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小泉進次郎環境大臣に、国立公園活性化の取り組みについて聞く 「世界の国立公園ランキングトップ25に日本はゼロ。これを変えたい」

小泉進次郎環境大臣

 日本には豊かな自然があり、特別に自然風景に優れたエリアでは自然保護のため国立公園、国定公園など「自然公園法」によって保護や利用のための法律が決められている。ちなみに国立公園は「国を代表するに足りる傑出した自然の風景地(環境大臣が指定し国が管理)」、国定公園は「国立公園に準ずる自然の風景地(環境大臣が指定し都道府県が管理)」と言った違いがあり、国立公園は34か所、国定公園は58か所が指定されている。そのほか都道府県立自然公園があり、こちらは都道府県が311か所を指定している。

 この国立公園などを定めている自然公園法について、環境省は自然公園制度のあり方検討会などの提言に基づいて改正を行ない、未来へ向けての新しい公園像を示そうとしている。改正自然公園法は3月2日に閣議決定、第204回通常国会へ提出されている。改正自然公園法が描く国立・国定公園の将来像について小泉進次郎環境大臣に聞いてみた。

自然公園法改正のポイントは「保護と利用の両輪」

──自然公園法改正のポイントや、その背景について教えてください。

小泉環境大臣:今回の改正のポイントは、間違いなく「自然の保護」が前提にありますが、保護だけではなく、それを前提にしつつ、利用をしっかりとやる。「保護と利用の両輪」を回していくのが最大のポイントになります。

 コロナ禍の前はインバウンドの需要が相当高まっていました。コロナ禍の現在は、自分たちの身近にある全国34か所の国立公園、58か所の国定公園で自然と触れ合って欲しい。国民から愛される国立公園にしていきたいと考えています。

 そういった思いで今回の自然公園法の改正を行います。ハード・ソフト両面の支援策、そしてあわせて保護の強化がポイントです。

 保護の観点で一例として、知床の国立公園のヒグマにカメラマンが(撮影のために)接近する場合がありますが、これはカメラマンにとって危険なことはもちろん、ヒグマにとっても悲しい結末になりかねない行為です。餌付けを含め、人との接触によってヒグマの行動が変わってきてしまい、結果としてヒグマによる人への攻撃で、そのヒグマが殺処分になるということが起きています。これは動物にとっても本当に悲しいことです。

 そこで、今回新たに餌付けの行為に対しても罰則を設ける法案になっています。人間と動物の共生を守り抜く決意です。

──先ほど「保護と利用の両輪」ということに触れられましたが、利用という面では、どのようなことを考えているのでしょうか?

小泉環境大臣:、国立公園の中に廃墟があります。バブルの時代に数多く建てられた温泉旅館やリゾートホテルなどです。残念ながら、今は使われていない建物が国立公園の景観を悪くしていることがあります。廃墟を撤去していくための後押しを行い、結果として国立公園の上質化につなげていくことを考えています。

 また、コロナ禍で自然の中での体験アクティビティの需要が伸びています。令和2年度補正予算には、ワーケーションの支援事業を加えました。コロナ禍でワーケーションがすごい勢いで伸びています。ある民間企業の調査では、30代から50代の就業者のワーケーションの認知度は70%という結果が出ています。国立公園には全国で350のキャンプ場があります。

 全国にあるキャンプ場で、利用料はなんと数百円程度のことが多いです。私が視察した福島県の磐梯朝日国立公園では、キャンプ場のところに施設の管理を行なっている場所があります。手ぶらでキャンプに来てもらって、キャンプができるような設備、貸し出し用テントなどもそろっています。

 家族や友人同士など、クルマで来て、キャンプ場の中にクルマを止めて、キャンプ用品はそこで借りて、手軽に安価に利用できる環境もある。国立公園にはこうした自然体験ができる場所もあるので、そこを盛り上げていきます。

 ソフト面での例えを挙げれば、自然体験アクティビティの促進の点では、市町村やガイド事業者等による協議会が自然体験活動促進計画を作成し、認定を受けた場合には、計画に記載された事業の実施には必要な許可を不要とするような法案にしています。

──それは、アクティビティなどソフト面を行ないたい方は自治体に相談すればよいということですか?

小泉環境大臣:自治体の中で一つの協議会のような場を作って、自然体験などを促進するための計画を作成してもらいます。この計画があれば、国立公園の中に一つ一つテントを立てていいですかというような、個々の手続きを不要とし、簡素化されます。

──では、そのようなことを行なう際に自治体と事業者で決めていって構わないということですか?

小泉環境大臣:これは環境大臣が認定します。その認定に基づくものであれば、今まで必要だった個別の手続きは不要になります。

──若干元に戻る話かもしませんが、手続きを簡素化しすぎると、開発をしすぎてしまう部分が気になるのですが?

小泉環境大臣:それに関しては、まず大前提は国立公園の自然を決して損なうことがないようにする。これが大前提です。法律上、自然保護に支障を与えないことを計画の認定要件としています。

 例えば太陽光発電のためのメガソーラーパネルのような大規模な開発を、(今回の)手続きの中で簡素化していきます、ということではまったくありません。日本の国立公園を正確にご理解いただきたいのは、アメリカのヨセミテや、イエローストーンのように公園に門があり、その中には人は住んでいない、大自然の雄大な景観だけが広がっている場所ということにはなっていません。

 日本の国立公園エリアには工場、旅館やホテルもあり、とにかく人間の生活が営まれているところに結果として国立公園の網かけがあるというのが、日本の国立公園の制度の成り立ちなんです。

 例えば、今国立公園内にある住宅の屋根に太陽光パネルが敷かれ、自家消費型で地産地消のエネルギーが生まれていくことは、私は進めたいと思います。こういったことを排除するものではありません。ただ、公園内の自然に大きなダメージを与えるようなものまで手続きを簡素化して進めることは絶対にありません。

思い出の国立公園

──なるほど、分かりました。日本には多くの国立公園、国定公園がありますが、大臣の思い出の場所はありますか?

小泉環境大臣:先ほど話をした磐梯朝日国立公園です(笑)。磐梯朝日国立公園には、子どものころから行っています。実は家族旅行でうちの親父が連れていってくれたのが、福島の箕輪スキー場。箕輪スキー場が小泉家のスキー旅行の場所だったんです。万座にも行きました、あとは苗場にも。

 ただ一番数多く行ったのは、箕輪スキー場です。ただ当時はそこが国立公園だということは、正直言って気づかなかったですね。五色沼という美しい場所もあるのですが、そこにも幼いころに行きました。

 昨年、環境大臣として行ったときは、本当に感慨深かったです。「ここが幼いころ来た五色沼だったか!これって国立公園だったのか!」って、恥ずかしながら環境大臣になっていなかったら気付かなかったかもしれません。生活の場と共にあるのが(日本の)国立公園なんですよね。

 多くの国民に国立公園のことをもっと知ってもらいたいと思います。「国立公園に行ったことはありますか?」とアンケートを取った際に、「行ったことがない」と答えている人の中にも、気づかずに(国立公園に)行っている方が相当いるはずです。

「富士山に行ったことがありますか?」「尾瀬は?」、これも国立公園なのです。本当は身近なはずなのに意外と認識されていない。こういったことも変えていく一歩として、自然公園法の改正によって「保護と利用の両輪」を回していきます。この好循環を実現したいですね。

 当面インバウンドに関しては、すぐに回復は見込めません。今回の法改正を契機に、地域のみなさんと一緒になって、より多くの地元地域と国民から真に愛され親しまれる国立公園に近づけていきたい。

 国内に旅行する方、観光客の方に、「旅行といえば国立公園」「家族・友人同士で行くなら国立公園」「ドライブで行くなら国立公園」と認知されたいです。

 ドライブといえば、今回の法律とは別になりますが、記者会見でも発表したように電気自動車で国立公園に行った場合駐車場料金は無料ということも合わせて措置をしていきます。

 富士山のある静岡県では、夏から富士山の登山が解禁になります。ルート解禁でマイカー規制は外れます。その際優先してマイカー規制を外すのは電気自動車です。電気自動車で走ることは、2050年までのカーボンニュートラルを実現するという、気候変動政策にも合致します。

 また中部山岳国立公園の乗鞍高原では、今回新たに長野県の松本市とも連携をして、公園をカーボンニュートラルの先行エリア「ゼロカーボンパーク」として位置付けます。カーボンニュートラルに向けた取り組みや電気自動車の積極的利用だけでなく、今国会に提出しているプラスチック法案に関連し、エリアで利用される使い捨てプラスチックの削減もゼロカーボンパーク登録の条件にしています。乗鞍高原のように、先行的に持続可能性のシンボルのようなエリアを積極的に増やしていきます。

 観光の人気スポットとして、岐阜の高山があります。高山と松本のルートをつないで「高山・松本ルート」を一つのサステナブルな地域にしていく。現場には環境省の事務所があり、レンジャー(自然保護官)がいます。自治体間のさまざまな調整にレンジャーが入り、検討をしています。こうした取り組みも、さまざまな地域で生まれることを期待しています。

ゼロカーボンパーク構想について

──実は最後の質問として、政府目標である2050年のカーボンニュートラル達成と連動する施策はあるか?というのを用意していました。先に大臣に言われてしまい、ちょっと困っています。ゼロカーボンパーク構想で、乗鞍以外に進んでいる地域はありますか?

小泉環境大臣:ほかの地域ですか? 実は林野庁と連携を深めていこうとしています。これなぜかというと、国立公園は森など土地のほとんどは国が所有していることが多いです。そのため、国有地を管理している林野庁との連携が国立公園の活性化のためには不可欠だというところもあります。

 例えば、知床国立公園、それともう一つは屋久島国立公園、そして日光国立公園。この3つは世界遺産でもありますので、ここで連携が深まらないと、アメリカのヨセミテとかイエローストーンのようなワールドクラスになりません。人の流れもオーバーツーリズムによって自然が壊されるようなことがあってはならないので、制限が必要なときもあります。知床とか屋久島とか日光とか名前を挙げましたけど、まずそういったところで、今までになかったような国立公園を実現したい。

 残念ながらトリップアドバイザーの世界の国立公園ランキングの25位以内に日本の国立公園はゼロです。1位はアフリカのセレンゲティだったかな。もちろん、ヨセミテとかイエローストーンは入っているのですけど。トリップアドバイザーで国立公園トップ25、日本はゼロ。これを変えたい。

トリップアドバイザー トラベラーズチョイス 国立公園

https://www.tripadvisor.jp/TravelersChoice-NationalParks

 ワールドクラスの国立公園を作ること、これを政府挙げてやっていきます。いつか、海外からの渡航もOKになると思いますが、そのときにハード・ソフトの両面で今以上に素晴らしい、環境の観点からも持続可能な公園になった、知床に行きたい、屋久島に行きたいと世界的にも評価が高まるように準備を進めます。

 実は屋久島は再生可能エネルギー99%です。そういう環境もぜひ多くの人に知ってもらいたいし、屋久島の再生可能エネルギー100%実現に向けて、環境省も支援をしていきます。


 小泉環境大臣もいくつか例に挙げていたが、人口密度の高い日本では国立公園地域に多くの人が住んでおり、工場などの産業のある場所もある。風光明媚な場所には普通に人が住んでおり、そこに後から自然公園法で国立・国定公園を制定した形になっているからだ。

 その中で、バブル時代に開発を進め、結局使わなくなったものを放置。現在の自然公園法が障害となって、手を入れられなくなっているものを改善し、国立・国定公園の魅力を世界レベルに引き上げていこうとしている。

 その中で、電気自動車など走行時にCO2排出を伴わない交通手段を優遇し、エリアとしてのゼロカーボンを達成していく。電気自動車は製造時や充電に用いる電気でCO2は排出するものの、移動時にICE(内燃機関)を用いるクルマほどCO2排出を伴わないのは美点だ。エリアの保護という面では優れている乗り物で、製造や充電に用いる電気のCO2排出はこれから社会的に解決していく必要のあるものだろう。

 小泉環境大臣の目指す「グローバルクラスの国立公園を作る」「トリップアドバイザーで国立公園トップ25に入る」はとても分かりやすい目標で、今後人口が縮小していくことが誰の目にも明らかな日本は、世界レベルで評価される国にならない限り、多くの旅行者に来てもらえない。

 もちろん現在は世界的なコロナ禍のため、海外との行き来ができず、世界レベルになっても利用者が増えることはない。しかし、このコロナ禍はいつか世界的に克服されるべきもので、国立・国定公園の整備もすぐには進まない事業であるのは誰もが理解できるところ。

 環境省は将来の日本のために、国立・国定公園の変化を求めた。人によってはこれをビジネスチャンスと捉えるかもしれないし、1人の利用者としては、より美しい国立・国定公園に行けるようになるのは楽しみだ。小泉環境大臣の言う「保護と利用の両輪を回していく」取り組みに期待したい。