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大井川鐵道でSLのリアルな出発準備と整備を見学してきた

間近で蒸気をあげるSLや投炭作業に感動

2015年4月29日、5月2日~5日 開催

時間:9時~11時

参加費:500円(4歳以上)

SL「C12 164」。以前はナショナルトラストによる動態保存が行なわれていたが、現在は静態保存として「新金谷車両区」に展示されている

 大井川鐵道は、4月29日、5月2日~5日に新金谷駅構内にある「新金谷車両区」にてSLの出発準備や整備風景が見られるイベント「転車台・車両区整備工場見」を開催した。この様子をレポートする。

 大井川鐵道といえば、日本のSL保存運転のパイオニア的存在だ。1976年よりSLの動態保存活動に取り組んでおり、冬季など一部の期間を除きほぼ毎日定期列車に近い形で新金谷駅~千頭駅間でSLの運行が行なわれている。全国のSL列車の多くは土日祝日に臨時列車として運行されるが、毎日SLが走るのは全国でもこの大井川鐵道のみだ。また、大井川鐵道ではSLだけではなく、SLがけん引した旧型客車や私鉄から譲渡された旧型の電車など、歴史的価値の高い車両が多く現役として運用されており、まるで路線全体が鉄道博物館と言っても過言ではない。新金谷駅のホームや側にある見学広場からSLや旧型客車を眺めていると、まるで昭和にタイムスリップしたかのような錯覚を起こす。大井川鐵道のSLはすべて新金谷駅構内にある「新金谷車両区」にて整備が行なわれており、今回のイベントは、普段は関係者以外は立ち入ることができない内部を見られる貴重な体験といえる。

SLと一緒に活躍した珍しい旧型客車も多く現役として運用されている
何気ない駅の風景もまるで昭和にタイムスリップしたかのような錯覚を起こす

 見学では主に、「SLなどの向きを変える転車」「SLが出発準備を行なう始業作業」「整備工場内に設けられた専用通路から見る『SLの全般検査』」の3つエリアがある。新金谷駅から5分ほどの場所にある転車台の横に設けられた受付で参加費を支払い、缶バッジとパンフレットをもらい、ヘルメットを装着すれば、あとは所定のエリア内であれば自由に見学ができる。ガイドによる説明や順路などは設けられていないが、むしろ自由に見学できるこの雰囲気こそリアルな現場を見ているという実感があり、SL好きにはたまらないものがある。実際に、記者が見学した4月29日は、新金谷駅発10時38分のSL急行「川根路13号」と同11時52分発のSL急行「川根路1号」が運行される日であり、「川根路13号」をけん引する「C11 227」と「川根路1号」を担当する「C10 8」の始業作業が行なわれていた。

「新金谷車両区」の最寄り駅の大井川鐵道「新金谷駅」。大井川鐵道の本社も併設されている
駅の側にはホームや出発前のSLが見学できる広場がある。ちょうど藤の花が満開だった
駅を出ると左手にすぐ案内の看板がある
駅の駐車場を抜けるとすぐに「新金谷車両区」に着く。転車台の前は「SL広場」として整備されており、今回のようなイベントがない日でも転車台のSLを見ることができる
「SL広場」からは転車台に乗るSLが見学できる
SL「C12 164」を色々な角度で見てみた
SL「C12 164」を真横から。SL「C12 164」は主にローカル線用として作られたタンク機関車。1932年から282両が製造された

転車台の下に降りてSLを仰ぎ見る

 SLの方向を変える「転車台」。普段は「SL広場」からその外観を見るだけだが、今回のイベントでは特別に転車台の底面に降りてSLを間近から仰ぎ見ることができた。なかなか見ることができない角度で「C12 164」の動輪やピストンを動かすシリンダー部分などのディテールを細かく見られるのは、非常に興味深い体験だった。

転車台の底面に降りて線路と同じ高さから「C12 164」を仰ぎ見た
転車台の底面に降りる階段を設置
「C12 164」の動輪部分を側面から。静態展示されているため、ピストンに銘板がついている
「C12 164」の動輪部分を第1動輪側から
「C12 164」の前部転輪部分
「C12 164」の動輪部分を第3動輪側から
「C12 164」の後部転輪部分
「C12 164」のシリンダー部分

蒸気を上げリアルな投炭作業に感動

 本イベントの最大の見所はSLの「始業作業」だ。ちょうど、新金谷駅発10時38分のSL急行「川根路13号」をけん引する「C11 227」が始業作業を行なっており、水の補給や、機関室内で石炭をボイラーにくべる「投炭作業」などを間近で見ることができた。SLはその日の運行をできるようになるまで、数時間掛けてボイラーで石炭を燃焼させ、その熱で水を沸騰させて高温高圧の水蒸気を作る必要がある。このため、出発の直前まで蒸気圧を維持するための作業が行なわれていた。蒸気を吹き上げる音やボイラーから伝わってくる熱、作業員たちの無駄のない動きなど、リアルな現場の雰囲気が味わえる貴重な体験だった。なにより、デモンストレーションではない、実際にこの後に列車をけん引するSLの始業作業を見られたのには感動すら覚えた。

新金谷駅発10時38分のSL急行「川根路13号」をけん引する「C11 227」の始業作業が行なわれていた。煙突には周囲に煙が充満しないように排煙装置を設置していた
「C11 227」の側面のタンクに水を補給している
機関室の中では蒸気圧を維持するために石炭をボイラーにくべる投炭作業が行なわれていた
機関車の所属を示す「区名札」には、大井川鐵道を表わす「大鐵」と「新金谷車両区」の「新」が入れられていた
「C11 227」のナンバープレート。現役運行されているSLだけあり、輝くほどに磨き上げられていた
「C11 227」のピストン部分。生々しいほどの各部の輝きは現役ならでは
排煙装置が外されて、いよいよ出発が近づいてきた
「C11 227」の機関室の前側。左側にあるハンドルがSLの前後の切り替えやシフトレバーの役割をする「逆転機」、右上から斜めに伸びるレバーはアクセルの役割をする「加減弁」、右にはブレーキ「制動弁」、左端にはスピードメーターといった制御機器が並ぶ
「C11 227」の機関室の後ろ側。左側に光る制動弁は、下側が列車全体にブレーキをかける自動制御弁(自弁)、上側が機関車だけブレーキをかける単独制御弁(単弁)
出発を待つ「C11 227」と大井川鐵道が昭和24年の電化時に独自に新造した電気機関車「E10」形の「E102」
SLが出発準備時に煙突から出す煙を上空に逃がす排煙装置
排煙装置がある場所には、排水用の溝がある
出発ギリギリまでタンクに水を補給する
出発間際のSLを近寄って見られる。手前は新金谷駅発10時38分のSL急行「川根路13号」をけん引する「C11 227」、奥には同11時52分発のSL急行「川根路1号」をけん引する「C10 8」
「C10 8」は、1930年(昭和5年)に川崎車輛で製造された大井川鐵道の動態保存SLの中でも最も古い機関車。そして23両製造されたうち、現存する唯一の「C10」でもある。整備工場の前の排煙装置がある場所で、出発準備を行なっていた
「新金谷車両区」の風景、右側の「C10 8」のほか大阪セメント伊吹工場で使用されていたED501、「きかんしゃトーマス」号用にオレンジ色に近い茶色で塗られたオハ47などが見られた
「C10 8」の後部。水タンクと石炭入れ部分の外板にリベットが使われているのが時代を感じさせる。
「C10 8」の側面。前から1番目と2番目の動輪の間隔が1900mmなのに対し2番目と3番目の動輪は2300mmと動輪同士の隙間が異なる
「C10 8」の機関室内。基本的な機器の配置や役割は「C11 227」と同じだが、シリンダー圧力計の位置など微妙に異なる
ピントンをハンマーで叩いて緩みなどがないか検査。叩いたときの音の違いで異常が察知できる
「C11 227」の出発後、「C10 8」も新金谷駅構内を蒸気を挙げながら走行し、「川根路1号」の客車を連結した

工場内でSLの貴重な姿を間近に見た

 本イベントで見逃せないのが「整備工場内に設けられた専用通路から見る『SLの全般検査』」だ。この日は天皇陛下が乗るお召列車をけん引したこともある「C11 190」が整備工場内で整備を受けており、煙室扉が開かれボイラー内部を見ることができたほか、蒸気だめのカバーやピストンが外され、普段は見ることができない状態を見学することができた。また、整備工場内にはSLに関する貴重な部品類やナンバープレート、ヘッドマークも展示されており、SL好きにはたまらない逸品の数々を見ることができた。

SLの整備工場は、新金谷車両区のなかでも一番奥にある車庫のような建物(「C10 8」の奥にある建物)。普段はもちろん入ることはできないが、見学用の通路が設けられており、本イベントではその通路を自由に行き来できる
整備工場内では「C11 190」が整備を受けていたが、なんと前面の煙室扉が開いた状態だった。ボイラー内が見える貴重なシーン
見学用の通路から「C11 190」を見る。油ポンプの給油装置(中央)の蓋が開けられていた
SLの動力源を作る場所ともいえる「蒸気だめ」のカバーが外されてドームを見ることができた。ボイラーで熱せられた蒸気はここに集められてピストンを動かすシリンダーやタービン発電機に送られる。高圧の蒸気を貯めるため、何本ものボルトで蓋が留められている
シリンダーを整備している様子を見ることができる
動輪を繋ぐピストンが外されていた
機関室内も整備中
「C11 190」の後部。「C11 227」と異なり本機は両サイドのタンクの「揺れ止め付き」車
整備工場の奥には、大井川鐵道が所有する唯一のテンダー形機関車「C56 44」が整備を受けていた。戦時製造の特徴である角のある機関室が見えた
整備工場の奥には使い込まれた万力と工作台があった。必要な部品の一部は自分たちで作ることもあるという
整備工場内に展示されていたSLの部品やヘッドマーク。中央にあるのは煙室戸ハンドルその隣には水位計のカバー
SLを整備するために重要な専用の工具類や前照灯

燃料の煉炭なども見られる

 本イベントではほかにもいろいろな注目ポイントがある。SLと言えば「石炭」で動いているというのが一般的なイメージだが、大井川鐵道ではSLの燃料として「ピッチ煉炭(れんたん)」という石炭を砕いて油で固めた練炭が使われている。SLが国鉄で使われていた時代は、煙突から火の粉が出て火災が起きるといった事故が発生していたが、この「ピッチ煉炭」を使うことで燃えやすく火の粉が出にくいという特徴がある。実際に使われている「ピッチ煉炭」を間近で見たり、踏切のデモ装置を操作したりと、SLの他にも様々なものを見ることができた。

大井川鐵道でSLとして使われている「ピッチ煉炭(れんたん)」
よく見ると石炭のようにゴツゴツしておらず、豆炭のように角がとれた形をしている
ボタンを押すと踏切が鳴る体験装置
SLの焚きつけに使われる木材
塗料などが保管されている倉庫。よく見ると扉は何かの車両から転用したようだ
構内側から転車台の「C12 164」を望む。普段は見られない光景だ

 記者はこの後、新金谷駅発10時38分の「川根路13号」で千頭駅を目指した。それについては別の記事に譲ることにするが、この日の「川根路13号」は、先ほどまで始業を見た「C11 227」がけん引し「オハフ33 215」「オハ35 559」「オハ35 459」「オハフ33 469」「オハ35 149」、補助機関車としてE101という編成だった。客車が全てぶどう色1号のオハ35系でしかも珍しいノーヘッダー車(窓の上に梁がない)の「オハ35 149」が入るという統一感がありつつも珍しい客車が入るという編成を目にすることができたのが幸運だった。

「C11 227」がけん引する「川根路13号」。新金谷駅に入線し出発を待つ。背後に見える特急はつかり用カラーの「スハフ43」とも相まって昭和33年頃の常磐線のどこかの駅にも見える

 大井川鐵道では、このようなイベントを定期的に行なっており、整備工場に関しては「大井川鐵道きかんしゃトーマス号とSL整備工場見学」ツアー(6月13日~9月30日開催)にて見学することができる(詳細はhttp://www.oigawa-railway.co.jp/pdf/20150830kanko_thomas.pdfを参照)。

編集部:柴田 進