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近鉄の観光特急「青の交響曲」、サッカーグラウンドの上を走る? Jリーグクラブ×鉄道会社の異色ユニフォームコラボが実現したワケ

「観光列車のデザインとユニフォーム」。ありそうで意外となかったコラボレーションが実現した。

 サッカーJ3「奈良クラブ」の選手が、期間限定で着用する「サマーリミテッドユニフォーム」のデザインは、近鉄の代表的な観光列車「青の交響曲(シンフォニー)」をモチーフにしている。

 今回の限定コラボユニフォームは、7月5日の対ギラヴァンツ北九州戦で初着用。その後、7月26日の第22節・ツエーゲン金沢戦、8月23日の第24節・高知ユナイテッドSC戦の3試合でしか着用されない(開催はいずれもロートフィールド奈良)。今後の着用予定も、現在のところないという。

「青の交響曲」に乗車する田村亮介選手・鈴木大誠選手(写真提供:奈良クラブ)
青の交響曲ロゴと(写真提供:奈良クラブ)

 青の交響曲といえば、濃紺のボディカラーが印象的な、近鉄を代表とする観光列車だ。エレガントな車内で食事やスイーツを味わいながら、桜・紅葉など四季折々の絶景が印象的な奈良県・吉野へと走り抜ける。

 鉄道ファンならずとも「一度は乗ってみたい!」という方も多い青の交響曲とのコラボユニフォームは、なぜ実現したのか。奈良クラブの本拠地「ロートフィールド奈良」でサッカー観戦を楽しみつつ、担当者にお話を伺った。

奈良クラブ・ユニフォームに「青の交響曲」「金峯山寺」「シカ」を背負う!

ユニフォーム前面
ユニフォーム袖の列車ロゴ

 青の交響曲のデザインは、どのようにユニフォームに落とし込まれているのか? 実際に間近で見てみよう。

 ユニフォーム全体は、青の交響曲そのままのシンプルな濃紺だ。車体に入ったゴールドのラインや、列車のエンブレムとして描かれる吉野山の草花もユニフォームにあしらわれている。

 背中にあしらわれているのは、吉野山にある金峯山寺(きんぷせんじ)の蔵王堂内に安置されている「金剛蔵王大権現」をモチーフにした、青を基調としたステンドグラス風の描画が描かれている。

 ユニフォームとしては、前面で青の交響曲の躍動感が、背面は金峯山寺や吉野の自然の神々しさが描かれており、ただ列車のカラーを真似ただけでなく、修験の地・吉野をリスペクトしたうえで、細部までこだわり抜かれているようだ。このユニフォームを着用して、ロートフィールドのピッチを駆け抜ける選手たちは、もはや「カッコいい」というより、ちょっと神々しい。

鉄道・地域とサッカーのコラボは「共奏交響」実現までの道のり

青の交響曲で車窓を楽しむ田村亮介選手・鈴木大誠選手(写真提供:奈良クラブ)

 奈良クラブの担当者にお話を伺ったところ、近鉄に青の交響曲コラボをお願いしたところ、デザインの使用について快諾をもらったという。また、近鉄や吉野町を通じて金峯山寺の協力を得ることもできて、金剛蔵王大権現をモチーフにしたデザインをユニフォームに使用することができた。

 また、今回のユニフォームデザインを手掛けたスクアドラはサッカーなら福山シティFC、バスケットボールBリーグのバンビシャス奈良のデザインも手掛けており、奈良クラブとの付き合いはJFL→J3とステップアップする前、2014年から続いているという。青の交響曲・吉野の自然・金峯山寺のデザインをリスペクトしつつ、ユニフォームデザインに落とし込む作業は、スポーツ系のデザイン経験が豊富なスクアドラの存在がないと実現しなかっただろう。

 奈良クラブは県内自治体と積極的に関わり、サッカー教室のために県南部の下北山村などに赴くときまであるという。ひとくちに奈良県といっても広くて山深く、南端までは100km以上、クルマでもたっぷり3時間はかかるため、この地での「地域密着」は、なかなか困難だ。

 奈良クラブは吉野町とも2024年4月に包括協定を結んでおり、今回のコラボユニフォームなどの取り組みも、近鉄・吉野町・金峯山寺・奈良クラブと力を合わせた取り組み(「共創交響」と通称されている)によって実現した。この縁で、限定コラボユニフォームのデビュー戦は「吉野町デー」(吉野町の方々を招待)となり、担当者の方いわく「町長をはじめ、50人~100人は来ていただいている」そうだ。

 さて、リミテッドユニフォームを着用しての一戦、結果が気に掛かるところだ。

 この日の奈良クラブは絶好調、隙をついてボールを奪う、スピード感あふれる攻撃がおもしろいように決まり、結果は見事4-0でギラヴァンツ北九州に圧勝!

 カターレ富山をJ2に導いた実績を持つ小田切道治監督がシーズン途中に就任してから、4戦3勝・負けなし、J2昇格もうっすらと見えてきた。

 ここまで快勝したなら、縁起のよいユニフォームもあと10試合くらい着用すれば……。いや、あえて3試合で終わらせるからこそ価値がある。使用期間が終了したあとも、レプリカユニフォームなどの販売はオンラインショップで継続するという。

奈良のサッカー応援、ちょっと独特? 「スタグル充実」「能を舞って応援」

 そんな奈良クラブの本拠地「ロートフィールド奈良」はほどよく小ぢんまりとして、送った声援が選手に届くほどの距離感で観戦できるのが楽しい。地域密着型の小さなスタジアムに本拠地を置くJ2、J3のゲームは、2万人~3万人を動員するトップリーグJ1とは、また違った楽しみ方があるのだ。

 さらにスタジアムの外に出れば、「奈良B級グルメ決定戦」グランプリのホルモン天ぷらやラーメン、野菜たっぷりの天理バーガーや鶏そばなど、グルメ関係の充実ぶりには目を見張る。

 この日の対戦相手・ギラヴァンツ北九州の本拠地(ミクニスタジアム)もカニ・海鮮が充実したグルメで有名だが、奈良クラブも負けてはいない。この取材日はご当地アイドルのステージもあるなど、3シーズン前にJリーグに加盟したクラブ(JFLからJ3昇格)とは思えない充実ぶり・にぎわいぶりであった。

奈良クラブ側のスタンド。全員で能を舞う

 現状ではホームゲームの平均観客動員数が1600人少々、Jリーグ最下位という寂しい状況ではあるが、本拠地は大阪・京都から1時間圏内(近鉄奈良駅からバスで10分)という好立地でもあり、「J1はほかのチーム推し、J3なら奈良クラブ」といったサポーターを取り込む余地は十分にある。数万人の群衆とともに巨大なスタジアムで観戦するJ1と、選手の表情まで見て取れる小さなスタジアムで観るJ2、J3は、それぞれ違った楽しみ方ができるのだ。

 今後の奈良クラブの戦いぶりだけでなく、さらなるファンサービスの充実や、さらなるユニフォームコラボにも期待がかかるところだ。