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ハワイ州観光局のキーパーソンが語る「まだ日本人が知らないハワイ」

2019年7月18日 インタビュー

(左から)ハワイ州観光局 日本支局 支局長のミツエ・ヴァーレイ氏、Hawaii Tourism Authority 日本担当 ブランド・マネージャーの青木美波氏、Hawaii Tourism Authority Vice President, Marketing and Product DevelopmentのKaren Hughes氏、ハワイ州観光局 日本支局 営業部長の酒井剛士氏

 ハワイ州観光局は7月18日(現地時間)、ハワイ島のヒルトン・ワイコロア・ビレッジで日本の旅行会社やエアライン、ハワイ側のサプライヤーを集めたトレードショー「ハワイ島サミット」を開催した。

 同イベントの開催に際し、ハワイ州観光局 日本支局 支局長のミツエ・ヴァーレイ氏と同 営業部長の酒井剛士氏、同局の上部組織となるHawaii Tourism Authority(HTA)のVice President, Marketing and Product DevelopmentのKaren Hughes氏がグループインタビューに応じたので、本稿ではその模様をお伝えする。

もっとハワイ島を知ってもらいたい

ハワイ州観光局 日本支局 支局長のミツエ・ヴァーレイ氏

――まずは2019年の上半期の総括をお願いします。

ヴァーレイ氏:2018年5月にキラウエア火山が噴火しました。そこからリカバリーに時間がかかりました。旅行会社さんともどうやったらハワイ島にお客さまが戻るのだろうか、という話をずっとしていました。これはまずハワイ島を知ってもらおう、ということでとにかくブランディングに注力してきました。

 それと同時にどういったものを作れば売れるのかということを、日本側の酒井の方でアウトバウンド・コミッティのなかで、オールジャパンで何かをしようということで、シャトルバスを作りました。残念ながら3月末で終了しましたが、あのイニシアチブは業界のなかでは初だったので、素晴らしい取り組みだったと思います。

 そのあと反省点もありますので、今回のサミットの前から今後オールジャパンでどうやっていくか。商品開発しかないのですが、現地でインフラを整えるうえで日本マーケットの立ち位置を地元のステークホルダーさん向けに、ハワイ島にとって日本のマーケットが大切で、ハワイ島が日本にとっても大切なのか、日本のお客さまは非常によいキャラクタリスティックのお客さまであるということをしっかり啓蒙していかなければなりません。

 2020年に向けて、日本語のツアー会社さんが少ないので、英語のツアー会社さんにどうやって日本のエージェントさんとコラボレーションして新しい商品を作っていただくか、これがキーになっています。

 上期はブランディングに力を入れ、やっと少しずつ戻ってきたので、夏と秋に数字が表われてくると思います。

酒井氏:少し補足しますと、ブランディングについてはまだまだ浸透していないところもあり、上期はすごく力を入れたのですが、なぜかというと、Instagramの「#ハワイ島」で結構オアフの話が混ざっています。ハワイ=ハワイ島だと思っている方が意外と多いんですね。

 この前も福岡Expoで各島ごとのチラシを配ったのですが、ハワイ島のものだけどんどん減っていくんです。なぜそうなるのかというと、結構勘違いをされていて、「ワイキキはハワイ島でしょ?」という方もいらっしゃいます。

 そういった意味で、まだまだメディアを使ってPRをしていかないといけないと、上期から力を入れています。

――日本のマーケットは、自然災害などがあると欧米などに比べると戻りが遅いという風にも言われます。今回のハワイ島の火山の影響というのは、風評被害が大きいということでしょうか。

酒井氏:大きいですね。

――価格の面でもアジアのリゾートと比べると高いというところもありますが。

ヴァーレイ氏:価格に関しては、まずエアラインさんは価格を下げ過ぎたくはない。それはすごくあると思います。やはり、しっかり利益を作って維持するということをやっていかないと、長期で継続していくことは難しいので、ロードファクター(有償座席利用率)が50~60%だからといって値段をガンと下げるというのは避けたい、というのは方針としてあったと思います。

 ADR(Average Daily Rate:平均客室単価)に関しては、やはり米国市場が主流ですので、米国市場に左右されるということは非常に大きいのです。ちょうど2019年に入ってから9年連続最高記録で伸びていたADRが下がってきています。米国市場もピークに達し、フラットから下降に入りかけているサイクルなので、特にADRに関しては私たちはコントロールできませんが、需要と供給でいえば、ハワイはずっと需要が大きかった。だからエアラインもどんどん入ってきました。そこで飽和状態になってピークに達してちょっと下がり始めているという状態です。

 なかなかアジアのリゾートと比較するのは難しいので、私どもはとにかくエクスペリエンス(体験)と、なぜ日本の方が70%という高いリピーター率なのか、やはりその空気感とか安心感とか、特にアジアに行かれるお客さまはホテルのサービスやリゾートの体験はよいのですが、貧富の差とか安心感、緊張感とかを考えると、やはりハワイがいい、とおっしゃっていただけるのであれば、そこは強く出していかなければいけないというところです。

まだまだ日本で知られていない体験がたくさんある

ハワイ州観光局 日本支局 営業部長の酒井剛士氏

――先ほどハワイ島をオアフ島と勘違いするという話もありましたが、日本ではハワイ島をビッグ・アイランドという名称では売っていかないのでしょうか。

ヴァーレイ氏:ちょうど2~3年前、日本ではビッグ・アイランドというニックネームが主流になっていて、それがかなりブランディングされていたのですが、地元の方からすると本当の島の名前は「アイランド・オブ・ハワイ」なんですね。特にカルチャーのルネッサンスが今ハワイで起きていて、次世代の方々もハワイ語を話せる方が2500名ぐらいしかいなかったのが、3万人ぐらいまでに伸びていますし、自分たちの文化を守っていこうという動きがすごく強まっています。そのなかで正しい名称を使っていきましょう、となっています。それをリスペクトした形です。

 体験をもっと深くしようとすると、カルチャーへのリスペクトや住んでいる方のプライドが大切になってきますので、現地のボードメンバーを含め、正しい読み方に変えましょうとなりました。

――体験という面では、プロダクトがあまり変わらないという印象もあります。それはよくもわるくもですが。

ヴァーレイ氏:実は新しいものはたくさんあるんです。あるんですが、日本のマーケットに紹介されるプロダクトが、星空と火山国立公園、コーヒーファームといったメジャーなものになります。日本語で遂行できているツアーが一握りしかありません。ですが、米国市場では100社以上あります。本当はもっとプロダクトがあって、例えば、溶岩トンネルツアーであったり、ボートツアーであったり、フィッシングツアーであったり、ハイキングであったり、トレッキングであったり、ジップライニングであったり、いろいろあるんですが、やはり言語と旅行会社さんが扱うツアーの限界があります。あとはメディアが撮影に来ても、まずは日本語で遂行されているところをサポートしてから、新しい情報なので、日本に出ている情報がまだ限られているというところはあります。

 そこのところを払拭するために、英語でサービスを提供されているステークホルダーさんに啓蒙して、日本市場に興味があるアトラクション・パートナーさんを見つけなければいけません。その方たちに日本市場が米国市場とどう違うのかを伝えなければなりません。それを過去3年ぐらいやっています。それで今日も60社が会場に来ていますが、私たちはプロダクトを作れませんから、日本語での安全説明をサポートするとか、彼らが日本市場を理解するのを助けたりするとかはできますが、プロダクトはエージェントさんとやっていただく必要があります。ですから、このサミットの1on1はすごく大切です。なかなか日本には行けませんから。

酒井氏:あとはやはりレンタカーベースが多いので、送迎がなく、自分で現地まで行かなければいけないというのは、なかなか日本市場にとってはネックになってしまっているところはあります。

ヴァーレイ氏:日本向けのツアーを作るまでの需要があるかというと、まだないんですね。まず英語のツアーに入っていただいて、それで需要が出てきそうだったら日本語のツアーを作るというのでは間に合いません。それではなかなか育たないので、今は交通会社さんと旅行会社さんに組んでいただいて、新しいツアーを作ってもらうような施策を行なっています。

 最近の若者、特に関東圏の若者はクルマを運転できない方が多く、それもあって地方都市でプロモーションしなければいけないというところもあります。

――UberやLyftのようなサービスと組んでいくというのはいかがですか。

酒井氏:ハワイ島ではまだ数が少ないんです。オアフの方は皆さんUberとかで移動するんですが、そういった意味ではまだ時間がかかるかもしれません。本当はレンタカーを推していきたいんですが。

 それからオプショナルツアーの話でいうと、危険だというものがまだまだ多いんです。例えば、乗馬もジップラインもヘリコプターも、結構NGの旅行会社さんが多いので、そこがちょっと足かせになっている部分もあります。日本市場では、まだまだ自己責任というのは時間がかかりそうです。

――日本からハワイ島へのFIT(Foreign Independent Tour:海外個人旅行)の状況はいかがですか。

酒井氏:だいぶ増えてきてはいるんですが、マーケット的に初ハワイの方はあまり来られないので、そういった意味ではFITの方でもレンタカーを使われることが増えています。最近は料金が結構安いパッケージも出ていますので、安いものが出ればパッケージも多いですね。ただ、安売りでしか来ないということではいけませんから、そこは変えていかなければいけないと考えています。

――言語の壁がまだまだ高いということですが、最近は性能が高い翻訳機や翻訳アプリのようなものも出てきています。

酒井氏:それも考えたことはあるのですが、普通にレンタカーを借りますというときはよいのですが、海のアトラクションなど、危険が伴うとき、その翻訳に問題があった場合、誰が責任をとるのかという話にもなってしまうので、なかなか難しいなというところはあります。ですから、安全に関しては、我々で訳を作って、そのまま見せていただくというようなことをやっています。

5本の柱にフォーカスして、地域とともに持続的成長を目指す

Hawaii Tourism Authority Vice President, Marketing and Product DevelopmentのKaren Hughes氏

――HTAではどういったところに注力していますか。

Hughes氏:特にHTAでは、5本柱にフォーカスして施策を練っています。1つはブランディングです。ハワイ全体のブランディングをいろいろなメジャー市場で行なっていくということです。

 2つめはカルチャーです。特にハワイアン・カルチャーというホスト・カルチャーがないとデスティネーションとして維持していけませんから、カルチャーは大変大切です。日本市場においては皆さんご存じのとおり、ハワイアン・カルチャーという意味合いでフラダンサーも多いですし、リスペクトもあります。そういった意味合いでの可能性はたくさんあります。

 3つめは自然環境の維持です。オーバーツーリズムは日本でも問題になっていますが、ハワイもそういったサインが出てきているというところでは、ここはしっかり守っていかなければなりません。

 4つめはコミュニティです。地元の方の観光に対する満足度、これはHTAにとってのKPI(重要業績評価指標)の1つですし、地元のコミュニティがどういう風にビジターと関わっていくか、どういう風に観光業を支えていくかというところは大切ですので、そこにはすごく力を入れています。

 5つめは旅行するにあたっても、地元の方にとってもそうですが、セーフティとセキュリティです。安全に旅行していただく、安全に島で滞在いただくということです。やはりリスクマネジメントの部分はしっかり対策をたてておかないと、このところ自然災害も多いので、そうしたときに備えておかないといけません。

 この5つは、HTAの責任・施策として、ものすごく力を入れています。

――サステナブルツーリズムについて、具体的にエージェントや旅行者はどういったことに気を付ければよいのでしょうか。

ヴァーレイ氏:まず第一に啓蒙活動です。例えば、サンゴ礁の上に立たないように、来る前にそれを啓蒙する。それからサンスクリーン(日焼け止め)もそうです。2021年から2つの化学薬品が入ったサンスクリーンは売らなくなります。なるべく自然にやさしいものを使っていただく。亀に触らない、動物に近づかない。ものすごく細かく、亀は3m、アザラシは6m、イルカは50m、クジラは100mとかあるんです。そういうことを来る前に旅行会社さんにお願いして啓蒙していただくということがあります。機内のビデオもそうです。そこはすでにかなり力を入れてやっています。

Hughes氏:今すごく力を入れているのは、ハワイの素晴らしいところだけをプロモーションするだけでなく、先ほどのような啓蒙活動のいろいろなTipsや内容を来る前だけでなく、来たあとでも伝えられるようなプラットフォームを考えています。

 まず最初にソーシャルメディアですが、例えば米国の西海岸からこれぐらいの年代の方が来て、今マウイ島のこの辺りにいますということがジオタグで分かります。そういう人たちに、このエリアに行くときにはこれに気をつけてください、とアナウンスできるようなシステムを考えています。もう1つは、Webサイトや私たちが持っているマーケティングツールで、ただ美しいところですというだけでなく、こういうことに気をつけてください、ハイキングするのであれば、このトレイルが安全ですといったような、もっとスペシフィックな情報を伝えていくようなことです。

――住民と観光客のトラブルというのは、混雑であったり、自然以外でも起きているのでしょうか。

Hughes氏:特にコミュニティに関しては、HTAで交通渋滞を直接緩和するということはできません。ですが、ハワイアン・コミュニティ、住民、ビジターでのグループディスカッションを行ないました。そこで挙がってくる問題点をHTAとして、州の機関として、交通局とかに話をして、解決策を見いだせるような橋渡しを行なっています。

 もう1つは、ファンディングのなかで得られた利益をしっかり地元のコミュニティに落とすということです。フェスティバルのようなイベントで、地元の高校生が来て文化交流できるとか、もっと日本のことを学んでいただけるとか、コミュニティが満足できるというようなエデュケーショナル・プログラムが入っているようなイベントには積極的に補助金を出していたりします。

 HTAとして、どういった問題点があるのかということを見つけるために、コミュニティとのミーティングをオアフ島のみならず、各島のコミュニティで行なっています。そこで挙がったものをしっかり州の機関に伝えるという役割ですね。

――日本でも観光立国ということで目標を立ててやっていますが、サステナブルツーリズムとなると、人数の面では飽和状態になってきますし、問題点も出てきます。最終的に観光産業を成長させるには、滞在消費額を上げるとか、いろんな目標があると思いますが、どうあるべきかと考えていらっしゃいますか。

Hughes氏:州として気を付けているのはバランスです。人が来るからといって、それを全部受け入れられませんので、そのバランスはすごく気を付けています。9年連続最高記録で伸びていて、コミュニティの満足度が落ちてきているなか、黄色信号が出るわけです。そうすると同じような立場にあるヴェニスとかバルセロナとかアムステルダムとか、そういったところとコミュニケーションをとって、よい例、わるい例をスタディします。

 ハワイ州としてものすごいよいシステムは、ゾーニングです。ここは農業、ここはリゾート、ここは商業施設とゾーニングがすごくクリアに分かれているので、そう簡単にいきなりビルを建てたりすることはできません。ビジターはなるべくここのゾーンに集中させるというプランニングがなされているなかで、リゾートゾーニングのあり方というのはすごくディスカッションされますし、そういった意味合いではAirbnbですとか、そういったものの法律のディスカッションというのはものすごくハワイでは行なわれています。今後、どういう風に変わっていくかとか、そういったところにはHTAは関わっていきます。

 ハーバーもそうです。クルーズはたくさんハワイに来たいわけですが、クルーズのインパクトをしっかりとリサーチして、この本数しか受け入れられないというのは決めていかないといけません。来るもの拒まずではいけません。そこはハワイは長い間、決めてきています。マーケティングもそうで、どんなお客さまに来ていただきたいか、自分の体験にお金を使う方、そういうハイバリュードカスタマーをどうやって選ぶかというと、マス・マーケティングではなく、ターゲット・マーケティングをしていかないといけません。

ヴァーレイ氏:AirbnbなどからTAT(宿泊税)を取るとか、そのシステムをやっていくのにものすごくエネルギーが必要なので、なかなかできなかったところで市長がサインしましたので、住民からの不満が多くなると市としても州としても動いていかなければいけません。

Hughes氏:HTAとしては、予算の32%をカルチャー、コミュニティ、自然の3つについて、ちゃんとしたビジネスプラン、ちゃんとしたインフラが整っている団体に補助金を出します。そうやって常にプロダクト開発を行なったり、コミュニケーションをとったりすることは大切です。ホテルと同じで、リノベーションしていかないとどんどん古くなっていきますから、デスティネーションとしてDMOが活性化し、継続できるように、こうした施策を実施しています。

 ほかの地域と比べると、住民の意識も高いですし、やはり観光業がナンバーワンの産業であるということも大きいのでしょう。島国としてちょうどよいサイズでもあります。

ヴァーレイ氏:ホスト・カルチャーが強いというところもあります。エデュケーション・プログラムがしっかりしており、次世代を担う子供たちが体験できるもの、環境に根ざしたもの、カルチャーに根ざしたもの、言語に根ざしたものと、ハワイはものすごく幅が広い。その点では日本市場でのポテンシャルは大きいはずで、日本ではその数%しか紹介されていません。

――HTAの財源は宿泊税のみでしょうか。

ヴァーレイ氏:100%そうです。よく日本の自治体の方々と話すときには財源の話になります。ホテル税を取っているのは沖縄と北海道と、やっと今年、京都、金沢でという状況です。その財源をどうやって確保して、長期で戦略を立てるかということができているDMOが少ないんだと思います。ハワイはそれを当たり前のようにやっていて、当たり前のように年間どれくらい入ってくると予想し、そのうち何%がHTAに行って、HTAの予算がだいたいどれくらいということが予想できます。もちろん毎年議会で戦わなければいけませんが、基本的にはこれだけというのが決まっているのと決まっていないのとでは大きい違いがあります。その財源が毎年充てられるということがあれば、5年プラン、10年プランと計画が立てられます。2018年は宿泊税5億6980万ドルのうち、7900万ドルがHTAの予算でした。

――日本も米国のほかの地域も巨大な中国市場を狙っています。ハワイとしては中国やほかの新興国の市場をどう見ているのでしょうか。

Hughes氏:今のところ、まだ2~3%の市場です。例え大きな可能性があったとしても、まだビザのこともありますし、まずはブランディングをしなければいけません。ハワイがどういうところなのかを知っていただき、本当に行きたいと思っている人に来ていただくというブランディングがまず最初です。そのなかで私たちが目指すターゲット・オーディエンスが来るようになれば、それはそれでよいことですが、数は追っていません。

――ありがとうございました。