバーとして営業しており、井山さんは19時以降のバー営業時間にカウンターに立つ。1926年生まれで、今年(2017年)で91歳になるが、凜々しい出で立ちでカウンターに立ちシェーカーを振る姿や軽妙な語り口からは、その年齢をまったく感じない。
そして、目の前に置かれた雪国。淡い緑色とミントチェリーの濃い緑が高原のように、そしてグラスの縁に付けられた白い砂糖が降り積もった雪のように感じられる、とても印象的な見た目だ。口にすると、淡い酸味と甘さの強い味わいが口に広がるとともに、見た目に反したガツンとしたアルコール度数の高さに驚かされる。口当たりがよく、見た目にも味わい的にも女性が好みそうなカクテルという印象だが、このアルコール度数の高さでは、筆者のような下戸には1杯だけでも酔い潰れてしまいそうだ。井山さんいわく、ほかの店で出されている雪国は、フレッシュライムを使うことで酸味が強く、色も透明なものが多いのだそうだが、もちろんケルンで出される井山さんが作る雪国の味がオリジナルだ。
ケルンでは、雪国以外にも井山さんが考案したオリジナルカクテルを数多く楽しめる。今回はそのオリジナルカクテルのなかから、新作として提供されている「おばこ」もいただいた。女性のくちびるをイメージしたという、淡いピンク色のカクテルで、にごり酒にラム酒(バカルディ)、グレナデンシロップを合わせている。色はピンクだが、メロンのような風味で、口当たりはとてもなめらか。ただし、こちらもアルコール度数はかなり高めなので、飲み過ぎには要注意だ。
店内には、昭和の歌謡曲が流れ、カウンター席やテーブル席などもまさに昭和の喫茶店やバーそのものといった雰囲気で、とても懐かしい印象だ。そしてなにより、井山さんの人柄や会話に、否が応でも引き込まれしまう。カクテル好きはもちろん、ゆったりとお酒を楽しみたいなら、酒田で外せないお店と言ってよいだろう。
酒田市中心部の屋台村で美味しい料理やお酒をいただく
酒田市中心部、柳小路の一角に2015年10月にオープンした「酒田柳小路屋台村 北前横丁」。今、全国各地で屋台村が登場し、人気を集めているが、この北前横丁も、酒田で注目を集めている屋台村だ。屋台村入り口には、大船渡市の船大工が約2年かけて本物に忠実に復元したミニチュアの北前船が飾られているが、酒田にはその昔、北前船の海運によって大いに栄えた歴史がある。北前横丁は、その賑わいを取り戻すべく、北前船にちなみ、繁栄していた時代の酒田の風情も織り交ぜつつ立ち上げられたという。
北前横丁のある場所は、元々は古くからの旧家が営む薬屋だったそうだ。しかし、近年はずっと空き家で、建物もかなり朽ちつつあったため、商店街の一角でもあるこの一等地をどう活用するか、長年の課題となっていたそうだ。
酒田市は、ほかの地方都市同様に、郊外に大型店舗などができることなどによって、中心部の空洞化が問題になっている。そういったなかで、商店街の一角に朽ちつつあった薬屋の土地建物の所有者と10年ほどの話し合いを経て、中心部の活性化を狙って作られたのが、この北前横丁というわけだ。
今、全国各地に屋台村は存在しているが、この北前横丁は、八戸屋台村「みろく横町」の中居雅博代表によるプロデュースのもと設置された。中居代表は、衰退する地方都市の中心市街地に賑わいを創出するとともに、地域づくりや街づくりにつながる取り組みを行なうこと、情報発信の拠点とすること、そして地域の若手起業家を育成することなどを屋台村の目的と定めているという。この北前横丁も、その趣旨に賛同して運営されているわけだ。
北前横丁では10店舗のお店が営業している。この10店舗という数は、“人口1万人につき1店舗”という中居代表が定めるルールに従ってのものだという。同様に、各店舗の席数が8席となっている点や、店の大きさなどにもルールがあり、それに従ってのものとのことだ。
屋台村ができるまでは、できてしばらくは賑わっても、すぐに飽きられるだろう、という声もあったという。加えて、オープン前は出店応募も少なく、当初は5店舗のみでのスタートになったそうだ。しかし、オープン後は非常に盛況で、オープン後すぐに店舗が埋まり、半年後には10店舗でフルオープン。その後も現在に至るまで、順調に客数は伸びているとのことだ。このあたりは、営利目的のみで運営されている屋台村とは異なり、地域の活性化や若手起業家の育成などを目的としていることも、大きくプラスに働いていると言えそうだ。
お店は、庄内地方の海や山の幸を使った和食を提供するお店から、串カツ、焼き鳥、居酒屋、中華、ピザ、ラーメンなど、バラエティに富んだ10店舗が運営されている。そして、そのうち半分はUIJターン者が運営しているという。その人たちは、庄内地方の魅力に惹かれて集まってきたそうで、いずれの店も地元の食材を活かした料理を提供。地元の老若男女が集い、わいわいと楽しんでいる姿を見ると、すっかり定着し、受け入れられているように思える。かといって、観光客が入りにくい雰囲気もない。店はオープンスタイルとなっていて、雰囲気も明るいため、気軽に足を運んで食事や酒を楽しめるはずだ。実際に、我々ツアー一行は一見の客だったにもかかわらず、どの店もフレンドリーに接してくれて、とても楽しいひとときを過ごせた。酒田を訪れ、酒田市内で宿泊するなら、足を運びたい場所だと感じた。
ちなみに、この北前横丁は、先ほど紹介したケルンから道を挟んだ目と鼻の距離なので、双方をハシゴして楽しむのがお勧めだ。
築130年超の農家の母屋を改装した農家民宿で、絶品料理を堪能
今回のツアーは、2泊3日の日程だったが、そのうちの1泊は、山形県鶴岡市にある農家民宿での宿泊だった。この農家民宿は、「農家の宿 母家」。実際に鶴岡市内で農業を営みながら、自宅を改装し、民宿を始めたのだという。
農家の宿 母家の建物は、築130年を超える古民家だ。純和風建築で、改装されているとはいえ、民宿というよりも、まさしく昔懐かしい民家そのもの。外から見ると、そこで民宿が営まれているとはにわかに信じられないほどだ。
この、農家の宿 母家を経営しているのが小野寺家。この地で長年有機栽培でお米や野菜などを育ててきた古い農家で、2002年から農家の宿・母家とレストランを小野寺美佐子さんが創業。現在は息子の小野寺紀允さんが、農業の傍ら経営している。主体はもちろん農業で、宿にはホテルのような充実した設備はないかもしれないが、田舎のおばあちゃんの家に帰ってきたような、ほっとする雰囲気は、ほかの宿では味わえないと感じる。
そして、農家の宿 母家の最大の魅力が、小野寺農園や庄内地域で育てられた有機栽培のお米と野菜などを使った郷土料理だ。提供される料理は、そのときにちょうど食べ頃の食材から作られるものばかり。当日収穫したり仕入れた食べ頃の野菜や肉、魚を吟味して、それから献立を考えるそうだが、とにかく新鮮な野菜を心ゆくまで堪能できるのが大きな魅力。使われる野菜や肉、魚は、ほとんどが自家製か地元産のものばかりで、地産地消にもこだわっているそうだ。
料理の内容は、基本的には地元の郷土料理が中心となっている。こちらも宿と同じように、派手な内容ではないかもしれないが、どれも非常に優しい味わいなのはもちろん、野菜の美味しさが直接伝わるものばかりで、見た目の素朴さと美味しさのギャップにとても驚かされる。
そして、なにより忘れられないのが、ご飯の美味しさだ。有機栽培で育てられた自家製のひとめぼれは、見た目はつやつやで、食感はもちもちとしており、噛むたびに口いっぱいに甘みが広がる。その美味しさは、ご飯だけ食べても飽きることがないと感じるほどで、まさに感動ものだった。過去に、有名観光地の旅館の料理人から「この米を出せるのは卑怯だ」と言われたことがあったそうだ。もちろんそれは最大級の褒め言葉だが、そう思うのも当然だな、と感じた。
このほか、農家の宿 母家では、宿泊時に農業体験も可能だ。農作業の忙しい時期など難しいこともあるそうだが、実際に小野寺農園で育てている野菜を収穫したり、農業についていろいろと教えてもらえる。そして、その農業体験で収穫した野菜を使った朝食を提供することもあるという。特に、子供にとってこういった体験はかなり貴重なものとなるはずだ。
農家の宿 母家は、宿泊は1日2組限定とのことで、宿泊料金は朝食付きで大人(中学生以上)6415円、子供(小学生)5076円だ。実は、かなり人気の宿で、リピーターも多く、予約が難しい時期もあると思うが、庄内地方を観光する際の宿としてお勧めしたい。
さらに、宿泊せずに食事だけ楽しむことも可能だ。実は、農家の宿 母家では、レストラン「菜ぁ」も営業しており、ランチと夕食を提供している。ランチは基本予約不要で842円からのランチメニューが用意され、別途予約すればコース料理もいただける。
夕食は完全予約制となり、2268円から4179円のコース料理を用意している。鶴岡市内からはやや離れた郊外にあり、公共交通機関もないため、クルマで訪れるのが基本となるが、食事だけでもわざわざ訪れるだけの価値は十分にあるので、鶴岡方面を訪れる際には、ぜひともこちらにも足を運んで、絶品のご飯と郷土料理を楽しんでもらいたい。