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ソフトバンクなど、瀬戸内海豊島でパーソナルモビリティレンタル「瀬戸内カレン」スタート

瀬戸内国際芸術祭を電動スクーターで気軽に巡ることが可能に

2016年3月26日 サービス開始

瀬戸内カレンのスタートに、Pepperも応援に駆けつけた?

 ソフトバンク、PSソリューションズ、日本オラクルの3社は3月26日より、瀬戸内海に浮かぶ豊島(てしま。香川県小豆郡土庄町豊島)で、電動スクーターを利用したパーソナルモビリティレンタルサービス「瀬戸内カレン」をスタートした。それに先がけ、前日の25日にオープニングセレモニーが開催され、事業の概要や見通しを明らかにするとともに、電動スクーターの体験試乗も行なわれた。

 瀬戸内カレンの利用料(電動スクーターのレンタル費用)は半日(午前または午後)で2700円、1日(営業時間内)で3800円。営業時間は8時30分~17時00分で、公式サイトでの事前予約が必要。

豊島の檀山頂上からの眺め

IoTで車両の走行状態を分析。使用電力は再生可能エネルギー100%

 瀬戸内カレンは、豊島を訪れた観光客を対象に電動スクーターを有料で貸し出す事業。豊島には近隣の港や島からフェリーでアクセスでき、例えば香川県の高松港から瀬戸内カレンの拠点に最も近い家浦港には、1日6本の定期高速船が就航し、便により35分もしくは55分ほどで到着する。

瀬戸内カレンの拠点となるステーション

 サービスはPSソリューションズが運営主体となり、電動スクーターの充電に関わる設備やシステムの開発、拠点となるステーションの運用、運行管理などをソフトバンクが、システムのバックグラウンドを担うクラウドサービスを日本オラクルが開発、提供する。また、電動スクーターはホンダが提供し、2010年12月から販売を開始している「EV-neo」13台を利用する。

ホンダの電動スクーター「EV-neo」
ステーションにはEV-neoが10台以上並ぶ

 ユーザーは豊島内の公道を移動するのに電動スクーターを自由に使うことができ、全周約20kmほどある島を巡り、自然に触れたり、島内に点在する「瀬戸内国際芸術祭」(2016年3月20日から11月16日まで3期に分けて開催)の出展作品を鑑賞したりすることが可能。従来からあるバス、レンタカー、レンタル電動アシスト自転車に追加される新たな移動手段となる。

 単なる電動スクーターの貸し出しにとどまらず、IoTやクラウド、再生可能エネルギーなどを用いた取り組みが特徴の1つ。具体的なシステムとしては、電動スクーターに専用のIoT車載器を取り付け、車両の位置情報、バッテリ残量、アクセルやブレーキの使用状況を含めた走行状態などをソフトバンクのLTE網を用いて5秒(可変)ごとにサーバーへ送信。それらのデータを日本オラクルのOracle Cloud Platformに含まれる製品群のうち「Oracle Internet of Things Cloud Service」「Oracle Database Cloud Service」「Oracle Java Cloud Service」を用いてビッグデータ解析、統計化などを行ない、サービス運用に役立てる。

車載機から得られた情報を閲覧する管理画面
1台1台のバッテリ残量、車載機の状況などが分かる
リアルタイムの状態をチェックするのはもちろん、過去の走行位置なども振り返ることができる

 電動スクーター1台ごとの情報をほぼリアルタイムに得られるため、利用者が今どこにいるのか、バッテリ残量は十分か、危険な走行をしていないかなど、あらゆる状況を詳細に把握可能。クラウド上で処理した情報は運行管理者が閲覧するだけでなく、必要に応じてユーザーのスマートフォンなどに通知できる仕組みを前提に開発している。例えば利用者が走行に適さない危険な地域に侵入した際に警告したり、利用者が乗船予定のフェリーの出港時間に合わせてステーションに戻ることを促す通知を出したりなど、利便性の高いサービス提供につなげることも検討されている。

 また、走行場所・状況とバッテリ消費の関連を分析することで、効率的な島内の巡り方、効率的な運行手法などのノウハウを収集できる。これらのデータは瀬戸内カレンの運用改善や、今後ほかの地域に同様のサービスを展開する際に活かすことも考えられている。

Pepperは専用のガイダンスプログラムが組み込まれ、瀬戸内カレン利用者に見どころなどを案内する。このガイドコンテンツのバックグラウンドでもオラクルのクラウドサービスが稼働している

 車両の電力・認証管理には、ソフトバンクの「ユビ電」が採用されている。2013年に同じく豊島で四輪パーソナルモビリティの実証実験を行なった際や、奈良県の明日香村でサービスがスタートしている「MICHIMO」でもユビ電を利用しているが、電動二輪車における採用例はこれが初めて。ユビ電を使うことで、充電しようとしている車両が正規のものかどうかを認証し、充電状況を分析・管理できる。

ユビ電が組み込まれた充電ステーション
急速充電器で充電している様子。20分で80%、30分で満充電できる

 ユビ電では充電ケーブルを置き換えたり、充電ケーブルの中間にコネクタの形で介在させたりはしていない。充電ケーブルに沿う形でセンサーを配置することで充電ケーブルを通過する電流を検出する仕組みになっており、車両に大がかりな改造を加えたり車両の機械本来の動作に影響を与えることなく実装できる点が特徴だとしている。さらに、瀬戸内カレンで充電に用いる電力は、すべて再生可能エネルギー由来のものとなっている。

 オープニングセレモニーでソフトバンク ITサービス開発本部の山口氏は、「エネルギーとモビリティの2つの分野を融合させて、新しい世界観でモビリティサービスをデザインしていこうという発想からスタートした事業。美しい島に美しいアートがたくさんあるこの豊島は、まさにパーソナルモビリティがスタートするのに適している」と語り、全周20kmで坂道の多い豊島において、走行可能距離(最大34km)や高い登坂性能をもつ電動二輪車の活躍の場として、豊島がマッチしていることもアピールした。

 日本オラクル専務執行役員の三露氏は、「いずれは決済の仕組みを取り入れたり、運行情報のビッグデータを活用して次のサービスにつなげたり、あるいは観光客の方からの要求に対して機械学習で応えることも考えられる。国内だけでなく海外にも展開するだろうと期待しているので、私どものSaaSを駆使してそれらを支えていきたい」と抱負を述べた。

 なお、今回の瀬戸内カレンは正式サービスとして開始するが、1日の稼働台数が最大でも10台程度で、利用料金もほかの交通手段と比べあえて割高に設定していることもあり、単体の事業として大きな利益を生み出すことは考えていないとのこと。オペレーションの最適化などでわずかでも利益を生み出す体質にしたい、と山口氏は目論見を語ったが、引き合いの強い海外への事業展開を想定したノウハウや実績の蓄積が目的の1つになるものと考えられる。

ソフトバンク株式会社 ITサービス開発本部 山口典男氏
再生可能エネルギーを使用していることを証明するPVグリーン電力証書
日本オラクル株式会社 専務執行役員 三露正樹氏
オープニングセレモニーではテープカットも行なわれた

景色を楽しみながら爽快に走れるが、課題は走行距離

 オープニングセレモニーの終了後、レンタル用の電動スクーターを体験乗車することができた。レンタル用として納入されているのは13台だが、故障時の対応を考慮する必要があることから、実際に1日に貸し出すのは当面10台まで。ヘルメットの貸し出しも行なっている。拠点となるステーションは現在のところ家浦港近くの1件のみで、将来的にはステーションの増設も視野に入れているという。

大きな前カゴを装備したEV-neo

 体験乗車したのは、ステーションから豊島美術館までの往復約8.6km。道路は狭く、行程のほとんどがやや広めの1車線という程度。大型のバスと乗用車がすれ違うには、待機場所を利用しないとならないケースがある。電動スクーターを運転している側としても、できるだけ道路の左側に寄っていないと、後方から近づく乗用車が追い抜く際の妨げになりがちだ。

 アップダウンは激しいというほどではないものの、長い坂道が続くような場所が多い。島内の各所で貸し出しされている電動アシスト自転車を使えば、美しい景色を見ながら走れるため移動はさほど苦にならないかもしれないが、上り坂を走っていて爽快感が得られることはないだろう。その点、瀬戸内カレンの電動スクーターなら、原付扱いのため最高30km/hという制限があるものの、そのぶん景色もしっかり見られるうえ、安全に制御されたフラットな加速で、坂道でも気持ちよく走り抜けることができる。

体験試乗で訪れた豊島美術館
豊島美術館の敷地
近くには段々畑が広がり、瀬戸内海も一望できる
豊島美術館のアートスペース。内部の撮影は禁止
すべてコンクリートできている。中に足を踏み入れると、そこには思わずため息が漏れてしまうような現代アートの世界が広がる
檀山から眺めた豊島美術館

 気になるのはやはり一度に走行可能な距離。8.6kmほどを走り終えたところで、バッテリ残量は半分近く減ってしまっていた。もちろん運転の仕方によってバッテリが減るペースも異なるだろうし、EV-neoはエネルギー回生ブレーキを備えているため、下り坂で積極的に惰性走行することで、距離をもう少し稼ぐことができるかもしれない。とはいえ、それでも1回の充電で島を1周するのはギリギリと思われ、寄り道しながら1周するのは厳しいところがありそうだ。

 豊島の中央にそびえ立つ檀山頂上(標高約340m)にも電動スクーターで行くことはできるが、急坂・急カーブでさらに狭い荒れた路面であること、ところどころ落石と思われる小さな岩が転がっていたりもするので、電動スクーターの走行距離のことも考えると、電動アシスト自転車を利用した方が安全な場合もありそうだ。瀬戸内国際芸術祭の開催期間中は多くの観光客が訪れるとのことだが、瀬戸内カレンが観光客の足として定着するかどうかは、充電ステーションの増設や道路の最低限の整備に加え、それらをスムーズに可能にするための地元の協力が得られるかどうかにもかかっていると感じた。

檀山の頂上にある展望台
展望台からの眺め
昼食をとった「海のレストラン」
彩りも味もよい料理を味わいつつ、ぜいたくな時間を過ごせる。電動スクーターを借りれば、こういったグルメスポットも気軽に訪れることができる
穏やかな瀬戸内海の風景を眺めながら食事

(日沼諭史)