ニュース

1000年前のハワイに人類はどうたどり着いた? 地球と生きる、ポリネシア伝統航海カヌー「ホクレア」50周年を祝う

2025年3月8日(現地時間) 実施
50周年誕生祭の日の朝8時。砂浜近くに停泊できないため中央奥にホクレアが見える

「ホクレア(H?k?le?a)」というカヌーをご存じだろうか? エンジン、舵、コンパスを使わず、自然の様子から針路を読み取って航海をする双胴船で、この航海術を復活させるため、1975年にポリネシア航海協会が復元したのがホクレアだ。ハワイ語で「幸せの星」を意味しており、釘を使わずすべての部位がロープで縛って組み立てられている。

 遡ること1000年以上前、ポリネシアからハワイに人類がやってきたとされている。コンパスもない時代にどのように新たな土地を見出し、ハワイにたどり着いたかといえば、彼らは月や太陽、星となどの天体の動き、風、雲、海のうねり、そして海鳥の様子など、自然からサインを読み取っていたという。

ホクレアの様子を会場で中継していた

 伝承により伝わっていたこの伝統航海術は一度は失われていたが、ホクレアの誕生によってよみがえった。ホクレアは1975年3月8日にオアフ島のカネオヘ湾クアロアから初出航を果たした。それから50年を迎えた今年3月8日、同じクアロアで「ホクレア50周年誕生祭/第16回クアロア・ハキプウ・カヌー・フェスティバル」が開催された。

 この50年間、文化伝承、自然・地球への敬意、いたわる心を育み、自然と調和のとれた持続可能な世界を目指して世界中を航海してきたホクレアを祝うため、会場のクアロア・リージョナル・パークには、これまでの乗組員や航海士、文化実践者、教育者、そしてホクレアの使命を支えてきたコミュニティが集結した。

ホクレアの到着をビーチで見守る人たち

 乗組員のなかには日本人女性もいる。2017年の世界一周航海にクルーとして参加したファネリアス多美子さんは、以前インタビューでホクレアの航海術について尋ねた際にこう教えてくれた。

「エンジンも舵も付いていないホクレアは、風の力を受けて航行します。風がないときは風が来るまで待ちます。進路は大きなパドルを使って変え、セイル(帆)でバランスを取りながら進みます。方位を知るには、星や太陽が昇り沈む方向を手掛かりにして、緯度は水平線からの北極星などの星の高さによって測っています。星が見えないときは、波のうねりなどを頼りにして方角を定めるのですが、真っ暗ななかでは体でうねりを感じ取るしかないんです」

 1975年の誕生から1年後、ホクレアはハワイを出発し、1か月をかけてタヒチに到着するという大海原での初航海を成功させた。これは600年ぶりの伝統航海術による航海となった。

ホクレアクルーがこの後に陸へと移動するのにボートに乗り換えている
海のなかでホクレアを迎える人たち

 彼らのミッションについて、日本人初の女性クルー内野加奈子さんに話を伺ったことがある。彼女は2000年にホクレアクルーとなり、伝統航海術をハワイに伝授したマウ・ピアイルグ氏に師事し、2007年に歴史的航海となったハワイ~日本航海に参加した。

「ホクレアのミッションは地球をいたわること。地球というとあまりにも大きなことに聞こえますが、私たちは、まずはカヌーというホームでそれを意識しています。皆さんそれぞれが生活のなかで自分のホームをより気持ちのよい場所にしていく。一人の心掛けが広がると大きな力になるので、ホクレアは各寄港地で『皆さんもホームをいたわっていますか?』と問いかけています」

 まったく同じことを多美子さんも話してくれた。「『カヌーの上で互いを思いやる生き方は、島でもできる。それは地球という島でも同じこと』というのが、私たちの考えです」と。彼女たちは世界各地の寄港地に滞在し、学校訪問をして教育活動や文化交流をしている。

 ポリネシア航海協会は、活動の目的を「ハワイの伝統航海術を継承し、世界を航海しながら環境保全や文化伝承、いたわり合う大切さを次世代に伝えることを目的に活動する」としている。こうしたミッションを掲げて、ホクレアはハワイから太平洋の島々、日本、そして世界一周航海など、25万海里以上を航海してきた。

砂浜にホクレアのクルーたちが海から上がってくる直前

 そんなホクレアの50周年記念の日。8時にホクレアがクアロア沖に到着。神聖なハワイアンの儀式が執り行なわれた。

クルーたちを迎える儀式のなかの一シーン
ホクレアからカヌーに乗り換えて陸へ上がるクルーたち

 9時に50周年記念プログラムがスタートし、タヒチとハワイのストーリーに影響を受けたフラが踊られたり、ポリネシア航海協会会長でホクレア初航海時から参加してきた航海士ナイノア・トンプソン氏らがあいさつをしたり、2時間にわたってセレブレーションが行なわれた。

レイがかけられハグを交わすクルーたち

 実は2023年に、ホクレアは姉妹カヌー「ヒキアナリア」とともに、2027年までの予定で太平洋を一巡する環太平洋航海「モアナヌイアケア航海」へ出航した。その最中に起こったマウイ島の大規模な山火事を「私たちのホームで起こっている災害」と言い、「ラハイナは海の原動力ともいえる場所。マウイが呼んでいる。ホクレアの温かさを必要としている」とコメントを出してハワイへ戻ってきた。この航海は引き続き挑む予定で、終着地は日本となっている。

2023年の環太平洋航海「モアナヌイアケア航海」へ出航直前の儀式の様子
のポリネシア伝統の飲み物カヴァでモアナヌイアケア航海安全を祈願した

 ハワイに暮らす我々にとって誇りであり、アロハスピリッツの象徴ともいえるホクレア。地元メディアでも大きく報じられ、生中継も行なわれた。これからも見守りながら応援していこうと思う。

50周年記念プログラムのスタート
神聖な水にティーリーフをつけるのもハワイアンの儀式の一つ
あいさつとフラが繰り返される特別のセレブレーションだった
タヒチとハワイの歴史を物語るフラが踊られた
ポリネシア航海協会会長のナイノア・トンプソン航海士
カヴァが供えられた岩の向こうにはホクレアが見えていた
ハワイの歴史に敬意を表してハワイアンの食事が祀られていた
50周年記念Tシャツ。購入するのに45分間待った……!

 ホクレアの修繕作業や教育プログラム実施などポリネシア航海協会の活動のすべてがボランティアと寄付金によって運営されている。今回の記念イベントで販売された50周年の記念Tシャツをはじめとするグッズは大行列ができるほど好調に売れていた。この行動は、売上が応援につながるということを知っているハワイの人たちのアロハな気持ちにほかならない。

翌週にはワイキキのアラワイに停泊してコミュニティに披露されたホクレア