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せとうちSEAPLANES、瀬戸内海の島々を巡る遊覧飛行「せとうちディスカバリーフライト」開業

「水上機の夢、感動、わくわく感を体験してほしい」

2016年8月10日 開業

 せとうちSEAPLANESは8月10日、水陸両用機を利用した瀬戸内遊覧飛行サービス「せとうちディスカバリーフライト(SETOUCHI Discovery Flight)」の運航を開始した。開業式典や初便出発の模様を別記事で紹介する予定だが、本稿では、それに先立って行なわれた、同社の事業説明会や、発着拠点となるオノミチフローティングポートの施設公開の模様をお伝えする。

 せとうちSEAPLANESが提供する「せとうちディスカバリーフライト」は、尾道市浦崎町(境ガ浜)にあるオノミチフローティングポートを発着地に、尾道水道~因島~生口島(サンセットビーチ)~多々羅大橋~能島~岩城島・生口島の間~尾道水道と巡る遊覧飛行で、水陸両用機を用いて水上から離着陸するのが特徴となる。

「せとうちディスカバリーフライト」の遊覧飛行ルート

 既報のとおり、予約受付は8月1日に開始しており、同社Webサイトまたは予約センター(TEL:0848-70-0388、9時30分~17時)から申し込みできる。

 料金は8月と9月に「開業特別運賃」を提供。大人(12歳以上)は平日が2万4000円、土日祝日が2万9000円。子供(2~11歳)は平日が1万6800円、土日祝日が2万300円。

 10月は大人で平日3万2000円、土日祝日は3万7000円、子供は平日2万2400円、土日祝日が2万5900円。ただし、10月8日~10日は特日に設定されており、大人4万2000円、子供2万9400円となる。

 開業特別運賃も含め、Webサイトからの申し込んだ場合は5%割引の「WEB割」が適用される。

 ダイヤは下記のとおり。当面は1日4便の運航となる。飛行自体は約30分で、桟橋から離着水地点までの往復にそれぞれ10分程度を見込んで、およそ50分のスケジュールとなっている。

8月/9月のダイヤ

1便:10時25分発~11時15分着
3便:11時45分発~12時35分着
5便:14時45分発~15時35分着
7便:16時05分発~16時55分着

10月のダイヤ

1便:10時00分発~10時50分着
3便:11時20分発~12時10分着
5便:14時20分発~15時10分着
7便:15時40分発~16時30分着

株式会社せとうちSEAPLANES 代表取締役副社長 松本武徳氏
株式会社せとうちSEAPLANES 業務企画本部 本部長 石本勤氏(左)

 当初、4月の開業を予定していた遊覧飛行だが、8月まで遅れた理由として同社代表取締役副社長の松本武徳氏は「想像以上に陸上機との相違点が多く、パイロットの養成が時間がかかった。安全に万全を期すため、相当な訓練時間をかけて養成した」と説明。パイロットは開業時には4名が在籍し、開業時は2名が業務を担当。現在10名ほど養成を進めており、2017年春には「相当な数」のパイロットを準備できる見通しという。

 また、同じく当初の予定では複数の遊覧コースを提供することが案内されていたが、開業時には1つのコースになった理由について、「境ガ浜中心の遊覧飛行ということで瀬戸内海になる。鞆の浦などのコースも考えてはいるが、現在のところ、せとうちディスカバリーフライトが標準的でアピール度が高いので集中したい」(松本氏)と説明。今後について「明言はできないが、リピーターに対して同じコースだけでは魅力がないので、コースは増やしたい。時期は未定。まずは小さく産んで、大きく育てる」(松本氏)との方針を述べた。

 ちなみに、上記のダイヤで便数が奇数になっている理由については、「その間にセットするつもりがあるので空けている」(業務企画本部 本部長 石本勤氏)とのこと。また、「当面は4便をベースにするが、事情が許せば臨時便も加えたい。臨時便を設定したらWebサイトにただちに掲載できるようにしている」(石本氏)とした。

 逆に気象条件などによる運休の可能性については、「有視界飛行となるので、日の出から日没までで、一定の視界がないと飛べない。フロートの運用限界波高は40cmで、風が強い日は波が高くなる。こうした条件を考えたうえで、80~90%は大丈夫と思っている」(松本氏)と説明した。

 顧客ターゲットについては、「富裕層が一つのターゲットだが、これからは訪日外国人の方に発信していきたい。水上機の事業は世界的に見てもそれほど多くない。アジアでは、きちんとした事業は日本(=せとうちSEAPLANES)ぐらい。発信の仕方によっては興味を持ってもらえるアクティビティだと思う」(松本氏)とコメント。加えて、「瀬戸内海に住んでいる人が、生まれ育った島を上空から眺めるなど、いろいろな使い方が秘められていると思う」(松本氏)と、地元も含めてさまざまなアピールをしていく意向を示した。

 せとうちディスカバリーフライトの販路については、同社Webサイトと電話での予約センターを中心とし、旅行会社などからの販売については現時点では計画していない。ただし、せとうちSEAPLANESの水陸両用機を使った運送事業のなかで、「チャーターフライトのような一般の遊覧飛行については、旅行会社と話をして、企画型旅行商品に組み込んで販売してもらうことも考えている」(石本氏)としており、同社提供の遊覧飛行は直販中心、旅行会社とは貸し切り型の遊覧飛行、と分けていく方針を示した。

 ちなみに、遊覧飛行に利用する水陸両用機の「KODIAK 100」型機はパイロットを含めて10名乗り。法令上はパイロット1名でも運航は可能だが、当面は2名が乗務。さらに残る8席についても重量バランスの観点などから、原則として1便あたり乗客は6名としているとのこと。

 8月1日からの予約状況は、キャンセルなどがあるとして明言を避けつつ、基本的にはWebからの問い合わせが多いと紹介。「電話とWebの受付で、一気に入ってくるところではないので、開業以降の世間への発信に期待している」(石本氏)とした。

瀬戸内の産品を楽しめるラウンジや、ホットドッグのお店もオープン

 せとうちディスカバリーフライトの発着地となるオノミチフローティングポートは、広島県尾道市浦崎町の「ベラビスタ スパ&マリーナ 尾道(ベラビスタ境ガ浜)」のベラビスタマリーナの一角に設けられている。

 桟橋には使用するKODIAK 100型機を2機接岸できる。奥には円形の整備基地があり、これは水族館で利用されていたものを再利用した建屋とのことだ。

 桟橋へ向かう途中にはホットドッグショップもある。せとうちSEAPLANESの開業に合わせて4月にオープンしたそうだが、肝心のせとうちSEAPLANESの開業が遅れたため、これまでは土日限定で営業してきた。「せとうちえびドッグ」(650円)と「せとうちポークドッグ」(500円)の2種類が販売され、どちらも瀬戸内地方の産品を使ったもの。特にエビドッグは1尾ずつ丁寧に皮をむいた小エビが山盛りになったユニークな一品だ。

ベラビスタマリーナに設けられたオノミチフローティングポート
たくさんのヨットやクルーザーが係留されたマリーナらしい風景
隣には常石グループの造船所も見える、水上の乗り物が一堂に会したような場所だ
この通路を通って桟橋へ
乗客が乗り降りする桟橋の建物
ホットドッグショップ
左が「せとうちポークドッグ」、右が「せとうちえびドッグ」
「せとうちポークドッグ」(500円)
「せとうちえびドッグ」(650円)
上記のホットドッグは、今回は隣のパスタ&カフェ「SOFU」でいただいた。マリーナを眺めながら食事やドリンクを楽しめる

 せとうちディスカバリーフライトの乗客は、まず、同所に設けられたラウンジを訪れて、いわゆるチェックインを行なう。その入り口も特別な世界へ入り込むような気持ちを高めてくれるデザインだが、受付のところには体重計や持ち物に関する注意書きがあるなど、安全運航第一であることに変わりはない。

 持ち込み制限品の注意書きは、基本的には一般的な旅客機と大きな違いはなかった。ただし、持ち込める手荷物の重量は「2kg」となっている。また、小型機では人間の体重が飛行機のバランスに影響するため、受付で体重チェックが行なわれる。主に地方路線の小型機に乗る際に、このような経験をしたことがある読者もいると思うが、この数字をもとに、座席の位置が決められることになる。

せとうちSEAPLANESのラウンジ
受付カウンター。その足下にある四角いスペースが体重計
受付の脇には注意事項や飛行ルートなどを記した看板

 受付を過ぎると、マリーナを一望できるラウンジスペースが設けられている。木製の棚など、少々レトロな雰囲気が水上機の雰囲気に合っている。飲み物やお菓子も用意されており、ここには瀬戸内地域の産品が置かれる。取材時にも、呉の「しまのわビール」や瀬戸田の「レモンケーキ」といった、広島県産品として有名な品が置かれていた。

 また、グッズの販売も行なわれる。まず目に飛び込んだのは、せとうちSEAPLANESデザインの「サクマドロップス」だったのだが、これは非売品とのこと。販売品としては、マスキングテープやタグ、ボールペン、手ぬぐいといった品物が並んでいた。

マリーナを一望できるラウンジ
多人数が乗るフライトではないことを考えると、ラウンジ内のスペースはかなりゆとりがある
飲み物やお菓子
KODIAK 100型機のモデルプレーンが飾られていた
ドリンクやお菓子は瀬戸内地方のものを中心に提供する
せとうちSEAPLANESデザインのサクマドロップス。非売品とのこと
KODIAK 100型機が描かれたマスキングテープ(400円)
フライトタグ(800円)
KODIAK 100型機が浮かぶ「フローティングペン」(900円)
手ぬぐい。デザインにより900円と1300円に分けられる
ポストカード(300円)

遊覧飛行に使われるKODIAK 100型機

 遊覧飛行に使われるKODIAK 100型機は、3月掲載の「せとうち SEAPLANES、瀬戸内海のしまなみ海道、小豆島、宮島などを遊覧飛行する水陸両用機を公開」でも紹介しているとおり。同記事では離水時の動画なども紹介している。

 本機は、現在はせとうちホールディングス傘下のQuest Aircraftが製造する陸上機をベースに、Aerocetのカーボン製フロート「Aerocet 6650」を取り付けることで水上での離着水に対応したものとなる。これまでフロートはアルミ製が中心だったが、カーボン製にすることで200kgの重量減につながったという。さらにフロート内には車輪も搭載しているので離着陸も可能。これにより「水陸両用機」となっている。

 最大離陸水重量、最大着陸水重量はそれぞれ陸上と水上で同じ重量に対応できる設計になっているが、水上と陸上では抵抗が異なるために滑走距離などが異なる。

 機体のデザインは、下の景色が見やすいよう主翼が機体上部にある、いわゆる高翼機。単発のターボプロップエンジンを搭載しており、給油は翼の上側から行なう。日々の整備としては、毎日、真水での水洗いが必要だという。

 最高巡航速度は300km/h。通常は270km/h程度で飛行する予定とのことで、新幹線と同じかやや遅い程度のスピードをイメージすればよいだろう。最大運用高度は約6100m(2万フィート)で、遊覧飛行では景色を楽しめるように、最も低いときで300m程度、高くても600~900m程度で飛ぶ見込みとしている。

KODIAK 100型機
エンジンはプラット&ホイットニーのターボプロップエンジン「PT6A-34」。4翅のプロペラを装備
フロートは左右に1個ずつ装着
フロートの接合部
フロート後端に舵。ワイヤーで「持ち上げ」と「左右」の動作が可能
陸上用の脚は、各フロートに前方1個、後方2個の計3個のタイヤを使用。いずれもグッドイヤー製タイヤ
主翼の翼端
水平&垂直尾翼

 座席は2座席×5列の10席で、シートピッチは狭めだが、座面は広く座り心地はよかった。全座席に4点式のシートベルトを搭載している。お名j区全座席に音声入出力のラインを持っていたが、見える景色をパイロットがアナウンスするといった計画はないそうで、乗客は提供されるガイドマップを見ながらの遊覧となるそうだ。

 コックピットは2席。先述のとおり法令上は1名乗務が可能だが、当面は2名体制で運航する。ディスプレイ3面のグラスコックピットで、アナログの計器はない現代的なコックピットレイアウトだ。

フロートを装着したことで搭乗口まではかなりの高さ。脚立を使って乗り降り
フロートの上からの眺め
座席のピッチはあまり広くない
全座席に4点式シートベルトを装備しているのは安心感がある
客室前方から見た様子
客室後方から見た様子
座席ごとに送風口
音声の入出力ライン
コックピット
KODIAK 100型機とフロート「Aerocet 6650」の製造メーカーの紹介スライド
KODIAK 100型機の三面図
KODIAK 100型機の性能に関する主な仕様

「水上機の夢」を瀬戸内から発信する「せとうちSEAPLANES」

 せとうちディスカバリーフライトの運航を開始するせとうちSEAPLANESは、水陸両用機の運航などを目的として、2014年11月7日に設立された。松本氏に会社設立の話があったのはその7月で、人材集めからスタートして11月にようやく設立にこぎ着けたという。ちなみに、その時点でKODIAK 100型機の採用は決まっていたそうだ。

 そして、2015年3月11日に機体デザインを決定。2015年8月26日に米国連邦航空局(FAA)から、フロートのAerocet 6650を取り付けた状態での追加型式証明を取得。同10月23日に日本の航空局からの型式証明取得、同11月6日に事業許可を申請した。

 そして、最初のKODIAK 100型機が日本へ到着したのが2015年12月3日のこと。現在、同社は4機のKODIAK 100型機を受領しており、通常はアラスカ州アンカレッジ空港などを経由する、いわゆる北回りのルートで日本へフェリーフライトをするが、初号機は12月という冬季だったため北回りルートが使えず、航続距離ぎりぎりのハワイを経由するルートでフェリーしたそうだ。

 同年12月31日にはオノミチフローティングポートが完成し、明けて2016年1月4日に同地へKODIAK 100型機が初飛来。1月15日には大阪航空局から航空運送事業と航空機使用事業許可を取得して、事業の準備が整った。

せとうちSEAPLANESの開業まで

 同社は水上機を使った航空運送事業、航空機使用事業、そしてKODIAK 100型機の運航・整備受託などを事業の柱に据える。

 航空運送事業は、せとうちディスカバリーフライトのような定期遊覧飛行だけでなく、チャーターフライトなど事業として水上機を活用することを想定している。現在、日本にはセスナ製航空機を使った自家用の水上機があるのみで、事業用としては同社のみが所有しているという。

 オノミチフローティングポート拠点であれば宮島や松江などへのチャーターフライトなどを想定。ほかにも、オノミチフローティングポートの隣にある造船所へ海外の船主が訪問するようなケースで、関西国際空港から移動するなどの未来も考えられている。「日本は海に囲まれた国なので活用の範囲が広い。将来的には琵琶湖などにも離着水できたらよいと願っている」と松本氏は展望を語る。

 先述のとおり、波高40cmが運用限界のため外海での運用は難しく、基本的には内海での利用が中心となる。なかでも松江市の中海は運用を実現したい場所として挙げていた。水陸両用機の特性を活かして、「整備や給油は米子空港を拠点にし、運航は中海で行なう」(松本氏)といったことも可能だ。

 また、空のチャーターではヘリコプターが競合的な存在となるが、航続距離で3倍、貨物の積載量も3倍近いというメリットを挙げたほか、価格なども「(ヘリコプターの料金を)チャーター料金を定めるときには参考にしている。ほぼ同等と思っていただいて結構。乗り心地はヘリコプターよりよい」(石本氏)と競争力の高さをアピールした。

 現在の保有機材はKODIAK 100型機が4機で、2016年度末までを目処に8機まで増やす計画。その先については「需要が開拓された時点で、もう少し大きな飛行機の導入も視野に入れている」(松本氏)と述べ、具体的には、双発機で20席クラスとなるDHC-6型機、通称「ツインオッター」の水陸両用版を候補に挙げた(ファンボロー国際航空ショー2016で展示されたツインオッター)。

 航空機使用事業としては、水上機運航を行なうパイロットを養成するフライトスクールを計画。そして、運航・整備受託などについては、せとうちホールディングスがKODIAK 100型機を販売していることから、そこで販売した機体の運航受託や整備受託を想定している。

 水上機については、50年ほど前までは伊丹空港から南紀白浜などに運航されていたそうだが、例えば南紀白浜は空港が整備された時点で運航が終了するなど、せとうちSEAPLANES創業時点では自家用機しかない状態だったという。

 松本氏は「水上機は姿だけで夢がある、水上で離着水する夢、乗っていても夢がある。夢、感動、わくわく感を体験してもらいたい」と語り、地域活性化、観光振興から、災害支援まで、水陸両用機を使った新たな価値を「瀬戸内から創造していく」との意欲を示した。

せとうちSEAPLANESでは、「水陸両用機」を使ったさまざまな提案を行ない、新しい価値を瀬戸内から創造していくことを目的に事業を展開する
事業は運送事業だけでなく、グループ企業が販売するKODIAK 100型機のパイロット養成や整備・運航受託なども計画
組織は航空会社に近いが、離着水の安全を確保するため「海上安全室」が設けられているのが特徴
オノミチフローティングポートを中心した乗客数別の航続距離。ただしトイレがないため、長時間の運航は現実的には難しいだろうとしている