ニュース

月面探査の「HAKUTO-R」、JALと三井住友海上、日本特殊陶業が支援。「月というフロンティアを切り拓く」

2019年2月22日 発表

ispaceがHAKUTO-Rプログラムに3社のコーポレートパートナーが加わったことを発表した

 世界初の民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」を進めるispaceは2月22日、都内で会見を開き、同社を支援するコーポレートパートナーに3社が加わったことを発表した。

 参加したのはJAL(日本航空)、三井住友海上火災保険、日本特殊陶業で、JALはランダー(月着陸船)の組み立てで技術支援など、三井住友海上はリスク管理支援、日本特殊陶業は全固体電池で技術協業をそれぞれ行なう。

ランダー(月着陸船)のモックアップ
ローバー(月面探査機)のモックアップ

 ispace ファウンダー&代表取締役の袴田武史氏は、2019年がアポロ11号の月面着陸から50周年であり、くしくも当日朝にJAXAの「はやぶさ2」が小惑星リュウグウに第1回のタッチダウンを成功したこと、イスラエル SpaceILの小型着陸船がSpaceX Falcon 9ロケットに搭載されて無事打ち上げられたことなどを挙げ、「宇宙産業が盛り上がっていく最前線で活動できることをうれしく思っている」とあいさつ。

 続いてディレクター&COOの中村貴裕氏は、HAKUTO-Rのミッションについて、「我々だけでも、既存の宇宙プレイヤーだけでも実現できない」としてパートナーを紹介した。

株式会社ispace ファウンダー&代表取締役 袴田武史氏
株式会社ispace ディレクター&COO 中村貴裕氏

 JALは、成田にあるJALエンジニアリングのエンジン整備センターで、ランダーの組み立て技術支援、さらに組み上がったランダーとローバー(月面探査機)の米国への輸送支援を中心に行なう。執行役員コミュニケーション本部長の下條貴弘氏は、航空機整備で培った技術力や品質管理能力が宇宙機製造に求められる要件を満たしている、ということから技術支援を決めたと説明し、成田でHAKUTO-Rの2機のランダーの製造を行なう。

 宇宙での生活圏構築を目指すispaceと宇宙旅行など新事業を目指すJALが協業することで、「月という新しいフロンティアを切り拓き、人類の宇宙での活動拡大に貢献していきたい」とまとめた。

日本航空株式会社 執行役員コミュニケーション本部長 下條貴弘氏

 三井住友海上は、設立以来企業が直面するリスクに向かい合ってきたと常務執行役員の能城功氏が自己紹介する。新たな挑戦にはリスクが伴うが、ispaceのHAKUTO-Rプログラムを始めとして、その後の月輸送サービスなどの挑戦を支援したいという。

 また、社名の「海上」を引き合いに出し、損害保険はかつて新世界での航海に際し、嵐や海賊などの海難事故をサポートしたことに端を発したと述べて、HAKUTO-Rは「人類の第2の大航海時代の幕開けを予感させる」と期待の大きさを表現した。

三井住友海上火災保険株式会社 常務執行役員 能城功氏

 パートナー3社目の日本特殊陶業は、宇宙機の動力として期待される月面用全固体電池の開発でサポートする。取締役 常務執行役員 技術開発本部本部長の小島多喜男氏は、宇宙での動力は電気だが、いかに安定して供給するかが課題だと話す。現在はリチウムイオンバッテリが使われているが、適用できる温度が限られているためヒーターや放熱器を併用するなど付属品が多く、また月面ではマイナス150℃という極低温になる場合もあり、電解液が凍り付いてしまう。

 全固体電池は電解液を使わないため体積変化がなく、高温から極低温まで安定して動作し、さらに同社の全固体電池はリチウムイオンや硫化物を使った全固体電池と比べて、火が付かない、有毒ガスが出ないといった特徴があるという。製造プロセスを工夫することで大きな電池を作ることができ、宇宙用に親和性が高いと説明した。同社のコーポレートメッセージは「Ignite Your Spirit 心と夢に火を付けろ」で、小島氏は「HAKUTO-Rは我々のハートに火を付けてくれた」とispaceの支援に至った経緯を語った。

日本特殊陶業株式会社 取締役 常務執行役員 技術開発本部本部長 小島多喜男氏
各パートナーとispaceの袴田氏、中村氏

 最後に、HAKUTO-Rのミッション進捗をispaceの袴田氏が説明。HAKUTO-Rのプログラムは2018年9月に始動しており、現在はランダーの詳細設計を進めており、試験機モデルの製造に着手。カーボンでできている構造材を作り、今後振動試験、熱真空試験などを実施していくという。

ミッション進捗
JALの成田エンジン整備センター
推進計のパイプの溶接
非破壊検査
紫外線でキズなどを調べる

 2月23日から3月3日までの期間中、六本木ヒルズ展望台東京シティビューにおいて、実寸大のランダーとローバーのモックアップを展示する「Media Ambition Tokyo」会場で一般展示を行なう。

モックアップを説明するパネル展示