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JR西日本、映画「この世界の片隅に」ロケ地となった呉を巡る特別イベント開催

片渕須直監督も登場してすずさんの暮らした呉について解説

2017年8月5日 開催

8月5日、JR西日本は映画「この世界の片隅に」とタイアップした特別イベントを呉市周辺で開催

 JR西日本(西日本旅客鉄道)は8月5日、映画「この世界の片隅に」とタイアップして、映画のロケ地となった呉(界隈)を巡る「映画ゆかりの地探訪ウォーク」と、片渕須直監督のトークイベントがある「この世界の片隅に」上映会を行なう特別イベントを呉市周辺で開催した。

「映画ゆかりの地探訪ウォーク」のスタート地点となったJR呉駅

 特別イベントには、JR西日本の会員サービス「Club J-WEST」の会員を対象に、抽選で100組200名が招待された。当日12時30分からスタートした映画ゆかりの地探訪ウォークには150名が参加。一般的に若い人の参加が多いアニメーション作品のイベントに対して、このイベントでは年配の方も多く参加しているのが印象に残った。

 映画ゆかりの地探訪ウォークでは、映画のロケ地となった「呉海軍下士官兵集会所(現青山クラブ)」「美術館通り」「海軍病院前階段(現呉医療センター)」「小春橋」「旧澤原家三ツ蔵」などを巡り、各スポットでは、呉観光ボランティアの会のガイドによる解説が聞け、映画に登場するシーンの画が示されるとともに、この地にまつわる歴史やエピソードなどが語られた。

 途中、呉海軍下士官兵集会所(現青山クラブ)ではサプライズとして片渕監督が登場。映画の中に登場する呉海軍下士官兵集会所について「1階は一般の人が買い物をする生協みたいなもので、2階~3階は軍艦を降りたものの行き場のない人が寝泊まりするホテルだったんですね」などと、当時の様子を説明するとともに、炎天下でのイベント開催であったため「水分補給と、無理をしないでダメだと思ったらリタイアして下さい」と、参加者の体調を気遣った。

夫の周作の忘れ物を届ける際にすずが通りかかった呉海軍下士官兵集会所(現青山クラブ)
呉海軍下士官兵集会所(現青山クラブ)や当時の呉の様子を説明する片渕須直監督
美術館通り
作品とは関係がないが、戦艦ヤマトのマンホールの紹介も
義父を見舞うためすずと姪の晴美が上った「海軍病院前の階段(現呉医療センター)」
前方に見える山のふもとに、すずさんの暮らした家があったという設定
「小春橋」
ゴールとなった呉市の中通商店街

「この世界の片隅に」上映会で行なわれた片渕須直監督のトークイベント

片渕須直監督のトークイベントがある「この世界の片隅に」上映会

 16時20分頃からは、呉市にある唯一の映画館という「呉ポポロ」において、片渕須直監督のトークイベントがある「この世界の片隅に」上映会が行なわれ、ウォークイベント参加者を含めて200名が参加した。

 映画「この世界の片隅に」のストーリーは、1944(昭和19)年2月、主人公の北條すず(旧姓:浦野)は突然の縁談で軍港の街・呉へお嫁にやって来る。海軍勤務の文官・北條周作の妻となったすずは、一緒に暮らす周作の両親、義姉の径子、姪の晴美との毎日のくらしを積み重ねていく。1945(昭和20)年3月、呉は空を埋め尽くすほどの数の艦載機による空襲にさらされ、すずが大切にしていたものが失われていく。それでも毎日は続く。そして、昭和20年の夏がやってくる――。といった内容。

「この世界の片隅に」上映会のトークイベントで、作品に対する思いを語った片渕監督

 片渕監督は、トークの中で広島に原爆が投下される8月6日について触れ、「広島で72年前の8月6日に原子爆弾が爆発するのですが、ここ(呉)まで約20kmあります。ピカドンといいますが、ピカッと光ってからここまで20km、音はどれくらい遅れてやってくるかというと55秒遅れてやってきます。ピカッて光ると高熱の熱線が発生するのですが、呉までやってくると、それを直接浴びた人がほんのりほっぺがあったかくなったという感じだったそうです」。

「そしてキノコ雲が立ち上がるのですが、高さ1万6000mに立ち上がり、広島からここまで2万mですから、2万mあるところに1万6000mのものが立ち上がると、約40度の角度で見えると思ってください。呉から見て40度ぐらいの高さで原爆のキノコ雲が立っていて、しかもその日一日消えずに夜になるまで立っていて、翌朝になっていたら消えていたというんです」と、当時の様子について話した。

 加えて、片渕監督は「それでも、呉の人たちはその日の昼ごはんを食べて、晩ごはんを食べるという日常を続けていたはずだろうと思います。我々が70年も前の昔のこと想うときに、その当時のことをどれだけリアルに思い浮かべられるだろうかと思うと自信がありません。自信はありませんが、高いキノコ雲を見上げながら普通に暮らしていた呉の人たちのように、今日見ていただいた呉からどんな風に見えたんだろうと想い描きながら、映画を観ていただけたらと思います」と話した。

 また、今回のイベントに関して、片渕監督は「今日は皆さんに呉の街に来ていただいて、すずさんが住んでいた街、映画の中のあのシーンが出てきた街といった風に呉に対する新たな思いが生まれたかと思いますが、それがこの先の何かにつながっていくといいなと思います。僕らは映画を作りながらいつも思っているのは、映画が映画のままで終わらないことだと思っています。空襲は何月何日にあった、戦争はいつ終わったと記録に残りますが、それよりも前にあった呉の街、その後の呉の街、そのことを想い描きたいと思っています。今日見た呉の町は、あの頃のすずさんが歩いていたあの街が、そのまま70年経つと今の呉なんだと思って、記憶していただけるとうれしい」と、その思いを語った

 なお、この日の上映イベントが開催された映画館「呉ポポロ」では「この世界の片隅に」を8月18日まで上映予定。

「呉ポポロ」では「この世界の片隅に」を8月18日まで上映予定
映画館「呉ポポロ」の建物の目の前にある街かど市民ギャラリー90において、映画「この世界の片隅に」の原画などを展示する特別展示が行なわれている

【お詫びと訂正】記事初出時、作品の登場人物の表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。