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JR西日本とKDDI、VRを活用して紀勢線運転士に津波対策の訓練を実施
VR活用した津波などの自然災害対策訓練の商用化は日本初
2017年2月17日 13:45
- 2017年2月15日 実施
JR西日本(西日本旅客鉄道)とKDDIは2月15日、KDDIの「VRによる災害対策ソリューション」を紀勢線の津波対策に関わる運転士向けの訓練に2017年4月以降に導入すると発表した。津波発生時の様子をVRで疑似体験し、乗客の安心・安全につなげるという。同日、和歌山支社において説明が行なわれた。
JR西日本の紀勢線の白浜駅~新宮駅は、南海トラフ地震が発生した場合に、地震発生から5分以内に10mを超える津波が襲うという厳しい想定がなされている。万が一、津波が発生した際には、運転士はどこで列車を止め、どこに乗客を誘導したらよいかといった判断が迫られる。現在、避難訓練などに運転士は参加しているが、訓練に参加する人員や回数も限られるため、さらなる運転士の判断力向上を目指すために、VRを活用して訓練を行なう。
紀勢線 串本駅~新宮駅を運転する全運転士が対象
VRソリューションはVR機器と紀勢線の串本駅~新宮駅の約43kmの実写VR動画コンテンツを用意、運転士の視点を360度動画で再現する。和歌山県が想定した最大規模の津波が発生したとして、運転士の視点で想定進水深の確認、避難誘導に関わる設備の確認や震災発生時の津波が起こる様子を疑似体験できる。
説明を行なったJR西日本 和歌山支社 安全推進室 室長代理の堺伸二氏が「任意の場所で、鳴動させて、行動させて判断させる」と言うように、VRの体験では、これまでの訓練とは異なり、指導者があらゆる場所で災害を擬似発生させることができる。また、訓練の結果、運転士がとった行動について、指導者や運転士同士でディスカッションし、さらに理解を深めるという。
現場へのVR機器の導入は2017年4月下旬以降で、JR西日本の新宮列車区と紀伊田辺運転区に配備、新宮駅~紀伊田辺駅を運行するすべての列車の運転士が訓練を受ける。2017年度は両区に所属する約70名の全運転士が2回以上実施する計画という。
標識もはっきりと確認できるVRソリューション
VR機器やコンテンツなど「VRによる災害対策ソリューション」を提供するKDDIからは、ビジネスIoT推進本部ビジネスIoT企画部長の原田圭悟氏が説明。KDDIにおけるVRの取り組みや、通信キャリアから見たVRの可能性を指摘、通信キャリアとしてVRの発展に、端末、コンテンツ、ネットワークなどさまざまな分野から貢献できる可能性があるという。
VRソリューションで使われるVR機器はVR再生用のハイスペックPCと、VRデバイスとして「HTC Vine」を使用する。実写VR動画コンテンツは9K解像度で撮影、ゴーグルでは6K/60fpsで再現する。高解像度で表示されるため、運転士は避難誘導の判断に必要となる標識もVR内ではっきりと確認できる。撮影と表示で解像度が異なるのは、スムースな動画を再生するために最適化した結果だという。
VRコンテンツでは、実写映像のほか、想定浸水深さをグリッドで表示、ハザードマップも重ねて表示できる。また、津波で水が押し寄せる様子も再現されるが、そのリアルさにもこだわって作成したという。
また、鉄道会社に対するアンケートでは、津波による浸水を想定している線区があるとした事業者が97社のうち37社あるとし、アンケート結果から「頻繁に津波を想定した避難誘導訓練を行なっている」「できるだけ現場に即した訓練が求められている」という現状を説明した。
原田氏は「本気で訓練に取り組んでいただくには、高品質なVRが必要」とし、津波の到達時間など、いくつかの数値を表示し、実写映像と連動させて見える化、対応力、判断力をVRソリューションで育成するとした。
また、今後のKDDIの展開として、すでにJR西日本以外から引き合いがあるとした。今回のJR西日本の紀勢線の導入では、短い区間で試験的にコンテンツを作成し、導入検討を重ねるなどして本格導入まで時間がかかったが、今後は、コンテンツ作成さえ順調に進めば2~3カ月で導入することも可能だと説明した。