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天皇御即位パレード「祝賀御列の儀」の車列を構成した52台の警察車両、二輪車などを解説

2019年11月10日 実施

パレードに用いられたセンチュリーオープンカー特装車。天皇皇后両陛下が沿道の奉祝に手を振って応えられた

 11月10日に、天皇陛下即位に伴う関連儀式である「即位礼」の最後の行事「祝賀御列の儀」(即位パレード)が行なわれた。その際の車列を構成した車両と、リハーサルなどについてお伝えする。

 祝賀御列の儀は、当初、即位礼正殿の儀と同じ10月22日の15時30分からを予定されていたが、9月に襲来した台風15号および10月中旬に襲来した台風19号によって広範囲に激しい被害がもたらされたため、11月10日に延期された。

オープンカーについて

 祝賀御列の儀で天皇皇后両陛下がお乗りになった車両は、トヨタの新型センチュリーを特別に改装されたオープンカーである。平成の即位パレードの際にはロールスロイス「コーニッシュIII」オープンカーが用いられたが、旧式化して使用が困難であることから、今回新調されることとなった。

 内閣府は国内外の複数のメーカーに設計・製造を打診し、5社から下記の車種をベースとした特装車の提案があった。

・トヨタ「センチュリー」
・日産「シーマ」
・ホンダ「レジェンド」
・ロールスロイス「Dawn(ドーン)」
・メルセデスベンツ「S560カブリオレ」

 これらのなかから、車格、走行性能、環境性能、納期の確実さ、メンテナンス体制などを総合的に評価し、最も高い評価を受けたセンチュリー特装車が選ばれた。

平河町交差点を左折するセンチュリーオープンカー。警察車両が後ろに続いている。
平成の即位パレードで用いられたロールスロイス「コーニッシュIII」(撮影:T.Goto)

 センチュリーオープンカーの車体サイズは全長5340mm、全幅1930mmと、現行の通常のセンチュリーより5mm長いだけで、ほぼ同じである。特注車では、屋根およびBピラー、Cピラーがカットされ、その分ほかの部分が補強されていると考えられる。通常のオープンカーのような幌はなく、屋根を閉めることはできない。製造にあたっては、部品の寸法公差を極限まで小さくし、複数の部品から最も公差の少ない組み合わせを選び、表面の滑らかさを追求している。

 また、座席はフロマージュ色の本革シート「極美革」で、沿道から天皇皇后両陛下のお姿がよく見えるよう、後部座席は通常のセンチュリーより座面を4cm高くし、シートバックはリクライニング機構がなく25度に固定された。ほかの御料車のほとんどは前席は革張り、後部座席はウールファブリックが使用されているが、オープンカーであるため清掃のしやすさや外観などから革シートを採用したと推測される。シートベルトは装備されているが、パレード時には両陛下および運転手、助手いずれも着用されていなかった。

 塗色は現行センチュリーの標準色である「神威エターナルブラック」であるが、塗装膜を通常より多く重ね、より輝きと深みを増した仕様になっている。

 エンジンは、皇室車両としては初めてハイブリッドシステムを搭載している。エンジン・ハイブリッドシステムは通常のセンチュリーと同じものと思われ、エンジンの排気量は4968cc、最大出力280kW(381ps、6200rpm)、モーターの最大出力は165kW(224ps)であり、システム最大出力は317kW(431ps)となる。

 今回のオープンカーに限らず、御料車であっても道路運送車両法11条および19条が適用されるため、ナンバープレート取り付け義務がある。しかし、公務用の御料車には一般のナンバープレートとは異なる専用のナンバープレートが同法11条第2項に別途定められている。この専用のナンバープレートは銀色の直径約10cmの円形で、「皇○」(○には算用数字が割り当てられる)の字が浮き出し彫となっており、これを車両の前後に取り付ける。今回のオープンカーには、「皇10」のナンバープレートが装着されていた。また、車両後端部には、車両保管場所標章が貼り付けられていた。

 オープンカーの運転を担当したのは、宮内庁車馬課の中村誠氏で、普段の両陛下のご移動でも御料車を運転する「御料自動車操縦員」である。また、助手席には皇宮警察の護衛官が座乗した。後部座席の右側に天皇陛下、左側に皇后陛下がお乗りになった。

国会議事堂を背景にパレードコースを進むセンチュリーオープンカー。平河町交差点にて

車列構成

車列構成の模式図

 車列は、通過前にまず警備車両、パトカー、警護車の各1台が先行し、その後警視庁の3台の白バイと1台のサイドカーおよび警視庁キャデラックオープンカーに先導され、菅義偉官房長官や安倍晋三首相を乗せた車両、警護車、官房副長官を乗せた車両の計4台が続いた。

 その後、間隔を少し開けて天皇皇后両陛下の車列として、警視庁のキャデラックオープンカーを先頭に警視庁の白バイ5台がV字状に並んで先導し、皇宮警察の黒色サイドカー3台が続いた。そのすぐ後方に天皇皇后両陛下を乗せたオープンカーが位置し、さらに後続には皇宮警察の黒色サイドカー3台およびV字隊形の警視庁の白バイ5台が後衛にあたった。

 その後方には秋篠宮同妃両殿下の車列が続き、先導の警視庁キャデラックオープンカー、3台の警視庁白バイ、1台の皇宮警察サイドカー、そして両殿下を乗せた三菱・ディグニティ、後衛の白バイ2台という構成だった。

 その後ろにも、警視庁キャデラックオープンカーに続いて内閣府や宮内庁関係者を乗せた7台の乗用車が続き、警視庁キャデラックオープンカーおよび2台の白バイがつく計11台の車列が連なった。

 車列の後ろでは、警視庁のビュイックオープンカー、警備車両、パトカーの3台が後押さえを担当した。

 車列は乗用車24台(オープンカーおよび先行車と後押さえの警備車両を含む)と白バイ20台およびサイドカー8台(警視庁1台、皇宮警察7台)の計52台もの車両で構成された。先行車と後押さえを除いた車列の長さは約400mにおよんだ。

 これらの車列は、通常とは反対側の右車線を逆走する形でパレードが行なわれた。

天皇皇后両陛下車列を先導する警視庁白バイと、皇宮警察サイドカー。国会議事堂をバックに平河町交差点にさしかかる

各車両について

 車列に加わった車両について、先頭から順番に紹介する。

先行車

1. 警視庁 日産「キャラバン」警備車両
2. 警視庁 トヨタ「クラウンパトロールカー」(210系)、第一自動車警ら隊(無線呼称「けいし115」)
3. 警視庁 トヨタ「クラウンマジェスタ」警護車(黒色) ※皇室の警衛に従事することが多い

首相らの車列

4~6. 警視庁 ホンダ「CB1300P」白バイ3台
7. 警視庁 ホンダ「ゴールドウイングGL1500」サイドカー付(白色)
8. 警視庁 キャデラック「STS」オープンカー(黒色) ※主に儀礼的車列に用いられる
9. トヨタ「センチュリー」(先代) ※菅官房長官座乗
10. レクサス「LS600hL」 ※安倍首相座乗
11. 警視庁 レクサス「LS460」警護車(黒色) ※首相の警護に従事することが多い
12. トヨタ「センチュリー」(先代) ※官房副長官座乗

天皇皇后両陛下車列

13. 警視庁 キャデラック「STS」オープンカー(黒色)
14~18. 警視庁 ホンダ「CB1300P」白バイ5台
19~21. 皇宮警察 ホンダ「ゴールドウイングGL1800」サイドカー付(黒色)3台
※ホンダ・ゴールドウイングに側車を付したもの。2018年、皇宮警察とホンダが共同開発した。側車がオートバイの右側に付いているものと左側に付いているものがある。側車が車列の外側(沿道側)となるよう配置される。

22. トヨタ「センチュリー」オープンカー ※天皇皇后両陛下座乗
23~25. 皇宮警察 ホンダ「ゴールドウイングGL1800」サイドカー付(黒色)3台
26~30. 警視庁 ホンダ「CB1300P」白バイ5台

秋篠宮同妃両殿下車列

31. 警視庁 キャデラック「STS」オープンカー(黒色)
32~34. 警視庁 ホンダ「CB1300P」白バイ3台
35. 皇宮警察 ホンダ「ゴールドウイングGL1800」サイドカー付(黒色)
36. 三菱「ディグニティ」(初代、黒色)※秋篠宮同妃両殿下座乗
37~38. 警視庁 ホンダ「CB1300P」白バイ2台

内閣府、宮内庁関係者車列

39. 警視庁 キャデラック「フリートウッド」(2代目)オープンカー(黒色)
40~43. トヨタ「センチュリー」(先代)4台
44~46. トヨタ「クラウンロイヤル」(210系)3台
47. 警視庁 キャデラック「フリートウッド」(2代目)オープンカー(黒色)
48~49. 警視庁 ホンダ「CB1300P」白バイ2台

後押さえ

50. 警視庁 ビュイック「リヴィエラ」(6代目)オープンカー(黒色)
51. 警視庁 警備車両(黒色ワゴン型)、今年導入された新型の警備車両(用途を考慮し、車種などの記載は控える)
52. 警視庁 トヨタ「クラウンパトロールカー」(210系)、第二自動車警ら隊(無線呼称「けいし203」)

先行する警視庁 日産「キャラバン」警備車両(1)
先行する警視庁パトカー(2)と警護車(3)
警視庁サイドカー(7)
首相らの車列を先導する警視庁キャデラック「STS」オープンカー(8)
官房長官を乗せたセンチュリー(9)
首相を乗せたレクサスLS600hL(10)。警視庁警護車(11)、官房副長官のセンチュリー(12)が続く
天皇皇后両陛下の車列を先導する警視庁キャデラック「STS」オープンカー(13)
天皇皇后両陛下の車列を先導する警視庁白バイ(14~18)
皇宮警察サイドカー(19~21)
天皇皇后両陛下がお乗りになったセンチュリーオープンカー(22)。後ろには皇宮警察サイドカー、警視庁白バイが続く
秋篠宮同妃両殿下車列を先導する皇宮警察サイドカー(35)
秋篠宮同妃両殿下がお乗りになったディグニティ(36)
内閣府・宮内庁関係者を先導する警視庁キャデラック「フリートウッド」オープンカー(39)
車列の最後尾を務めた警視庁キャデラック「フリートウッド」オープンカー(47)と白バイ(48~49)
後押さえを務めた警視庁ビュイック「リヴィエラ」オープンカー(50)
後押さえ最後尾の警視庁パトカー(52)
車列通過前に周辺をくまなく検索する警視庁警備犬

 警視庁のオープンカーには、後部座席からも後方の様子が分かるよう、後部座席用バックミラーが追加されている。

 警護・警衛にあたった白バイの所属部隊はさまざまで、各方面交通機動隊、高速道路交通機動隊、交通執行課のほか、所属の記載がない白バイ(所轄署交通課または警備部と思われる)も見られた。

警衛に従事した警視庁第七方面交通機動隊の白バイ。パニアケースに書かれた「7」の数字で所属部隊が分かる
警視庁交通執行課の白バイ(右側)。「交執」と書かれている
警視庁高速道路交通警察隊。「高」と書かれている
警視庁白バイ。所属部隊の記載がないので、所轄警察署または警備部と考えられる

警察官の服装

 車列に加わった警察官や沿道警戒に従事した警察官は、普段の制服や活動服とは違った礼服を着用していた。警察官の礼装は、制服に金色の礼肩章及び飾緒を着装し、白色手袋を着用した服装である。

 また、自動二輪車(側車付きを含む)に乗車した警察官は、黒地に金色の模様を装飾した儀礼用乗車帽及び儀礼用乗車ズボン、儀礼用帯革を着用した。

沿道警戒にあたる礼服着用の警察官。階級は巡査。階級により肩章や制帽の帯章・前ひさしなどの模様が異なる。
儀礼用乗車服で車列を警護する警視庁白バイ隊員
儀礼用乗車服で車列を警護する皇宮警察サイドカー乗員
平成の即位パレードでも、類似の儀礼用乗車服を着用していた(撮影:T.Goto)

リハーサル

 祝賀パレードに先立ち、10月6日午前7時頃と当日8時30分ごろの2回リハーサルが行なわれた。本番と同様に交通規制が行なわれ、ルートや警備が確認された。いずれのリハーサルでも、新しいセンチュリーオープンカーは用いられなかった。また車両の乗務員も通常の制服・乗車服を着用した。

 10月6日のリハーサルは本番と同じ車列構成で行なわれ、両陛下や関係者が乗車する予定の「想定車両」を間に挟み、警察車両は本番とほぼ同じ車両が用いられた。皇居前広場には、陸上自衛隊音楽隊および特別儀仗隊が整列した(音楽演奏はしなかった)。

 当日朝のリハーサルでは、想定車両は省略され、警視庁および皇宮警察の警察車両のみで行なわれた。

10月6日のリハーサル。皇居正門を出る車列
10月6日のリハーサルでセンチュリーオープンカーの「想定車両」を務めたセンチュリー
10月6日のリハーサルで皇居前広場に整列した陸上自衛隊特別儀仗隊
当日朝のリハーサルの模様(国会前交差点付近)。警視庁の白バイ隊員は通常の乗車服、皇宮警察の乗員は通常の制服を着用している

即位礼を支えた車両たち

 今回の即位礼では、10月22日に行なわれた「正殿の儀」に195の国と機関が招待され(うち183の国と機関が出席)、多数の外国要人が来日した。各国車列の警備や都内の広い範囲での警備のため、全国の道府県から応援のパトカー、警察官が動員された。あまりに多数、多岐にわたって動員されたため、そのすべてを紹介することはできないが、一部を紹介したい。

 以下の写真は、10月22日夜の「饗宴の儀」に出席するため、首都高(首都高速道路)霞が関出口方面から桜田門へ向かう車両と、終了後に桜田門から退出した車両が主である。桜田門だけでなく、皇居の複数の門から来賓が出入りした。饗宴の儀は10月22日/25日/29日/31日の計4日開催され、うち10月22日は19時過ぎに始まり、23時ごろ終了した。

午後7時前、首相官邸から皇居に向かう安倍首相車列
米国車列。イレーン・チャオ運輸長官が出席した。警護は警視庁が担当。先導は「一交機6」210系クラウンアスリートパトロールカー交通取締用四輪車一般道路用。右後方に見える警護車はレクサスLS600h
桜田門から皇居に入る北海道警のパトカー(210系クラウンアスリート)
桜田門付近には、来賓を奉迎する人々が集まった
スウェーデン車列を警護した富山県警パトカー(210系クラウンアスリート)。スウェーデンからはカール16世グスタフ国王とヴィクトリア王太子が出席した
北海道警の日産フーガ警護車(Y51系後期型)
京都府警の210系クラウンアスリートパトカー。「POLICE」表記が前ドアに詰めて書かれているなど、都道府県警により文字やロゴの配置が異なる
ニジェール車列を警護する長野県警210系クラウンアスリートパトカー。ルーフに多数のアンテナが増設されているのが分かる
本州最南端から派遣された鹿児島県警。エスワティニを担当。ムスワティ3世国王が出席した
岩手県警のパトカーに先導されたモナコ車列。アルベール2世大公が出席
午後11時頃に饗宴の儀が終わり、桜田門から続々と車両が退出した。この写真の先頭のパトカーは栃木県警
ジョージアの警護に従事した岐阜県警のパトカー(1枚目)とサンマリノの警護にあたった岐阜県警(2枚目)。見比べると、黒色部分に白字で「岐阜県警」と書かれている車両と、白色部分に黒字で書かれた車両があることが分かる
パナマ車列を先導する熊本県警パトカー。熊本県警は車体側面の文字が教科書体のような珍しい字体となっている
キプロス車列を先導する北海道警。全国から動員されたことを象徴している
最南端の沖縄県警からも海を超えて派遣された。ノルウェーの警護を担当
山梨県警200系クラウン交通取締用四輪車。前面警光灯がハロゲン球であり、ドアバイザーがないことから、2012年度導入車両と考えられる
警護車列では、このように警察官が窓から身を乗り出して周囲を警戒することがある。警視庁「九交機5」交通取締用四輪車一般道路用
首都高霞が関ランプ付近を巡回していた警視庁麹町警察署所属の180系クラウンパトロールカー「麹町30」。交通取締用四輪車一般道路用として導入されたが、近年は警備事案に専従している
皇居坂下門の外に並んだいすゞ「エルガミオ」大型輸送車。左は警視庁第八機動隊、右は近機管区機動隊