ニュース

JAL、女性の活躍推進とワークスタイル変革に向けた“意識改革”を促す社内フォーラム

2015年7月1日 実施

JALが女性活躍推進とワークスタイル変革に関するフォーラムを開催

 JAL(日本航空)は7月1日、同社グループ企業で働く女性社員が一層活躍するための方策と、ワークスタイルの変革に向けた取り組みについて考える社内フォーラムを開催した。すでに職場の改革を始めている部門や、課題を多く抱えた部門の長らが現状と今後の方針を示し、社長を含めた役員に加え、自主的にフォーラムに参加した部門長や一般社員ら200名超が参加し、意識の共有を図った。

女性優遇ではなく、育成強化を行なう

日本航空株式会社 代表取締役社長 植木義晴氏

 最初に挨拶に立った日本航空 代表取締役社長 植木義晴氏は、冒頭で「ダイバーシティ」の重要性を訴えた。「価値観の違う人、能力、経験、感性、異質の人が集まってイノベーションが発生する。そこから新しい価値が創造され、会社を、もしくは社会を変革していくもとになってくる。多様な人たちの存在がなければ、なかなか新しものは生まれない」とし、その多様性のなかで「特に女性は大きな要素になると思っている」と語った。

 日本航空のグループ全社員は現在3万1472名。そのうちおよそ半数近い46.7%が女性従業員。「この多くの女性に今後活躍してもらわなければ、JALの将来はない」と同氏は述べ、女性が活躍するには体制やシステム、環境の変革も必要としながらも、「みなさん1人1人が意識を変えなければならない」と迫る。「女性を優遇するということではない。男性と同様に競争して能力を発揮できるように手助けをするということ」と釘を刺しつつも、「(女性の自分は上を目指せないと)可能性にフタをするのだけはやめてほしい」とエールを送った。

日本航空株式会社 社外取締役 岩田喜美枝氏

 次に登壇したのは、日本航空 社外取締役 岩田喜美枝氏。旧労働省において働く女性支援、国際労働問題を担当し、その後は資生堂で人事、CSR、広報などを手がけながら、2012年に日本航空の社外取締役に就任した経歴をもつ人物だ。

 同氏はまず、「仕事と子育ての両立」と「キャリアアップ」の2つを実現していることを「女性の活躍」であると定義し、この2つとも実現できていない第1段階、仕事と子育ての両立ができている第2段階、さらにキャリアアップを果たしているという第3段階の3つのステップがあると説明。同社は現在このうち第2段階、仕事と子育てを両立できる環境は整っている段階にあると見ている。

 しかしながら、現在のように単に仕事と子育てを両立できる社内制度を整えただけでは、次の第3段階に進むことはできないと指摘する。両立支援の“質”を変える必要があると述べ、そのためには「(女性)人財の完全活用」と「多様性を企業の力にする」という2点に力を入れなければならないとした。つまり、キャリアアップにつながるよう、子育て中であっても女性がフルタイムで働けるようにし、仕事を“免除しないこと”が重要になる。

 また、「家事や子育ては女性の仕事」という考えるのではなく、男性も「妻のためにそれらの仕事をシェアすべき」という考え方を持つべきだと同氏は強調する。そのため、どこで働くか、いつ働くかを個人の裁量で選べるようにし、「(統計的に育児中の男性の帰宅時間が早いとされる)欧米の働き方に合わせる」といった変革や、「残業が当たり前」という仕事の“常識”を変えることが必要だと語った。

 残業を減らすことにより、育児に関わる人以外にとっても、社外における活動時間を増やすことにつながる。仕事では得られない体験や、社内では出会えない異なる価値観を持つ人と接することで、「そこから新たな価値観に触れて、多様性が生まれる」といったメリットもある。

 これらの変革を目指すには、いわゆる「ノー残業デー」を設けたり、「20時以降は消灯する」ような取り組みも大切だが、「時間当たりの労働生産性を高める」ことにフォーカスすべきだと同氏は提案する。仕事を棚卸しして不要な業務、優先度の低い仕事は思い切って廃止したり、決裁権限の移譲やIT化・アウトソーシングの推進などを通じて業務プロセスを簡素化したり、あるいは仕事配分・社員配置の見直しを行なったりして、その上で時間当たりの生産性を軸に業務評価を行なう。

 ただ、性差別をせず、業務における機会を男性と女性とで均等にするだけでは、女性が活躍することには必ずしもつながらない。「それは歴史が証明している。活躍を目指すには計画的な取り組み、ポジティブアクションが必要」だとし、そのポジティブアクションの代表的な事柄として「数値目標を掲げること」を挙げた。その1つ、日本政府が推進しようとしている「ゴール・アンド・タイムテーブル方式」により、実績に応じた育成目標と期間を設定し、実現に向けて努力する手法を紹介した。

 女性の活躍に向け上司が取り組むべき意識改革としては、女性を優遇するのではなく“育成強化”するという考え方で、妊娠・子育て中の女性と「よく面談して配慮する」ことも重要と説く。一方女性に対しては、「キャリア作りを焦らない。出産は先に延ばさない」というアドバイスを送った。

8時間で生産性の高い仕事をするための「ワークスタイル変革」が必要

 フォーラムの後半は、日本航空の各本部長5人によるパネルディスカッションを実施し、ワークスタイルの変革について意見を交わした。

 日本航空 整備本部長 赤坂祐二氏は、自らの部門に関して「技術や力仕事が必要となる業務内容のため女性は極端に少ない状況」だといい、「飛行機オタクが多い、モノカルチャーな世界。技術を先輩から後輩へ伝承していくという側面もあり、男性が女性に物を教えていくことになんとなく距離感がある。女性が女性を育成していくという体制も必要」と話す。女性の管理職登用はなかなか進めにくいようだが、「物理的なことに対して女性の方がタフだ、ということが次第に明らかになってきた」と述べ、女性の活躍に当たっては「大事なのは環境面。メシといえば男性にとっては大盛り食い放題だが、女性はどうもそうじゃないことが分かってきた。カツ丼、天丼、唐揚げ弁当大盛りが女性に受け入れられないことも、最近分かってきた」会場の笑いを誘いつつも、「トイレの設計も含め、環境整備が非常に大事。こういうところをしっかりやっていくのが、長く働いてもらえる1つの要素ではないか」と分析した。

日本航空株式会社 整備本部長 赤坂祐二氏

 日本航空 路線統括本部国際路線 事業本部長 米澤章氏は、現在の同部門の課題として、恒常的な残業が行なわれていること、他社と競争していくために必要となる柔軟な発想が欠けていること、女性の“バランスのいい”価値観が足りていないことを挙げた。今後の方針としては、上司がメッセージを発信して部下とビジョンを共有し続けることで「意識改革」を促すこと、そして「ワークスタイル変革」を徹底すること。すでに定時退社は実践できているとするが、その退社後は、「多様な価値観、人に触れて新たな価値を作り、他社と戦える武器を考えられるようにする」ために時間を使ってほしいと考えている。「帰ってぼーっと飯を食う、それはやめてほしい」という。

日本航空株式会社 路線統括本部国際路線 事業本部長 米澤章氏

 日本航空 コーポレートブランド 推進部担当 大川順子氏は、「コーポレートブランドを作り上げていく際には、なんとなくJALがいいとか、とにかく安心であるとか、そんな無形の価値に気付ける感性が必要で、おそらく女性はそこを得意としていると思う。女性の感性、価値観を埋もれさせない、つぶさせない、無視しない。多様な考え方を真摯に捉えることを実践していきたい」と、女性ならではの視点からコメント。また、男性社員に対しては、「(女性への)気の遣い方が違っているとよく感じる。自然体が男女ともに大事。頑張れない時は誰かに頼る、誰かに聞く。分からなかったら女性に聞けば話しは早い。男性はそういうことを意外にしない」と、男性にとっては耳の痛くなるような指摘もあった。

日本航空株式会社 コーポレートブランド 推進部担当 大川順子氏

 日本航空 調達本部長 岡敏樹氏が指揮する同本部は、先がけてワークスタイルの変革に取りかかった部門の1つ。残業のない、1日8時間勤務を原則とし、その中で従来と同じかそれ以上の成果を出していくことを目標にしたうえで、ペーパーレス化、ノートPC化、会社の固定電話の廃止、BYOD(個人スマートフォンの業務利用)化、リモートアクセス環境の整備、自由な席に座って働けるフリーアドレス化を行なった。

 同氏によると、「変革前は、終業時間の18時になってから『さあ仕事をするか』といった声が聞こえてくる状況」。さらに休日に出社すると、他にも2桁に近い人数が仕事をしているような有様だったという。「深刻なのは、(残業が)会社にとってプラスになっているんだと思って働いているのではないか、ということ。しかしそれが本当に会社のためになっているのか」と疑問を投げかけた。

 ワークスタイルの変革が「女性の福利厚生」や「(同社が2023年の達成目標としている)20%以上の女性管理職登用」のための施策と勘違いされることが多いという。しかし同氏は「そうでは全くない。ワークスタイルの変革は、JALの将来を作るため。人材が欲しい(足りない)と主張する部署は多いと思うが、自分たちの職場は多様な人材が活躍できる職場になっているか、考えたことがあるか」と反論。「女性をはじめとする多様な人材のいる職場を作り上げなければならない。8時間で生産性の高い仕事をするために、場所の制約にかかわらず働ける環境にした」というのが、同部門が実施したワークスタイル変革の本当の目的だと語った。

日本航空株式会社 調達本部長 岡敏樹氏

 日本航空 人財本部 人事教育担当 兼 人事部長 植田英嗣氏は、ワークスタイルの変革について全社的な視点からコメントした。「環境の整備、人材育成の強化、意識改革による職場の風土作りを行なっていく。必要なITツールの準備、IT投資も全社的に取り組んでいく。人材育成は男女の成長の機会に差がなくなることが大切。今までいなかったところに女性を配置したい」と話し、男性の管理職に対しては「女性をひとくくりで捉えないことはとても大事なこと。1人1人に尊重されるべき個性があり、価値観があり、事情も異なる」ことを頭に入れて行動することを求めた。

日本航空株式会社 人財本部 人事教育担当 兼 人事部長 植田英嗣氏

 フォーラムの最後には、登壇者、役員、一般社員を含めた全員がそれぞれ、女性の活躍推進とワークスタイル変革を目指すに当たっての「私の行動宣言」を思い思いに紙に記し、日本航空全社の意思共有を図って閉幕した。

日沼諭史