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紀勢線の線路に降りて避難訓練できる鉄道防災教育・地域学習列車「鉄學」
モニターツアーを実施、今後は旅行商品化を狙う
2017年2月17日 17:00
- 2017年2月15日 実施
和歌山大学 地域連携・生涯学習センターは、「鉄學」と称して地域資源を学びながら鉄道からの避難方法を学ぶプログラムを開発している。2月15日、JR西日本(西日本旅客鉄道)和歌山支社において、KDDIの「VRによる災害対策ソリューション」と同時に概要の説明が行なわれた。
このプログラムは、JR西日本あんしん社会財団から研究助成を受けながら取り組んでいるプログラム。地域資源を学びながら、鉄道からの避難方法を学ぶプログラムを開発・実行している。
説明を行なった和歌山大学 地域連携・生涯学習センターの西川一弘氏によれば、紀勢線は海沿いを走行、風光明媚な路線だが、裏腹に津波の危険があり、津波発生の際は、主体的に乗客が逃げる判断をしないと、なかなか逃げ切ることができないという。
そのため、“率先避難者”を増やす必要がある。紀勢線の主要旅客は高校生で、高校と連携をしていたが、それをさらに一般の乗客まで広げる。「訓練」として参加者を広げていくことには限界があり、そこで「教育」や「観光」として津波対処訓練を実施する方法がある。
西川氏が「最終的に狙っている」としたのは観光としてプログラムに参加してもらう点。「ある意味レアな体験を、パッケージにして一般のお客さんに体験していただいて、それをツアーとして展開をする。紀勢線の誘客も含めてやっていきたい」と説明した。
具体的には、紀勢線のうち、駅間の風光明媚なところに停車し、車両に備え付けられたはしごを使って線路上に降りたり、ドアから線路上に飛び降りたりする体験をしてもらう。その上で、「自然の恵みと自然の脅威は表裏一体」「自然の脅威や地殻変動は激しいからこそ、風光明媚なところが生まれる」といったストーリーと、地質遺産としてのジオサイト(南紀熊野ジオパーク)を学んでもらう。
実際に2016年11月12日にモニターツアーとして試験的に実施、串本駅から新宮駅までの特別列車を仕立て、王子が浜や橋杭岩で列車から線路上に降り、駅間に設置してある津波避難誘導降車台の体験。また、避難場所へ走った後は絶景を楽しんだり、地元の鮎やシカ肉の「ジオ弁当」が振る舞われたりなど盛りだくさんの内容だったという。
西川氏によれば、今後はこのプログラム「鉄學」の遠足や社会科見学への組み入れや商品化を目指すとしている。
このツアーだが、県外の人が参加した場合は紀勢線に、直接役立たない。その点について西川氏は「大阪も中京圏も首都圏も津波想定圏が山ほどある」とし、紀勢線で得られた経験が、ほかの地域での津波が起こった場合でも役立つとした。「ツアー参加者に体得してもらえたら、いざ、首都圏で何かあったとき、乗務員を助けてくれる率先避難者として活躍してくれだろう」とし、もっと大きな問題と考えているとした。
なお、鉄學の「鉄」の字は、ロゴマークでは「金へんに矢」という字を使うという。JRが発足した際、鉄の字が「金を失う」として社名の文字のロゴマークでは「金へんに矢」の字を使ったように、失うという字を使いたくない気持ちが込められているという。
【お詫びと訂正】初出時、西川一弘氏の表記に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。