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東池袋で実験中の自動運転バスに乗ってみた。IKEBUS乗り継ぎや食品デリバリーで生活圏を支える未来像描く

2021年3月10日~16日 実施

WILLERが自動運転車両を利用した実証実験を東池袋で実施中

 WILLERは、3月10日から3月16日までの期間、東京都豊島区の「としまみどりの防災公園(IKE・SUNPARK)」周辺において、自動運転の実用化に向けた実証実験を実施する。その初日の様子が報道陣に公開された。

 今回の実証実験は、東京都の「令和2年度自動運転技術を活用したビジネスモデル構築に関するプロジェクト」に採択されたもの。

 具体的には、としまみどりの防災公園周辺で、公道も含めた自動運転車両の走行を行ないつつ、豊島区が運営・WILLERが運行を担当している、駅周辺の路線バス「IKEBUS」との接続性を検証したり、自動運転車両を利用したデリバリーサービスの実験を行なったりしつつ、実際のニーズを探りたいという。

 なお、当初の予定では地域の住民や企業などを対象としたモニター体験も考えられていたが、東京都で緊急事態宣言が延長されたことを受け、急遽関係者のみで行なわれることとなった。

 実証実験で利用する車両は、フランスのNAVYAが開発した自動運転シャトルバス「ARMA」。最高速度は19km/hで、走行ルートはとしまみどりの防災公園内を出発して周囲の公道を走行する2つのルートを用意。実証実験での走行距離は1.6kmで、1日に7回の走行を予定している。

実証実験には仏NAVYAの自動運転シャトルバス「ARMA」を利用
ARMAのフロント部分
左側面のドアから乗り降りする
左の赤い車両は、WILLERが豊島区で運行している路線バス「IKEBUS」。将来は、このような路線バスなどの公共交通機関と自動運転車両を組み合わせた新しい交通サービスの展開を想定している

 自動運転はレベル2相当となっており、常にオペレーターが乗車して運転状況を監視しつつ、一部はオペレーターが運転操作をサポートするが、大半は車両に搭載されているセンサー(LiDAR)で障害物などを検知しつつ、加速・減速やハンドル操作を自動で行なうようになっている。

 走行ルートはあらかじめシステムにマッピングされており、GNSS(全球測位衛星システム)を利用した測位と組み合わせて自動運転を行なう。自動運転のシステムはシンガポールの「STエンジニアリング」が開発したものを利用。なお、WILLERが国内で実施する自動運転車両を利用した実証実験は、今回が3例目となる。

実証実験では、としまみどりの防災公園周辺の公道も含めた1.6kmのルートで行なっている
交差点での右折なども含めて自動運転で走行した
対向の左折車を待ってから右折する様子

 実際に自動運転車両に乗車し、自動運転の様子を体験したが、走行は非常にスムーズで、急発進や急ブレーキが発生することもなく、乗り心地はかなり良好だった。

 今回利用された自動運転車両では、信号機との連携は行なわれていなかったため、赤信号での停車などは同乗するオペレーターが操作していたが、そういった場面以外では、オペレーターが出発の合図を出したあとはほぼ自動運転となり、角を曲がる場面でも加速・減速やハンドル操作が自動で行なわれた。

車内の様子。オペレーターが乗車し、一部はオペレーターが運転をサポートしていたが、大半は自動運転でスムーズに走行

 続いて、WILLERが提供するMaaSアプリ「WILLER」を利用した自動運転車両と公共交通機関との接続性を検証するデモを実施。

 WILLERアプリを起動して、目的地に池袋駅を、出発地に自動運転車両の出発地点を指定して検索を行なうと、自動運転車両とIKEBUSを利用したルートと、出発地点や乗り継ぎ地点、目的地の出発・到着時間、乗車料金などが表示される。今回は、このルートどおりの乗り継ぎは体験できなかったが、今回の実証実験と合わせて、将来の事業化を見据えつつ検証を続けていくとのこと。

WILLERアプリで乗車場所を指定
目的地を指定
乗車人数を入力しルートを検索
自動運転車両とIKEBUSを乗り継いだルートが結果として表示された
こちらが詳細なルート案内

 また、近隣住民が近隣店舗から食品のデリバリーサービスを利用するデモも実施。

 こちらは、自動運転車両を利用して店舗から顧客の住宅まで商品の配達を行なうことを想定しているが、今回は実際の商品配達は行なわず、アプリを利用した商品の注文から配達されるまでの流れのみが説明された。

 まず、利用者がアプリから商品を注文する。店舗には専用端末に注文状況と配達を行なう自動運転車両の状況が表示される。店舗の近くに車両が到着したら、店舗の従業員が商品を店舗内のロッカーに収納。すると、利用者のスマホに配達状況のメッセージが届き、そのメッセージに従って受け取り場所に向かい、到着した自動運転車両のロッカーから商品を取り出し受け取ることになる。

利用者がアプリで商品を注文
店舗の専用端末に注文と、商品を配達する自動運転車両の状況が表示される
店舗に自動運転車両が到着したら、車内のロッカーに商品を入れる
利用者のアプリには、商品の配達状況が表示される
利用者が指定した場所に自動運転車両が到着したら、車内のロッカーから商品を取り出す
無事、商品の受け取りが完了

 今回の実証実験は、自動運転車両を走らせることを目的としたものではなく、自動運転車両を利用してどういったサービスを提供できるのか、その場合の課題はどういったものなのか、といった点を洗い出すことを目的としているという。

 そのうえで、公共交通機関のような点と点を結ぶ線の移動サービスではなく、利用者の自宅を中心とした2kmほどの範囲内、いわゆる生活圏内で、利用者が指定した場所に自動運転車両が来て、指定した場所まで行ってくれる、というものを想定している。

 WILLERは現在、京都府京丹後市においてAIオンデマンド交通サービスの実証実験を行なっており、2021年5月より京丹後市と東京都渋谷区でのサービス開始を目指している。そのAIオンデマンド交通サービスは、特定のエリア内限定で、利用者がアプリや電話で車両を呼び出すことで、指定した地点まで10分以内に車両が到着し、目的地まで移動できるというもの。サービス開始時には、利用料金は世帯ごとのサブスクリプション形式を考えているとのことで、本会員が月額5000円、家族1人追加ごとに月額500円といった料金を支払うことで使い放題にする考えだという。

 そのAIオンデマンド交通サービスでは、車両は人が運転するタクシーやマイクロバスなどを利用する。ただ、将来はAIオンデマンド交通サービスに近い内容の新しい交通サービスを、自動運転車両で実現することを目標にしているとのことで、今回の自動運転車両を利用した実証実験も、そんな将来を想定したものだ。そして、既存の公共交通機関と連携しながら、地方では人手不足によって公共交通機関がカバーできない部分での移動手段の確保、都心では移動の効率化を高めることを目的としてサービスを展開していきたいと説明した。