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前年度比26.4%増の269万人。沖縄県と沖縄観光コンベンションビューローが開催した「インバウンド連絡会」レポート

急増するインバウンドに対応

2018年7月6日 実施

沖縄県とOCVBが「平成30年度インバウンド連絡会」を開催した

 沖縄県とOCVB(沖縄観光コンベンションビューロー)は7月6日、那覇市内のホテルで「平成30年度インバウンド連絡会」を開催した。沖縄県への外国人観光客は年々急増しており、2017年度には269万人を記録(前年度比26.4%増)。その受け入れ体制の整備や、さらなる観光客誘致を目的に開催されたものだ。

 最初に、主催者を代表して沖縄県文化スポーツ部観光政策統括官の新垣健一氏よりあいさつがあった。

「沖縄県は10年連続で過去最高の外国人観光客数を記録し、2021年度までに観光収入1.1兆円、入域観光客数1200万人を目標に掲げている。現在、国内外多くの航空路線が那覇空港を発着しており、沖縄を観光リゾート地としてだけでなく、日本本土とアジアを中心とした海外を結ぶ拠点としてさらなる航空路線の受入、拡充を推進していきたい。また、中国を中心とした海外からのクルーズの増加と、沖縄のポテンシャルを最大限に活かした『東洋カリブ構想』を策定し、東アジアのクルーズ拠点を目指していく。これら空・海の2つの構想により、沖縄のさらなる発展を目指していきたいと考えている」と述べた。

沖縄県 文化スポーツ部 観光政策統括官 新垣健一氏による主催者あいさつ

 基調講演として、mov 訪日コム インバウンド研究室室長の田熊力也氏が登壇、「インバウンド市場の現状と対策 ~地域で取り組むインバウンド対応~」をテーマに講演した。

 田熊氏は、「沖縄県は2016年のデータで訪日観光客県別ランキングで10位(全体の7%)であり、インバウンド市場の伸びが今後も期待される。日本政府では、2020年までに訪日観光客数4000万人、消費総額8兆円を目標としており、通訳案内士法の改正や民泊新法などが「コト消費」アップのチャンスとなり、外国人旅行者向け免税制度の拡充が『モノ消費』アップのチャンスになる」と説明。

 これまで通訳案内士の資格がなければ有償ガイド行為ができなかったが、2018年1月の法改正により無資格でも有償ガイド行為が可能となった。実際に、大阪で個人で通訳ガイドをしている人の例を挙げ、チャンスの広がりを説明した。

 また政府では「手ぶら観光」を推進しており、宅配サービスやコインロッカーなどのサービスの拡充、使い勝手の見直しなどのほか、決済方法の電子化、免税制度の電子化などが進められるとのこと。

「インバウンドは地方創生と親和性が高い」との話題では、日本人から見ると魅力の少ない田舎でも、外国人にとっては魅力的な場所であると説明。実際に人気のある場所として、宮城県のキツネ村や徳島県の三好市祖谷地区、広島県のうさぎ島を紹介した。

 インバウンドの食事事情では、ランチ・ディナーとも日本人の方が単価が高いことを紹介。この要因として、日本人は旅先で食事とお酒をセットで楽しむが、外国人客は食事とお酒は別機会とする傾向にあるからではないかと分析。しかしながら、外国人客は滞在日数が長いため平日の利用も多いことがメリットとのこと。

 最後に、インバウンド対応のトレンドとして、訪日外国人が困っていることの2017年の1位が「コミュニケーションが取れないこと」であったことを紹介。2016年には2位であったことから、「コト的な不満」へ焦点が移っていると分析した(2016年の1位は無料Wi-Fiがないこと)。

基調講演を行なった田熊力也氏。具体事例を挙げて、分かりやすく興味深い内容であった

 沖縄観光の現状と今後の取組については、沖縄県 文化観光スポーツ部 観光政策課 観光文化企画班 班長の仲里和之氏より説明があった。

「2017年度の入域観光客数は958万人、観光収入は6979億円と、復帰年の1972年度と比べ入域観光客数は17倍、観光収入は21倍となっている」。

「2017年度の海外観光客数は269万人と全体の28%を占めており、もっとも多い台湾からの観光客は初の80万人超を記録した。特にクルーズ船の伸びが大きく、2013年度から比較すると42%の伸びとなっている。船舶の大型化や寄港の分散化などに起因していると思われる」。

「今後の取り組みとして『東洋のカリブ構想』により、寄港地を拠点港/母港化し、欧米からのラグジュアリー船の誘致、フライ&クルーズの促進などを図っていきたい」と概要を説明した。

 2017年度の外国人観光客実態調査では、空路客の泊数は全体で3泊がもっとも多く全体の約4割を占めること、1人当たりの消費単価は10万265円(対前年度比+2168円)であり、中国からの観光客の消費単価は14万5113円とかなり高くなっているとのこと。満足度の調査では「大変満足」~「やや満足」を合わせて95.1%を占め、前年度比+0.1ポイントである一方、「大変満足」の割合は前年度比-0.6ポイントと微減している。

 2018年度の目標値については、入域観光客数1000万人(国内客700万人、外国客300万人)。また観光収入は7991億円(国内客5460億円、外国空路客2171億円、外国海路客360億円)を目標としている。

沖縄県 文化観光スポーツ部 観光政策課 観光文化企画班 班長 仲里和之氏

 次に、沖縄県のMICE振興の取り組みについて、沖縄県 文化観光スポーツ部 MICE推進課 主査の大濱克行氏より説明があった。

「日本政府では2030年にはアジアNo.1の国際会議開催国としての不動の地位を築くという目標を掲げ、MICE誘致の支援体制を強化する取り組みが進められている。沖縄県では、2017年に沖縄MICE振興戦略を策定し、今後10年間のMICE振興の基本方針や中長期目標、具体的施策をまとめた。沖縄でMICEを開催する意義、効果として、高い経済効果が挙げられる。観光客の消費単価は約7万円であるが、コンベンションでは1人当たり約18万円消費するといわれている。また、MICE参加者との交流によるビジネス獲得やイノベーション創出などの産業の高度化も期待できる」とMICEに関する背景を説明。

 2000年の九州・沖縄サミットの開催を契機に、OCVBと観光関連事業者が提携し、沖縄のリゾート資源を活かしてMICE誘致に取り組んできたほか、2010年に創設された沖縄科学技術大学院大学(OIST)が行なう最先端研究の成果を発表する機会として国際学会などのイベントも増加傾向にある。2016年の沖縄でのMICE開催数は1177件。2017年には1200件を超えた。しかしながら現状では会場が飽和状態に近く、大型MICE施設が必要である。

 2017年7月に「沖縄MICEネットワーク」を設立。現在180の企業・団体が加盟しており、新規の会員募集も行なっている。基本戦略およびMICE誘致方針のなかで、成果目標として2026年にはMICE開催による直接経済効果を722億円と策定している(基準年としている2016年の実績は209億円)。

 また関連事項として、沖縄県における多言語観光案内サインの翻訳ルールを策定。沖縄県Webサイトにて翻訳ルールと対訳事例集を公表していることが告知された。

沖縄県 文化観光スポーツ部 MICE推進課 主査 大濱克行氏

 次に、海外市場の動向と最新トピックスについて、OCVB 誘客事業部 海外プロモーション課 課長の平川美由紀氏より説明があった。「2018年度の誘客トピックスとして、2017年度末に策定された『沖縄国際旅客ハブ構想』が挙げられる。2020年に欧州から沖縄への直行便を開設し、観光の拠点としての沖縄を確立するもの。

 もう1つのトピックスとして『東洋のカリブ構想』がある。近年クルーズ市場の伸びが著しく、2019年には沖縄にも515回の寄港があった。沖縄海域をカリブ海に見立て、アジア地域のクルーズ拠点にしようというもの。現在、第1フェーズとして、クルーズ商談会でのプレゼンテーションやセッションへの参加、クルーズ船社訪問などの誘致活動、クルーズ船を受入可能なバースおよび専用ターミナルの整備に取り組んでいる」と報告した。

 また、SNS(Facebook、Instagram、WeChatなど)を活用し、画像とハッシュタグでのプロモーションや、トリップアドバイザーと連携したプロモーション、パンフレットなどに使用できる写真や動画のメディアライブラリの公開など、デジタルマーケティングを強化しているとのことだった。

一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー 誘客事業部 海外プロモーション課 課長 平川美由紀氏

 次に、OCVBが行なっているインバウンド受入支援事業について、OCVB 受入事業部 受入推進課 課長の米谷保彦氏より次の事業が紹介された。

「翻訳支援」は、外国人観光客受入にあたり翻訳が必要な制作物(パンフレット、メニュー、Webサイト、注意書きなど)の翻訳費用の一部を助成。

「企業研修支援」は、観光関連企業・団体が実施する人材育成研修および語学研修向けに、外部講師のマッチングおよび講師料支援をおこなう。専用のマッチングサイト「育人(はぐんちゅ)」も公開している。

 外国語対応ができるスタッフ獲得のため、日本語ができる外国人向けの「海外就職相談会」を2017年度より開催している。昨年度は韓国/台湾/中国/東京で開催し、49名の内定者が出た。辞退者を除いても30名ほどの人材獲得ができた。2018年は台湾/韓国/東京で開催予定。

 外国人観光客をおもてなしの心で受け入れる県民啓発活動として「ウェルカムんちゅキャンペーン」を展開。各地の観光協会などから推薦された「ウェルカムんちゅリーダー」の任命のほか、企業・団体を対象に「ウェルカムんちゅカンパニー」も募集している。昨年度は50社の登録があった。

 海外向けビジネスマッチングサイトを運営しており、海外に向けてビジネスを展開したい沖縄の観光事業者と海外エージェントとのビジネスマッチングができるもの。現在、旅行会社、レストラン、ホテル、アクティビティ、エンタテイメント、通訳案内士など170件の登録がある。

 2018年1月には、LGBTツーリズム普及のために創立された旅行業団体「IGLTA」に加盟登録した。県内ではホテルやJTAなどが加盟登録しているほか、那覇市と浦添市ではレインボー都市宣言をしている。

 各種ツール・リーフレットの作成・配布については、「沖縄観光安心安全ガイド」「台風対策マニュアル」「沖縄観光マナーブック」「外国人観光客救急対応ハンドブック」などが紹介された。

「多言語コンタクトセンター事業」では、外国人観光客向けに観光案内や通訳サービス、台風などの災害時のサポートなどを多言語で対応するコールセンターを運営。対応言語は、英語/中国語/韓国語/タイ語/スペイン語/ポルトガル語/タガログ語。電話/Skype/メールでの対応が可能で9時~21時まで運営している。2017年度は6984件の対応件数があった。

 最近トラブルが増えているのが機内持ち込み制限品によるもの。そこで機内持ち込み制限に関するチラシを作成している。日本語/英語/韓国語/中国語(繁体字/簡体字)/タイ語版のほか、6言語併記版も用意。「沖縄インバウンドnet」からダウンロードできる。

一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー 受入事業部 受入推進課 課長 米谷保彦氏

「平成30年度グローバル産業人材育成事業」については、沖縄県産業振興公社 産業振興部 海外・ビジネス支援課の仲嶺亜希子氏より説明があった。海外での事業展開や販路開拓、海外からの物・サービスの輸入、外国企業との取引や業務提携、外国人観光客への物・サービスの販売・提供を目指す県内企業の国際化に向けた人材育成を支援する事業で次のようなものがある。

「国内外OJT派遣」では、社員の県外・海外などへの派遣研修の費用を補助。交通費や宿泊費を総額の8/10以内で補助する。「海外専門家等招へい研修」は、県外・海外からグローバル化に必要な知識や技能を持つ海外専門家を招へいし社員研修をする場合に、交通費や宿泊費、謝金、会場使用料、通訳料などを総額の8/10以下で補助する。

 そのほかにも、「経営層向けグローバルマネジメントプログラム」「中堅社員向けビジネススキルプログラム」「中堅社員向けビジネスイングリッシュプログラム」「全対象ニーズ対応型セミナー」などの実施が予定されている。また、7月28日には講師にパナソニック 終身客員の木野親之氏を招いて「世界に通用するグローバル人材とは」と題した講演会も開催される。

沖縄県 産業振興公社 産業振興部 海外・ビジネス支援課 仲嶺亜希子氏

 次に、「訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業・旅行環境整備事業費補助金」について、内閣府 沖縄総合事務局 運輸部 企画室 企画係長の具志堅政可氏より説明があった。

「旅行環境整備事業費補助金」は、訪日外国人旅行者にとって利用しやすい観光案内所の整備を促進するため、設備の設置、施設の整備・改良などに要する経費の一部を支援するもの。

 対象となるのは、外国人観光案内所の認定制度でカテゴリー1以上を有する、または認定される見込みのある案内所で、補助率は1/3となる。現在全国で936の案内所が認定されており、沖縄では9件の案内書がカテゴリー2または3に認定、1件がパートナー施設に認定されている。

「訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業補助金」は、公衆トイレの洋式化への補助がある。地方公共団体のほか民間事業者および協議会が対象となり、補助率は1/3。また多様な宗教・生活習慣への対応力の強化支援として、セミナーの開催や視察事業に対する支援も「旅行環境整備事業費補助金」のなかで行なっている。

内閣府 沖縄総合事務局 運輸部 企画室 企画係長 具志堅政可氏

 最後に、「2018年の麻しんの流行状況」について、沖縄県 保健医療部 地域保健課 主任技師の仁平稔氏より説明があった。3月17日から19日に外国人観光客(1次感染者)が来沖したことをきっかけに県内で感染が広がり、沖縄県では4年ぶりとなる麻しん患者が報告(3月20日)。6月11日の終息宣言までに99名の患者が確認された。

 そのうち接客業従事者は18名が感染。しかしながら、外出自粛など徹底した感染防止がなされたため接客業者から利用客への感染は確認されていない。終息したとはいえ、今後また感染が起こる可能性がある。予防策として、2回の予防接種の徹底、職場においての接種歴の記録・把握などが呼びかけられた。

沖縄県 保健医療部 地域保健課 主任技師 仁平稔氏

 各説明の終了後は、個別相談会が行なわれた。会場は定員200名が満席となる盛況ぶりで、インバウンドへの関心の高さをうかがわせた。