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沖縄観光コンベンションビューロー、マリンレジャー中の災害に備える沖縄観光危機管理セミナーを初開催

2018年12月4日 開催

OCVBはマリンアクティビティを対象とした「沖縄観光危機管理セミナー」を初めて開催した

 日本屈指のダイビングスポットを擁する沖縄県。今後起こりうる危機や災害への対応を官民一体となって取り組むべく、マリンアクティビティ団体・事業者を対象とした「沖縄観光危機管理セミナー」が2018年12月4日、初めて開催された。

 主催はOCVB(沖縄観光コンベンションビューロー)、参加者にはマリンレジャー事業者および市町村から60名近くが集まった。

初開催となったマリンアクティビティに特化した沖縄観光危機管理セミナー。会場は9~9名ごとのグループで座席が用意されていた

 主催者を代表して、OCVB 企画・施設事業部 部長の翁長由佳氏があいさつ。「今回、初めてマリンアクティビティの皆さまを対象にした危機管理セミナーを開催させていただいた。安全・安心・快適な沖縄の観光ブランドを確立するために、このセミナーをとおして観光客の命を守るにはどうしたらよいのかを日常的に考えるきっかけにしていただければ」と語った。

一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー 企画・施設事業部 部長 翁長由佳氏

 第1部はワークショップを実施。「災害時対応をわがことへ」をテーマに、カードゲーム形式の「クロスロード」という方法で行なわれた。

 クロスロードは1995年の阪神淡路大震災をきっかけに始まったもので、危機に関する問題提起をし、それについてどう行動をとるかをカードを使って考察、ディスカッションする。問題に対して正解はないということが特徴で、正解を見つけるのではなく、自身で考えることとほかの人の意見を聞くことが目的である。

 OCVBでは、2017年度から沖縄観光危機管理基本計画を作るなかでクロスロードの問題作成に取り組んでいる。今回のセミナーで使用して、県に申請し正式にクロスロードの問題として登録することを予定している。

 ワークショップでは、各グループにクロスロードに必要なチャートやカード類が配布され、問題の提起が行なわれた。問題は「あなたはダイビング客です。ダイビング中に地震が発生。ビーチに戻ったがどこに避難していいか分からない。携帯電話も財布もビーチから徒歩5分のショップに置いてきた。あなたはショップに行きますか?」というもの。

 そこで各自YESかNOのカードを選んで自分の前で伏せておく。一斉に見せ合い、記録係がどちらのカードが多いかを「チャート」に記録。各自は付箋紙になぜその答えを選んだのか、また選ぶ際に悩ましかった点などを書き込みチャートに貼り付ける。そしてそれぞれの意見をグループ全体で共有する、というのが流れだ。

各自にYESとNOのカードが配られた
設問に対して、YESまたはNOのカードを提示
なぜその答えを選んだか、また悩ましかった点などを付箋紙に書いてチャートに貼り込む

 参加者のYESの意見の一例として「避難場所が分からないため、ショップにもどって避難場所を確認したほうがいいと思いYESにした」「ダイバーに避難場所が分かるように掲示されているといいかな」という意見が出ていた。時間の関係もありすべての意見が発表されたわけではないが、グループごとではそれぞれの意見が共有されたようだ。

出された意見についてグループ内でディスカッション

 第2部は、琉球国際航業 取締役の山﨑晴彦氏を講師に迎え、「観光危機管理概論 ~マリンアクティビティ編~」と題した講義が行なわれた。

 沖縄県観光危機管理の課題は、防災上不利な地理的条件であることがまず提言された。内容は以下のとおりだ。

 島しょであり本土から離れていること、また県外への交通手段が海路と空路しかないことや台風が多いことも不利な条件。

 観光客が観光地で災害にあった場合、土地勘がないためにどう行動するべきか分からないのが問題であり、一番重要なことは観光客を安全に早く帰宅させることという。また、現地の早期復興には対策を早くスタートすることが大事だが、風評が最大の敵となる。

 また、沖縄県の観光危機管理の基本方針は大きく3つ掲げられている。1つ目は、観光客の安全を確保し、危機後の観光産業の早期復興・事業継続を図ること。2つ目は、官民一体となった観光危機管理体制を強化し、「減災」の考え方に基づいて観光客等の人命が失われないことを重視し、観光産業への被害ができるだけ少なくなるよう対策を図ること。そして、観光危機管理対策には「平常時の減災対策(Reduction)」「危機対応への準備(Readiness)」「危機への対応(Response)」「危機からの回復(Recovery)」の4段階(4R)があり、それぞれの段階において最善の対策をとること。

 さて、行政だけで観光客に安全安心を与えることはできるのか。避難誘導、情報伝達、被災した観光客の状況や観光施設の状況を市町村が把握するには? それらを行なうのが観光客の目の前にいる事業者・スタッフであり、常に情報を収集して伝達することが早い対応につながると、山﨑氏は解説した。

 次に、観光危機管理計画策定の紹介として恩納村の取り組みを紹介。海沿いにリゾートホテルが多い恩納村は、住民よりも観光客が多いという特徴がある。また近年では外国人観光客も増えている。そういう環境のなかで、危機発生時の誘導、情報提供、行政との連携強化に村全体で取り組んでいるという。

 このなかで最も重要なポイントとして山﨑氏が挙げたのが、「事業者に自分たちに必要なことだと思ってもらう」ということ。ほかにも業者向けの勉強会やマニュアルのひな型作成、そのマニュアルに沿った避難訓練が行なわれた。

 山﨑氏は、大事なことはこれらを一度で終わらせないことであり、継続的に実施し改善すべき点は改善するように伝えていると話していた。

琉球国際航業株式会社 取締役 山﨑晴彦氏

 第3部では、具体的な地震・津波に備えた取り組み紹介として、和歌山県串本町から串本ダイビング事業組合の谷舞章彦氏を講師に招いて講演が行なわれた。

 和歌山県串本町は、潮岬に位置する本州最南端の町。温暖な気候でダイビングのメッカとして有名で観光事業に力を入れている一方、台風が多いことや南海トラフ巨大地震や東海・東南海・南海3連動地震による、津波被害が想定される地域としても知られている。

 串本ダイビング事業組合は、漁協との団体交渉や梵天(海上固定ブイ)維持管理のために1993年(平成5年)に設立。旧串本町内のダイビング事業者全店(現在22店舗)が加盟しており、谷舞氏は安全対策部門の部長を務めている。

 東日本大震災以降、全国で津波が注目されるようになり、もし上記のような地震が起きたら串本のダイビングショップエリアは壊滅的な打撃は避けられない。地震発生から津波到達まではほとんど時間がない。事業組合のなかでも「どうしたらいいんだろうね」と誰もが心配しているが、答えが出ない。話し合っても正しい情報が見つけられない。素人の憶測は危険なので専門家や有識者からの知識を得たい。そのためにどうすればいいのか? とりあえず避難訓練を企画してみよう、というのが訓練実施のきっかけだったという。

 谷舞氏らは企画を進めるにあたり、まず組合内で担当を決め具体的な避難訓練内容の精査をして、企画書を作成。まず行政へ相談に行ったことで、串本町役場防災課からはハザードマップなどさまざまな情報が得ることができたのだという。谷舞氏は、避難訓練を始めるまで、ハザードマップや避難経路が確立されていることなど、役所が作っていることをあまり知らなかったという。

 そのあと、関係各所へあいさつと説明に回り事前会合を開催。それを組合に持ち帰り再度話し合いをして最終計画書を作成するに至ったと一連の流れを説明した。

 そして最終的に正式な会合への参加を関連機関に依頼するのだが、その際に「プレスリリースも付けることがポイント」とコメント。関連機関にプレスリリースすることを報告し、実際にテレビ局や新聞社などに情報を流したところ、多くの報道機関が取り上げてくれたのだそうだ。

 避難訓練はビーチダイビング、ボードダイビングの両方を想定して実施。訓練当日には訓練放送を流してもらったという。海にも聞こえるように、海に向けてのスピーカー造設もしてもらったそうだ。消防、警察、観光協会などの協力のほか、海上保安庁からは巡視艇「むろづき」が参加し、海上避難エリアの選定、ボード避難の誘導などを担当してもらったという。

 1回目の訓練では避難場所の見直しを行ない、避難場所への所要時間の記録なども実施。訓練後には津波発生時のダイバー行動指針を作成したという。ダイビングの環境はそのときのポイント(場所)によりさまざまであり、ゲストダイバーの経験値、年齢、体力などによっても対応は多種多様のため、マニュアルを作るのは難しいと判断し「指針」としたそうだ。

 マニュアルは各店舗でそれぞれ作成してもらい、事業組合としては指針を作成して検討事項を関連機関と継続的に調整することにしたという。串本町が掲げている「避難三原則」というものがあり、それをもとに指針のなかで「ダイバー避難五原則」というのを掲げた。またビーチダイビングおよびボートダイビング中の避難手順も加えている。

 避難訓練以降、安全対策の予算が取れるようになったことも大きな成果だったという。それによりダイビング主要ビーチおよび港にAEDを設置できたほか、顧問弁護士を置きさまざまな事故に対応できるようになったという。ダイビング事故の法律勉強会や減圧症の勉強会などの実施や、日本海洋レジャー安全・振興協会が運営する事業「DAN JAPAN」への団体加入など、訓練後の活動が広がっているとのことだ。

「まずは誰がするか。よいと思った人がまずはスタートしないと何も始まらない」と谷舞氏。避難訓練は人力が必要だがそれほど費用はかからない。まずは地元行政に相談してほしいと語った。谷舞氏は「ぜひ避難訓練の実施を進めていただき、危機管理対応への準備が進むことを願う」とまとめた。

串本ダイビング事業組合 安全対策部門 部長 谷舞章彦氏

 第4部では再びワークショップを実施。こちらでは被害想像力ゲームDIG(Disaster Imagination Game)という手法を用いた。地図上に地域の特徴や想定する被害状況、その中で推測される行動を書き込む。その際の対処方法を、グループで討論しながら導き出すというもの。

各グループの机に、それぞれのエリアの地図が貼り出された。地図は透明フィルムでカバーされており、そこに直接書き込みができるようになっている。こちらは北谷エリアのグループ
那覇エリアのグループ。慶良間諸島も含まれる

 手順は、まず最初に地図上に人が多く集まる場所を書き込む。ビーチや観光施設、ダイビングなら沖や島なども。そしてそれぞれ何名くらいが集まるかを書き込んでいく。

人の集まるところに印をつけ、何人集まるかを書き込む
避難場所を書き込み、そこまでの経路を書き込む。沖にいる人の避難経路も書き込む

 次にそれらの場所から近い避難場所と、沖にいる事業者はどこに逃げるかを示す。そして地震・津波を想定し、それぞれの場所から避難場所への経路を書き込んでいく。ここで考慮しなければならないのは、避難経路に危険な場所はないか、沿岸部や川沿いではないか、要支援観光客などにも対応できる経路かなど。歩いて何分かかるかなども考える必要がある。その後、避難場所にいる人数を書き込んでいく。

 次に、フィルムの下から地図を1枚抜き取る。実は地図は2枚重ねになっており、2枚目の地図は浸水想定図となっているのだ。避難場所は浸水域の外にあるか、避難経路は安全かなどを考察し、避難行動を確認する。

1枚目の地図を抜き取ると、浸水想定図が出てきた。赤く色付けされている場所は危険地域。北谷エリアの海沿いはほぼ真っ赤だ
恩納村エリアは浸水危険地域は少ないが、山までの避難経路をどうとるか考察が必要
埋め立て地が多い那覇エリアも海沿いはかなり危険

 視覚的なシミュレーションができ、改めて避難場所や避難経路、そのときの行動について考えることができる内容だった。自分で考えるだけでなく、グループ内でディスカッションすることでよりよい方法が見つかったり、気付かなかった危険性に気付いたりすることができたようだ。

話し合ったこと、気付いたことをどんどん書き込んでいった

 閉会にあたり、オブザーバーとして参加していた海上保安庁 第十一管区 海上保安本部安全一課長の萩原隆行氏は「沖縄は地震が少ないと言われているが、決して大きな地震が来ないということではない。水中では地震が起きてもなかなかすぐには分からないかも知れない。そういった情報の収集の仕方や避難の誘導は、事業者さんごとに決めておいたほうがよいかと思う。

 津波注意報・警報が出たときは、海上保安庁では巡視船や航空機を出して沿岸部にいる皆さんへ注意喚起をすることになっている。串本ダイビング事業組合さんでは民から公への働きかけで訓練ができたということであった。我々としても協力していきたい」とあいさつした。

海上保安庁 第十一管区 海上保安本部安全一課長 萩原隆行氏

 最後に、OCVB 企画・施設事業部企画課 課長の玉城信治氏より閉会のあいさつに立ち、「参加された皆さまには、熱心に聞いていただき活発な意見も出していただけた。今日の内容をそれぞれ持ち帰っていただき、今できることを各組織の中で検討していただければと思う。OCVBとしても、今後関係機関の皆さまと連携しながら観光危機管理のさらなる強化に努めていく」と締めくくった。

OCVB 企画・施設事業部企画課課長 玉城信治氏