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「鉄道モード」→「バスモード」へチェンジ! 線路&道路両対応のマイクロバス「DMV」、京都鉄道博物館で特別公開

2019年11月30日 報道公開

2019年11月30日~12月22日 一般公開

京都鉄道博物館の車両工場に鉄道モードで入線したDMV(デュアル・モード・ビークル)

 阿佐海岸鉄道と徳島県は、12月22日まで京都鉄道博物館においてDMV(デュアル・モード・ビークル)を特別展示している。

 この特別展示に合わせ、11月30日に京都鉄道博物館本館「車両工場」エリアで入庫イベントを実施し、鉄道モードとバスモードを切り替える「モードチェンジ」を披露した。

京都鉄道博物館でDMV(デュアル・モード・ビークル)の鉄道モードとバスモードを切り替える「モードチェンジ」を披露した

 DMVは鉄道車両とバスの両方の特徴を持ち、鉄道軌道上では鉄道車両として、道路上ではバスとして、乗客の乗り換えなしに運行できる車両。2004年にJR北海道(北海道旅客鉄道)が最初の試作車を完成、その後二次試作、三次試作と改良を行ない完成度を高め、全国数か所で試験営業運転も実施したものの、定期営業運転の実現には至っていない。

 このDMVを世界で初めて定期営業運転に投入するのが徳島県の南東部を走る阿佐海岸鉄道だ。阿佐海岸鉄道と徳島県ではおよそ10年前から観光資源と地域の足、災害時の交通機能の維持にも有利だとして、DMVの活用を検討してきたという。

 正式に導入を決定したのは2017年で、トヨタのマイクロバス・コースターをベースに、鉄道用の車輪や保安装置を設置して製作した。車両は全3両が完成しており、現在は機器の搭載などを進めている段階だ。3台のカラースキームは、1号車「赤」、2号車「緑」、3号車「青」で、パーソナルネームはそれぞれ「青:未来への波乗り」「緑:すだちの風」「赤:阿佐海岸維新」。特別展示初日の11月30日には、2号車「すだちの風」が入庫イベントとモードチェンジを実演した。

車両工場のドア付近で待機するDMV

 入庫イベントは徳島県のマスコットキャラクター「すだちくん」の合図により、10時30分にスタート。ゲート付近で待機していたDMVはヘッドライトとハザードランプを点灯し、鉄道モードでゆっくりと車両工場へ進入した。

 停車後、そのままモードチェンジの実演。車輪を格納しタイヤで設置するバスモードに移行し、また鉄道モードへ、バスモードへとチェンジを繰り返した。モードチェンジに要する時間は10~15秒(乗客や燃料の量により前後の重量バランスが変化するため、その自動調整に数秒の時間差が生じる)とスムーズで、居合わせた鉄道ファンもさまざまなアングルから撮影できたようだ。

すだちくんの合図でゆっくりと入線するDMV「すだちの風」
鉄道モードは車体前方と後方に車輪を下ろす(写真には後輪は写っていない)が、駆動は線路上に乗ったゴムタイヤの内輪側で行なう。そのため車体前方だけが大きく持ち上がるスタイルで走行する
鉄道モード時の前輪付近。ディスクブレーキやオイルダンパーなどの構造がよくわかる
鉄道モード→バスモードへのチェンジ
バスモード→鉄道モードへのチェンジ
来場者に解説を行なう、阿佐海岸鉄道株式会社 代表取締役専務 井原豊喜氏
DMV 2号車「すだちの風」とすだちくん。1号車「未来への波乗り」は太平洋の豪快な波がモチーフで、沿線の東洋町にはサーファーに有名な海岸もある。3号「阿佐海岸維新」は南国土佐の太陽と英雄・坂本龍馬にちなみ、高知県南東部の活性化への情熱が込められている

 入庫イベント終了後、DMVは車両工場を出てSLが並ぶ扇形車庫へ移動。通常の鉄道車両は線路上を移動するが、DMVはバスモードで鉄道博物館内の通路を走行、扇形車庫には転車台ではなく背後の扉から「入庫」した。入庫後は直ちに車両内部の公開準備を開始、12時30分ごろから一般来場者へ公開された。また、11月30日と12月1日にはDMVペーパーフラフトを各日300名に配布した。

車両工場からバックで出庫する姿はマイクロバスそのもの。後輪は、線路から外れないようにするためのガイド輪で、駆動はタイヤで行なう。バスモードと鉄道モードで動力が共通なため、仕組みもシンプルになる
鉄道モード→バスモードへ。マイクロバスから追加されたボンネットには前輪とそれを収納する機構部がある。後輪(ガイド輪)はベース車両にもともとあるトランクスペースを利用している。なおイラストなどのデザインは一般公募されたもの
ボンネットがあるものの形状はほぼマイクロバス。道路上を走る姿よりも、線路上を走る姿のほうがインパクトがありそうだ
京都鉄道博物館構内の道路を移動、切り返して扇形車庫の裏側から入庫する
モード変更のデモを行なうため、慎重に位置を合わせる。営業運転ではモードインターチェンジを通るためこのような手間はない

 DMVは「扇形車庫」で12月22日まで展示。期間中、土日のみ解説とモードチェンジの実演(約10分)が行なわれる。実演時間の終了後約15分間限定で、記念撮影ボード、子供用の段ボール仕様ミニDMVでの記念撮影ができるほか、車両内の見学も可能となっている。

DMV(デュアル・モード・ビークル)モードチェンジの実演

土曜開催: 2019年12月7日、14日、21日 12時45分~15時15分まで30分毎
日曜開催: 2019年12月8日、15日、22日 11時15分~12時15分/13時45分~14時45分まで30分毎
Webサイト: DMVモードチェンジの実演(PDF)

扇形車庫ではSLと並んで展示される。隣のD51 1号機は1936年(昭和11年)落成で、2019年(令和元年)落成のDMVとの年齢差は83年。蒸気機関車とDMVの並びはかなりめずらしい光景だ
乗降用のドアは車体左側に1か所のみ。ドアの開閉に連動してステップが出る仕組み
乗客用の座席は18席で、立席含めて最大23名が乗車可能。通常の鉄道車両に比べると乗車定員は大幅に減るが、日常の運行には問題なく、混雑が予想される場合には増発で対応するという
運転席は基本的にマイクロバスそのものだが、鉄道用の保安システムやモードチェンジのための機器を後付けしている。助手席は座席としては使用できない
ハンドルの下にロックレバーがあり、鉄道モードの際にハンドルが動かないように固定できる
鉄道用車輪の制御装置と車体のモード状況などを表示するモニター
鉄道モード用の保安装置。ドア付近に整理券発券機も設置済み
鉄道車両としての改造を行ったのはNISHIJO。車体の製造と改造はトヨタ自動車が、車台の強化などは日野エンジニアリングアネックスが担当した
記念撮影ボード(手前)と、子ども用の段ボール仕様ミニDMV。DMVと一緒に記念撮影ができる
11月30日、12月1日に600枚限定で配布したDMVペーパークラフト(※配布終了)

阿佐海岸鉄道 阿佐東線へのDMV導入

 阿佐海岸鉄道は、JR四国(四国旅客鉄道)牟岐線の終点である海部駅を起点に、甲浦(かんのうら)駅までの約8.5kmを結ぶ第三セクターの路線で、現在は2両のディーゼルカー(ASA-101、ASA-301)で営業運転を行なっている。

「阿佐海岸鉄道へのDMV導入は2020年度中を予定しております」と説明するのは、徳島県 県土整備部 次世代交通課 新技術鉄道担当室長の杉友賞之氏。

 杉友氏によると、バスモードでの営業区間は現在調整中とのことだが、鉄道モードでの運転区間は阿波海南駅~甲浦駅約10kmとなる。これに伴い、JR四国から阿波海南駅~海部駅間約1.5kmを譲り受ける。その理由は、現在の起点である海部駅は高架駅であるためにDMVが進入するスロープ建設に多額の費用がかかるためで、地上駅である阿波海部駅での鉄道軌道への乗り入れが妥当と判断されたという。

 一方、終点の甲浦駅にはスロープの建設工事がはじまっている。両駅にはモードインターチェンジという設備が設置され、ここで乗客を乗せたままバスモードと鉄道モードをチェンジする。保安システムの都合上、現在は鉄道車両とDMVが同一区間を走行することができないため、JR四国の定期列車の運行は阿波海南駅が終点になる。

 DMVはバスと鉄道の両方の特徴を持つが、直通運転を行なう運行会社にはバス事業者としての免許と鉄道事業者としての免許が必要であり、乗務員の運転免許も2種類が必要になる。杉友氏によると、阿佐海岸鉄道では現在、鉄道の乗務員に対する自動車二種免許の取得を進めており、現時点では6名、営業運転までに7名のDMV運転士が誕生する予定とのこと。乗務員が両方の運転免許を取得することにより、バス区間、鉄道区間で乗務員の交代をする必要がなくなり、人件費を抑える効果もある。「世界でも初めての定期営業運転になるため、ハード・ソフト両面、また法的なものも含めて、国土交通省をはじめとする関係組織と連絡をとりあって、文字通り手探りで準備を進めています」と杉友氏は説明した。

 阿佐海岸鉄道 代表取締役専務の井原豊喜氏は「世界でもここだけのDMV。この話題性の高いものの乗車体験とともに、沿線地域も楽しんでもらえるような観光プランを、地元自治体とともに計画して参ります。ぜひ、多くの方に、沿線での宿泊も含めてお越しいただければと思います」と話す。阿佐海岸鉄道沿線部は風光明媚で、カツオや伊勢エビなど海の幸、すだちなど山の幸も豊富で、これらを活用した観光プランを季節ごとにつくりたいと井原氏は意気込む。徳島には阿波踊りもあるが、こうした集客力の高いイベントとも連動した企画もつくっていきたいという。

 また、DMVそのものについても、「今日の入庫イベントでモードチェンジの際に流れていたのは、地元海部高校の生徒たちによる『海南太鼓』の演奏です。DMVのためにつくってくれて演奏してくれたもので、これもたとえばモードチェンジの時に車両のスピーカーで流すなど、なんらかの活用を考えていきたいですね」と話した。

 阿佐海岸鉄道でのDMVの定期運転の開始は2020年度中だが、現時点で正確な時期は未確定。今後は法的手続きの進行、鉄道部分のDMV路線としての設備整備(変更)やバス路線の確定、走行試験、乗員訓練などを行ない、2020年秋から冬ごろの運転開始を目標にしているという。

阿佐海岸鉄道株式会社 代表取締役専務 井原豊喜氏(左)、運行部長 喜多利恭氏(右)