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広島市と三次市を結ぶ芸備線が開業100年に。JR広島駅で記念式典を開催

クルマと鉄道の特性の違いを超えて、次の100年へ

2015年5月30日 開催

芸備線開業100年の記念列車となった快速みよしライナー。3両編成で運行した

 芸備線対策協議会および広島県観光連盟、JR西日本(西日本旅客鉄道)は5月30日、JR広島駅 芸備線ホーム(9番のりば)において「芸備線100周年記念イベント」を開催した。

 広島駅(広島県広島市)~三次駅(広島県三次市)~備中神代駅(岡山県新見市)を結ぶ芸備線は、1915年(大正4年)4月28日に旧芸備鉄道会社線の志和地駅(現同駅)から東広島駅(国有化に伴い1937年[昭和12年]7月1日廃止)が開業。続いて1915年6月1日に三次駅(現西三次駅)までの区間が延伸開業し、6月1日で100周年を迎える。

 芸備線100周年記念イベントは、10時00分発の三次行き「快速みよしライナー」に合わせて実施。主催者代表として、広島市長 松井一實氏、JR西日本 執行役員 広島支社長 杉岡篤氏が挨拶。来賓として、国土交通省 中国運輸局 局長 河田守弘氏、広島県知事代理 中下善昭副知事が祝辞を述べた。

9時43分、関係者が見守る中、芸備線開業100年記念列車がJR広島駅9番のりばに入線

 かつて鉄道は交通の王者だったが、クルマの普及によるモータリゼーションの到来より、大きく変貌。そこを生き抜いた路線も、日本の長期的な人口減少、そして高齢化など大きな課題を抱えている。松井広島市長、杉岡JR西日本広島支社長、河田中国運輸局長の挨拶は、それぞれ地方自治体、事業者、国という視点から発言しており、非常に興味深いものとなっていた。

広島市長 松井一實氏

広島市長 松井一實氏

「芸備線は大正4年、ちょうど100年前の1915年6月1日に広島~三次間を開業しました。広島地区と備北地区を結ぶ大量輸送交通機関として整備され、これまで沿線の人々の交流、経済・文化の発展に大きく貢献しています。広島地域内においても市北部と中心部を結ぶ基幹交通として重大な役割を担っています。通学、通勤と日常の手段として欠かせない交通機関になっています」

「その一方で、自動車、とりわけ自家用車の普及により、鉄道利用者が減少するなど芸備線をとりまく環境は厳しいです。そのために芸備線対策協議会(芸備線沿線の広島市、安芸高田市、三次市、庄原市が共同で設置)は、この路線の存続に向けていろいろな取り組みをしており、この度は100周年を記念して県北を巡るツアーを企画しました。この企画には多くの人の参加をいただいており、ありがとうございます。この後、10時00分から出発する列車で芸備線の旅を存分に楽しんでいただいて、この機に芸備線にさらに愛着を持って、末永く使っていただけると思っています」

「昔、芸備線はスキー客でごったがえしました。そういう時代もありましたが、これからは自然に優しい、環境に優しい、クルマ以外の公共交通機関として皆様の注目を集めていく時代になっているのではないかと思います。とりわけ人口減少、少子高齢化を見据えたときに、“200万人広島都市圏構想”を広島市は考えており、近隣の市が強固な信頼関係を構築していくこと、地元にある資源を活かして県域内全体の活性化を図ることが重要になってきています。県域の北部と市の中心部を結ぶ芸備線の役割は、ますます重要になると考えています。JR西日本とも連携・協力関係を一層強固なものにし、芸備線の利用向上に向けて積極的な取り組みをしていきたいと考えております」

「終わりにこれまで芸備線を利用してこられた地域の皆様、安全第一に運行されておりますJR西日本の皆様はじめに対してお礼を申し上げるとともに、今後も芸備線が基幹交通として発展して、そして沿線地域の活性化につながるということを祈念して、私の挨拶に代えさせていただきます。これからもどうかよろしくお願いします」

JR西日本 執行役員 広島支社長 杉岡篤氏

JR西日本 執行役員 広島支社長 杉岡篤氏

「今、市長様からお話がありましたようにこの芸備線は大正4年に三次までつながり、それ以来皆様のおかげをもって100年間無事に走り続けてくることができました。本当にありがとうございます。当初、芸備線は中国地方における瀬戸内海側と日本海側を結ぶ主要な交通機関でした。現在は、特急『やくも』が走る伯備線にその役割は移り、今の芸備線の役割は3つあると思っています」

「1つは、広島を中心とした広島の都市圏で、通学・通勤、お買い物に使っていただく役割。もう1つは備北の三次市と広島市の都市間を結ぶ役割、そしてもう1つは観光だと思います。本日は、この(100周年記念式典)後、“みよしライナー”とよんでいる快速が入ってきます。この快速みよしライナーに1両追加し(通常は2両編成だが、本日は3両編成)、団体のお客様に三次まで行ってもらいます。三次では芸備線沿線各市の方々の歓迎のセレモニーがあったり、鵜飼いを見ていただいたり、神楽を見ていただいたりと、備北地方の文化や食を楽しんでいただきます。100周年を迎えましたが、今後も十分な役割を果たしていくべく努力を重ねてまいりたいと思っております。とくに、3つめの観光については、沿線の皆様のご協力なしにはなかなかうまくやれません。連携を深めながら鉄道を通じて、地域の皆様方とふれあい、そしてお役に立つということでやっていきたいと思っています」

国土交通省 中国運輸局 局長 河田守弘氏

国土交通省 中国運輸局 局長 河田守弘氏

「100年前、すなわち1915年と申しますと、第1次世界大戦のまっただ中です。空前の好景気に沸く時代でした。鉄道つながりで申しますと、広島市内においては路面電車の御幸橋~宇品(広島港)間、翌々年には左官町(現在の本川町)~横川間が開通し、八丁堀から紙屋町周辺の今に至る賑わいが形成され始めた時期です。その後芸備線は広島都市圏を起点とする唯一の陰陽(山陰・山陽)連絡鉄道としての重要な役割を担ってまいります。山陰の出身で、現在広島在住の50代、60代以上の皆様の中には、かつて就職のときに利用した列車として、懐かしむ方が多いと聞いています」

「しかしながら、芸備線もその後、他の地方鉄道の例に漏れず、自動車交通との競合や、少子高齢化の進行といった厳しい状況の中での経営を強いられてきました。利用客の減少に伴い、木次線に直通する急行『ちどり』や新見行きの急行『たいしゃく』などの優等列車が次々と姿を消しました。利用されればますますよくなる、利用されないとサービス水準を下げざるを得ず、ますます利用しにくくなる。これが公共サービスに共通する大きな課題であります」

「他方で鉄道は、地域住民の皆様にとって、通学・通勤・買い物と交通手段であり、地域の経済活動の基幹であるとともに、町作りと連動した地域経済への波及効果などさまざまな効用を生み出す重要な社会インフラであることに変わりはありません。課題解決のためには潜在需要の掘り起こし、鉄道存続に対する意識の醸成などが不可欠であり、再生・活性化に向けて鉄道事業者だけでなく、行政・地域住民の皆様が自らの問題として考え、協力してとことが必要となっています。こうしたなか、芸備線の存続に向けて沿線4市が芸備線対策協議会を設立され、長年にわたり、利用補助・イベント補助など利用促進対策に取り組まれていることに深い敬意を表するしだいです」

「ここ広島市周辺におきましては、広島シティネットワークの重要な構成要素で、通勤・通学の足としての役割が大きいと思います。また、今、外国人の訪日旅行の劇的な増加を踏まえ、日本の観光そのものが大きな転換期を迎えつつあります。この新しい観光の時代の中で、地域における鉄道がどのような役割を果たしうるか、今一度議論してみることが、鉄道再建に向けての一つの契機になるかもしれません。我々中国運輸局としても、今後鉄道輸送の安全確保を基本としつつ、地域の皆様との連携を深め、公共交通の活性化・快適な輸送サービスの確保・観光の振興などにより、地域の発展を応援させていただきたいと考えています。終わりにあたり、芸備線がより多くの人々に愛され、より多くの人々に利用される鉄道であり続けますよう祈念いたしまして100周年のお祝いの言葉とさせていただきます」

鉄道とクルマ、その特性の違い

 上記4氏に広島県観光連盟 専務理事 石本秀紀氏が加わり、10時にテープカットを実施。JR広島駅 石原靖彦駅長の「出発!!」の合図とともに快速みよしライナーは、三次駅へ向かって走り出した。

発車予定時刻は10時00分
記念列車の車両の前後には特別なヘッドマークを装着
先頭車両にはキハ47が使われていた
テープカットの準備
発車時刻。広島駅長の合図がかかる
ほぼ同時にテープカット。100周年記念列車が出発した

 杉岡JR西日本広島支社長は快速みよしライナー出発後、これからの芸備線について触れ、今後日本で進む、少子高齢化、人口減少への対応が必要との認識を示した。同じ人数を運んだ際に「鉄道はCO2の排出量がクルマより小さく環境に優しい乗り物」との認識を示すものの、「ドアtoドアで人を運べるクルマに比べると、環境には優しいが人にも優しいとは言えない」と語り、鉄道とクルマには特性の違いがあるとする。鉄道がクルマとの特性差を克服するために必要なのが、駅のバリアフリー化などの駅の改良、そして、ドアtoドアとはいかないものの、地域交通との組み合わせとのこと。新幹線などの高速基幹路線ではレンタカーが向くものの、芸備線のようなローカル線ではレンタカーではなく、自転車との認識を示した。

 ただ、実際に自転車を組み合わせるとなった場合、駅と自転車をどう組み合わせるか(レンタサイクルや駐輪場の設置など)ということもあり、いずれにしろバリアフリー化と同様に投資が必要になってくる。また、現在芸備線で国鉄時代から使用しているキハ47形などの気動車車両について、その問題もあるとした。

 少子高齢化&人口減少社会においては、路線だけではなく自治体消滅などの危機が話題となっている。松井 広島市長が200万人広島都市圏構想を示すのも、広域都市圏の人口が2010年の226万人から2040年には191万人へと35万人も減るとの予測が出ているからだ。

 芸備線は100周年を迎えることができたが、次の100年があるかどうかは今後の地域・事業体・国の取り組みにかかっている。関係者の挨拶はそのような危機感を共有した上で行なわれているように見えた。

 なお、JR西日本は芸備線開業100周年記念入場券を5月30日~6月30日に発売する。広島、安芸矢口、下深川、狩留家、中三田、志和口、井原市、向原、吉田口、甲立、上川立、志和地、三次の入場券がセットになったもので、価格は1820円(13駅×140円)。限定1000セットとなり、広島駅、安芸矢口駅、下深川駅、志和口駅、向原駅、三次駅で発売中だ。数に限りがあるため、在庫を確認してから購入していただきたい。

芸備線の歴史が記された台紙つきの芸備線開業100周年記念入場券。広島駅では新幹線口のみどりの窓口で販売していた。30日午前中の段階で在庫僅少とのこと

編集部:谷川 潔